一撃の浪漫 作:コンテンダーは良いぞおじさん
見切り発車の弊害が出始めて冷や汗ががが…
間抜けの最後を見届けて満足した私は先程声を上げたヒトの方へ振り返る。
…なんだろう、異物感が強い。
砂漠の街にスーツってのは勿論おかしいんだけど、それ以上に異物感が凄いぞこのヒト。
「…で、何か用?」
呆然とした顔で此方に手を伸ばしかけている大人へ問いかける。
制服じゃなくてスーツ、成熟した雰囲気の不審者を観察していると違和感の正体に気がついた。
コイツ…ヘイローがない。
機械族や獣族以外のヒトであればあって当然の神秘の守り…これがあるからキヴォトスが超銃器社会になっていると言っても過言じゃ無いとも言われている元凶の光がない。
…少なくとも普通の人間って訳じゃなさそうだ、と警戒しながら排莢と再装填を行う。
"えーっと…"
困惑した様子で言葉を探すように口籠る。
特に何かアクションを起こすわけでもなく、こちらを襲う素振りもない。
少し警戒を緩めて問いかける。
「時間掛かるならちょっと待っててもらって良い?」
それ以上近づいたら撃つけど。と念を押してから返事を待たずにズタボロの制服からただのゴミにジョブチェンジした上着を脱ぎ捨てる。
"うわぁッ!?"
咄嗟に目を覆ってそっぽを向く不審者…喧嘩に割って入ろうとしたくせに妙な所で女々しいなこのヒト。
これが演技なら大したものだけど…と呆れながら。
視線をそらしたままの不審者から視線を切って自身の状態を確認する。
シャツはまだ使えるな…流石に硝煙臭いから新しいの手に入れたらゴミ箱行きだけど。
さて、と。親切なヘルメット達が物資を持ってきてくれたことだし有り難く頂いておこう。
鼻歌を歌いながら今しがた頭を撃ち抜いたヘルメットから上着を剥ぎ取る。
なんだろ…スカジャン見たいな…スタジャンだっけ?
「うーん…ちょっと大きいな」
袖を通すと裾が余って萌え袖?みたいになっちゃった。
結構着古しているのか袖口のゴムもゆるゆるで手首をホールドせずにストンと抜けてしまう。
無理矢理袖口を2〜3回折って長さを調節するとようやく支障のない長さに成った。
着丈がミドルコートみたいになってるけど誤差でしょ。
…別に私が小さい訳じゃないし。姉様を見ればそれなりに将来性はあるし。
自分に言い聞かせるように内心で唱えながらポケットを漁る。
「…お、ラッキー!」
食料ゲット!と手に入れたビスケットに浮かれていると視線をそらしていた不審者から声が掛かる。
"そういうのは良くないよ?"
毅然とした態度で私の目を見る不審者。
良いも悪いも喧嘩売って負けたんならしょうがあるまいて。
「何が?」
構わず漁り続ける。
お、水もあるじゃん。ありがてぇありがてぇ…
"何があったかは知らないけれど…"
やり過ぎはダメだよ。と困った顔で続けた。
ハン、と鼻で笑って漁り続ける。
「弾代だってタダじゃ無いんだからその補填は負けた側がするべきでしょ」
淡々と答えながら懐を漁り続ける。
「無法者には無法者なりのルールがある」
特にコイツらや私みたいな立場の人間は。
「学籍を失った奴や手放した
そんな奴等が喧嘩売って、返り討ちにあったんなら相応の扱いを受ける。当たり前の話だ。
そう嘯きながらヘルメット団の持ってた銃からマガジンを抜いて弾丸を確認する。
弾の規格は…まぁ、合わないわな。
こりゃ早々にブラックマーケット入りしないと弾切れするかも知れん。
抜き取った弾丸を後ろ手に放り投げながら
「ちょっと前に流行った言葉があるじゃない?」
逃げたら一つ。進めば二つ。
これはチャンスに際して足を止めれば元々持ってた物は失わずに済んで。
自ら飛び込めばそれに加えて新たな物を手に入れられるって前向きな意味の言葉だった。
でも最近になって三つ目の言葉が追加されて。
「奪えば全部、ってさ」
チャンスを待たなくても他所から奪えば良いじゃない。とそういう訳だ。
連邦生徒会が機能してた時はこんな阿呆な言葉が大真面目に唱えられる程蔓延ることも無かったんだけど…生徒会長が居なくなってからはもう末世も末世である。
やりたい放題出来ると、やらかしても連邦の最大戦力が出張ってこないと知った悪ガキ達は大いに弾けた…世は正に大盗賊時代ってなもんだ。
「お陰で中小学区はもう火の車、なんなら学校丸ごと野盗の真似事してるとこもあるって話だし?」
ヘルメット団や不良生徒の横行が始まったのもその頃からだったと記憶している。
ある程度自衛出来る戦力を持ってる所以外は治安の悪化を止められず。
弱小学区は一瞬でブラックマーケット予備軍に成り果てた。
"…連邦生徒会は?"
…本当にね。本来ならそういうのをまとめて調停、抑え込めるはずだったんだよ。
連邦生徒会がちゃんと機能してさえいれば。
「今の連邦生徒会じゃ無理でしょ。あの超人が居なくなってから機能不全になってたじゃん」
ついこの間ようやくインフラシステムを再構築出来たって発表があったが…余りにも遅すぎた。
燃え広がった炎は少し鎮まりこそすれ火種は各地に残されたまま。
それらの火消しを行えたはずの、連邦生徒会の剣でもあったSRT特殊学園を解体してしまった時点で完全に形骸化したと言えるだろう。
自らの権力を保障する暴力装置を捨て去った間抜けに従う阿呆がいる訳がないのだから。
「連邦生徒会による中央集権の時代は終わった。これからは学園ごとのパワーゲームになるね」
今は何とか体裁を保ってはいるが…この危機でも身内で足を引っ張り合う事に終始しているトリニティはいずれ沈むだろう。
マッドが集まりやすいミレニアムは掣肘出来る存在が居なくなった事で別方向に暴走しそうだし。
運営が継続出来そうなのって元々荒くれ気質なゲヘナ位じゃないかなぁ…マトモに運営出来てるのかは置いておくけど。
「つまり、今じゃこんなの日常茶飯時って訳よ」
んー…現金は残しといてやるか。私は慈悲深いからな(砂漠感)。
粗方物資を漁り終えて話を結ぶ。
…はて?なんで私はこんな話をしているんだろう?
初対面の、名前も知らない不審者相手に。
「…そういや、アンタ誰?」
今更ながら誰何すると
"私はシャーレの先生だよ"
ほら、と首から下げた名札?を示してくる。
連邦生徒会のマーク入り…カウンセラー見たいなもんかな?
それならこのヘルメット団を気にかけてたのも頷ける。
「シャーレだかシャーベットだか知らないけど」
粗方漁り終えて先生とやらに向き直る。
「コイツらの関係者?」
態々喧嘩に割って入ろうとするくらいだし…と親指で気絶してるヘルメットを指さす。
"いいや、私は生徒全員の先生さ"
だから君にも無関係じゃ無い、と続ける。
ハハッ…ほざきよる。
「お生憎様、私はもう生徒じゃない」
つい昨日退学届出してきたばっかだから。
そう告げると
"私にとって子供は皆生徒だよ…君の名前は?教えてくれないかな"
子供、子供ねぇ…まぁ確かにアンタから見たら私はガキだろうけども。
それにしても
見ての通り私とコイツらは敵対してるってのにどうするつもりなんだろうか?
まさか分身出来るわけでもあるまいし。
想像以上にお花畑な回答に呆れながら答える。
「桐藤ハル。覚えなくて良いよ」
多分長生き出来ないタイプだしなアンタ…と憐憫を覚えている私に構わずタブレットをいじる先生。
"桐藤…桐藤…あ、あった"
まだトリニティに在籍してるみたいだけど?と困った顔で笑う先生。
此処は電波が届かないはずなんだけどそのタブレットどうなってるんだ…衛星通信でもしてるのだろうか?
「…それ、ミレニアム製?」
脅威の科学力、ミレニアム製ならあり得なくもない。
あそこの技術力は数世代先を行ってるレベルでおかしいからなぁ…
その分マッドな気質持ちが多い印象だけど。
"ううん。連邦生徒会…多分、生徒会長さんから"
「超人から?…どんな関係?」
思いもよらない名前に少し驚いた。
後釜…にしちゃちょっと歳が離れてる。
『生徒』会長だったもんなあのヒト。
"特に思い当たる事はないんだ"
私は外から来たから…。と微笑む先生。
外…キヴォトスの外から来たのかこのヒト。
それならヘイローがない事も、余りにもお花畑な思考をしてるのも頷ける。
何よりも連邦生徒会長…あの超人が用意した代物を引き継いでるって事は相当期待されてるんだろう。
既にボロボロな連邦生徒会に何かができるとは思えないが。
内心を悟られないように多少強引に話を戻す。
「…あー…姉様が粘ってるのか」
無駄な労力を払ってるなぁ…と肩が落ちる。
「ま、時間の問題だろーけど」
幾ら姉様が頭だとしてもトリニティの三頭政治ではその内の一つに過ぎない。
強権を発動して庇い立てするメリットが無い以上、横槍塗れで針鼠になっちまうだろう。
そうなる前に派閥の連中が説き伏せるか、姉様を失脚させて火の粉を払いに掛かるのは目に見えている。
トリニティってのはそういう所だ。
そんな奴はさっさと切り捨てて地盤固めた方が良いって誰か言ってあげて?
ミカさんでもセイアさんでも良いから。
そんな戯言を脳内で回していると
"…お姉さん?"
「姉様…桐藤ナギサさん。一応トリニティの生徒会長やってる」
連邦生徒会の紐付きなら覚えといて損はないよ?と嘯く。
…なんだろ、話しやすい雰囲気だからかさっさと切り上げるべきなのに話し続けてしまう。
これがカウンセラー効果か…と戦慄しながら強制的に話をぶった切って離脱する事にした。
必要な物は手に入ったし。
「…んじゃ、私はそろそろ行くんで」
さよなら…先生?と軽口を叩いて立ち去ろうとするが
"…待って!"
後ろから呼び止められた。
"え!?いや、それは…"
タブレットに向かって小声で話続ける先生。
人を呼び止めといて脳内フレンズとお喋りとか大分可哀想なヒトだな先生…思わず哀れみの眼差しを向けると焦ったように話し出す。
"その…ハルはこの辺の地理に詳しい、かな?"
「目的地までは一人で行けるからご心配なく」
ブラックマーケットまでの道程は頭に入ってる…と言うかそうでもなければ砂漠越えは選択肢に入らない。
だから同行者は不要だ…と続ける前に。
"アビドス高校って分かる?"
質問された内容に疑問符が浮かんだ。
………アビドス『高校』?
「え…この学区ってまだ息してるの?」
てっきり壊滅してるもんだと思ってたんだけど…と呟くと
"あるよ!?"
心外だ!と訂正してくる先生。
うわぁ…面倒くさい事聞いちゃった。
メリットとデメリットが同時に生まれちゃったわぁ…
デメリットは無法地帯ならコイツら放っといても問題無かったんだけど、管理してる連中が居るなら一応届けないと後々面倒になりかねない事で。
「…先生って力持ちだったりする?」
具体的には4人位引きずって歩けるかって事なんだけども。
"普通、かなぁ…"
一人なら何とか…と続ける先生に溜息を吐く。
まぁ、私が伸したんだし後片付けは私がやるべきだよね…
「ちょっと待ってて」
一晩過ごした仮宿に戻って気絶した残り3人を引きずり出す。
「ん〜…まぁ、これで良いか」
それぞれの上着で数珠繋ぎに結ぶと端っこを持って引っ張ってみる。
「…良し。行こうか」
外れない事を確認して先生に呼びかけると
"いやいやいや…"
流石にそれは酷いよ、と待ったが掛かった。
でもさぁ…
「運搬出来る車両も無い、呼びに行ってる暇も無いんだからこうするしか無いでしょうに」
大丈夫、ヘイロー持ちは身体が硬いから!
「ちょっと引きずった所でかすり傷一つつかないって」
ほら、と自分の指をその辺のコンクリートに押しつけながら振り抜くと指の形に削れた跡が出来た。
「…ね?」
指先に着いたコンクリの粉を払いながら言うと
"それは君だけじゃないかなぁ…"
少し引いた顔で呟く先生。
「注文が多いなぁ…」
この程度、ヘイロー持ちなら出来る奴のほうが多いよ?
"普通に起きるまで待てば良くないかな…"
チラリと数珠繋ぎになってるヘルメット共を見やる先生。
「暫くは起きないと思う」
至近距離でぶっ放したし。
元々そのつもりで転がしたんだから早々に起きられても困る。
「私、ちょっと急いでるんだよね」
先程考えたメリットが消える前にこの地域を抜けたい。
アビドス自治区がまだ破綻してないなら自治権の侵害やらで突っ込まれるのを恐れて他の学区は手を出し難いだろうから。
誰かが責任を取ると明言しない限り揚げ足を取られかねない行動には二の足を踏んでしまうのがトリニティの悪い所だ…今は有難いけど。
まぁ、
そうなってしまえばもう他学区じゃなくなる。
そこまでいけば本来なら連邦生徒会が直接介入してくるレベルの案件だが今のアイツらにそんな暇があるとは思えないし。
仮の主すら居ない、持ち主が潰れた所属不明の土地なら誰でも大手を振って歩ける様になる訳で。
自治権云々を踏み倒して捜索出来る様になる…昨日の今日でそうなられちゃ流石に困る。
姉様の頭が冷えた後なら勝手にやってれば?で済む話だけど。
"うーん…"
そう言っても先生は気が進まない様子。
しょうがないなぁ…身近に居るヘルメット団…最初に弾いた奴…の胸ぐらを掴んで引き起こす。
「はい、起きてー」
一発叩く…効果なし。二発目は少し強く。
"ちょっ!?"
何してるの!?と制止されるのと同時に。
「…ッ!?」
リーダー格…ヘルメット団Aのヘイローが明滅して気がついた。
不可抗力とは言え唯一胴体に撃ち込んだ相手だから起きるのも早い…まぁ、片手は使い物にならないだろうけど。
「これなら自分で歩けるし問題無いでしょ」
ほれ、と手を離すとフラフラと座り込むヘルメット団。
「ほら立って?お仲間を担いで貰わないといけないんだから」
ペシペシと頬を叩くと
「テメェ…何しやがった…」
周りを見て呆然と呟くヘルメット団に相棒を突きつける。
ヒュ、と息を呑むヘルメット団A。
「負け犬のアンタに質問する権利があるとでも?さっさと担げ」
アンタ持てない分はこの場に縛って置いてく。そう続けると
"そんな言い方しなくても"
やんわりと止めてくる先生。
「上下関係はハッキリさせておくべき」
私が上でお前らは下だと。
「こういう奴等には舐められたら終わりなんだよ」
コイツは甘いぞ、と分かったら改心するか?
断言してもいい、絶対にしない。
寧ろ調子に乗るのが目に見えている。
より強い奴の餌食になるしかない、シンプルでわかりやすい弱肉強食の理論。
学校の名前に守られてない奴等にとって唯一絶対のルール。
一度刷り込んだ恐怖が薄れない様に徹底しなきゃ寝首を掻かれかねないから、獣を相手にしているのと余り大差はない。
「…ね?」
Aに同意を求めると
「……分かったよ」
ふらつく足を叱咤しながら立ち上がって仲間を担ぐA。
流石にリーダー張ってただけあって力持ちだなぁ…3人抱えて普通に立ってるよ。
砂漠に拘束して置いてくって言ったのが効いてるってのもあるかもしれないけど。
「これで問題は無くなった…面倒事はさっさと済ましちゃおう」
アビドス高校まで案内よろしく、と先生に向き直る。
"いや、その…私も迷っちゃってて"
分からないんだよね…と頭を掻く先生。
連邦生徒会所属なだけあって役に立たないなこのヒト…と呆れた目で見ると
「…アビドスの連中に用があるのか?」
黙って数珠繋ぎになっている仲間を担ぎ上げたAが口を開いた。
"場所を知ってるの?"
先生が問いかけると
「あぁ……なぁ、アンタ」
先生と目を合わせて話し出すA。
「見逃してくれないか?…二度とこんな真似しないと誓うよ」
ハハッ…ほざきよる。
"…ハル、この子も反省してるみたいだし"
許してあげられないかな?と聞いてくる先生。
「もう二度と手出ししないと誓うから…お願いします…」
頭を下げるAを見下ろしながら答える。
「え、嫌だけど」
何言ってんだろうか。
「え…」
呆然とした顔を見せるヘルメット団A。
このヒト…先生が甘ちゃんに見えたからワンチャン賭けたって感じだろうけども。
そんな演技が私に通用する訳ないだろうが。
「どうせ直ぐに釈放されるだろうから一回収監されとけば?」
こんな破綻一歩手前な学区ならマトモに拘留できるわけもないし。
釈放される時に身包み剥がされるかも知れないけどそんなの私の知ったことじゃない。
どうでも良いからさっさと案内しろ、と銃口を向ける。
"ハル…"
責めるような口振りの先生を無視してヘルメット団Aに詰め寄る。
「返り討ちにあったけど今は反省してます許してね?…舐めるのもいい加減にしなよ」
敗者が出来るのは慈悲を乞う事だけとはいえ、だ。
全面的に許す事を求めるのは厚顔無恥にも程がある。
「一時間以内につかなかったら足を撃つから」
変な事考えるなよ?と釘を刺す。
無言で肩を震わせて歩き出したヘルメット団Aに続いて歩き出す。
それを見て険しい顔になる先生を促す様に優しく声をかけた。
「ほら、先生?」
これが今の、連邦生徒会が崩壊したキヴォトスだよ。
政治✕(少し分かるけど大分偏ってるし気性的に向いてない)
脳筋◯(力こそ全て、敗者に権利は無い系女子)
当初の予定じゃこんなシリアス()になる予定じゃなかったのに…ま、まぁその内能天気な妹に振り回されるナギサ様な状態に持っていけるはず…!