ブリンガーを倒した一行。
張り詰めていた空気がわずかに緩み、皆がそれぞれ警戒を解き始める中――レイヴントだけは、未だ銃を下ろさなかった。
マグナムシューターの砲身を拡張し、ライフルモードへと切り替える。そして、何もないはずの煙幕へ向けて引き金を引いた。
「ぐっ!」
乾いた銃声が響く。
レイヴントの放った一発は、煙の向こうでライフルを構えていたサラの銃口だけを正確に撃ち抜いていた。
『レイヴント、どうかしたのかい?』
「……まだ、油断できない」
『けど、あの爆発であいつが生きているとは思えないけど……』
「それでもだ……」
レイヴントは再び銃口を構えたその瞬間だった。煙幕を突き破り、人影が飛び出した。
「――あいつは……!?」
現れたのは、レイヴントが撃破したはずのジャイロだった。
左腕は肩口から失われ、全身も半壊している。
それでもジャイロは止まらなかった。
もはや機体としての機能すら限界を迎えているというのに、ただ執念だけを頼りに、ブリンガーへ向かって駆けていく。
「……!」
レイヴントは一瞬で照準を合わせると、四発の銃声が連続して響く。
ジャイロの胴体、右腕、両脚。
動きを封じるための箇所だけを、寸分違わず撃ち抜いた。
それでもなお動き続け、最後に残された力を振り絞り、ブリンガーへと這い寄った。
そして――懐から取り出した注射器を、ブリンガーの身体へ突き刺す。
「……は……始まりの主が……汝を、再創……せん……」
それだけを言い残すと、ジャイロの身体が力なく崩れ落ちた。完全に機能停止する。
直後――ブリンガーの身体が、勢いよく跳ね上がった。
ギロリ、と巨大な目玉がこちらを睨みつけると、虚空から再び出現した巨大な腕によって振り落とされる。
「またかよ……!」
皆一斉に吹き飛ばされる。三人は難なく着地し、レイヴントも無事に着地したものの――
『うわあああ!?』
「ぐっ…」
顔にボンプのお尻が激突し、転がる。
『あ、ありがとう、レイヴント……』
「……礼はあとだ。逃げるぞ」
レイヴントはアキラを抱え上げ、そのまま走り出す。
次々と虚空から出現する巨腕。
地面を叩き、建物を薙ぎ払い、逃走経路そのものを破壊していく。
四人は全力で駆け抜ける。だが――
「……しつけぇな……!」
ブリンガーはどこまでも追いすがってくる。
レイヴントは走りながら振り返り、マグナムシューターを連射する。弾丸はブリンガーの身体を何度も捉えるが一向に怯む様子はない。
またしても虚空から巨腕が出現し、地面が大きく陥没したことで逃走経路を塞がれる。
辛うじて脇を抜けたその先――一行は開けた広場へと飛び出した。だが、次の瞬間。
ブリンガーが放った光線が地面を抉り、その爆風が四人をまとめて吹き飛ばす。
ズザァァッ!!
激しく地面を滑りながらも、レイヴントは即座に立ち上がった。そして、4人を庇うように前へ出る。
マグナムシューターを構え、ブリンガーを睨みつけるがこのままではジリ貧だった。
再びブリンガーが光線を放とうとした。
――その時。
誰かが、レイヴントたちの前へ躍り出で、刀が閃く。
放たれた光線が、真っ二つに斬り伏せられた。
「皆、待たせた」
「……お早い復活だな、雅」
「その声……レイヴントか、よく耐えてくれたな。」
レイヴントが雅の名を呼んだことで、後方にいた柳たちも一斉に反応する。
「猪突猛進! お届けだぜ!」
「早かったわね! さっすが覇者!」
後方からバイクのエンジン音が響く。
シーザーが乗ったバイクが勢いよく走り込み、その後ろからニコたちが駆け寄ってきた。
しかし――再会を喜ぶ暇はなどなくブリンガーが再び高く飛び上がる。
【星見雅……幻を振りきったか、だが貴様らに何が出来る。】
見え透いた挑発に雅は動じず刀に手を添えたまま、静かにブリンガーを見据える。
「なに、容疑者を速やかに捕らえる……修行だ」
その言葉と同時に――
その場にいた全員が、一斉に構えた。
それを見たブリンガーは、一瞬だけ沈黙する。
そして――
【ハハハハハッ! 貴様らに今さら何ができる! 妖刀の力は、すでに私のものだ!!】
ブリンガーが腕に禍々しいオーラを集める。
そして、それを地面へ叩きつけるように放った。
瞬間――
ホロウ内全体が、禍々しい赤色へと染まっていく。
地面が蠢き、後方から次々とエーテリアスが湧き出してきた。
瞬く間に数を増え、気がつけば完全に挟み込まれていた。
「ニコ、エーテリアスだ」
「ふん! ただの雑魚よ! やったるわ!」
ニコたちが振り返り、後方のエーテリアスへ向かっていく。
一方――雅たちは、正面に立つブリンガーだけを見据えていた。
「っしゃあ! でけぇのはオレ様が――」
「いや」
「……え?」
雅が静かに遮る。
そして、一歩前へ踏み出した。
「あれは……私の敵だ」
その言葉に、六課の面々も続いて歩き出す。
「……すみません。ここまで、ありがとうございます」
「はぁ〜……もうひと残業かぁ」
「終わったらゴハンだぁ〜!」
三人がそれぞれ口にしながら進んでいく。
その後ろを――レイヴントも何事もなかったかのようについていく。
「……ご苦労だったな」
ただ、それだけ。誰も疑問に思わない。振り返らない。
そして当のレイヴント自身も――
何度も巨腕に吹き飛ばされたせいで、普段よりも明らかに苛立っていた。
――今度は、こちらの番だ。
デザイアドライバーに手を添えるとそのままベルトを回転させる
電子音が響くと同時に、後ろに歯車が現れ、上半身を覆っていた装甲が一斉に展開する。
レイヴントの身体そのものが、腰を中心に大きく反転する。まるで全身が歯車のように、装甲が次々と入れ替わっていく。
――ガシャンッ!
完全にマグナムの装甲が下半身へ入れ替わると、今度は懐から赤いバックルを取り出し、ベルトにセットする。
バックルから放出されたエネルギーが新しく装甲を形成する。
新しい形状――『ブーストフォーム』が上半身部分に取り付けられる。
そして、ブーストフォームからバイクが形成された瞬間、その車体は瞬く間に姿を変え、狐を思わせるフォルムへと変貌した。
それをじっと見つめていた雅が、感嘆するように口を開いた。
「その狐のマスクといい……レイヴント、お前は何度も私たちを驚かしてくれるな」
「戦いたいなら後で何度でもやってやる。だが今は…あいつだ。」
レイヴントはブリンガーを再度睨みつけ、ブリンガーの巨体が大きく身を震わせた。
【どれだけ姿が変わろうと、私には敵うまい!】
轟ッ――!
背後から、巨大な腕が勢いよく伸びる。
その手には、大きさに見合った巨大な刀が握られていた。
【切り伏せてくれる!!】
咆哮とともに、巨腕が刀を振り下ろす。
空気が裂け、凄まじい風圧がレイヴントたちに向かって振り下ろされる。
その攻撃を避けたレイヴントは懐に潜り両腕を引き絞ると、前腕部のマフラーから炎が一気に噴き出し、拳がブリンガーの腹部へと突き刺さる。
【があっ…!?】
純粋な拳撃の威力に加え、炎の噴射による推進力も加わった一撃に、強化されたブリンガーですら怯む。
その怯んだ隙を悠真と柳は逃さず、悠真が弓の弦を限界まで張り詰めた瞬間、矢尻に青白い雷光が集束した。
「月城さん!」
矢がブリンガーへ飛翔すると同時に、柳も槍を構えた。槍の穂先から雷が迸る。
矢と雷槍――二つの雷撃が、ほぼ同時にブリンガーへと炸裂した。
ブリンガーも負けじと刀で振り払い、飛び上がると広範囲の光線が複数放たれる、1つ1つが当たれば軽傷じゃ免れないほどの光線に、1行は避けるのを余儀なくされる。
だが、少しずつ技の精度が落ち、疲れ果て攻撃が止むとレイヴントはブーストライカーに乗り、ブリンガーの方へと飛び上がる。
「はぁあ!」
一直線に突き進むレイヴント。
ブリンガーはタイミングを見計らい、大きく振り上げ、巨大な刃がレイヴントへ迫る。
それを見越したレイヴントは空中で飛び、そのままブーストライカーを突進で攻撃を与え、そのままレイヴントがブリンガーに掴みかかると今度は高速ラッシュによる連撃で攻撃を与える。
攻撃が当たらないよう絶妙な位置で攻撃、下からは悠真の援護射撃も加わり、着実にダメージを与えていく。
マグナムブーストに変え、マグナムシューターとアーマードガンを直接ブリンガーの体に押し付ける。
【なっ――!】
――ドドドドドッ!
ゼロ距離から放たれた無数の弾丸が、ブリンガーの身体へと叩き込まれ、衝撃にブリンガーの身体が大きく仰け反った。
さらにレイヴントは追撃するように、脚部に備わったブーストキッカーのマフラーから炎が噴射する。
ドゴォンッ!!
ブーストの炎の噴射による推進力を乗せた蹴りが、ブリンガーを陸地へ向けて大きく蹴り飛ばす。
「雅!」
「…あぁ、任せろ!蒼角!」
「わかったぁ!」
雅は落下するブリンガーのとこまで飛躍し、無数の氷の斬撃をブリンガーに浴びせ、そのまま地面へと衝突した横から蒼角による追撃で再度上へと吹き飛ばした。
レイヴントがブリンガーに上に乗り再度蹴り飛ばすと同時にバックルに手を添え、トリガーを押し、ハンドルを3回捻る。
GRAND VICTORY
ブーストライカーが勇ましく咆哮をすると、炎となってレイヴントに纏い、先程よりも爆発的な推進力でブリンガーに向かって加速する。
【く、来るなぁ!!】
「攻撃はさせん!」
光線を放とうとするが雅の氷の攻撃によって阻止され、そのままレイヴントの渾身のキックを食らう
「はぁああっ!!」
「ぐあぁぁああぁあああ」
完全に倒した、そう思った。
だが――
「……まだ、立つのかよ」
土煙の向こうから、ゆっくりとブリンガーが立ち上がる。
身体には明らかな傷が刻まれている。
「まじかよ…本当にタフだなあいつ…」
【おのれぇ…かくなる上は――妖刀の力だぁ!!】
ブリンガーの最後の抵抗――エネルギーを集め、それを纏わせた刀をこちらへ放とうとしている。
レイヴントがもう一度技を繰り出そうとした時、雅が前に出た。刀を構えると刀身が蒼く輝き、刀から伝わる強大なエネルギーを感じ取ったレイヴントは思わず後ずさる。
雅の背中からはなんの迷いも感じない、あるのは信念、仲間、家族――
その想いと、雅は己の持てる力、その全てを込めた一太刀――ブリンガーが刀を振り下ろしたと同時に、雅の斬撃が閃いた。
轟音と共に空気そのものが切り裂かれ、凄まじい衝撃波が周囲を駆け抜ける。雅が放った斬撃はブリンガーを斬っただけでなく、後方の建物まで貫通しホロウの壁に裂け目作るほどだった。
【馬鹿なぁ…この――わたしがぁあああああぁあぁぁああ】
醜く歪んだ断末魔が、ホロウの中へと響き渡りながらブリンガーの体は爆散した。
その一部始終を目の当たりにしていたレイヴントは、しばらく言葉を失っていた。やがて、引きつったような苦笑を浮かべる。
「……次、戦った時……勝てるだろうか……」
遠くに残された、ホロウの壁の巨大な裂け目がまた塞がれるのを見つめながら。
どれほど強大な相手であろうと、どうにかして勝つ。それが自分の役目だと思っていた。
けれど――今は違う。久しぶりだった。
戦闘そのものに対して、純粋な「不安」を覚えたのは。
「……勝てるよな、俺……」
誰に問いかけるでもなく、レイヴントは小さく呟いた。
次回はギーツを見ている人なら必ず分かる茶番を入れます。