知能構造体はニコたちの元へ行き一刻も早く支援に入るべきだ――そう判断したその瞬間だった。
センサーが異常な速度で接近する生体反応を捉える。
警告が脳内を駆け抜けるより早く、知能構造体は咄嗟に上体を傾けた。鋭い斬撃が頬を掠め、空気を切り裂いて通り過ぎる。
いつの間にか星見雅が知能構造体が辿り着いていた。
「お前、なかなかできるようだな。後ろにいた私を見ずに刀を避けるとは……」
レイヴントは露骨に面倒くさそうな表情を浮かべる。
「……」
レイヴントの手に黒い粒子が集まり、一振りの巨大な鎌が形成され構える。
静寂。
両者の視線が交差した。
次の瞬間――。
雅の姿が消えた。
いや、速すぎて見えなかっただけだ。
気付けば刀が知能構造体の首元に迫っている。
その刃は皮一枚を切り裂いただけで止まる。
知能構造体は最小限の動きで回避すると、そのまま流れるように鎌を振り抜いた。
雅は即座に刀で受ける。
金属同士が激突し、火花が散った。
「なっ――!?」
予想以上の重量。
まるで巨大な建造物でも押し返しているかのような衝撃だった。
押し負ける前に受け流し、距離を取ろうとする。
だが知能構造体は一歩踏み込んだ。
無理矢理鎌の軌道を修正し、そのまま叩き込む。
対応しきれなかった雅の体が吹き飛んだ。
「ぐっ!?」
数メートル先まで弾き飛び、岩に衝突する。
しかし直前で刀を挟んでいたおかげで致命傷には至らない。
地面を滑りながら体勢を立て直した雅は、静かに息を吐いた。
「なるほどな……遠慮はいらぬようだ」
ゆっくりと刀を――無尾を構える。
雅の近くにいた人魂のようなものが刀身に青白い光が宿ると空気が変わる。
先程までとは比べものにならない圧力が周囲を支配した。
知能構造体のセンサーが危険信号を鳴らす。
構えようとした次の瞬間、雅が再び消えた。
「っ!?」
知能構造体は即座にエネルギーシールドを四重展開する。
だが。
全てが紙のように切り裂かれた。
刃が腕を掠めただけで火花が散り、装甲が裂けた。
知能構造体は後退しながら空中へ飛翔し、追尾ミサイルを一斉発射する。
雅は急停止し、なにかを溜めるような構えを取る
「はっ!」
流れるように青い斬撃を飛ばし、ミサイルが全て両断され、爆発する。
全弾撃墜され、再度雅はこちらへ突進してくる。
「さっきまでの威勢はどうした」
淡々とした声。
知能構造体は即座に拘束具を展開し、雅の動きを封じようとする。
さらに右腕をレールガンへ変形、高密度エネルギーが収束する。轟音と共に大地を抉る閃光が放たれた。
しかし。
紙一重で回避していた雅はそのまま一閃。
レールガンの砲身が切断される。
「!!!」
直後、誘爆。
巨大な爆炎が空を染めた。
知能構造体は吹き飛ばされながらも飛行能力で体勢を立て直すが、だが雅は追撃をやめない。
常識外れの跳躍で一瞬で上空へ到達すると、そのまま刀を振り下ろし、刃が足を切り裂く。
しかし。
その瞬間。
雅は気付いた。
近付きすぎた。
知能構造体の腕が伸びる。
「なっ……」
雅の体を掴み、そのまま急上昇して高度が増していく。
ビル群が小さく見えるほどまで上昇したところで――。
知能構造体は手を離し雅の体が落下する。
空中では自由に動けない。
そこへ四方八方から攻撃が降り注いだ。
砲撃。
ミサイル。
ビーム。
絶え間なく来る攻撃を雅は驚異的な勘と技術で回避し、防御する。
だが、そんな雅でも限界は近かった。
「くっ…!がぁっ!?」
爆風に紛れて近付いた知能構造体の蹴りが腹部へと当たり、そのまま地面へと飛ばす。
地面へと激突と同時に大きく土煙が舞い上がった。
その様子を見下ろしながら、知能構造体は冷静に判断する。
長引かせる意味はない。
今の目的は勝利ではなく、ニコたちの支援だ。
腕のデバイスへ指を伸ばす。
カチッ。
起動音が響いた。
全身を走る赤いラインが灰色へと変化していく。
Complete
機械音声が鳴り響く。
Start Up
Three...
Two...
One...
知能構造体は静かに着地しそして雅へ向かって軽く手を振った瞬間。大量の煙幕が周囲を覆い尽くした。
「……! 逃がさん!」
雅は即座に斬撃を放つ。
鋭い一閃が煙幕を切り裂く。 ――しかし
そこには誰もおらず、風だけが吹き抜ける。
雅は周囲を見渡し、視界に入った地面に刻まれたアキラ達が通ったであろうトラックのタイヤ痕。
刀を握り直し痛む身体を無視しながら、雅はその跡を追って駆け出した。
逃げた獲物を追うために。
知能構造体は灰色へ変色したラインは既に赤色へ戻り始めている。右腕の一部は内部フレームが露出し、切断された腕からは火花が散っていた。
「お?ニコの親分!あいつだ!おぉい!こっちだぁ!」
たまたま知能構造体を見つけたビリーが叫ぶ。
知能構造体は立ち上がろうとして――失敗した。
ガクッ。
片膝が再び地面に落ちる。
「あんた! よく見たらボロボロじゃない!」
ニコが思わず声を上げる。
確かに酷い有様だった。
星見雅との戦闘。
アクセルフォームの強制解除。
ステルスモードとの同時運用。
その全てが限界を超えていた。
内部では冷却システムが悲鳴を上げ、警告表示が視界を埋め尽くしている。
だが。
「あれぇ?課長は一緒じゃなったかの?」
雅を除いた六課の面々がおり警戒体勢に入ろうとする。
「待って、今の彼らは味方よ。警戒しなくていいわ」
知能構造体は警戒を解き、その場にぐったりと座り込む。だが彼が気にしているのは自分ではなかった。アキラがいないのに気付き、辺りを見渡す。
「プロキシは……敵のロケットランチャーで乗ってたトラック事ホロウに落ちて、今はどこにいるか分からないの……」
アンビーの言葉が何度も内部で再生される。
見つからない。
位置不明。生死不明。
それは知能構造体にとって最悪の報告だった。
ゆっくりと立ち上がり飛行ユニットを起動しホロウへ向かおうとして―
機体が浮かない。
推進装置が火花を散らして停止する。
その場に崩れ落ちそうになりビリーが慌てて駆け寄る。
「ちょっ…僕達が課長の救援に行くから、君は休んでなよ!」
悠真も続く。
しかし知能構造体は聞いていない。
何度も飛ぼうとする。何度も失敗する。
地面に手をつきながら、それでも立ち上がろうとする。
その姿に、その場の誰もが言葉を失った。
戦闘不能、誰が見てもそうだった…それでも止まらない。
まるで自分が壊れることなど最初から計算に入っていないかのように。
柳は小さく目を細めた。
(この知能構造体……)
以前見た軍用機体とは違う。
命令だから動くわけではない。プログラムだから動くわけでもない。もっと別の何か。感情に近いもの。執着にも似た何か。それで動いているように見えた。
知能構造体は本気で動けないと悟り、ドローンを生成しエーテル緩和剤と治療薬を持たせ、ホロウに向かわせた。