「、う〜ん……こ、ここは……僕は……一体……」
アキラがゆっくりと目を覚ます。
ぼやけた視界の中に、ふわりと漂う人魂のような光が映った。
れが何なのか理解するより先に、すぐそばから足音が聞こえてくる。
アキラは重い身体を起こし、顔を上げた。
そこに立っていたのは、赤い瞳でこちらを見下ろす一人の女性。
星見雅だった。
襲撃を受けたことで制御を失ったトラックは、そのまま長い距離を走り続けていた。
そして現在、二人がいるのは――郊外のホロウエリア。正確な座標すら分からない、完全に孤立した場所だった。
「……どうだ? 修復は出来たか?」
「ダメそうだ。誰とも連絡出来そうにない。横転したときの衝撃でインプラントがおかしくなってしまったのかもしれない……。メインの機能が使えないとなると、外との連絡は絶望的だ……」
「そうか……」
その後、車内にはなんとも言えない気まずい沈黙が流れた。アキラはしばらく迷った末、思い切って口を開く。
「その……星見……さんの方はどうだい? 仲間の人との連絡はできたか?」
「応答はない。私が一人で追っている最中、あの知能構造体と一度、離れた場所で交戦してからここへ来たのでな。今、あいつがどの辺りにいるのかも分からない」
「彼と戦ったのかい?」
「あぁ」
雅は淡々と答えた。
「私が本気を出して、なお……どこか手加減されているようなものだった」
「……え?」
アキラの表情が固まる。
あの知能構造体が強いことは知っていた。
しかし――まさか、虚狩りである星見雅と対等に渡り合えるほどだとは思っていなかった。
「プロキシ」
雅がアキラへ視線を向ける。
「あの知能構造体は何者なのだ?」
「何者……と言われても、僕にもよく分からないんだ。出会ってからそこそこ経つけど、今分かっているのは、彼が男で、未知の素材で身体が構成されているってことくらいなんだ」
「そうなのか、他には?」
「何度かコミュニケーションも試した。でも……終始無言でね」
「そうか」
雅はそれ以上、追及しなかった。
「まぁいい。ホロウを出てから、あの者にゆっくりと聞くとしよう」
「その……星見さん?」
「なんだ?」
「さっきから、なんで手を掴んでいるんだい? あ、汗を拭きたいから放してほしいんだけど……」
アキラの手を握っている雅の指が、さらに強く食い込んだ。
「無理だ」
「え?」
「私はあの知能構造体との戦闘で、上空から地面に叩きつけられるように投げ飛ばされた。肋骨にはヒビが入り、身体中を打撲している」
そう言いながらも、雅の表情には痛みを感じさせるものがない。
「それでもお前たちを追い、こうして追いついた」
「そ、それは災難……だったね」
「ホロウの中でお前を見つけた幸運、次はないだろう」
赤い瞳が、まっすぐアキラを射抜く。
「星見家の人間として、同じ過ちを三度繰り返すわけにはいかないのでな」
「『二度と繰り返さない』なら分かるけど……」
アキラは苦笑する。
「けど、僕は逃げたりしないよ。そもそも道が分からないしな……。キャロットもないのに無闇に動き回っても、迷うだけだよ」
「ならば座れ」
「え?」
「ホロウに迷った折は、安全な場所で救助を待てと指南書にあった。私の仲間は必ず救助に来る」
だが――アキラには、待つという選択肢はなかった。
「そうなると、時間がかかるはずだ」
アキラは雅を見つめる。
「星見さんは、一刻も早く仲間の元へ行きたいと思っているんだろう?」
「あぁ」
「それは僕も同じさ。だから雅さん……協力しないかい?」
「協力?」
「自慢じゃないけど、僕はプロキシとしてキャリアは結構長いんだ。ただ……ホロウの出口を探すならお任せなんだけど、自分の身を守るってなると、いまいちで……」
「そこで私の力を借りたいと?」
「その通り」
雅はじっとアキラを見つめる。
「だが先程、なにやら重要な機能が使えないとこぼしていたのは自身であろう。それで案内が務まるのか?」
「そこは説明するよ」
アキラはプロキシの仕事と、キャロットについて雅へ説明した。
しばらくして、雅は静かに頷く。
「つまり、キャロットの元になるデータがあれば、ホロウから出られる確率が上がるのだな」
「あぁ。出られる方法がある、と捉えてもらっても構わない」
アキラは少しだけ笑う。
「雅さんには、エーテリアスを倒しながらデータスタンド探しを手伝ってもらえると助かる。そこからは僕に任せてくれていいから」
雅は腕を組んでしばらく考えこみ、やがて――静かに頷く。
「承知した」
そして、アキラへ手を差し出す。
「ここは一時休戦とし、手を結ぶとしよう」
「ありがとう。助かるよ」
二人が歩き出そうとした、その時だった。
遠くから――ブゥゥゥン……。
小さなプロペラ音が響いてきた。
「……何だ?」
空から、一機の小型ドローンのような飛行物体がこちらへ接近してくる。
雅が即座に刀へ手をかけた。
「待って!」
アキラが慌てて止める。
ドローンは二人の前で停止すると、機体から男のような声を響かせた。
[??]:驚かせて申し訳ありません。ご安心ください。私は味方です
「名乗れ。貴様は何者だ」
[BT]:私はBT。あなたたちが呼んでいる『知能構造体』のサポートAIです
「……!」
アキラが目を見開く。
[BT]:彼は現在、星見雅様との戦闘によって機体の破損が大きく、動けない状態にあります。そのため、代わりに私があなたたちのサポートに馳せ参じました
「彼のサポートAIだったのか」
アキラは少し考えたあと、すぐに尋ねる。
「なら、データスタンドがある場所は分かるかい?」
[BT]はい。道案内いたします。こちらです」
BTが先行する。
「行こう、雅さん」
「あぁ」
二人はBTの後を追って、ホロウの奥へ進んでいった。
やがてエーテリアスが姿を現す。
「来る!」
雅が一歩前へ出て、エーテリアスの身体が切り裂かれ、崩れ落ちる。
その横を抜けようとした別のエーテリアスには、BTの小型ミサイルが飛んでいく。
「……凄いな」
「戦いは任せろ。お前は自分の歩調に合わせればいい」
「分かった」
アキラは雅の背中を追いながら歩く。
しかし、ホロウ特有の空気が徐々に身体を蝕んでいく。
「うっ……」
アキラが胸元を押さえた。
「生身でホロウに入ると……こんな嫌な感じなんだな……」
[BT]:お二人とも、念のためこちらを投入してください
BTの機体からアームが伸びる。
その先から、緩和剤と痛み止めの薬が差し出された。
「これは?」
[BT]:あの方は、星見雅様もこちらにいると想定され、お二人の状態を案じて私をドローンで飛ばしました。この緩和剤の受け渡しと、サポートを命令されましたが……ホロウの状況が悪く、想定より到着が遅れてしまいました」
BTは淡々と告げる。
[BT]:申し訳ありません
「来ないよりかは断然マシだ。これでしばらく侵蝕の心配はない。助かった」
[BT]:任務を続行します。前方にデータスタンドを確認。そこからデータを入手しましょう
「分かった。僕に任せてくれ」
[BT]:こちらのデータスタンドは、まだ誰の手にもついていないようです
「あぁ。すぐにデータを読み取って、簡易的な『キャロット』を作ってみるから、少し時間をくれ」
「分かった」
アキラがデータスタンドへ向かう。
その背中を見送った雅が、ふとBTへ視線を向けた。
「BT。」
[BT]:はい、なんでしょう。
「お前の主は、何者なのだ」
[BT]:黙秘。お答えできません。
「何故だ」
[BT]:あの方が話さない限り、私から言えることは何もありません
雅の目が細くなる。
「……ここで私がお前を斬り裂いてもか?」
[BT]:構いません」
即答だった。
[BT]:あの方は私を信じている。私も、あの方を信じています
機械の声に感情らしき揺らぎはない。
だが、その言葉には一切の迷いがなかった。
[BT]:その信頼を無下にはしません。そのような言葉で私の忠義は揺らぎません。黙秘します。
たとえ自身が朽ち果てようとも。破壊されようとも。BTは、自らの主の秘密を守るつもりだった。
「そうか……」
雅はしばらくBTを見つめる。
「……すまない。馬鹿なことを聞いた」
[BT]:問題ありません」
「二人とも、すまないがまだ少しかかりそ―って、何の話をしていたんだい?」
「いや、ちょっとした世間話だ。何も問題ない」
「そうかい?」
アキラは首を傾げる。
そして――雅の手元へ視線を落とした。
「……けど、さっきから刀が震えているような……」
雅の刀が、わずかにカタカタと震えている。
「本当に大丈夫かい?」
「あぁ。問題ない」
雅は刀を握り直した。
「これしきの些細なことに気を取られるな。お前はデータの読み取りに専念しろ」
「分かった」
アキラはデータスタンドへ向き直る。
「作業に専念するから、あとは雅さんに任せるよ。BT、悪いけど少し手伝ってくれるかい?」
[BT]:了解
こうしてそれぞれの役割を真っ当するために動く。
サポートAIの名前思いつかなくてとあるゲームに出てくるロボットの名前にしちゃった。
分かる人には分かると思う。