なんだかんだで7話目、お気に入り登録してくれている皆さん、本当にありがとうございます。
時を同じくして――
「っ!!」
修理を終えたばかりの知能構造体は、ホロウの奥から発せられる異常なエネルギー反応を感知した。
「 ……? どうなされたのですか?」
柳が不思議そうに問いかける。しかし知能構造体は答えることなく腕のデバイスへ手を伸ばし、ボタンを押した。
complete
Start up
一瞬でアクセルフォームへ移行すると、その姿は風を裂くように駆け出す。
「お、おい! ちょっと待てって!!」
ビリーの制止も虚しく、知能構造体は高速でエネルギー反応の発生源へと消えていった。
場面は戻り、先ほどまで青白く揺らめいていたエネルギーは禍々しい赤へと染まり、炎の旋風が星見雅を中心に渦を巻いていた。
「くっ……これは……!」
頭の中へ直接流れ込んでくる、誰かの声。
――斬れ。刀を慰めろ。斬れば楽になる。
――斬れ!!
声は次第に大きくなり、雅の意識を侵食していく。
……ほしみさん…星見さん……!」
星見 雅さん!!
炎の渦を恐れず飛び込んできたアキラが、鞘を手に必死に叫ぶ。その声で、雅の意識はかろうじて現実へ引き戻された。
「雅さん……どうすればいい!? 鞘で封じられるか!? 雅さん!!」
「 うっ……くっ……持っていろ!」
雅は歯を食いしばり、暴れ狂う無尾を鞘へ収めようとする。
しかし刀は激しく抵抗し、炎はさらに勢いを増した。
一般人であるアキラでは、その力を支えきれない。
「ダメだ……このままじゃ……!」
その瞬間だった。
一人の機械体が、一切の躊躇なく炎の渦へ飛び込む。
「……君は!」
「知能構造体!」
ドローンが破壊される寸前、BTはキャロットの情報を知能構造体へ送信していた。
その情報を頼りに、最短距離で駆けつけたのだ。
「踏ん張れ!!」
知能構造体が、初めて感情をむき出しにして叫ぶ。
刀から溢れ出る暴力的なエネルギーを真正面から受け止め、修理されたばかりの装甲が次々と剥がれていく。
「ぐうぅぅぅ……!!」
三人の力が一つになり、ついに刀身が鞘へ収まった。
同時に炎の竜巻は嘘のように消え去る。
張り詰めていた力が抜け、アキラの身体が崩れ落ちそうになる。
知能構造体は素早く支え、その体を受け止めた。
「はぁ…はぁ…来てくれて、ありがとう。」
数分後。
その場には、どこか気まずい沈黙が流れていた。
アキラは何度も雅へ話しかけようとし、そのたびに会話は途切れる。
意を決して再び口を開く。
「こほん……星見さん。調子はどうだい?」
「ああ、すまない……映画にしか出てこないような経験をしたものだからな。あの奇妙な炎の旋風は、とても人体に無害とは思えなかった。」
[BT]:スキャン結果、身体に異常は確認されません。ただし心拍数の上昇、および筋肉の緊張を確認しています。
「大事ない。心配は無用だ。」
そのやり取りへ、知能構造体とBTも加わる。
するとアキラは、知能構造体へそっと耳打ちした。
「なら良かった……ただ星見さん、毛先が燃えてチリチリになってしまっているけれど?」
「……星見家は代々くせ毛なのだ。私の心配は無用だ。この程度、比にならない修羅場を幾度も潜ってきた。」
[BT]:では、私の視覚に映っている刀から火花が出ている映像は偽物でしょうか。
「何っ――!?」
雅は慌てて刀を確認する。
もちろん、火花など一つも散っていない。
BT 「すみません。嘘をつきました。動揺させてしまい申し訳ありません。プロキシ様に頼まれたもので……」
「……笑えないな。これは至って正常な反応だ!」
「わかったよ。僕はただ……
星見さん! 体から狐火が出ている!!」
「どこだ――!?」
再び身体を確認する雅。
当然、狐火など出ていない。
「……ごめん。今のも嘘だ。
これだけ立て続けに騙されるようでは……やっぱり、さっきの出来事が相当堪えているんだろう。」
「……貴様! 私を幾度も愚弄して、どういうつもりだ!」
「うっ……! 誤解だ! 僕はただ、君の助けになりたくて……!」
必死に弁明するアキラ。
しかし雅の機嫌は戻らない。
その様子を横で見ていた知能構造体は、無言のまま夫婦喧嘩を見守る子供のように見ていた
しばらくして雅は静かに口を開く。
「星見家の人間は、同じ間違いは三度犯さないと言っていただろう?……さっきので三度目だ。
つまり、それほど事態は深刻ということだろう。」
怒りはいつしか困惑へ変わっていた。
「……先ほど刀が制御を失った時、お前は何の備えもなく狐火の中へ飛び込んだ。なぜだ?出口が見えていたのなら、私を置いて逃げることもできたはずだ。お前もだ、知能構造体。」
突然話を振られた知能構造体は、わずかに肩を揺らした。
「僕は……僕が星見さんのプロキシだからだ。
一時的な協力関係でも、君を連れて脱出すると約束した以上、必ず連れ帰る。」
その瞳には、一片の迷いもなかった。
知能構造体も小さく息を吐く。
「別に……助けられると思ったから助けた。それだけだ。」
「――!」
雅は再び押し黙る。
やがて、自らの刀を二人の前へ差し出した。
「これは星見家に代々伝わる家宝だ。
歴代当主に仕え、勧善懲悪を成してきた。」
刀身を静かに撫でる。
「父上がこの鞘を誂えて以来、一度も異常は起きなかった。
零号ホロウの核心部へ踏み込んだ時でさえ暴走などしなかった。」
そっと刀を鞘へ納める。
「ようは、暴走の理由が検討もつかない、だが現に暴走した……つまり外的要因がある可能性が高いということか?」
「ああ。父上なら何か知っているかもしれない。
だが今は市長と会談中だろう。
おそらく、自分のグラスのワインをジュースにすり替えるので忙しいはずだ。」
思わぬ父親の秘密に、アキラも知能構造体も思わずツッコミを飲み込んだ。
「その刀……少し見せてもらってもいいかな?」
「……なんだ。お前は刀匠の心得でもあるのか?」
「そうじゃない。でも、その鞘は知能化されているだろう?
僕のインプラントなら電子機器へアクセスできる。
手掛かりが見つかるかもしれない。
それに、武器の知識なら、いつも色々な武器を生成して戦っている彼の方が詳しいだろう」
突然雅の視線が知能構造体へ向く。
「確かに刀も使うが……そんな期待するような目で見るな。」
「……鞘だけなら触れることを許そう。」
雅は刀身を抜き、鞘を差し出した。
アキラが手を触れた――その瞬間。
「っ……!」
力なくその場へ倒れ込む。
「「プロキシ!!」」
知能構造体は即座に身体を支え、スキャンを開始した。
「なんでこんな致死量のエーテルエネルギーが……
とにかく、早くホロウから出ねぇとまずい。」
すぐに緩和剤を投与する。
しかし、それだけでは明らかに足りない。
BT 「現在の状態では緩和剤を使用しても約三十五分が限界です。
それ以降は極めて危険な状態になります。」
その時だった。
脱出経路の先から、無数のエーテリアスが押し寄せてくる。
雅が刀を構えた瞬間、知能構造体は薄いブルーレンズのサングラスを差し出した。
「雅。このサングラスを着けろ。」
「…? わかった。」
装着した瞬間、脱出ルートや敵の位置情報が視界へ表示される。
「そのサングラスにはBTとは別の支援AIが入っている。
自我はないが、壁越しの敵や死角の敵も常に教えてくれる。」
知能構造体はアキラを抱え直した。
「俺はプロキシを抱えて走りながら援護する。
お前が先導してくれ。」
「承知した。プロキシは任せた。」
二人は視線を交わし、小さく頷く。
次の瞬間、エーテリアスの大群へ向かって一直線に駆け出した。
タイトルなのですが「少しずつでも新しく信頼が芽生えた」と言う意味でこのタイトルにしました。
サブタイトルって付けるのこんなに難しいんだな…
頑張ります。