初めての個人の誕生日番外編ですが、テーマとして『歌』を題材とした感じで執筆しました。
よろしければUVERworldの『心とココロ』という曲と一緒にご覧ください。
歌詞と結構シンクロさせてるのでより楽しめるかと思いまする。
その日は、いいや、その日もいつものようにキッチンで夕食を作っていた。
いつもと何か違う所を上げるとすれば、それはいつもより夕食が少し豪華なレシピになっているところだろうか。
今日は一年で少し特別な日。園田海未の誕生日である。
いや、正確には岡崎海未の誕生日である。
そんな事を思いながら夕食を作っていると、
「ママー!」
と、可愛らしい声がリビングから聞こえてくる。
パタパタパタと足音を立てながらやって来たのは小さな女の子、見た目は小学二年生ほどだろうか。というか二年生だ。
「どうしたんですか、みーちゃん」
岡崎
どちらかといえば黒より青寄りの色の髪が肩まで伸びていて、性格は父みたいに基本元気で拓哉似だが、見た目は可愛さが出ている女の子らしい海未似である。
「お誕生日おめでとう、ママ!」
可愛らしい笑顔と共に小さな手から差し出されたのは、お世辞にも上手いとは言えないが、辛うじて何となくそれが海未と分かると言えるレベルの似顔絵だった。
それでも、最愛の娘が誕生日に自分の似顔絵を描いてくれたというその事実が、何とも言えない幸福感と愛しさを与えてくれる。
「……我ながら親バカですね、私も。ありがとうございます、みーちゃん。とても上手に描けていますね」
頭を撫でながら言うと、えへへ~とこれまた抱き締めたくなるような笑顔で喜んでいる。まさしく天使のようだった。
にへらと思わず自分の顔もニヤけてしまいそうだった時、
「ねえママ、どうしてママはパパと結婚したの?」
「――え?」
あまりにも唐突すぎる質問に一瞬体が凍ったような気がした。
「あのね、
陽佳ちゃん、というのは美海の学校の友達だろう。何だ、友達から聞いたから自分も気になったのか、とホッと胸を撫で下ろす。拓哉か、もしくは自分に何か不満があって聞いてきたのなら危うく誕生日の夜にベッドで体育座りする所だった勢いである。拓哉が聞いたらきっと泡を吹くに違いない。
「それで、ママはどうしてパパと結婚したの?」
拓哉の泡を吹く顔を想像して苦笑いしていると、待ちきれないのか再度美海が質問してきた。
夕食の準備は大体出来た。あとは出来るまで待っておくだけだ。時間はある。
なら、
「……じゃあ、少しパパとママのお話でもしましょうか」
「うん!!」
煮込めるまでのアラームをセットして、リビングまで移動する。
「みーちゃんは、パパとママのどんなお話が聞きたいですか?」
「んーとね……パパとお付き合いした時の!」
「いきなりハードル高いですね……」
最初に聞かすのがよりにもよって、ある意味一番恥ずかしいエピソードにいきなり頭を抱える。でもこの娘のキラキラした目を見ると言わざるを得ないのを海未は知っている。
「それじゃあ、話しましょうか。みーちゃんも、ママがパパと生まれた時から幼馴染、つまりずっと仲良く一緒に遊んでいた事は知っていますよね?」
「うん! ママからもパパからも聞いた事あるよ!」
いつの間に聞かせていたんだうちの夫は……と、少し疑問に思うとこもあるが今は話の途中なので、
「それでずっと一緒にいたんですけど、ある時を境にパパは引っ越す事になって長い間会っていない時期がありました」
「うん、それもパパに聞いたよ!」
一体どこまで話したんだこの子に。少し問い詰める必要がありますね……と心に決意して話を進める事にする。
「そうですか……。それじゃここからは恐らく、みーちゃんも初めて聞く事になると思います」
と言うと、余程気になっているのか、美海の顔が強張る。
それに少し可笑しくなりながら、
「その会っていない間、ママはほとんど毎日自分の部屋で泣いていました。これでもかと思うくらい毎日涙を流して、会いたい会いたい、戻って来て……とね」
「ママずっと泣いてたの?」
「ええ、多分その頃から既にママはパパの事を好きになっていたんでしょうね。夜に一人静かに枕を濡らしていました。でも、泣いていてもパパはずっと帰って来ませんでした」
「パパひどい! ママを泣かせるなんて!」
昔の話なのにぷんすか怒っている美海の頭を撫でながら宥める。
「ふふっ、そうですよね。ひどいですよねパパは。結局パパが帰って来たのがその五年後です。こっちはあんなに泣いていて、やっと再会したと思って泣きそうになってるのに、向こうは怯えたような顔で『よ、よう。海未にことり。久し振り……だな……?』だなんて、拍子抜けもいいとこでしたよ。それでも、やっぱりまた会えたのは嬉しかったですね」
「そのリアクション、なんかパパだなあって思う!」
中々にバカにされてる夫に思わず吹き出しそうになる。
「それで、幾分かの年が経って、その中にたくさんの出来事があって、お互い同じ大学に行って、パパもまた少しお父さ……みーちゃんからしたらおじいちゃんですね。おじいちゃんのやっている武道場に通うようになって、しばらくして……稽古が終わった後にママからパパに告白したんです」
「ママから?」
「ええ、そうでもしないと、パパは全く気が付きませんからね。恥ずかしくても仕方ない、告白するならこの時しかないと思って」
「パパは何ていったの!?」
誰が見ても分かるほどに興味津々な顔をして聞いてくる美海。結果は分かるだろうに。
「告白した最初は、キョトンとした顔で何も分かっていないようでした。でも数秒してから理解したのか、『ああ、俺も海未が好きだ。だからこっちこそ、俺と付き合って下さい』って言われました。今度はママがキョトンとしてしまいました。こんなに上手くいくとは思ってなくて、むしろ振られると思っていましたからね」
当時の事を思い出したせいか、少し自分の顔が赤くなっているのを自覚する。
「でも上手くいったんだ。夢じゃないんだって思ったら、気付けば泣きながらパパに飛び込んでいました」
「あー! またパパがママを泣かせた!」
「ふふっ、それからパパにも言いましたよ。離れていた間、自分はずっと毎日泣いていた、と。こうなれる日を待ちくたびれてましたってね」
懐かしく思う。自分の恋の旅は本当に小さい頃から始まっていた。そして、長年の時を超えて、ようやく叶って、本当の二人の旅が新たに始まったのだ。
「するとパパが『だったらさ、離れてた分まで海未の話を聞かせてくれよ。もちろんこれからも。俺もいっぱい話す。そして、今までお前を泣かせてしまった分だけ、俺がそれを塗り潰すくらい海未を笑顔にしてみせる。いいや、する。飽きるくらい笑わせてやっからさ、存分に付き合ってくれよ?』って言ってきて、ああ、それなら泣いていた甲斐があったのかも、と思ってしまったんです」
「パパ、ママを笑顔にしてくれた?」
「ええ、それも本当に飽きれるくらいにね。そこからずっと素敵な毎日が続いていきました。で、デートも…色々しましたし、厳しい稽古もいつもより楽しく感じました」
娘にデートの事を言うのは少々恥ずかしかったが、それも含めて楽しかったからちゃんと言っておく。
そこで、ふとある時のデートであった事を思い出す。
「そういえば……ある時のデートで、ママがパパとはぐれてしまった時に、不良という輩に……えー、悪い人に襲われそうになった事がありましたね」
「えー!! でも、ママは強いから大丈夫だったんじゃないの?」
「うーん、まあ、ママもそう思ってたんですけどねえ……」
――――――――――――――
『いいじゃんかよちょっとくらい遊ぼうぜ? なあ姉ちゃん!』
『いや、ちょっと……離してください!!』
強く手首を掴まれてるせいか逃れる事が出来ない。しまった、よりにもよって拓哉とはぐれてしまっている最中にこんな事になるなんて。はぐれた自分に腹が立ちながらも何とか突破口がないか考える。
が、
『かあーっ! その睨んでくる感じ。いいねえ、そういう目を見ると俺、もっと潰したくなっちゃうんだよねえ』
そんな事を考えさせないかのように、男は掴んでいる手を乱暴に引き寄せる。
一気に男との距離が縮まる。
『くっ……!』
いつまでもこうしていると何をされるか分かったもんじゃない。
だから、今までの自分が父から学んできた武道でこの男を撃退させるしかない。
『こ、の……っ!!』
手が使えないなら足を使う。誰でも思いつく方法だ。足を振り上げ、男の顔を横から狙う。
しかし、誰でも思いつく方法なら、もちろんこの男にも思いつく。
故に。
『おっとぉ』
左腕でいとも簡単に防がれてしまう。いつも学んでいる武術は相手との距離が十分に空いている前提での事だった。
しかし、今は手首を掴まれている状態。前提からして海未には到底不利だったのだ。
しかも、
『あれれ~、まあ何かしら攻撃は来ると思ってたけどさ、普通の女よりも少し効くねえ。もしかして何か習ってるとか? あれ、あれれ~? 何? じゃあ今ので勝てると思ってたのかなあ? その顔、図星っぽそうだねえ!! じゃあ何か? 俺はこんな蹴りでやられるような男に見えたって事かなあ? ははははっ!! うーわ何それー! 俺超舐められてるー!!……ムカつくなお前、あんま調子乗んなよ』
まずい、男の勘に障ったようだった。今までのおちゃらけた態度が一気に一変して、何をしでかすか分からない表情になる。こうなるともう海未にはどうしようも出来ないと分かっていた。稽古をして、鍛えて、武道を学んで、普通の女子より強いと思っていたから大丈夫だとどこかで慢心していた。それが現実ではこうだ。
何もかもが的外れだった。いくら稽古をして、鍛えて、武道を学んで、普通の女子より強くても、それはあくまで“女子”という括りの中ではの話だった。いざ男性が相手となると当然その考えは嫌でも覆される。そもそもにおいて、こういう状況に慣れている男と、慣れていない海未では、やれる手段があまりにも違いすぎる。
これが現実。実際こういう状況になって何も出来ない自分の弱さが招いた現実。
男のもう片方の手が伸びて来る。
もうダメだ、と目を瞑って思った。
瞬間。
ゴグシャァッ!!と、聞こえた音と共に、掴まれていた手首の感覚が消える。
『が、ぁ……ッ!?』
男の痛みに満ちた声に反応するかのように、恐る恐る目を開けると、そこに居たのは、
愛しい、自分の、ヒーローだった。
『悪い……海未。待たせちまったな』
拓哉がこっちを見て申し訳なさそうに、けれどどこか安心したような顔で言ってきた。
『もう……遅いですよ……!!』
自分も答える。確かに先ほどまでにあった恐怖は、拓哉が来た事によりこうも簡単に消え去っていた。それほどまでの安心感を与えてくれるようなオーラが、拓哉にはあった。
そして、
『ど……どうしてここまでやってこれたっ!? ここは俺しか知らない、他の誰も知らないはずの路地裏の広場だぞっ……!? そこに、そんなとこにどうしてテメェは正確にここまでやって来れたんだ!?』
男が発狂するように叫んでくる。ここは仄暗い路地裏の広場。普通ならだれも来ない場所。やってこれない場所。
だから。
なのに。
何故この彼氏のような少年はやってこれた?
『人に聞いた』
『……あ?』
一瞬の空白が頭を過ぎる。
『色んな人に、青い髪をした女の子をどこかで見かけていないか聞いてまわった。そして、路地裏の入り口まで辿り付いた。そこからは俺の勘だ』
人に聞いた? それで路地裏まで辿り付いた? いいや、それまでならまだ分かる。青色のした髪は珍しいから記憶に残ってそこまで辿り付けるのはまだ分かる。
問題はその後だ。勘だと? この複雑な路地裏を適当に、無闇に走り回って勘でここに辿り付いただと?
そんなの、そんなのが……、
『そんなのがあり得る訳ねえ!! こんな複雑な経路を無闇やたらに走り回ってここに来れるはずがねえ!! 俺だってやっとの思いで覚えたここの経路を勘だけで来ただと……? 偶然に偶然が重なっても、たった一回で来れるはずがねえんだ!!』
叫ぶ。
この現実が嘘だと言うかのように。彼氏のような少年に向かって叫ぶ。
『だが、俺はやって来たぞ』
即答だった。言われてみればそうとしか言えない。偶然に偶然が重なったとして、初めて来たとして、普通なら迷うはずの道で、こんなタイミングで来れるわけがないと考えて、それでも、この少年がやって来た事実には何ら変わりはなかった。
まるで、このタイミングで来るのが必然であったかのように。
『……ははっ。じゃあ何か? 俺がやっとの思いで覚えた誰にも来れないこの場所をテメェはたったの一回でヒーローよろしくみたいにタイミング良くここに来て、俺は悪党のようにやられるってか……? 何だよそれ……そりゃ愉快だなあオイ!! テメェの許しを請う泣きっ面を見ねえと俺の気が済まねえぞ!!』
男が咆哮を上げるかのように突進してくる。
そこまで聞いて、改めて、拓哉は相手をしっかりと見据える。
『……テメェがそんなくだらねえ悪党になろうがなりたくなかろうが、関係ねえよ』
直後に、二つの拳が交差して、男が数メートル吹き飛んだ。
『ばっ、ぐベぅッ……!?』
気を失った男を見つめながら、拓哉は、
『俺の大切な人に手を出そうとした時点で、テメェは俺にとって最悪の悪党だ』
――――――――――――――
「そんな感じでパパはママを助けてくれたんです」
「パパかっこいいー!! ホントにパパはママのヒーローさんなんだね!!」
話を聞き終えた美海はこれでもかというくらいに顔を輝かせている。
「パパはずっとママのヒーローでした。でも、今はみーちゃんのヒーローでもありますよ」
「じゃあ美海はパパのヒロインさんだね!!」
「むっ……パパのヒロインはママですよっ」
「美海だよ!」
「ママですっ」
「美海!」
「ママっ」
不毛な争いはやがて、両方がヒロインという何とも普通の結果で終焉を迎える。
「で、話は戻りますが。みーちゃんはママとパパがどうやって結婚したのかが知りたいんですよね?」
「うん!」
ここからが本題だ。海未と拓哉の結婚。
そこには、決して簡単ではない壁があった。
「パパとママは、そう簡単に結婚は出来なかったんです」
「どうして?」
どこに結婚出来ない理由があるのか? と言いたそうな顔で美海はこちらを見ている。
「それを今からお話します」
それは。
決して逃れられない壁で、
超えなきゃいけない壁で、
拓哉を最後の最後まで追い詰めた壁だった。
園田家の大黒柱。
結婚をする上で、必ず激突する壁。
最後の障壁だった。
―――――――――――――――
『海未を、園田海未さんを俺に下さい!』
『ならん、帰れ』
躊躇のない即答だった。
『お父さん、何で――!?』
『海未は黙ってなさい』
自分の娘にまで有無を言わせないほどの圧だった。
『そこまで言うのなら、私と試合をして勝ってみろ。拓哉』
それが海未の父、大和の出した条件だった。
ルールはシンプルで、武器を使わなければ、型や流儀は関係なく、また、容赦は一切なしというルールだった。
『ぁ……が……ッ!?』
倒れているのは、意外にも拓哉の方だった。
型や流儀が関係ないなら、喧嘩慣れしている拓哉が有利だと思っていた海未はただただ驚愕していた。あの拓哉が、今まで誰かに負けた所を見た事がないあの拓哉が、父親に一発も当てられずに倒されている。
『ふんっ。普段鍛えてやってるのにこんなものか。お前の実力というのは』
息を全然乱さずに言う大和は何とも冷たい目で拓哉を睨んでいる。
『ぐっ……ま……まだ、だ……!』
至る所に腫れている箇所がある。
完全にボロボロの拓哉に無傷の大和。差は明らかだった。
『何故私に勝てないのか分かるか?』
『……?』
『お前はお前で小さい頃から鍛えてはいたが――』
その口から放たれるは、大和を知っている者は当然知っており、もちろん海未も知っており、同時に拓哉もうっすらとどこかで分かっていた事だった。
『お前が生まれる前から、何十年も前から、小さい頃から鍛えている私の方が強いのは当たり前の事だろう』
無情にも放たれた言葉は、無情にも拓哉の胸に突き刺さった。
差があるのは当たり前。
年数が違う。
誰にも覆す事の出来ない時の流れ。
当然の結果。
『だからお前は私には勝てない。帰れ』
それでも。
『……知らねえよ』
吐き捨てる。
『アンタが小さい頃から鍛えてるだとか、だから俺が勝てないだとか。そんなのは今はどうだっていいんだよ。海未を、これからは俺が海未を守っていきたいんだよ! 守り続けていきたいんだよ! アンタと戦う事が条件だから今は戦ってる。けど、本題を忘れるんじゃねえ! 海未を貰うまで、認められるまで、俺は絶対負けねえ!!』
立ち上がる。これだけは譲れないから。どんなにボロボロになろうが、立ち上がる。
『……、』
まだ、大和の目は冷たいままだった。
『まだ、分かっていない様だな……』
『な……に……?』
再び構える拓哉と違って、大和はただ立っているだけの態勢だった。
『お前は、海未がお前だけの宝物だと思っていないか?』
『な……にを……?』
『今の今まで、生まれてから海未を守り続けてきたのは誰だと思っている? 今の今まで海未を育ててきたのは誰だと思ってる?』
『……ッ!?』
それは、紛れもない父親の言葉だった。娘を持つが故の感情。
拓哉は自分の思いがとんだ間違いだった事に気付いた。
海未を守りたい。それが拓哉の思っていた事だった。だが、それは当然大和も同じなのだ。確かに拓哉も生まれた時から海未の幼馴染である。しかし、それ以前に生まれる前の海未を、名前が付けられる前の海未という“存在”を知っており、誰よりも一番にその存在を守ってやりたいと思っているのは、この大和なのだ。
だからこその壁。
重圧。
責任感。
プレッシャー。
全てが拓哉を襲う。
同時に、大和が迫って来る。
ガードをする暇もなく、拳が顔面をモロに捉えた。
『がぁっ、ばぅっ……!?』
さらに、追撃。
床に着いたと同時に腕を掴まれ、そのまま1本背負い。
ドガァッ!と、破裂音に近い衝撃が道場内に響く。
『えぁッ、ばはっ…ごほっ、がはッ……!?』
さらに、追撃。
グギャリリリリリッ!と、仰向けに倒れている拓哉の左肩に足を思いっきり踏みつける。
『がっ、ァ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?』
悲鳴にも似た絶叫が海未の耳を刺激する。
『お、お父さん!! もう……ッ』
涙目になりながら訴える。
が、
『お前は黙っていろ。と言ったはずだが……?』
『――っ!?』
圧倒される。何も言う事が出来ない。
でも、その一言のおかげで大和は拓哉から足を離した。
『あっ……、ぐ、はぁ……はぁ……ッ』
痛みに悶えそうになるのを必死に堪えながら拓哉は大和を見据える。
『……理解したか? 自分がどれほどの責任を抱えるか、どれほどの重荷がのしかかるかを。覚悟はあるのか? 海未を一生守り抜くと、支え続けると。拓哉、お前はそれを誓えるのか? 家庭を、家族を持つという事はこういう事だ』
改めて、父親として、もっとも重いであろう言葉を拓哉にぶつける。
そして。
『……覚悟なら、とうの昔にしてるさ』
体の節々が悲鳴をあげる。
だが、今はそんなのは関係ない。
『海未を一生守り抜くなんて、とっくの昔に誓ったことだ。どれだけの責任やプレッシャーがあるかなんて、まだアンタから見たらひよっこの俺には全部は分かりかねる。でも、安心したよ。完璧だと思ってたアンタも、間違った事を言うんだってな』
『……何?』
『だってそうだろ? 家族になるって事は、これからの出来事を一緒に体験して、一緒に成長していくってことだろ。確かにそこには夫としての責任や重圧があるかもしれない。でも、それは妻だって同じだろ? 妻としての責任や重圧があるんだ。お互いプレッシャーがあるのは同じなんだ。だからこそ支えあうんじゃないのか? 夫婦になって色んな事があるかもしれない。苦しい事や悲しい事だってたくさんあるかもしれない。だから一緒に乗り越えていくんだろ。別々に乗り越えるなんて何の意味だってない。一緒に悲しんで、一緒に楽しんで、一緒に成長していくのが家族だろ。それを重荷だって言うアンタは間違ってる。最初は誰だって初めての事ばかりで困難かもしれない。だけど、それを2人で乗り越えればそれは重荷なんかじゃねえ。夫としてだけの責任や重圧がどうのこうの言ってるアンタは間違ってる! 夫婦だから二人で頑張るんだろ! 夫婦だから支えあうんだろ! 覚悟なんてそんなもん付き合い始めてからずっと思い続けてきたんだ! 俺のこの想いは、アンタにも否定させるわけにはいかねえんだよ! 俺だって海未を一番大切に想ってんだよ!!』
誰が見ても分かるほど体はボロボロで、今にも崩れ落ちそうな震えている足で、殆ど動かない左腕をぶら下がらせ、それでも自分のこの想いだけは否定させないと、叫ぶ。
『……、』
『勝たせてもらうぞ、園田大和』
静かに佇む大和に、拓哉は動く右手を力強く握る。
(頼むから、途中で倒れてくれんなよ……)
最後の壁を見据え、走り出す。この拳を当てるために。
『お』
気を抜けば動かなくなりそうな足を踏ん張らせ、
『おおォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!』
『……ふっ』
トスッと、拓哉の拳は弱く、大和の胸元に当たった。
『く……そ……』
最後の最後で力が抜けてしまった。
『ま、まだ……だ……!』
『合格だ、拓哉』
不意に、拓哉と海未の耳にそんな呟きが聞こえた。
『……は?』
『ごう……かく?』
『そうだ。よく私の言った間違いが分かったな、拓哉』
耳を疑った。
『な、ちょ、でも、俺まだアンタに勝ってないぞ……!?』
『まあ、武術では私の勝ちだな』
『じゃあ、何で……!?』
『ルールは指定したが、誰も戦いに勝てとは言ってないぞ』
頭が混乱している拓哉はよく分からないといった表情をしていた。
『最初からお父上はお二人のご結婚を認めていましたのよ』
そう言って道場に入って来たのは海未の母、
『ですが、どうしてもお父上が拓哉さんのご覚悟とやらを聞きたいと言い張ったので、こういう展開になったのです』
それを聞いて、拓哉は座り込んで、
『え、じゃあ何? 俺そんな事のためにこんなに体中痛めつけられたの!? あまりにも理不尽すぎやしねえか!?』
『そんな事とは何だそんな事とは。お前の覚悟を聞くためにやった事だぞ』
『いやだから痛めつけすぎなんだよ!! むちゃくちゃ痛えわ!! 俺の覚悟聞くためなら最初から話し合いで良かったじゃん! 俺ボコボコにされなくて済んだじゃん!』
海未は拓哉と大和のそんなやり取りを聞いてヘナヘナと座り込んだ。
『……じゃあ、これで……』
『ご結婚、できますよ』
独り言のつもりだった。だがそれに返答があった。
千尋だった。
『思う存分拓哉さんを褒めてやりなさい。本当にあの子は頑張りましたから』
『……はい!』
『拓哉、海未。これでお前達は晴れて結婚出来る』
『無駄に痛めつけられたけどな』
『けれど、さっき言ったように、責任や覚悟がいるというのは本当だ。それは分かっているな?』
見事なスルーだった。
『はい。私も重々承知です』
『俺も、ハナからそのつもりでここに来たんだ。覚悟は出来てる』
『これから色々な事が起きるだろう。それは決して楽しい事ばかりではない。困難な道もある。だからこそ、二人で支えあって乗り切るんだ。それが夫婦で、家族だ。いいな?』
『『……はい!』』
返事を聞くと、大和は満足そうに、
『じゃあ、これでもう何も言うことはない』
『おめでとうございます。海未さん、拓哉さん』
『『ありがとうございます』』
――――――――――――
ピピピッ!!っと、セットしておいたアラームが鳴る。
料理が出来た証拠だ。
「と、まあこんな感じですね。パパとママの結婚話は」
結構長話になってしまった。それほどまでに思い出深かった。その出来事を海未は一生忘れないだろう。
「うわー! おじいちゃん強ーい!!」
「そっちですか……」
思わずずっこけそうになる。
「でもやっぱりパパもカッコイイね!」
「……ふふっ、そうでしょう? パパはいつだってカッコイイんです」
「綺麗なママに、かっこいいパパがいて、美海は幸せ者ってやつだね!」
「ママも、こんなに可愛い娘がいてくれて、とても幸せ者ですよ。さあ、ママは夕食の準備を済ませますので、もう少しリビングにいて下さいね」
話を聞けて満足したのか、美海ははーい!と、元気の良い返事をしながらリビングに向かって行った。さあ、後はテーブルに夕食を並べるだけ。時間も頃合いだろう。
と、思った矢先、
「ただいまー」
噂をしてたら何とやら、夫が帰って来た。
「お帰りーパパー!!」
「おおー美海ー。出迎えてくれたのかー。パパは嬉しいぞー」
リビングに入って来た瞬間に拓哉に飛びついた美海を上手く受け止める拓哉。
「お帰りなさい、拓哉君」
いつものように言うと、
「ん、おう、ただいま、海未」
いつものように返してくれる。それだけで嬉しく思う。
さっき昔話をしたせいだろうか。余計幸福感があるように思う。
夕食を並べている途中、突然美海が、
「ねえパパー」
「んー、何だー?」
「パパはママと長い間一緒にいるけど飽きないのー?」
ブフゥッ!!と、吹き出しそうになるのを必死に抑える。いきなり何て事を言うのだ自分の娘は……と思いながらも、拓哉の返答が気になり耳を傾ける。
「んーそうだなー。飽きるってのは絶対にないな。寧ろママへの愛は深まる一方でございますよー」
これまたブフゥッ!!と、吹き出しそうになるのを必死に抑える。違う意味で驚いた一方、嬉しさが凄かった。
「もう、何を言ってるんですか。拓哉君は」
「だって本当の事だしなあ」
照れ隠しに軽い溜息を零し、残りの夕食の皿を取りに行く。
すると、
「海未」
ふと、拓哉に呼び止められ、
「誕生日おめでとう」
手渡されたのは、小さな小包だった。
それを開けると、綺麗なブルーの結晶が入ったネックレスだった。
「とても……綺麗です……」
心からの本音が出る。
「海未の綺麗な青い髪にも合うと思ってな。……俺達は生まれる前から幼馴染でさ、そこから長い時を一緒に過ごして、いつしか結婚して、こんな事って普通ないよなって思いながら、でも、そんな偶然に偶然が重なってこうなったのはさ、やっぱり運命なんじゃないかなってな。だから俺はこの運命に従って、いつまでも、これからも海未を守り続けるよ。俺達の始まりは同じ場所だった。なら、終わりもまたお前の隣が良いんだ。一緒に頑張ろう海未。今は美海もいるし、三人で歩み続けよう」
music:心とココロ/UVERworld
自然に涙が流れてしまう。
「拓哉君ばっかり、都合がよくてズルいです……」
「ははっ、ごめん。でも今日は海未の誕生日だからさ。そうさせてくれよ」
二人で笑いあっていると、
「あー! パパがママを泣かせてるー!」
美海の乱入である。
「み、美海!? そんな誤解を受けるような事は言っちゃいけません! パパのプレゼントで泣いてるんだよママは!」
娘に必死に弁解する夫が可笑しくて、
「美海にプレゼントはないのー!?」
「いや、あなた様はまだ誕生日じゃないじゃん!」
自分のプレゼントを請う娘に愛しさが感じて、
「あ、そういえば昨日パパがママの取って置いてた穂むらのお饅頭食べてたよー!」
「ちょ、ま、何でこのタイミングで言ってんの!? てか何で知ってんの!?」
今日の昼に食べようと楽しみにしてた饅頭を勝手に食べた夫に軽くお仕置きが必要だと感じて、
「へえ……やっぱり拓哉君が食べたんですねー。これは少しお仕置きしないとですねー……」
「えと……ひ、姫……? か、顔が笑っていませんの事よ!? 笑ってるけど笑っていません事よー!?」
その日、一つの家に一つの断末魔と、一つの怒号と、一つの笑い声が聞こえた。
こんな幸せがずっと続きますように。
お仕置きの最中でも、海未はそう思っていた。
まさかの10000文字オーバー。
まじかよ……。
番外編は本編とは違って、1から全部オリジナルだから中々難しいんですよね。いざ書き始めたら10000超えましたけどw
さて、選曲としてはですが、ただ単に自分がUVERworld好きなだけなんですけど、好きな歌や好きなアーティストの歌をキャラに当てはめてみたら面白いんじゃね?といった感じです。
誰得?と言われたら完全に俺得です。いつもの自己満で書いたんで文はハチャメチャですが満足はしてます。
海未ちゃん可愛いよ海未ちゃん