はい、矢澤家編クライマックスです。
「大変申し訳ありません。わたくし矢澤にこ、嘘をついておりました」
「ちゃんと頭を上げて説明しなさい」
突然現れた第二の妹、ここあに抱き付かれた事によって動きが封じられたにこは抵抗を止め、矢澤宅にて事情聴取なうである。姉妹多いな。
絵里に言われた通りににこは顔を上げるが、そこには一部を除き不満そうな顔をしているμ'sの面々がいる。俺なら土下座して許してもらうまで顔上げないぜ!
「や、やだな~、みんな怖い顔して……アイドルは笑顔が大切でしょ? さあ、みんなでご一緒に、にっこにっこにー!」
「にこっち」
「うッ」
「ふざけてて、ええんかな?」
「……はい」
うん、それが正しいぞにこ。俺もさすがにこの空気でにっこにっこにーはマズイと思ったから。ほんとブレないなこいつ。
にこが嘘ついてる件もそうだが、まず最初に聞かなきゃならない事がある。
「とりあえずだ。この件はまた後で聞くとしてまずはみんな忘れてしまってるかもしれないから言うけど、にこに聞きたいのは練習を休む理由だ」
「「「「「「「「あ」」」」」」」」
こいつらマジで忘れてやがったな……。成り行きで付き添いになった俺だけが覚えてるってどういう事だよ。
「出張?」
「そう、それで2週間ほど妹達の面倒を見なくちゃいけなくなったの」
「だから練習休んでたのね」
渋々ではあるがにこは理由を話してくれた。
親が出張で家をしばらく空けるようだから、そのあいだの家事やらをにこが全てしなくてはならないとのこと。理由としてはもっともだろう。これで逆に練習来てたら俺が説教するまである。
「ちゃんと言ってくれればいいのに~」
「それよりどうして私達がバックダンサーという事になっているんですか!?」
「そうね、むしろ問題はそっちよ」
いつの間にか目的が変わってたでござる。まあ俺も何故かにこの専属マネージャーという設定になってるのは気になってるのだが。
「そ、それは……」
「それは?」
「に、にっこにっ―――、」
「それは禁止やよ」
「さ、ちゃんと話してください」
さすがにもう言い逃れはできない雰囲気になっていた。
みんなが見つめる中、にこはようやく観念したように重い口を開いた。
「……元からよ」
「元から?」
「家では元からそういう事になってるの。別に、私の家で私がどう言おうが勝手でしょ」
元からというのが少し気になるが、だからと言ってはいそうですかとすぐに納得できるわけではない。ましてや俺の扱いが1番気になっている。
「だとしてもだ。μ'sの扱いがバックダンサーってのは百歩譲って分かるとしても、俺がにこの専属マネージャーってどういう事だよ。何か穂乃果達と違って優遇されたような紹介してるだろ」
「うっ……。そ、それは……あれよ……」
またバツが悪そうな顔になって言い淀むにこ。何でか周りのみんなの視線も強くなってると思うのは気のせいだろうか。俺より聞く気満々みたいな雰囲気出てるぞこいつら。
「じ、実際拓哉はやる時はやるし、普段はめんどくさそうにしてるのにいざとなると誰よりも熱心にμ'sの事を考えて動くし、それに……私をμ'sにって最初に手を差し伸べてくれたのが、その、拓哉だったから……」
「……お、おう」
沈黙がこの空間を支配した。
い、いやあ、言うねえ……。思わず変な事言ったらツッコんでやろうと思ったのに見事に意表を突かれた。やべ、にこの顔が赤いせいか俺まで赤くなってるかもしれない。暑いぞこの部屋、暖房消せよ! 点いてなかったわ。
「と、とにかく! お願い、今日は帰って……」
顔を紅潮させながらもそのまま妹達のいる方へ顔を向けて言い放つにこ。多分もうこちらへは振り返らないだろう。俺も何か居心地悪いし穂乃果達も納得のいったような感じになってるから今日は帰らせてもらおうかな……。
マンションを出て夕陽を浴びながらようやっと調子を取り戻す事ができた。
「まったく、困ったものね」
真姫が最初に呟く。
俺は優遇されてる分まだいいが、真姫達μ'sはバックダンサーという、いわば脇役みたいなものだと言われてるようなものだ。不満を持つのは仕方ないだろう。
「でも、元からってどういう事なんだろう?」
「にこちゃんの家では、元から私達はバックダンサーってこと?」
「希?」
「何か知ってるのか?」
にこの言っていた“元から”という意味。それは俺も気になっていた。一体いつからそういう事になっているのか、小さい頃からなのか、それとも……。
「多分、元からスーパーアイドルだったって事やろな」
「どういう事です?」
「にこっちが1年の時スクールアイドルをやってたって話、前にもしたやろ? きっとその時、妹さん達にも話したんやないかな。アイドルになったって」
やっぱり、その時から言っていたのか。
「でも、ダメになった時、ダメになったとは言い出せなかった。にこっちが1年の時から、あの家ではスーパーアイドルのままなんやと思うんよ」
「確かに、ありそうな話ですね」
「もう、にこちゃんどれだけプライド高いのよ」
「真姫ちゃんと同じだね!」
「茶化さないの!」
「でも、プライド高いだけなのかな……?」
「え?」
何か自分には分かるような言い方で花陽が言った。
「アイドルに凄い憧れてたんじゃないかな。本当にアイドルでいたかったんだよ……。私も、ずっと憧れていたから、分かるんだ」
同じアイドルが好きな花陽だから分かる事。憧れとはある種夢のようなものでもある。自分もああなりたい、輝きたい、あの人のようになりたいなど、自分を『憧れ』という位置そのものに置きたいと思うのが人の心理の1つでもあるのかもしれない。
「……私が1年の時、にこがスクールアイドルのチラシを配ってるのを見た事ある。……私はその時、アイドルにも興味なかったから……」
以前希ににこの過去を聞いた事があるが、所詮は聞いただけに過ぎない。
過去のにこがどれだけ必死に頑張って、めげずにスクールアイドル活動をしてきたのか、メンバーが脱退したあと1人で孤独と戦いながらどうしてきたのか、見てきたわけではない。
にこがその時に何を思っていたのかなんて、分かるはずも分かってやれるはずもない。想像もできないほど辛かったのかもしれない。家では妹達にアイドルとして笑顔を振りまいていても、その裏ではメンバーが脱退していなくなった孤独と苦痛と向き合っていたかもしれない。
「あの時、私が話しかけていれば……」
「それは間違ってるぞ、絵里」
「え……?」
でも。
だけど。
「今更あの時そうしていればなんて事を思っても意味はないんだ。どうしたって過去には戻れないんだから。俺達の知らない過去でにこは想像もできないほど辛い思いをしながら過ごしていた。その事実は変わりようがない。だけど、妹達につきたくもない嘘をついてまでその笑顔を守ろうとしたのも事実だ」
「ですが、その結果として今は解決できているのに、今もにこはそれを貫き通していますよ」
「俺達はもうとっくに知ってるだろ、にこの性格を」
そうだ。
思えば学校で再会した時から何一つにこは変わっていない。
「やっぱり意地っ張りなんだよ。あいつはいつだってめげずに踏ん張ってきた。いついかなる時だって、μ'sが解散の危機に陥った時だってあいつだけは活動を止めなかった。こころ達についてる嘘だって、意地っ張りではあるけど、見方を変えればこころ達を悲しませないようについてる優しい嘘だと言えるんじゃないか」
「優しい、嘘……」
「孤独な時期もあった。無理な笑顔を振りまいてる時期もあった。それでも諦めずアイドル研究部の部長としていたから、今のにこもいる。あいつの強さは意地っ張りとその心の強さだ。俺もさ、妹に唯がいるから分かるんだ」
共通点として言ってしまえば、にこは俺と似ているのかもしれない。
「自分の下に妹や弟がいたら、そいつが傷付かないのなら嘘だってついてしまう。笑顔を曇らせたくないがために。くだらねえ意地張って周りに迷惑かけちまう事もあるんだよきっと」
「はは、たくちゃんらしいねっ」
「俺以上ににこは凄いと思うぞ。にこにはアイドルっていう強い憧れがある。そのためなら平気でメンバーをバックダンサーだって嘘付くし、挙句には専属マネージャーって言うくらいだしな」
冗談交じりに言うと、穂乃果達にも多少の笑顔が戻ってきた。
さて、ここで今回の問題を軽く整理してみる。
にこは過去の事が原因で今もこころ達に自分はスーパーアイドルだと言っていて、穂乃果達の事をバックダンサーだと思わせている。そしてこころ達もそうなんだと信じ切っているという事だ。
だがここで無闇に実は穂乃果達は普通にメンバーで、リーダーはにこですらないと言ってしまえば確実に純粋な子供のこころ達は落ち込んでしまう。それだとにこが今まで言っていた事が水の泡になってしまう。
「で、結局どうするの? このままにしておくの? たくちゃん」
「……いや、μ'sはともかく俺まで巻き込んだんだ。しかも専属マネージャーってな。だったらタダでは済まさねえさ」
ではどうするべきなのか。
簡単だ。
にこがとてつもない意地っ張りなのは百も承知。何を言っても聞かない可能性だってある。
ならばそれを逆手に取ればいい。
にこがμ'sに加入する時と同じように、意地っ張りなヤツには少し強引にいった方が丁度良いというものだ。
「みんな集まってくれ。急ぎになってしまうけどやってほしい事がある。これもにこのためだ」
「にこちゃんのためって……一体どういうつもり?」
真姫に言われてふと頭に思い付いた言葉があった。
今現在ではまだ穂乃果達もバックダンサー、俺も専属マネージャーという事になっている。ならそれを利用させてもらうまでだ。
「……専属マネージャーだからな」
割と皮肉たっぷりかもしれない。
―――――――――――――――――
「よお、にこ」
「げっ……」
「げって何だげって」
2日後の事だった。
今日もこころ達のために早めに帰って家事をしようと下校途中のところで拓哉が前に現れた。
「何でアンタがここにいるのよ」
「お前に用があるからに決まってるだろ?」
「……言ったでしょ。練習に出られな……って、ええッ!?」
台詞が途中で止まってしまう。
無理もない。にこの目の前に突然いるはずがない人物が3人も現れたのだから。
「知ってるさ。妹達の面倒を見ないといけないからなんだろ。だったら話は簡単だ。妹達をここに連れて来ればいい。な、こころ、ここあ、虎太郎?」
「お姉さま!」
「お姉ちゃん!」
「がっこう~」
「ちょっ、何で連れてきてんのよ!? さっき学校終わったばかりなのよ!?」
「ああ、俺今日サボったから」
「この子達の前でそんな事言うな! そしてサラッと言うんじゃないわよ!」
3年だからにこは知らないが、拓哉は今日学校をサボってずっと見計らっていたのだ。小学生のこころ達が帰宅してくる時を狙ってにこの家に行き、虎太郎も連れて一緒に音ノ木坂学院へとやってきた。
「こころ達にも話したら見たいって言ったから丁度良いと思ってさ。にこのステージを」
「……私の、ステージ?」
「ああ、そろそろ準備も出来てると思うし、行こうぜ」
妹達がここにいる以上、無視して家に帰るわけにもいかなくなった。それにステージを見たいと言ってくれているのに無下にできるはずもない。差し出された手を、にこは掴むしかなかった。
「なあ、こころ、ここあ、虎太郎。お前達はさ、にこの事をどう思ってる?」
屋上に行くともう準備は施されていた。ピンクを基調とした可愛らしいステージに、周辺にはバルーンも置かれている。そんなステージの前でシートを敷いて待機している拓哉はこころ達に質問する。
「もちろん尊敬しています! アイドル活動をしながらも私達の面倒も見て下さる大事で大好きなお姉さまですから!」
「時間がある時は一緒に遊んでくれたりもするしねー。1番のお姉ちゃんだよ!」
「すき~」
「……そっか」
子供は純粋で嘘をつかないとよく言うが、案外本当なのかもしれない。少なくともここにいるこころ達の瞳に嘘はなく、とても輝いていた。それに拓哉は微笑ましくなった。
やはりこの子達の前ではいつだってスーパーアイドルであり、いつだって立派なお姉ちゃんなのだ。だから、この計画も迷いなく提案する事ができた。
「よし、もうそろそろお前達の大好きなスーパーアイドルが出てくるからな。ちゃんと見てるんだぞ」
力強く頷く3人を見て十秒くらいたった時、ステージのカーテンが開かれた。
「あ……」
「あいどる……」
出てきたのはもちろんにこ。
その衣装もピンクを基調としていて、いかにも矢澤にこという少女のイメージにはピッタリと当てはまっている。
衣装のイメージは絵里と希が考え、それを衣装係のことりとそれを手伝う花陽によってこんなにも早く仕上げる事ができた。そのあいだに拓哉は他のメンバーと話し合いながらステージの構成を練って完成させる。
たった2日で出来るような事ではないはずなのに、それができるほどのチームワークと技術が拓哉とμ'sにはあった。
今日だけは、この日だけは、矢澤にこというたった1人の少女のためのステージや衣装が用意されている。
「こころ、ここあ、虎太郎。歌う前に話があるの」
素敵な衣装に包まれたにこが静かに切り出す。
表情から察するに、裏で絵里と希が色々話してくれたのだろう。今のにこに先程までの混乱はなく、ただ1人のスクールアイドルとしてステージに立っているのが見て分かる。
「実はね……スーパーアイドルにこは、今日でお終いなの!」
「「「ええー!?」」」
「アイドル、辞めちゃうの……?」
こころが不安そうな声をあげる。当然だろう。物心ついた時から姉はスーパーアイドルで、そう思っていたんだから。それが今日でお終いと聞かされたら、まだまだ子供のこころ達にはダメージもでかい。
だが、にこは優しくそれを否定する。
「ううん、辞めないよ。これからは、ここにいるμ'sのメンバーとアイドルをやっていくの!」
「でも、皆さんはアイドルを目指している……」
「ばっくだんさ~」
「……そう思ってた」
そう、ずっと偽ってきた。孤独になった時も、μ'sに入って救われたあとも、言うに言い出せずに偽ってきた。
だけど、もう違う。
「けど違ったの。これからは、もっと新しい自分に変わっていきたい。この9人でいられる時が……いいえ、支えてくれる拓哉も含めて10人でいられる時が、1番輝けるの! 1人でいる時よりも、ずっと、ずっと……」
こころ達だけでなく、拓哉もにこの言葉を決して聞き逃さない。
これはある種、にこのスクールアイドルとして生まれ変わる瞬間なのだ。偽りの自分から、本物の自分になるための。
「私の夢は、宇宙NO1アイドルとして、宇宙NO1ユニット、μ'sと一緒に! より輝いていく事! それが、1番大切な夢……私のやりたい事なの!!」
「お姉さま……」
もしかしたら子供のこころ達にはまだ少し難しい話なのかもしれない。けれど、ずっと一緒に過ごしてきたから分かる事もある。これは姉の本心なのだと。嘘偽りなく、紛れもない姉の本音。
「だから、これは私が1人で歌う、最後の曲……」
バックにいる穂乃果達がはけて行き、スーパーアイドル矢澤にこの最後が始まる。
生まれ変わるための準備は整った。
もう偽りはない。
1人ではなく9人としての本当のスクールアイドルへと。
「にっこにっこにー!!」
少女は生まれ変わる。
―――――――――――――――――
「こころ達はにこのステージ、どうだったよ?」
「凄く素敵でした! ずっと忘れません!」
「いっぱい輝いてたもんお姉ちゃん!」
「うちゅうなんば~わん~」
帰り道の事だった。
ステージも終わってみんなもさあ帰ろうかとなったところで、どうしても拓哉と一緒に帰ると珍しく我が儘を言うこころ達によって、拓哉はにこを含む矢澤姉弟と帰宅を余儀なくされていた。
「ちょっと、普通のお客さんならともかく、こころ達の前でそういう事聞くのはやめなさいよ……」
「ライブは評価も含めてライブなんだ。直接客から評価もらえるのは良いと思うぞ」
分かっててやっている拓哉だが、妹達の前では怒鳴るに怒鳴れないため恥ずかしくも押し黙るしかない。
ちなみに拓哉の両手にはこころとここあ、にこの片手には虎太郎で手を繋がれて歩く様は遠目から見てみれば仲睦まじい夫婦に見えなくもない。
「まあ、これでもうにこも自信もってμ'sだって言えるわけだ」
「茶化さないでよ」
「切り替えってやつだよ。これからはもうスーパーアイドルじゃなくて宇宙NO1アイドルなんだろ?」
「……ふんっ」
夕陽に照らされて見えるにこの顔は照れているのかよく分からない。けど表情から見るに悪く思ってはなさそうだ。
にこは生まれ変わった。きっかけはどうあれ、新しい一歩を自分で踏み出した。
なら、それを引っ張ってやるのが自分の役目だろう。
「俺が連れてってやるさ。その宇宙NO1アイドルってところに」
「……絶対だからね」
「……ああ、絶対だ」
そんな会話を聞いていたこころはよく内容が頭に入ってこなかった。
だがまだまだ子供な彼女はすぐに違う方向へと頭が切り替わる。
「お兄さま! これからは私達の家にもっと遊びに来てくださいね! お姉さまはμ'sの皆さんと新しくなったみたいですが、お兄さまは変わりなくお姉さまの専属マネージャーみたいなので!!」
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「「あ」」
専属マネージャーも違うのだと言うのをすっかり忘れていた2人であった。
とりあえず拓哉は当面、お兄さま呼ばわりと新たな属性に目覚めないよう努力しないといけないらしい。
さて、いかがでしたでしょうか?
1期もそうですが、2期のにこ回も込みで良い話なので個人的に凄く好きな回です。
さてさて、今回でにこの岡崎に対する心境は明確に変わっていく事でしょう。つまりはフラグが建築さ(ry
次は凛編ですぜ。
そして何気に次で本編100話ですぜ。
いつもご感想高評価ありがとうございます!!
新たなに高評価(☆10)を入れてくださった
積怨正寶さん
にちれんさん
計2名の方からいただきました。
本当にありがとうございます!!
これからもご感想高評価お待ちしております!!
穂乃果、海未、ことり、絵里、花陽、真姫、にこと順調にフラグを立てた、という事は次は……?