『それで、結局私が……』
「そうか。……悪いな、電話入れて。どうしても気になってな」
任せてくれとは言ったものの、やはり通信手段はこれ以外にないというわけで、結局電話で連絡をとる選択に落ち着いた。
と言っても花陽に電話しているあたり、これはあくまで事前準備のようなものではある。
『ううん、私も話したかったから』
花陽から凛がセンターじゃない理由は話を聞いて大体分かった。
リーダーはやるが、自分には絶対に似合わないと断固として認めなかったらしい。だから他のメンバーも仕方なく穂乃果と体型が似ている花陽がセンターという事で決定したのだと。
「それで、どうするつもりなんだ」
あえてそういう質問をしてみる。
イベントに間に合わない拓哉達とは違って花陽達は6人で踊らなければならない。ということは、その場にある問題はその場にいる者がどうにかしなければならない。ましてや花陽は凛の親友であり幼馴染でもある。なら花陽は凛が抱えている問題をどうにかしたいはずなのだ。
『うん……よく分からなくて……。真姫ちゃんにも言われたの。このままでいいのかって……でも凛ちゃん、困ってるみたいだし、無理に言ったらかわいそうかなって……』
「かわいそう、か」
花陽の事だ。凛の事をよく分かっているから、無理に言うともっと気にしてしまうんじゃないかと思っている。凛はいつも能天気に見えて実は考え込んでしまう、というのは拓哉も知っている。だから凛をリーダーにと提案もしたのだから。
それよりも、拓哉にはもっと気になる事があった。
「なあ、花陽。俺が電話をかけたのはもっと他に気になる事があったからなんだ」
『気になる事?』
「正直に答えてくれ。……凛がそこまでセンターをしたがらない理由って、似合う似合わないという理由の他に、もっと違う何かがあるんじゃないのか?」
『ッ……』
そう、拓哉のずっと気になっていた理由はここにある。
今回のイベントでセンターには特別な衣装を着てもらう事になっている。女の子の憧れという象徴を形にしたその衣装は、思春期の女子なら必ず1度は着てみたいと思うもの。
なのに、凛はそれを強く拒んだ。女子によくある謙遜の可能性も考えたが、凛のそれは遥かにその域を超えている。本気でそう思っているのだ。自分には似合わないと。なら、そこまで思ってしまうには、根本的な理由があるはずなのだ。
『……拓哉くんになら、話してもいいかな』
数秒の間沈黙が流れていたが、花陽がそれを破り口を開く。
『あのね、実は―――』
要約するとこうだ。
小学生の頃、凛は髪が短いという理由で男子扱いされていたらしい。そしてそんな凛がたまたまスカートを穿いていくと、それをからかって笑う男子が何人かいた。そのせいで心に傷を負った凛は以降、私服でスカートを穿かなくなったという。
「でもステージとかでスカートとか穿いてるよな?」
『凛ちゃんが言うにはそれはみんなと一緒だし、ポジションが端っこだからって言ってたよ』
「みんなと一緒なら目立たないし気にならないって事か」
とにかく、凛が何故そこまで拒むのかという原因が判明した。
男子が女子をからかうなんて小学生にはよくある話だろう。普段男子扱いされていた凛が急に女の子っぽい服装をすれば尚の事。しかしそのせいで凛は今も気にしてスカートを穿けずにいる。
問題はそこだ。
そこなのだが。
男子である拓哉だから察しがついてしまった。
『拓哉くんだったら、どうする……?』
何か言おうとしたが、その前に花陽に問われた。
そもそもの話、本当はこの問題自体そんなに重い事ではないのかもしれない。
花陽に真相を聞いて拓哉はそう思ってしまった。凛からしてみれば過去から現在まで引きずっているくらい重要な事なのかもしれないが、それもおそらくすぐ解決できるかもしれない。
なので一応花陽自身の気持ちも確認しておく。
「花陽はどうしたい?」
『え?』
質問に質問で返してしまうようだが、そうするべきだと考えた。
「俺は俺で考えてるけど、花陽自身はどうなんだよ。凛はお前の親友なんだろ? だったら、お前はどうしたい? どうするべきだと思う?」
『……、』
「言わなくとも分かってるはずだよな。ずっと一緒にいた幼馴染なんだから、掛け替えのない親友なんだから、凛が本当はどうしたいかなんて、お前はもうとっくの昔から分かってるんだ」
あくまで拓哉自身は動かない。
動けない。
だから託す。
自分と同じ気持ちを抱いている花陽に、大事な親友に大きな一歩を踏み出させるための勇気を、背中を押してやる。
「俺も明日またそっちに連絡する。きっかけだけならいくらでも作ってやるから、最後は花陽が言ってやるんだぞ」
直接言えないなら、通信手段でサポートすればいい。
ここから動けずとも、駆け付けてやれなくても、言葉を届ける事なら出来る。
「
それだけ言うと電話が切れた。
耳から携帯を離し画面をただ見つめる。直前に拓哉の言っていたことを思い出す。
今度はお前の番だ、と。
その意味は分かっている。
だから。
小泉花陽はある少女達へ連絡するためにまた携帯の画面に触れる。
――――――――――――――――
「終わったの?」
振り返ると、いつものサイドテールを解いて髪を下ろしている穂乃果が微笑みかけてきた。おそらく風呂に入ったあとなのだろう。
「ああ。というか聞いてたのか?」
「任せるって言ったけどやっぱ気になっちゃって。たくちゃんが動くならこのくらいの時間かな~って思ったら当たってたみたいだねっ」
「エスパーか何かかお前は……」
すぐ隣まで来た穂乃果に呆れると同時に、自分が動く時間帯まで見破られていた事に少々驚く。
「で、どう? 上手くいった?」
「どうだかな。……でもきっと大丈夫だろ。花陽も成長してるんだ。いつも俺がやってる事を花陽がやるだけだ。もちろん俺も明日また連絡するけど」
何も言ってこないあたり、それで納得したんだと思う。そこから何故か沈黙が続いた。
今にも肩が触れそうなほど近いせいか風呂上がりなせいなのか分からないが、微かに穂乃果から良い匂いがして鼻がくすぐったくなる。
「雨、止んだね」
「……ああ。夜空も綺麗に晴れてるな」
あれだけの暴風雨も今では見る影もない。どうやら台風も逸れていったらしい。どんよりとした空間はどこにもなく、むしろ星々がくっきりと見えるくらい綺麗な夜空が広がっていた。
ふと、拓哉の肩に穂乃果の頭がストンッと優しく置かれた。
「イベント、成功するといいね」
一瞬ドキッとしながらも、穂乃果の優しい声音が拓哉を落ち着かせる。
穂乃果もμ'sのリーダーなのだ。色々思うところもあったはずだ。
だからいつものように、拓哉も答える。
「だな」
――――――――――――――――――
既に会場ではイベントが始まっていた。
モデルがステージを歩いては観客の黄色い歓声が聞こえてくる。
少し圧巻されながらも、気合いは十分に引き締められる。
「じゃあみんな、着替えて最後にもう一度踊りを合わせるにゃ!」
「「「「「はい!」」」」」
凛の声に合わせてメンバーが返す。
リーダーとしてのポジションにはもう慣れた。自分があの衣装を着なくていいと分かってからはずっとリーダー業に奮闘していたからか。
「凛ちゃんの衣装そっちね!」
「分かったにゃ!」
それぞれが着替えるために各自の着替えルームに入っていく。
凛もそれに続いてカーテンを開けると、そこにあったのは見慣れたはずの衣装ではなかった。
「ぇ……あれ……?」
あったのは、黒い花婿衣装ではなく、白い、女の子なら誰もが憧れるような、夢見る衣装。
ウエディングドレス。
自分には決して似合わないと思って拒んで辞退したはずの衣装が目の前にあった。
「……かよちん、間違って―――、」
「間違ってないよ」
既に着替えを終えた花陽達が揃っていた。
「あなたがそれを着るのよ、凛」
「な、何言ってるの? センターはかよちんで決まったでしょ? それで練習もしてきたし……」
「大丈夫よ。ちゃんと今朝、みんなで合わせてきたから。凛がセンターで歌うように」
「そ、そんな……」
凛の記憶が正しければそのような連絡は来なかったはずだ。となると、自分だけ連絡が来ないようにされていたのだろう。そうなると絶対拒むと思われて。
「冗談はやめてよ~」
「冗談で言ってると思う?」
「で、でもぉ……」
似合わない。真っ先にそう思った。
もう本番なのに、そこまで出番は来てるのに、ここにきて負の思考が出てきてしまう。
そんな幼馴染のために、親友が側にかけよる。
「凛ちゃん。私ね、凛ちゃんの気持ち考えて、困っているだろうなと思って引き受けたの……。でも、思い出したよ! 私がμ'sに入った時のこと」
もちろん、今朝に集まろうと連絡したのは花陽だ。他のメンバーも理由を聞いてすぐに納得してくれた。それがとても嬉しかった。
親友のためにこんな急な事でも頷いてくれるメンバーに。そして、後押ししてくれた少年に。
多少強引だったかもしれない。でもそれでいいのだと、今までの拓哉の行動がそれを証明していた。
自分のワガママでもいい。どうにかしてあげたいのなら、強引なくらいがいいんだと。
かつて自分がμ'sに入る時も、凛は惜しみなく協力してくれた。思い返してみれば強引な時もあっただろう、だがそのおかげで今の自分があるのを忘れてはいない。
ならば。
「
凛の手をそっと握り締める。
言ってやる。たった一歩を踏み出せない親友のために。どんなに否定されようと、本人が否定しようと、言ってやる。
「凛ちゃん……凛ちゃんは、可愛いよっ」
「えっ?」
「みんな言ってたわよ。μ'sで1番女の子っぽいのは、凛かもしれないって」
「そ、そんなこと……」
「そんなことある! だって私が可愛いって思ってるもん! 抱き締めちゃいたいって思うくらい、可愛いって思ってるもん!!……ッ」
「ッ……」
お互い顔が赤くなるくらいに赤面するが、花陽は本音を言ったに過ぎない。
凛に否定されないくらい強く言うしかないと思って。
そんな矢先。
『おうおう、その堂々と言ったあとに照れるのいいね~お2人さん』
「きゃっ!? え? え? この声って……」
「あ、そうなの。実は拓哉くんと電話繋がってるんだ」
花陽が取り出した携帯画面に映っているのは、今沖縄にいるはずの岡崎拓哉だった。
「た、たくや君!? な、何で……」
『そりゃ依頼取ったのは俺だし、手伝いとしちゃイベント前に何か言ってやるのも仕事の1つだろうと思ってな』
ご丁寧にTV電話のおかげか顔まではっきりと見えている。
『で、どう思うよ真姫さん。この衣装、凛に似合うと思わんかね?』
「へえ、意見が合うわね。私もそう思うわ。……いや、1番似合うわよ、凛が」
拓哉の茶番に付き合う真姫。
だが真姫だって本音で言っているのだ。
何だかんだで1番女の子らしい振る舞いをしている凛が1番似合うのだと。
「凛ちゃん」
同時に。
花陽と真姫の2人から優しく背中を押された。
かつて花陽がμ'sに入る時を思い出す。
あの時、自分と真姫が花陽の背中を押した。それのおかげで花陽も一歩を踏み出せたのを。
そっと衣装に触れる。
ずっと似合わないと思って小学生の頃から女の子らしい服は着てこなかった。
なのに、そんな自分がこんなに可愛いドレスを着ていいのかと思ってしまう。
『いいんだよ』
いっそ、女の子しかいない空間で異色を放つ声が響いた。
『凛、お前は普通の女の子なんだ。だったら着ちゃいけない理由なんてどこにもないんだ。女の子なんだから可愛い服を着て何がおかしい。着たいから着る。それだけでいいだろ? からかわれたから何だ。なら可愛く着てみせて見返してやればいいんだ』
「たくや君……」
岡崎拓哉はここにはいない。
あくまでこれはTV電話で、目の前に存在しているわけではない。
だけど、岡崎拓哉は言い放つ。
心に響くまで何度でも。
『自信を持てよ、星空凛』
いつだって勇気をくれる声が聞こえる。
『ここからだ。ここからお前は変わるんだよ。背中を押してくれた花陽達のためにも、いっちょ成長してこい』
「…………うん!!」
もうこういうのは一生着ないと思っていた。
似合わないと自分で決めつけて、誰かの意見を聞こうともせずに。
だけど、親友が、少年が、メンバーが、みんなが背中を押してくれた。
であれば、ずっと立ち止まっているわけにはいかない。
今まで本心を隠し。
憧れて。
着たくて。
着れなくて。
いつしか無意識に気持ちに蓋をして。
それでも。
普通の女の子でいたいと思っていた。
だから。
(……こんな凛でも、今日から変わるんだ)
長い年月をかけて、迷いなくドレスを手に取った。
Music:Love wing bell/μ's(星空凛、小泉花陽、西木野真姫、絢瀬絵里、東條希、矢澤にこ)
誰もが揃って声を上げた。
『可愛い』と『綺麗』だと。
ライブが終わりステージ裏へ戻ると同時に実感する。
間違っていなかった。みんなが褒めてくれた。
そして。
「大成功にゃ~!!」
「凛ちゃん!」
無事に全てが終わった。
色々思うところはありつつも、とりあえずイベント成功を花陽と喜び合う。
すると、突然拍手が鳴り響いた。
ステージ裏で控えているモデル達やスタッフが全員凛達へ拍手を送っていたのだ。
依頼を受けてくれた子達はよくやってくれたと。
「うわぁ……」
「やったね、凛ちゃん!」
「……うん!」
2人で喜びを分かち合っていると、花陽の携帯が鳴り出した。
それを取ると、またもTV電話で向こうには拓哉の他に穂乃果達も揃っている。
『おーう、時間的にそろそろ終わった頃かと思ったけど合ってたみたいだな』
「たくや君! 凛達ちゃんと成功したよ!!」
『おうおう、んなこと言われなくても分かってるっての』
「え、何で?」
興奮冷めやらぬ状態でもういつものテンションに戻っている凛。
それについて拓哉は苦笑いしながらも内心ホッとしているのではあるが。
『そりゃ信じてるからに決まってるだろ。……ちゃんと成長できたじゃねえか、凛。似合ってるぞ』
「……ッ! えへへ~、そんなことないにゃ~!」
『普通に照れてるだけになったな。あ、そうだ。ところで花陽から聞いた凛の過去についてだけど』
もう完全に克服しきっている凛に丁度良いと思って話を変える拓哉。
凛も花陽もすぐに理解し聞く体制に入る。
『普段男子扱いされてた凛がスカートを穿いたら男子にからかわれたって言ってただろ?』
「うん、それが原因で凛ちゃんは女の子らしい恰好をできなくなったんだよね」
「う、うん」
『おそらくだけどな、あれは小学生男子の悲しい性みたいなもんだ』
「「…………性?」」
2人して声が被ってしまう。
まるで拓哉の言っている事がよく分かってない様子。
『簡潔に言ってしまうとあれだ。好きな子ほどからかいたくなるってやつだ。一緒に遊んでた男子がスカート穿いたらからかってきたのは、多分そいつらが凛の事を意識しだしたからじゃないかと。つまりは惚れられてたとか』
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………、」
「り、凛ちゃん!?」
『え、ん? どした凛? いきなり顔がトマトみたいになってんぞ。あれか、真相が今ようやく分かって本気で照れてきたってや―――、』
『デリカシーなさすぎですかあなたはッ! 何で追い打ちかけるような事言ってるんですか!』
凛がショートし、画面の向こうで海未に怒られている拓哉。周りから見てみればハッキリ言ってカオスである。
「あ、あはははは……そ、そうだったんだ……。ぁ、あ~……凛ってば、とんだ勘違いしてたのかにゃ~……」
何とか正気に戻り口を開くが、頬の熱はまだ残っているようだ。
それを聞いた拓哉も海未からの説教を切り抜け戻ってくる。
『まあそういうこった。そいつらが今の凛の恰好を見てみろ。きっとすぐにでも告白してくるぞ』
「こ、こくは……」
『はーはっはっ! だが俺はそれを許さんがな! 何ならそいつらよりも早く俺が凛に求婚するまである。良い花嫁姿だもんなあ』
「きゅ、きゅうこ……たくや君が……」
またもやショート寸前である。
「……凛ちゃん?」
今までの反応とは違う顔を見せる凛に違和感を感じた花陽。
だがそれとは別に画面の向こうでは修羅場が始まっていた。
『あれ、何でそんな顔してんのお前ら。何でゆっくり詰め寄ってくんの。せっかく晴れたんだから沖縄満喫するんじゃないの。何で全員般若みたいな顔し―――、』
「あ」
電話が途切れた。
おそらく拓哉は無事では済まないだろう。
「あ……あれ……な、何でこんな気持ちになるんだろ……かよちん助けて~」
「……ふふっ」
凛の気持ちの正体を分かっている花陽は、ただ笑みを返すだけ。
この気持ちの正体は、きっと凛が自分で気付くべきなのだから。
さて、いかがでしたでしょうか?
最後には凛にもってってもらいましたよ!
凛にはフラグというフラグがあまり立っていなかったので、ここで立てました。
何だかんだ1番女の子らしい凛、可愛いです。
個人的に穂乃果の花嫁姿も見てみたかったり。
とりあえず岡崎は沖縄で命を落とさない事を祈ります。
何気に穂乃果の正妻力の高さがやばい。
次回からハロウィン編?です!
いつもご感想高評価ありがとうございます!!
これからもご感想高評価お待ちしております!!
そろそろ何か番外編とか企画もの書きたくなってきた。
アニメ準拠で書いてるとたまにまったく違う感じの物語を書きたくなってくるんですよねw