海未からのありがたーい一撃を貰った
昼休みを終えて、何事もない5限目も終わり、今は6限目の真っ最中。にも関わらず担任である山田先生の授業内容を聞き流しつつ俺は先ほど穂乃果が言っていた事を思い出す。
『入学希望者が定員を下回った場合、廃校にせざるを得ない。って発表にはあったよね。ってことは、入学希望者が集まれば、廃校にはならないって事でしょ? つまり、この学校の良い所をアピールして生徒を集めればいいんだよ!』
と、穂乃果は言っていた。
が、俺はこの学校の事をよく知らない。だからこの件に関しては俺は全くの役立たずになる。なので良い所を知っているであろう穂乃果達にこの事は任せておくのが普通なら正解だ。
しかし、だからといってこのまま何もせずにいるのは個人的にだが納得がいかない。何か、良い所を探すだけじゃなく、何でもいいから廃校を逃せられるようなアイデアを考えないといけない。今の俺にはこれしか出来ないのなら、これを精一杯やる事が重要だ。
何か、何か良い方法を……、
「じゃあ岡崎ぃ、この問題をお前解いてみろー」
「んあ? ああ、すいません。考え事してて話聞いてなかったんで分からないです。もう一回言ってもらっていいですか?」
「なるほど、転校早々に授業を聞かないとは中々に良い神経してるじゃないか。よし、お前の意を汲んでやる。口開けろ。チョーク食わせてやるから」
「ちょっと待って何の意を汲んでんの? どういう神経してたら生徒にチョーク食わせる事になんの?」
担任の先生だからといって聞き流してたのがいけなかったか。いや、担任だからこそちゃんと聞いてないと容赦のない洗礼を喰らうって事か。
「心配するな。食わせるのは一本だけだ。ふんッ!!」
「十分嫌だわ! てか投げんな危ねえだろうが!!」
くそっ……これじゃロクに考え事も出来ねえ!
いやちゃんと聞いてない俺が悪いんだけどさ、それでもチョーク食わせるってどうよ!?
「先生、拓哉君にはあとで私が注意しておきますので今は授業を進めましょう」
突然の海未の言葉に先生は二本目のチョークを構えようとした所で動きを止めた。
そこ、何気に2射目放とうとするんじゃねえよ。
「……そうだな。なら岡崎への罰は園田に任せよう。幼馴染なら弱点も知ってるだろうしな。岡崎、考え事も悪くはないが今は授業中だ。とにかくちゃんと話は聞いておけよ」
「うーい」
海未さんありがとう。あなた様のおかげでチョーク食べずに済んだよ。仕方ない、今は考えは中止して話を聞くか。
俺と先生の激しいやり取りがあっても、俺の前に座っている穂乃果はそれに気づかず何かを考えていた。
放課後。
海未からの注意を軽く聞き流してまたしても一撃喰らった俺は穂乃果達と図書室に来ていた。てか何で俺も連れて来られてんの?って聞いたらまだこの学校をよく知らない俺だからこそ客観的な意見が聞けるとの事らしい。それには納得したので一緒に来た所存であります。
「して、良い所って、例えばどこです?」
「つか何で図書室?」
「えーと……歴史がある!」
なるほど、俺の質問のスルーはこの際気にしないでやる。
この学校の歴史を知るために図書室に来たってのが分かったからこの際は気にしないでやる。大事な(ry。
「おお、他には?」
「他に!? えーと……伝統がある!」
「一緒じゃねえか……」
そこから俺達はとりあえず色んな場所を見て回った。
中庭。プール。弓道場。グラウンド。講堂。なんか偉そうな人の銅像。そこまで見た俺の感想は、
「普通だな」
「ですよね……」
そう、普通なのだ。あらゆる面において、この学校は普通なのだ。他の学校より特別何かが突出しているわけではない。悪い所もなければ、良い所もあまりない。廃校という現実を変えなくちゃいけない現時点での、最悪の自体。
「うぇ~、ことりちゃ~ん。他に何かないの~?」
教室まで戻って来て穂乃果がことりにすがるような声音で聞く。
「うーん、強いて言えば……古くからあるってとこかなあ」
「いや、あの、だからそれさっきのと変わらないからね?」
「ことり、話聞いてましたか……?」
「あ、でもさっき調べて、部活動では少し良いとこ見つけたよ!」
おっ、それなら部活系ならアピール出来る事もあるかもしれないな。
ことりナイスだぞ~、さすがマイラブリーエンジェルだ。天使はやっぱり天使だったんだよ。
「ホント!?」
「と言っても、あんまり目立つようなものはなかったんだあ」
……ん?
「ウチの高校の部活で最近一番目立った活動はと言うと……」
ことりが俺達にも少し見える角度に紙を見せてくる。
「珠算関東大会6位っ」
「微妙すぎぃ……」
女子高にも珠算大会ってのがあるのか。でもせめて3位は欲しいな。
「合唱部地区予選奨励賞~」
「もう一声欲しいですねえ……」
いやそこは奨励賞じゃなくて金賞とってくれよ……。
「最後は、ロボット部書類審査で失格……」
「もはや何の成果も得れてねえじゃねえか……」
あれか? 壁の外で巨人にでもやられたか? リヴァイ兵長呼んだ方がいいのか?
「だぁめだ~……」
「考えてみれば、目立つ所があるなら生徒ももう少し集まっているはずですよね……」
「そうだね…」
確かにそうだと言える。部活関係ならアピールになると思ったが、良い所があるなら最初から生徒はもう少し入ってくるはずだ。それがないという事は、まあそういう事なのだろう。悲しいけどこれ、現実なのよね。
何も出来ないという不甲斐なさからかは知らないが穂乃果がしゃがみ込んでしまう。あれだけ張り切ってこれだもんな。
「家に戻ったら、お母さんに聞いてもう少し調べてみるよ」
ことりが心配そうに穂乃果に言うが、あまり好感触ではないようだ。
「私、この学校好きなんだけどな……」
ふと、穂乃果が呟く。
それに応えるように、
「私も好きだよ」
「私も…」
そこにはどんな思いが込められているのか、俺には分からなかった。知りえなかった。俺はこの学校をあまり知らない。でも穂乃果達は知っている。知っていてこの学校が大好きだからこそ、今こうして悩みに悩んで、何とか学校存続の策を練っている。
だから、
「俺はそんなだけどな」
「たっくん!」
「拓哉君!」
ことりと海未が俺を少し非難めいた目で抗議してくる。勘違いすんなっての。
「だから、これからこの学校を知っていきたいし、好きにもなっていきたい。それに、ここにいる先生達も良い人ばかりだった。先生達もこの学校が好きだった。先生がこの学校を好きで、お前達生徒もこの学校が好きで、なら俺も好きになれるはずだ。確かに俺はここに来て長くはない。短すぎるくらいだ。でも、少なくともここに来て良かったって思ってる。こんなに学校想いの素敵な教師がいて、学校想いの生徒がいて、不満なんてどこにもないんだよ。だからさ、改めて言うぞ。お前達が守りたいって思ったこの学校を、俺も守る。絶対に廃校になんかさせねえ。今は何も思いつかなくても、必ず策を考える。……それが俺の今の答えだ」
ちょっと長く言い過ぎたかななどと思っていると、三人からの反応が無いことに気付く。見てみると三人共目を見開いてる状態だった。やだそんなに見つめないで怖い。そんな見開いてる目で見られたら怖い。目と目が逢うー瞬間好きだと気付いたーとか思ってる場合じゃない。射抜かれるレベル。
すると、
「たくちゃん……」
「たっくん……えへっ」
「相変わらずですね、拓哉君は……」
なんかウルウルしてる。なんかウルウルしてるよこの子達。
ちょっと待ってここ教室だから。一応まだ教室に残ってる生徒もいるからそんな目してたら……、
「あーなんか拓哉君穂乃果達泣かせてないー?」
「えー嘘ー? 拓哉君何してんのー?」
「多分違う意味で泣きそうになってると思うんだけど」
ほれみろこうなる。男は辛いよ全く!
「うるせえぞヒフミトリオぉ!! いらんタイミングで気付くんじゃありませんよ! 何でいつも一緒にいるんだお前らは!? あれか、だんご3兄弟か何かですか!? つか何でまだ残ってんだお前ら! 夕方だから女の子は早く気を付けて帰りなさい!! もしもの事があったらどうするんだ全く!!」
「いい加減ヒフミやめえい!」
「何気に心配してくれてるんだけど」
「優しさは外れないね」
厄介な事になってしまった。これじゃまた俺の評判が悪くなってしまう。学校好きになる前に学校から追い出されるかもしれない。
のにも関わらず、穂乃果達は俺とヒフミトリオのやり取りを見て笑っているようだった。いや元気になったらいいんだけどこの状況どうにかして……。
結局この後に穂乃果達(殆ど海未)の説明で何とか事なきを得た。
そこからはいくら学校で考えても仕方ないので各自家に帰って考えるように、という事になった。
そんなわけで帰宅した俺は自分の部屋で考え中なのだが……。
さて、どうする。今の所考えてはいるが何も思いつかないのが現状だ。校内を見ても目立った所は何もない。部活では良い成績を収めたクラブもない。本当に何も思いつかない。こんなんで大丈夫なのかよ……。大丈夫じゃないから考えてるのに……。よし、もう一度考えよう。←以下無限ループ。
「だぁぁあああああああ!! くそっ! どうすりゃいいんだよ全く!」
つい苛立ちを隠せず声に出してしまう。何の役にも立ってないぞ俺。守るって啖呵きっておいて何も思い付けない自分が情けない。
コンコン、と俺のドアをノックする音が聞こえてすぐにドアが開けられる。
「お兄ちゃん……? 大きい声したから気になったんだけど、大丈夫?」
唯だった。返事を待たずにドアを開けた事に関しては心配してくれたって事でお咎めなしにしておこう。
「唯か。悪いな、大きい声出しちまって。ちょっと考え事してただけだ」
「どんな考え事してたらそんなデカい声だすの……」
はい、すいません。僕の考えが浅はかでした。唯の冷たい視線が痛い。冷たすぎて凍るレベル。
「ホントに大丈夫? 私に出来る事があるなら協力するよ?」
冷たい視線に心が凍結しそうになってたら今度は真面目になって問いかけてくれた。ああ、浄化されてゆく~。
「ありがとう、唯。でも大丈夫だ。お前が気にする事じゃないから心配すんな」
唯の心遣いはありがたいが、これは音ノ木坂にいる俺達音ノ木坂の生徒の問題だ。受験勉強で忙しい唯を巻き込むわけにもいかないし唯にとっては関係のない事だ。余計な心配はかけたくない。
「ん~! お兄ちゃんがデカい声出すほど悩んでるのに気にしないなんて事出来ないよっ」
おぉふ……。まさかまだ食い下がって来るとは思わなんだ……。
これは反抗期ですかな? お兄ちゃん悲しいですぞっ。
「だーから気にすんなっての。俺は俺で問題を消化するための策を考えてる。だから唯は唯で自分の受験勉強をしっかりとやるんだ。俺に構ってると受験勉強に集中出来ないぞ」
「……ぶー、ズルいよお兄ちゃん。そんな事言うなんて」
唯を引かせるには“受験”という言葉を使うしかない。そうすれば自分の状況を今一度把握させて無理矢理にでも納得させる事が出来る。無理矢理に。だから現に今唯にズルいと言われた。
「ごめんごめん。でも、ホントに大丈夫だから気にするな。だから唯は安心して受験勉強するんだ」
頭に手を乗せる。これが最後の決め手となる。すると唯はコクリと軽く頷きドアに向かって歩き出す。どうやら分かってくれたようだ。
俺も改めて思考に集中するために机に向かう。すると背後から、
「でもお兄ちゃん、本当に限界になるまで悩んでダメだったら私にも相談してねっ! 絶対だよ!!」
俺に念押しするように唯が人差し指を俺に向けていた。どんだけ構う気でいるんだこの妹は……。
でも、
「ああ、分かった。その時は頼りにさせてもらうよ」
ありがたかった。良い子に育ってくれたよホント。
俺の返事に満足したのか、唯はドアを静かに閉めて一階に下りて行った。
「さて、と……」
改めて机に向かう。
頭の思考をリセットしろ。一から校内を見た時の事を思い出して何か、どこでもいいからアピール出来るようなとこを見つけろ。フル回転させるんだ。唯に頼るつもりは毛頭ない。ありがたかったがそれは気持ちだけ貰っておく。俺達の学校は、俺達で何とかするんだ。
――――――――――――――
「………………………………………………、」
やっぱ何も思いつかねぇぇぇええええええええええええええ!! まずいまずいまずいまずいまずい! びっくりな程に思いつかないぞこれ。くそっ、やっぱり俺には音ノ木の良い所を見つけるのはまだ難しいか……?
でも穂乃果達もあまり良いアイデアはなかったし、そう考えると俺が思いつかないのも無理はないのかもしれない。って駄目だ。これじゃ逃げてるのと変わらない。少しでもプラスになる様なイメージを考えねば……。
今日はもう寝よう。
明日になれば穂乃果達も何か策を考えてきてるかもしれない。俺は……まあ、その、何だ、てへぺろとか言っておけば誤魔化せるだろ。頭を働かせすぎたせいで少し頭痛がする。うぇ、ベッドが恋しいんじゃぁ~。
そして翌日に、
穂乃果からの発言で、
俺達のスクールライフは大きく変わろうとしている事に、
爆睡している俺は全く知る由もなかった。
『スクールアイドル』
今回は少し短め。
海未誕が長すぎたんでね……。区切り的にもそうする他なかったんですたい。
あんまりストーリーが進んでないと思うのは気のせい。多分。