「それでは、最終予選に進む最後のグループを紹介しましょー!」
マイクを通して、そこにいる観客にまで十分に届くボリュームでいつかのレポーターがテンション高めに声を張り上げる。
「音ノ木坂学院スクールアイドル、μ'sです!!」
言われたと同時にカメラマンであろう人達のシャッター音がパシャパシャと鳴っている。
俺達は今、秋葉のとある場所でラブライブ最終予選前の発表会へ来ているのだ。
分かりやすく言うと、試合前のインタビューみたいなものだと思ってくれて構わない。
ということは、同じ地区予選を勝ち抜いた他のスクールアイドルもいるわけで、当然A-RISEもいる。
そんな中、他のスクールアイドルの紹介が終わり、最後に俺達の学校のスクールアイドル、もといμ'sの紹介が始まろうとしていた。
ちなみに俺は手伝いということもあって、ステージ脇から腕組みしながら見ている。やり手プロデューサーみたいな気になれてちょっと楽しい。
「この4組の中からラブライブに出場できる1組が決まります!」
いつかのハロウィンでインパクトしかなかったレポーターが進行をしていく。さすがに最終予選前だからか以前より落ち着いてるなあの人。どっちが素なのかは知らないけど。
「ではまず最初に1組ずつ意気込みを言ってもらいましょう! まずはμ'sから!」
紹介が終わったと思ったらすぐにインタビューか。こういうインタビューは事前にどういう質問が来るとかは聞かされていないから、基本的にすべてアドリブで言わなければならない。
さて、穂乃果がどう答えるか。見物だな。
「は、はい! わ、私達はラブライブ優勝することを目標にずっと頑張ってきました」
うんうん、今のところ問題はない。どのスクールアイドルだってラブライブに出て優勝することが目的なのだ。だから今の発言に問題視される個所はない。穂乃果のことだから何かバカなこと言うんじゃないかとヒヤヒヤしていたが、大丈夫そうだな。
模範的なコメントだろう。A-RISEが隣にいるのに度胸あるなとかはほっといて。
「ですので! 私達は絶対優勝します!!」
はい言ったー! 思ったそばから問題発言しちゃったよー! やっぱりただで終わらせるわけなかったよあのバカヤロー! そういうのは心に秘めておくもので大胆に発言するものじゃありませんとあれだけ言ったのに!! ……いや言ってなかったな。
「あ、あれ……?」
「すすすす凄い!! いきなり出ました優勝宣言です!」
観客とかがザワつく中、裏方のスタッフの人達が同情のような視線を俺に送ってくるのが分かる。やめてほしい。何せ今の俺は表面には出ていないが異常なまでの冷や汗が心の中を洪水警報してしまっているのだ。
それを察してか知らずかμ'sの隣にいるグループ、A-RISEメンバーのリーダー、綺羅がチラリと脇にいる俺の方へ意味ありげな笑みを浮かべながら見ていた。やめろ、俺を見るな。悪いのはそこのバカだ。
「……帰ったら説教だな」
色んな視線が何故か俺に集まるのを気付かぬ振りしながら、俺は穂乃果へどう説教するかを考えるのだった。
――――――――――――――――――
「何堂々と優勝宣言してんのよ!」
「い、いや~、勢いで」
場所は変わっていつもの部室。
最終予選ももうそこまで来ているし、そこで何を歌うかなどのミーティングをしようということなのだが、まずはこのバカへの説教が先である。
「お前の勢いは時々変な方向に行くから心臓に悪いんだよ! 勇気と無謀は違うってことを知らんのか貴様! 分かるか? お前が優勝宣言した時のスタッフから俺に向けられる視線がどれほどのものかお前に分かるのか!? 不敵な笑み浮かべるのが精一杯で内心超ガクブルしてたんだからこんちくしょー!」
「そ、それは~、たくちゃんドンマイ?」
「……、」
「はい拓哉ストップ。バキバキ骨を鳴らして威嚇するんじゃないの」
止めてくれるな絵里。俺はそこのにへら笑いヤローを一発ぶん殴らないと気が済まん。女の子だろうといざとなれば男女平等主義な俺は容赦せんぞ。俺のガクブルを返せ。何ならガクブルファンタジーだったぞ。アニメのジータちゃんは強可愛かった。それはグラブル。
「でも、実際目指してるんだし問題ないでしょ」
「確かに、A-RISEも言ってましたね。『この最終予選は本大会に匹敵するレベルの高さだと思っています』と」
「あいつの発言は全部意味深に聞こえるのは何故だろうか」
含みのある言い方をしすぎなんだよなあいつ。あきらかに穂乃果が言ったから自分もそういう風に言おうって思ったに違いないぞ。そのために俺へあんな意味ありげな視線を送ってきたのかもしれない。油断も隙もないな。
「そっか……認められてるんだ。私達」
まあ、その認識で間違いはないだろう。学院の中に招待されたり、同じステージで踊ったり、何度か話したりしてるし、他のスクールアイドルと比べればあのラブライブ覇者に認められてると言っても過言ではないかもしれない。
「それじゃこれから最終予選で歌う曲を決めましょう」
いよいよ本題である。
予選だからといって手を抜くわけには当然いかない。もし手を抜いたらそこでもうチャンスは潰える。何せ、その最終予選にA-RISEがいるのだから。
「歌える曲は1曲だから、慎重に決めたいところね」
「勝つために……っ」
「むしろここで全力の本気でいかないと絶対に勝てないしな」
ただでさえA-RISEがいる時点でもはや本戦の決勝と思ってもいいぐらいだろう。東京は有名なスクールアイドルが多いぶん他の地区とは違ってレベルが全体的に高い。だからこの最終予選は本気の本気でいかなければ、勝利は掴めない。
「私は新曲がいいと思うわ」
「おお、新曲!」
「面白そうにゃ!」
「予選は新曲のみとされていましたから、その方が有利かもしれません」
確かに既存曲と違って新曲なら初めて聴く人もいるし、それだけインパクトも与えられる。既存曲では出せない評価が出せるのは大きいし、悪くない。
「でも、そんな理由で歌う曲を決めるのは……」
「新曲が有利ってのも、本当かどうか分からないじゃない」
「それにこの前やったみたいに、無理に新しくしようとするのも……」
しかしここで花陽真姫ことりからの意見が入る。
うーん、言われてみればこれも一理あるな。理由はともかく、真姫の言う通り本当に有利かは実際やってみなきゃ分からないのも事実だ。
もし新曲をやったとして、その評価が思ったより良くなかったらそれは失敗に終わってしまう。それを考慮するなら、今までで1番評価の高かった既存曲を練習して踊りのキレやブレない歌声を完成させて安定さを狙うのも作戦と言える。
「たくちゃんはどう思う?」
「正直に言うとどっちも作戦としてはありだ。だけど確実な評価を得るなら既存曲……いや、新たな評価を得られる新曲も捨てがたいよなあ……うーん」
「拓哉でも迷うのね」
「そりゃあな。最終予選と言えどA-RISEが相手にいるんだ。妥協も手抜きも一切許されない。言い方は悪いかもしれないけど、本気で潰しにいくぐらいの思いでやらないと勝てる相手じゃない。ここは慎重に決めるべきだ」
「へえ」
絵里が感心したように言ってくるが、俺だって迷う時は迷う。やるべき事とやらなきゃいけない事は違う。やるべき事なら自然に直感として出てくるが、やらなきゃいけない、勝たなきゃいけない事なら話は違ってくるのだ。
油断も隙もない相手だからこそ、すぐに答えを急ぐべきではないと思ってる。
そう思っていると、希がふと呟いた。
「例えばやけど、このメンバーでラブソングを歌ってみたらどうやろか」
ほんの数瞬だけ沈黙が部屋の空間を支配した。
直後に。
「「「「「「「「ラブソング!?」」」」」」」」
見事に8人がハモッた。
お前らほんとこういう時息合ってるよな。
「なるほどぉ! アイドルにおいて恋の歌すなわちラブソングは必要不可欠定番曲には必ず入ってくる歌の一つなのにそれが今までμ'sには存在していなかった!!」
花陽がご丁寧にとてつもない早口で説明してくれた。いや、早口な時点でご丁寧ではない。興奮しすぎだ。
ふむ、そういや今までラブソング的な曲はなかったな。確かにアイドルといえばラブソングみたいなイメージはある。
「でも、どうして今までラブソングってなかったんだろう?」
「それは……」
穂乃果の素朴な疑問にことりが察したようにある1人へ視線を移す。
そう、μ'sにおいて作詞担当と言えば1人しかいない。我らが作詞ポエマー、園田海未である。
「な、何ですかその目は!」
「だって海未ちゃん恋愛経験ないんやろ?」
分かりきったように言う希。やめたげて、海未はただでさえ照れ屋レベルがカンストしてるぐらいなんだ。その言葉はあまりにも無情すぎる。
だが、ここで海未は意外な反応をした。
「何で決めつけるんですか!」
「じゃああるの!?」
「あるの!?」
え、あんの? 中学のあいだは俺いなかったしまさかと思ったが、穂乃果とことりも驚いてる様子だし、これは疑惑ですねえ。
「何でそんな喰い付いてくるのですか……!?」
「あるの!?」
「あるにゃ!?」
「あるの!?」
「何であなた達まで……!」
めっちゃ詰め寄られてるな。アイドルは恋愛禁止なんてのはよく聞くがまずスクールアイドルだし、それにもし過去に海未がそういう経験をしたとするなら穂乃果とことりは知ってるはずだ。
……あれ、何だ。仮の話なのに海未がそういう恋愛経験したって考えると何かイラッとくるぞ。
「どうなの!?」
「答えて海未ちゃん!」
「そうだぞ海未! そんなのお父さん許した覚えはありませんからね!」
「拓哉君は私の親じゃないでしょう!」
しかし小さい頃から奥手だった海未の面倒を見てきた俺はもうほぼ親みたいなものだと思うんです。いわば海未の保護者。海未の恋愛にはまず俺を説得しないと交際は許しません。
「海未ちゃん、どっち!?」
「そ、それは……ありません……」
その場に崩れ落ちて観念したように言った海未。
他のメンバーも何だーとか言ってただの冷やかしだったのが分かる。うむ、海未は誰かと付き合ったことはないのか。安心だな。……何でホッとしてんだ俺。
「もう、変に溜めないでよ~。ドキドキするよ~」
「何であなた達に言われなきゃならないんですか! というか穂乃果とことりは分かってるでしょう!? 同じ
「海未ちゃんそれを言っちゃ……!」
「……あ」
「何だ? お前ら3人で何か同盟でも組んでんのか? おいおい、同じ幼馴染なのに俺を仲間外れはないんじゃない? 何の同盟だよ。俺も入れ―――、」
「黙りなさい」
「はい」
もう即答も即答だった。有無を言わせない圧を感じたよ。多分あれBLEACHで言うと更木隊長くらいある。眼帯ないぶん余計タチが悪い。この話の記憶は一刻も早く忘れたほうが良さそうだ。
「にしても、今から新曲は無理ね」
「で、でも、諦めるのはまだ早いんじゃない?」
「絵里?」
「?」
何だ、今日はやけに必死だな絵里のやつ。そんなにラブソングが好きなのか。
「そうやね。曲作りで大切なんはイメージや想像力だろうし」
「まあ、今までも経験したことだけを詞にしてきたわけではないですが……」
「でも、ラブソングって要するに恋愛でしょ?」
「どうやってイメージを膨らませればいいんだろ?」
ラブソング、恋愛か。
あれ?
「なあ海未。付き合った経験はないってのは分かったけど、そういやお前好きな人とかはいなかったのか?」
「えっ」
「いや、ほら。付き合う経験はなくてもさ、好きな人がいたならその片想いな感じを詞にできればラブソングにも近づくんじゃないかと思ったんだけ……ど……」
お、お? 何かやけにみんなの視線が痛いんだけど気のせいかな? もしかして女の子にこういうこと聞くのってデリカシーなかったりするのか。
「あ、あの……その……好きな人、というのは、えと……いた、というか……むしろ今も昔もゴニョゴニョ……」
海未が何か言っているが照れ屋発症してあまりにも声が小さい。何言ってるか俺にも分からない。おかしい、難聴ラノベ主人公になった覚えはないんだが。
よし、こうなったらもうやけくそだ。全員道連れにしてやろう。
「他のみんなはどうだ? 好きな人がいたとか、何なら好きな人がいるでもいいぞ。今は何でもいいから少しでもラブソングを作ることに焦点を当てぼあはぁッ!?」
「た、拓哉君はデリカシーがなさすぎますッ!!」
い、いや、俺が悪いのは分かったけど、不意打ちの蹴りがいつもより威力高かったのは何なんだ……。ぐおぉ……危ねえ、気を抜けば思わずリバースゲロリンしてしまうところだ……。
「そうだよっ。女の子にそういうこと聞くのはダメだよたくちゃん!」
「気を付けてねたっくん。2人の時なら聞いてくれてもいいんだけど、さすがにここじゃあ……」
「ったく、拓哉には困ったものね……」
「このラノベ主人公には一度しっかりお灸を据えてやらないとダメなんじゃない?」
「にこちゃんに賛成」
「あ、あわわ、大丈夫ですか……?」
「ストレートに聞かれると凛でもちょっとにゃあ……」
「いつも通りやなあ拓哉君は」
酷い言われようだった。
男子1人と女の子9人じゃ分が悪すぎる。あ、やっと痛みが引いてきた……。
「とにかく、今はラブソングのイメージを膨らませるのが大事やし」
希め、俺から目を逸らしやがった。
「みんな、移動や!」
かくして、μ'sメンバーは希の言う通りに移動をしていった。
……いや、誰も負傷者の俺を気遣ってくれないの?
さて、いかがでしたでしょうか?
今回からあの神曲への伏線とのんたん編です。
ラブソングを作るためにメンバーの恋愛経験を出そう→誰の恋愛経験を出す?→やはり歌詞担当の海未だな→結果→岡崎ノックダウン。
これはひどい。
だけどデリカシーないのが悪い。
同盟って何だろうね……(すっとぼけ)
いつもご感想高評価ありがとうございます!!
これからもご感想高評価お待ちしております!!
別に、ハーレムでも構わんのだろう?