とうとう今回はコラボ企画小説!
薮椿さんの作品『ラブライブ!~μ's&Aqoursとの新たなる日常~』とのコラボ2回目となります!
約1年半振りのコラボ、しかも2回目。
前回のコラボ回の続編として書いているので、前回を読んでいない方はそちらを先に読んでからの方が楽しめるかもしれません。
※注意事項※
・こちらは変わらず高校生ですが、神崎零君は大学生に成長しています。
・ある程度私の自己解釈が入っています。なので多少の間違いや矛盾があっても大目に見て下さい。
・コラボ回なのでμ'sよりも主人公同士の絡みが多めです。
・あとは楽しんで読みましょう!
では、どうぞ!
「よっ!」
「……、」
最初に言っておこうと思う。
まずこの世に異能力や現実離れした特異体質なんてものは存在しない。突然異世界に行ってしまうようなライトなノベル展開もない。革命的な技術開発が進んでいるわけでもなければ、革新的な文明が築かれているわけでもない。
精々オリンピックに出ている選手達が常人よりも凄いというだけで、ぶっちぎりで圧倒的な差はない。
至って平凡で平常、どこまでも普通な日常が淡々と流れてたり、時には少し刺激があったりと、ただただ平和な毎日が続いていく。それがこの現実というものだ。
いや、それが現実というもののはずだ。
「久し振りだなー拓哉! いつ振りだっけ?」
「……、」
某月某日。
いつものように学校で授業を受け、部活をこなし、穂乃果達と別れて帰宅している。そんな日常を過ごしている矢先の事だった。
突如、目の前に青白い光が出てきた。まるでこれから何かが出現するかのような、いっそソーシャルゲームのガチャ演出を思わせるソレは、幸い周囲に拓哉以外に誰もいなかったから見られるような事にはなっていない。もし見られたりしたら大騒ぎになっているだろう。
夕方に近いこともあってかその光はより強調され、しかもそれを目の前で見ている拓哉は耐えられず光から目を守るように腕で覆う。
甲高い音と共に青白い光がどんどん弱まっていくのを確認していると、次第にそこから人のシルエットが浮かび上がってきた。
そしてとうとう、青白い光は粒子となりやがてその残滓すらも消え、人が現れた。
この現象には過去に一度経験していた岡崎拓哉は、もしかしてと思ってその場で待機していたが、案の定出現した人物は想像通りであった。
そして現在に至る。
「なあどうしたよ? 久々の再会で感激して言葉も出ないか!?」
「……、」
もう一度言おう。
この世に異能力や現実離れした特異体質なんてものは存在しない。突然異世界に行ってしまうようなライトなノベル展開もない。革命的な技術開発が進んでいるわけでもなければ、革新的な文明が築かれているわけでもない。
だけど、この世界ではなかったとしても、違う世界線でそのような技術があったとしたら?
その世界線では異なる世界線に行けるようなマシンを作ってしまう技術者がいるとしたら?
つまり、そういうことだ。
だから目の前の青年?はこちらの世界にやってこれた。
かつて、いきなり自分の世界にやってきて勝手にこの世界の穂乃果達に会いたいと騒いでいながら、まさかの3つ目の世界に連れて行かれてちょっと口喧嘩をしながらも共に3つ目の世界の穂乃果達が陥っていたピンチを救った
そんな奇妙な関係で結ばれていた少年達は、これまた突然な再会を果たしてしまった。
―――――――――――――――――――
「……何で神崎がここにいるんだよ。つうか何でいきなり現れやがった。お帰りはあちらです帰れ」
「久々の再会でまさか塩対応されるとは思ってなかったぞ。いやちょっと想像してたけども」
邂逅一番手酷い扱いを受ける青年こと神崎零。
彼こそが違う世界から突如、拓哉がいる世界にやってきたμ'sの関係者である。
「というか何だよ! 前別れる時は零って名前で呼んでくれたじゃん。何でまた神崎に戻ってるんだよ!」
「特に深い意味はない。ただ一度会っただけでそれっきり全然会ってないヤツにそんな親し気に呼ぶ義理もないかなーって」
「ははーん? さてはお前それ照れてるだけなんじゃねえの~? ちょっと久し振りに会ったからって気負う必要ねえって! 照れんな照れんな! それとも何か。岡崎拓哉ちゅわんは恥ずかしくて言えないのかなぁ~???」
「……良い度胸だテメェ、歯ぁ喰いしばれよ零。まずは記憶リセットから始めるぞ」
「何で記憶消す必要あるんですかねえ!?」
出会って早々血生臭い展開は勘弁な神崎零。拓哉も煽りに負けて一応名前で呼ぶことにした模様。
茶番もそこまでにしておいて、この世界の少年はさっそく気になることを聞いてみる。
「じゃあとりあえずいくつか質問だ。こっちの世界に来たのはまあいい。けど理由は何だ」
「前回と同じだよ。拓哉の世界にいる穂乃果達と会ってみたいと思ってな。と言っても前はトラブルが起きたせいで予定外な事になっちまったけど」
まあ理由としては一理ある。本来の目的を前回で達成できなかったからまた来た。連絡もなしにいきなり来るなとか言ってやりたいところだが、そもそも文字通り住んでる世界が違うから連絡すらとれないのは当たり前だろう。
「じゃあ次の質問。……俺の見間違いとか勘違いとか、そんなんじゃなければだが……お前何か成長してね?」
何を言ってるか自分でもよく分かっていないのだが、見た感じのことをそのまま言っているのだから仕方ない。
明らかに違うのだ。見た目はさほど変わってないように思えるが、何だかこの少年……いや、もう青年と言うべきか?ともかく神崎零の容姿が前回会った時よりも少し大きく見えるような気がする。
「ああ、そのことか。それは俺も少し思ってたんだよ。見たところ拓哉はまだ高校2年のままだろ? 衣替えはしたっぽいけど。ははっ、そっちの世界じゃ男の制服は学ランなのか」
喋り方自体もあまり変わっていないように思えるが、雰囲気がどことなく大人に近づいているようだった。
まるで高校生である自分を懐かしむような。
「おそらく時間軸の進みの早さが違うんだろ。俺の世界と拓哉の世界、俺とお前が一回会った時は一年違いって感じだった。元の世界に帰っても時間は全然進んでなかったけど、ずっと同じ時間の流れとは限らないのかもしれないな」
普通の人間がこれを聞いていれば何を言っているんだこいつはと思うかもしれないが、実際拓哉も経験しているから侮れない。
「別れてから長い時間が流れたけど、多分そのあいだに俺の世界の時間軸の方が進むのが早かったんだろうな。プラレールに例えるなら、同じ円の形をしたレールでも大小とサイズが違えば、スタートは一緒でも走ってるうちに円が小さいレールのが先に一周するのと同じだよ。ただ俺の世界の方が早く進んだから俺ももう大学生になったからな」
はたしてそういう事があり得るのかと言われれば、他者があり得ないと言っても拓哉はあり得ると言うしかない。
その原因が目の前にいるのだから。
つまり、前回別れた時から拓哉の世界では季節が変わる程度しか進んでいないが、零の世界ではもう一年か、それ以上進んでいる可能性もある。
「それはいいけど、何でもっと早くこっちに来なかったんだよ?」
「え、何? もっと早く来てほしかった? もしかしてツンデレちゃんですか拓哉きゅんは可愛いで分かった悪かったから拳を下ろしてください300円あげるから! ……あれだよ。まあ俺にも色々あったんだよ」
「お前にやる事とかあったのか」
「相変わらず人を小バカにするのが上手いなお前は。そうそう、これでも教育実習行ったりとかしてたんだぜ? 前までは生徒だった俺が先生の立場になってたりもしたんだ。割と凄くね」
「ああ、とてつもねえ変態ハーレム築いてるヤツが教師の立場になるとかその世界多分汚染されてるんだろうなと」
「ちょっと? 反論しにくいとこ突いてくるのやめない?」
自分と同じく零はあっちの世界で穂乃果達と関わりを持っている。しかもμ'sやその妹を含んだ全員を彼女にしているらしい。ハーレムは二次元だけと思っていたのだが、もはや法律とかそんなのあったもんじゃない。
「変態ハーレム野郎が教師とか世の中分かんねえな」
「お前ほんとボロクソに言うな」
いつか犯罪を起こすんじゃないかこの友人は、と本気で思い始める高校2年生。
これでも一応知り合いの仲だから過ちを犯す前に矯正できまいかと考えるのもやぶさかではない。
「……あー、じゃあ最後の質問だ。こっちの世界に来た理由も見た目がちょっと違うのも分かった。でももっとも大事なことがある」
改めて真剣な眼差しで零を見る。
「前も言ってたよな。違う世界に来ても過度な干渉はよせって。干渉のしすぎはその世界にどんな現象を起こすかも分かってないはずだ。もしこっちの穂乃果達に会ったとしてもどのくらいが限度なのか、そういうとこはちゃんと分かってんのか?」
一度、岡崎拓哉と神崎零はこの件で言い争った。
目の前で起きているピンチを救うか、後に起こるかもしれない正体不明なピンチを回避するかで。
結果として拓哉の言い分を優先したが、後にあの世界がどうなったかは分かっていない。何か起きたかもしれないし、何も起きていないかもしれない。そんな不確かな不安を抱えながらまた精神をすり減らすのはもう勘弁なのだ。
対して、目の前の青年はいつか見た缶コーヒーサイズのような筒状の機械を出して告げた。
「そういやその説明を最初にしなくちゃだったな。安心しろ。もうどの世界に行ってどれだけその世界の人間に接触しても、タイムパラドックスみたいになるリスクはないらしい」
「…………なに?」
聞いておいて何だが、理解をするのに数秒を要した。
「な、え、どういうことだ? リスクがないって、前はあれだけ危険がどうのこうのとか言ってたじゃねえか。干渉のしすぎは何が起きるか分からないって」
「そのことなんだけどな。前にも話したろ? うちの姉、秋葉が改良版☆つって送ってきたんだけど、その説明書にありとあらゆるリスクは全部排除したって書いてたんだよ」
「いやザックリしすぎだろ!? それで納得したんじゃないだろうなお前!?」
「いやあ、こう言っちゃ何だけどさ。これでも秋葉の技術力だけは本当の意味でずば抜けてる。こっちの常識をいとも簡単に覆してくるんだぞ。こんなマシン作るくらいなんだ。絶対的な自信がなきゃ俺に送ってこないはずだよ」
確かにこれだけのマシンを作るだけでもうこちらの常識は通用しないのだろうが、それでも理解するのに時間が必要だ。信用していいのか分からないのが本音ではある。だけど、零の姉なら、まあ、信用するしかなさそうだ。……信用したくはないが。
「ちなみにもう時間置かなくてもいつでもどこでも元の世界に戻れるようにもなってるぞ。言っちまえば行きたいときに異世界旅行しちゃうぜ的なノリ」
「猫型ロボットかよお前の姉貴は……」
「そんなわけでこの世界の穂乃果達に会ってみたいから行こうぜ!!」
「行かねえよ。もう何時だと思ってんだ。既に今日の部活は終了。あとはもう家に帰って飯食って風呂入って寝るだけだ」
「なん……だと……!?」
さっきも言ったように違うサイズのレールを回っていれば時間帯も変わってくる。零が昼時に向こうから来たとしても、こちらでは早朝、夕方、夜の可能性だってあるのだ。
つまりは詰み。やることなし。見事異世界ぼっちの出来上がりである。
「んなわけで俺は帰る。じゃあな零。短い時間だったけど話せて良かったよ。さよなら」
「何でもう終わりにしてんの!? しかも何でもう会う事はないだろう的なノリになってんの!? 終わらないから! まだ終わらせないから!! 明日でもいいから穂乃果達に会わせてお願い頼むからどうにかしてくれぇぇぇえええええええええええッ!!」
「ええい、大学生の男が高校生相手に泣きついてくんじゃねえよ鬱陶しいな! 近くのネカフェとかカラオケとかで一晩過ごせばいいだろ!」
「家の中から来たから財布忘れた」
「無一文でよく来れたなテメェ」
どうやら意地でもしがみ付いている手を離さないらしい。これじゃいつか人が通りがかれば変な目で見られること間違いなしだ。ましてやここはもう拓哉の家のすぐ近く。ご近所の人に見られたが最後。年上の男性に泣かれながら抱き付かれてる可哀想な男子のレッテルが貼られる。
それだけは回避しなければならない。
というわけで、導き出される結論はただ一つ。
「……仕方ねえか……」
どこまでも深いため息を吐いて、露骨に嫌々ながらもトラブル体質な少年はこう言った。
「俺ん家来るか」
「神よお!!!!!!」
―――――――――――――――――――――
「ただいま……」
「おかえりお兄ちゃ……ってその人誰?」
いつも通り愛しい愛しい兄を出迎えようとしたらなんかいた。
この家に戻ってきてから元女子校で男1人通学している兄に男友達なぞいるはずないのに、今まさに兄の後ろにいるのは紛れもない男だった。
「あー……その、あれだ。多分一応おそらくきっとメイビーもしかすると友人」
「もしかしなくても友人だろ!? あ、どもっ」
「あ、あ、ああ……」
「「?」」
零が挨拶をしたのにも関わらず、拓哉の妹である岡崎唯はまともな返事をできなかった。
普段ならとても礼儀正しいそれはもう可愛らしく愛しい妹なのだが、それどころではなさそうな表情をしている唯に拓哉も零も疑問符が顔に出る。
「あのお兄ちゃんが……いつも隣に女の子を連れているお兄ちゃんが……見知ったり見知らぬ女の子を侍らせているお兄ちゃんが……普通に男の人を連れて来た……!?」
「……、」
「……、」
思わず黙る男子2人。
どちらかというと絶句している兄が1人、憐れな目で兄を見る青年、そしてまるでひと昔前の少女漫画にありがちなまつ毛増し増しな白目作画を見事に再現している妹の図が構築されていた。
「まあ、うん……元気出せよ拓哉。男友達少ないなら俺が親友にグレードアップするから。というか友達少ないんだなお前」
「そんなお情け頂戴な異世界親友はいらねえよちくしょう! 仕方ないじゃん! 音ノ木坂に男子生徒俺しかいないんだから仕方ないじゃん! 必然的に女の子の友達ばかり増えてるよと言いたかったけどさほど多くなかったよ泣ける!!」
「泣いてるから。もう溢れんばかりの滝が流れてるから。そうだよな、女の子しかいないなら仕方ないよな。……つうかお前俺にあれだけ変態ハーレム野郎とか言っておきながらお前も十分女の子侍らせてんじゃねえか!」
「侍らせてねえわ!! ただ困ってるから助けたりしてるだけだ! たまたま女の子の割合が多いだけですぅー!! しかも別に惚れられてないからハーレムでもありませんはい論破~!!」
家に帰ってくるなり早々男の醜い言い争いが勃発したことにより岡崎唯の意識は正常に引き戻される。
するとどうだろう。目の前には兄が見知らぬ青年と激しく言い争っているではないか。ここは何と言うべきか。唯の中で選択肢が複数出てくる。意外とすぐに選択は終わった。
「まさかお兄ちゃん……とうとう男の人さえも惚れさせちゃった……?」
「「違うわッ!!!!!!」」
どうやら選択肢を間違えたらしい。
「なるほど、つまり神崎さんは違う世界からやってきた人で、そこではお兄ちゃんの役割と同じような事をしていたと。しかも穂乃果ちゃん達みんなが彼女。そして2人は前に会ったことがあって今日再会したけど、神崎さんの世界線は進む時間のレールが早くてもう大学生になってた。今日やってきたのはこっちの穂乃果ちゃん達に会ってみたいからなんですね!」
「なあ拓哉。何でこの子めっちゃ飲み込み早いの。話がとんとん拍子すぎてベルトコンベアもビックリなくらいスムーズに進んだんだけど。吸収するの早くない? もしかしてこの子魔人ブウだったりする?」
「人の愛しい妹を魔人呼ばわりするな殺すぞ。……唯は俺の妹だからな。昔から俺の部屋でマンガとか一緒にアニメ見てたから、こういうのには耐性があるんだろ。現実で起きてる事に対して受け入れるかは別として」
あれから色々事情を説明して一晩だけ零を泊めると言ったら、唯も母の春奈も二つ返事で了承してくれた。どうやら拓哉が男友達を連れて来たのがそれほど珍しく、また嬉しかったのかもしれない。
父親の冬哉はまだ帰宅していないが、どうせ拒否しないだろうと家族3人が勝手に決めつけた。
そして話すことがあると適当に理由をかこつけて晩ご飯は拓哉の部屋で食べることにした。
急遽もう一人の料理が必要になったが、唯いわく「お父さんの量を減らせばいいよ」という本人が聞いたら悔し涙で了承したであろう言葉を笑顔で言うものだから誰も何も言えない。
拓哉の部屋に折り畳み式の簡易テーブルを用意し、そこで話しながら食事をとろうとしたところで、唯が乱入してきた。春奈は一階でテレビを見ながら食べていることだろう。そんなわけで晩ご飯を作ってくれた唯を無下にできず、本当の事情を全部話して今に至る。
「お兄ちゃんっ、凄いよ! お兄ちゃんがずっと憧れてた現実とはかけ離れた現象が私達の目の前で起きてるんだよ! 凄いよこれもぐもぐ!」
「分かった。分かったから落ち着いて食べなさい。テンション上がるのも仕方ないけどもっとお上品に食べるんだ。いや可愛いけど、そのハムスターみたいになってるほっぺ超可愛いけど」
「おいシスコン兄貴、世話になっといて何だがほっとかれると俺が居づらいから全力で介入していいか。何なら俺も唯ちゃんみたいにハムスターからのお前に迫るけどいいか」
「気持ち悪いだけじゃねえかやめろ」
はむはむっと、注意されたからか女の子らしく、けれど話に入りたいがために早く完食を目指そうとしている妹を横目に本題へ入ろうとする。
ちなみに真っ盛りな男なだけあって、拓哉と零はもう完食して皿を綺麗に整理していた。
「穂乃果達に会いたいんだったな」
「ああ。俺の知ってる穂乃果達じゃなく、拓哉と共にいる穂乃果達に会ってみたい。言っちまえば純粋な興味だよ」
「じゃあ丁度良い」
「?」
コップに入れられたお茶で軽く喉を潤して拓哉は告げた。
「明日は土曜だけど、学校を一般開放するんだ。そこでμ'sのライブが行われる。だから穂乃果達に会うついでにライブ見に来いよ」
「……ま、マジか!? 明日ライブすんの? そっか……」
「何だその反応。ライブ自体は興味ないのか?」
「んなわけないっての。興味あるに決まってんだろ。こちとら穂乃果達に会って話してみたいと思ってたんだが、まさかライブも見れると思わなくてな」
それに、と口が篭る。
今の自分は大学生。穂乃果達がスクールアイドルとして輝いていたのは高校生だった時。すなわち、もうだいぶ前のことなのだ。少し感傷的になるのも無理はない。今ではもうどこか懐かしささえ覚えてしまうのだから。
「大学生になってからは、当然だけど穂乃果達のスクールアイドル活動はほぼなくなったと同じなんだ。だから少し懐かしく感じてさ。今のあいつらも悪くない、むしろ大好きなんだけど、高校生だった頃のμ'sのライブが見れるのはもうないと諦めかけてたから」
「零からしたらそうなるのか。大学と聞いて俺は穂乃果が大学に行けた事が不思議で仕方ないけど、今はそれは置いとこう。穂乃果達と喋るのが目的なら、ライブが始まる前に時間もあるし、そこらへんで適当に会わせるか」
「何で最後になって適当になってんだよ普通に会わせてくれよ……」
「俺としては変態ハーレム教師に穂乃果達と会わせたくないのが本音なんだ。会わせてやるだけでも感謝しろ」
「その呼び名だけはやめろお!! 心がとても痛いから!!」
ここにきて、神崎零は致命的なミスを犯した。
いくらツッコミとはいえ、言葉をもう少し選ぶべきであったのだ。
「……おい、心が痛いって、もしかしてお前……」
「え?」
「マジで生徒に手を出したんじゃねえだろうな……?」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………、」
精一杯の黙秘権を行使した。
だが、当然それは意味を成さず、むしろ沈黙は肯定とみなされるのである。
「正直に言ってみろ。神様はちゃんと見てるぞ」
「…………ちょ、ちょっと痴漢紛いのことをですね……?」
「……、」
「あ、あれ? 拓哉さん? 何か顔が暗くなってますけど……? アニメでよくある目だけ見えない的なやーつになってるんだけど気のせいかな!?」
拳の骨をパキパキと鳴らし、まるで口からフシューッと煙が出ているような錯覚に陥りそうなまでの雰囲気を漂わせる拓哉。このまま殴られたらおそらく一発であろうと入院不可避だろうなと零は悟る。正義の塊である少年の前で自首したら、そりゃ制裁は喰らうなと自分を軽く戒める。
そこへ、正義の妹岡崎唯が立ちふさがった。
零を守る形で。
「退くんだ唯。そいつ殺せない」
「サラッと怖いこと言ってるよお兄ちゃん!? ほ、ほら、本当にそんなことしたら今頃神崎さんここじゃなくて刑務所にいるはずだから、きっとジョークか何かだと思うなー! ね、神崎さん!!」
「……てへぺろっ☆」
どうやら選択肢を間違えたらしい。
火に油とはこのことか。
「例え神様が許そうが俺は許さんぞゴルァ!!」
「おおおおおおお兄ちゃん落ち着いてー!! 顔が般若になってるよー!」
「友人とか知り合いとか関係ねえ。これはもう男としてせめてものケジメを付けさせなきゃ俺の気が収まらねえんだよおおお!!」
「いやぁぁぁああああああああああああああああッ!! ま、待て、待ってくれ!! その、あれなんだ! 俺とそいつらは教師と教え子の関係だけど、今ではもうお互い両想いだからある意味時効というか合意の上というか、とにかく好き合ってるから慈悲をくれえ!!」
「…………は?」
これまた場に沈黙が訪れる。
この変態ハーレム教師は今なんと言った?
「お前……まさかμ'sやシスターズだけならまだしも、自分の教え子まで彼女にしたのか……?」
「厳密に言うとその9人とはお互い両想いだけど、まだ付き合ってはない! そいつらもスクールアイドルをしててさ、μ'sとはまた違う輝きがあると思った。だから、ステージに立ってもっと輝きが増していったら、俺から迎えに行くって言った」
μ's9人+シスターズ3人だけで12人いるというのに、そこへまだ9人も加算されたとでも言うのかこの男は。
「もはやあれだな。怒りを通り越して軽蔑するわ。ドン引きレベルだわ。この男、最低です」
「何で最後海未みたいな口調になってんだよ。なら逆に聞かせてもらうぞ拓哉」
さっきまで叫びながら命乞いしていたはずの零は人差し指を立てながら強気で拓哉の前に出た。
「……もしもの話だ。例え話と思ってくれて構わない。お前の周りにはいつも特別魅力的な女の子がたくさんいて、その全員が真剣にお前のことが好きで告白してきたとする。それも全員が同時にだ。その子達はお互いが誰が誰を好きか分かってて、それでもなお日常を過ごし、全員で告白しようと決めた。それに対してお前はどうする?」
「そんなもんお前、そりゃ……」
何故か、言葉の続きが出てこなかった。
自分でも出そうと思っていても、無意識に口籠ってしまう。
「神崎さん、それって……」
「例え話だよ、例え話」
唯が勘付いたように零を見るが、あくまで例え話と言う零。
多分これは唯の勘だが、おそらく零はもう気付いているかもしれない。この世界のμ'sと会っていないにも関わらず、違う世界で拓哉と同じような役割だからこそ分かってるのかもしれない。
「お前がどこまでもヒーロー気質ってのは知ってる。目の前で泣いている女の子がいれば、絶対にその涙を笑顔に変えるために奮闘するってのこともな。だからあえてお前にこの質問をぶつけた。お前はどうする、拓哉。誰か1人だけを選んで他の女の子達の涙を見るか、誰も選ばずに全員の涙を見るか、それとも……いっそ全員を選んでみんなでハッピーエンドを迎えるか」
まるでゲームの選択肢のようだった。いや、ゲームの選択肢ならどれだけ良かっただろうか。
簡単な質問のようでいて、とても難解な問題。
大事に思っているからこそ、周りの女の子達の涙は見たくない。そうやっていつも奮闘してきた。けれど、もしそのような展開になってしまったら、自分はどうするべきなんだろうか。
現実はゲームのように甘くはない。誰か1人を選べば他の女の子とはもう綺麗サッパリな関係になるゲームとは違う。
真剣に想っていてくれるからこそ傷は深く残る。そんなことになれば、拓哉が望んでいるような誰もが笑って終われる結末には到底なれやしない。
「なあ拓哉。これは俺の持論みたいなものなんだけどさ。自分の決断一つでみんなを幸せにできるなら、それでいいんじゃないかって思ってるんだ」
「……それって割と最低なことしてないか?」
「だろうな。だけど関係ない。女たらしと思われてもいい。最低だって思われてもいい。最悪なヤツって思われたっていい。社会の決めた制約なんかクソ喰らえなんだよ。そんなことで必ず誰かが泣いてしまうなら、俺は躊躇せずに最低な道を選ぶよ」
それはどこまでもバカ男の、どこまでも芯の通っている本音であった。
「誰かが泣いてしまう結末より、みんなが幸せで笑いあえる結末があるなら、そっちの方が絶対良いに決まってる。誰にも泣いてほしくないなら全員を笑顔にしてやればいい。もちろん自分もその子達を好きなのが前提でもあるけど」
何も聞いていなかったら、ただの女たらし野郎と罵っていただろう。
だけど、この青年はそれでも貫き通した。何ものにも縛られない、自分だけの選択をしてハッピーエンドを迎えさせた。自分を想ってくれた女の子を全員笑顔にしてみせている。
「お前なら分かるだろ? 泣いてほしくない人達がいる。絶対に泣かせたくない大事な人達がいる。ならさ、誰に何と言われようと、自分の決めた道をひたすら進めばいいだけなんだよ。どれだけ最低でも、大事な人達の笑顔さえ見れればそれだけで最高なんだよ」
最低で最高な男。神崎零を表すならそれがもっともかもしれない。
男として最低な道を選んだかもしれない。社会から見ればルール違反も甚だしい選択を選んだかもしれない。
でも。
だけど。
神崎零は男として女の子のために最高な道を選んで見せた。
それは並の覚悟ではできないはずだ。事実、拓哉は即答できなかった。どれだけ考えても迷いは晴れなかった。ならば、その道を選んだ零も、紛れもなく女の子を救ったヒーローに違いないのだ。
「……すげえな、アンタ」
「そうか? まあ変態なのは自覚してるけど、それでも間違った選択をしたとは微塵も思ってないよ」
「ああ、零の選択は間違ってない。最低最悪だけど、やっぱお前は最高でバカな男だ」
「ねえそれ褒めてる? バカにしてる? ちょっとバカにしてるよね?」
何だか気に食わないので少し言い方に棘を含めたら見事に刺さった。
「俺も……そうだな。絶対にないと言い切れるから言うけど、もしも本当にそんな事が俺の目の前で起きたら……全員を選ぶかもしれない」
「おっ」
「やっぱり誰か1人を選ぶのが正しいかもしれないけど、それで誰かを泣かしてしまうなら、俺は正しい道を選ぶことはできない。とんでもないエゴだけど、それでそういう人達が認めてくれるか分からないけど、いつだって俺は俺のために動いてきた。だったら、その時もきっと俺は俺のためにそういう選択をとるかもしれない」
「お兄ちゃん……」
血は繋がっているが、一人の男として兄を密かに想っている唯からすれば、何気にこの発言は重大発見ともいえる。いやまあ拓哉の言葉の中に親族は含められていないのは分かっているが。
「何だ、お前も結局その道を選ぶならお前も俺と同類だな! 今日から一緒に変態ハーレム野郎の称号を抱えようぜ!」
「ふざけんな! あくまで俺のはもしあったとしたらの話だ! この現実で拓哉さんは一度もモテた事がありませんゆえの選択ですのことよ! 現にハーレム築いてるお前と一緒にすんじゃねえ!!」
「お前それ本気で言ってるなら一発ぶん殴らせろ! お前のその発言でお前を知ってる女の子はきっともう心で泣いてるに違いないから! 俺には分かる!!」
少し良い雰囲気になったと思ったらこれである。男同士の言い合いや組みあっている様は非常にうるさいものである。それも若い男同士なら当然。
結果、胸倉を掴みあっている男2人を見ながら唯は笑顔で言った。
「2人共明日学校行くならもうお風呂入って寝なさい。これ以上うるさくしてお母さんとかに迷惑かけるなら、外に出すからね?」
「「ヒィ……!?」
早くも唯の秘めたる恐ろしさに気付いた神崎零と、久し振りに見る妹の冷たい笑顔に本気でビビった岡崎拓哉であった。
―――――――――――――――――――
「というわけで、こいつが神崎零だ。変態だから気を付けろ」
「出会い頭に最悪な印象を植え付けてくれてありがとう拓哉。ちょっと体育館裏来いや」
「上等だ。昨日の決着を付けてやる」
「いやいや2人共いきなりバトルマンガのライバルみたいな会話やめてよ!?」
部室で突然男の友人を紹介されたと思ったら喧嘩をおっぱじめようとするバカ2人を止める穂乃果。
他のメンバーも慌てたり呆れたり警戒したりと様々な反応を見せている。
「よし、とりあえずお前らを信用して全部説明する。けどもう昨日唯に話したりしたから同じ説明を何回もするのも面倒だ。だからとても便利な言葉を使用させてもらう」
「そんな端的に説明できることかこれ?」
「まあ見てろ」
拓哉の言葉に腕を組みながらよく分かってない零。
そしてちょっと身構えるμ's一同。準備は万端。さあ拓哉が何をどう言うのか見物な零はただ見ている。
「かくかくしかじかだ」
「「「「「「「「「なるほど」」」」」」」」」
「待て待て待て待て待て待て待て待て」
一瞬で説明し一瞬で理解したμ'sに一瞬でツッコミを入れる零。見事な流れがここに極まれりだった。
「分かったのか。今ので本当に分かったのか!? もし分かったとしても一応現実離れした展開なんだからもう少しこう、混乱みたいのないのか!?」
「俺とこいつらの信頼関係を舐めるな。何なら俺がいきなりサイヤ人になったとしてもこいつらは信じてくれるぞ」
「それは信じないよ」
「戯言ですね」
「バカじゃん」
女神からの容赦ない言葉が聞こえたが無視する。信頼と信用は違うらしい。
「まあ拓哉自体が私達からすればちょっと現実離れしてるようなものだしね」
「どうしたらそんな性格になれるのか知りたいにゃ」
「やっぱ俺のことディスってるなこいつら?」
「お前のμ'sとの関係はよく分かった。ドンマイ」
「やめろォ! 変に気遣うな空しくなる!!」
とりあえず説明が全部終わったところでちょっとしたトークタイムに入る。
今日はライブがあるが、時間にはまだたっぷり余裕があるため何ら問題はない。
「ほへ~、神崎さんの世界じゃ私達みんな神崎さんの彼女になっちゃってるんだ~」
「おうよ。みんな可愛くて俺の愛しい彼女達だよ。それと神崎さんってのはやめてくれ。今は年上の俺だけど、違う世界でも穂乃果達にさん付けで呼ばれるのは違和感が半端ないから」
「なるほど、じゃあ神崎君でいっか! それにしても、違う世界って分かってても愛しい彼女なんて言われるとちょっとむず痒いね~」
「にわかには信じがたいけど、携帯の写真で実際に成長した私達を見せられると変な感じね」
違う世界と言えど穂乃果達の人となりを知っているからか、零が馴染むのはとても早かった。
「言っておくがこっちの穂乃果達には手出すなよ」
「前も言ったけどさすがに住んでる世界が違うのにそんなことしないって。興味本位で会って話してみたかっただけだよ。でも、やっぱ変わらないな。どの世界でもこいつらは」
性格から見た目から、何から何まで自分の世界のμ'sと変わらない。もちろん高校生の頃のとかはあるし、自分の世界のμ'sは零のせいもあってか、多少性格に色気というか性欲が増し増しになっているが、これは口が裂けても言えないだろう。
上手く隠せるとこは隠しながら自分の世界のμ'sの事も交えて喋っていると、部室のドアが開かれた。
「拓哉君、山田先生が呼んでるよ。ライブの事で話をしときたいって」
「ああ、分かった。すぐ行くよ」
ヒデコに呼ばれ仕方なく職員室へ移動しようとするが、足を止めて零の方へ向きながら釘をさしておく。
「変な話とかすんなよ零。余計な事したら速攻ぶっ飛ばすからな」
「物騒な事言うなよ! しないから早く行ってこいよ!」
ちょいと怪しげな視線を向けながらも拓哉は部室をあとにする。
ここで主人公の退出。残ったのはμ'sと、違う世界の主人公神崎零。
拓哉にはあんなこと言っていた零だが、もちろん普段が普段な彼はこれで普通の話をするわけもなく……。
「よし、んじゃ恋バナでもするか」
「さっそく変な話きた!?」
「バッカ、恋バナのどこが変な話なんだよ。さっきまで拓哉がいたからこの話は避けてたけど、丁度良いや」
事情説明のおかげで零のことはよく分かったが、それでもまだ会って間もない相手だ。いきなりこんな話を振られては警戒心も抱いてしまう。
「さっきも言ったろ。さすがにここでお前らに手を出すような俺じゃない。それに、好きな相手がいるヤツらを口説こうなんて思ってないさ」
「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」
全員の体がビクッと震えた。
それを見れば分かる。図星も図星だと。
「鎌をかけてみたが、当たってたようだな」
メンバーもれなく沈黙である。
これは重症だな、とさすがの零も思うが、こういう時の大学生の変なお節介はとても厄介なようで。
「ほら言ってみ? 誰が好きなのか。もう見当ついてるけど。お前ら全員が同じヤツに惚れてるのぐらいもうお見通しだけど言ってみぶるぶぉあぁぁぁッ!?」
「分かってるなら最初から聞かないでください!! あなたも拓哉君と同じでデリカシーなしですか!」
海未からの鉄拳制裁を頂戴した。
やはりどの世界でも海未の鉄拳は健在らしい。というか、海未からの鉄拳は何回も受けているから分かることがある。
(うぼぁ……何だこれ……この世界の海未の攻撃力異常に高くないか……!? 拓哉のヤツこんなのを毎回喰らってんのかよ……)
床にキス状態の零は思った。
そりゃ毎回殴り殴られをしていたらどっちも自然に鍛えられるわと。どうやら海未の拳の強さはこの世界の海未がピカイチらしい。ちょっと拓哉に同情した。
「う、うん……今のは俺が悪かった。これに関しては謝罪しよう……。本題に戻らせてくれ」
自分の頬をさすりながらイスへ座り直す。
改めてμ'sを見ると、誰もが赤面状態だった。自分のダメージへの心配がないのは赤面のせいだと思う。
「あー、一応確認だが、お前らが好きなのは、岡崎拓哉。でいいんだよな?」
「う、うん……!」
「そうだよ……!」
返事をしたのはことりと穂乃果。こっちの世界でも積極的な面を持ち合わせているのはこの2人らしい。
他のメンバーも見るが、否定しないところを見るとやはり間違ってはいないだろう。
「ちなみに俺の言っていることはお節介とは、異世界で穂乃果達を彼女にしているからこそ言えるアドバイスと思ってくれていい。俺はお前らを純粋に応援したいんだ。それに、俺から見ても分かるが……あの超絶鈍感男をどうにかしないとって思ってな」
「「「「「「「「「それは分かる」」」」」」」」」
まさかの全員が頷いた。
あの少年はまず自分が誰かに好意を向けられているという認識を持ち合わせていないのがよく分かる。
「じゃあ質問を変える。どうして拓哉を好きになったんだ? 大まかな説明だけでもいい。その経緯を知りたいんだ」
聞かれた本人からすれば頭から湯気が出そうになるほどの無茶振りだが、アドバイスをくれると言うなら致し方ないことと割り切るほかない。
最初に話したのは穂乃果だった。
「……私は、小さい頃からたくちゃんと一緒にいた幼馴染で、助けられた事も何回もあって、その頃からずっと好きだった、かな……」
「私も穂乃果ちゃんと同じ。友達の少なかった私と友達になって一緒に遊んでくれて……まるで助けてくれたような……だからかけがえのない人になった……」
「私は……そう、ですね。2人と一緒です。木から落ちそうになった時に、自分の身を挺して助けてくれたことがきっかけです……」
「……なるほどな」
拓哉と幼馴染の2年組はやはり小さい頃から好意を抱いていたらしい。その好意が今もずっと続いているというのも十分凄いことだろう。それだけ好かれているのに気付いていない拓哉はどうかと思うが、近すぎるゆえの気付かない気持ちというのもこの世には存在する。
「絵里達とかはどうだ?」
「そうね……やっぱりあの時からかしら……。一時は敵対していたんだけど、自分の本当の気持ちを隠していた時、拓哉はそんな私に手を差し伸べてくれた。過去から引きずっていた私の気持ちすら、どん底から救いあげてくれたの」
「ウチは、そうやなぁ……。自分の我が儘を肯定してくれたことかなあ。望んでた願いと違う結末になりそうやった時、それで妥協しようとしてたウチに言ってくれたんよ。我が儘な夢くらい叶えてやるって。本当に救われたような気持ちやった……」
「まあ、あれね……。ずっと1人で部活動をしてた私に生意気に言ってきたのを今でも覚えてるわ。自分の気持ちに素直になれとか、本当の笑顔を取り戻してやるとか……ったく、本当クサイったらありゃしないわよ。……それで助けられた私の気持ちも知らないで」
「すげえなあいつ……」
3年組のを聞いて素直に感心した。あの少年は本物だと。
どこまでも誰かを助けるために真剣になっている。だからその心に、その姿に、惹かれる者がいるのだと。
「じゃあ、最後は真姫達だな」
「べ、別に言う必要はな……分かったわよ言うわよ言うからあんまりこっち見ないで!……えっと、私がお父さんにスクールアイドル活動を辞めるように言われた時、わざわざ私の家に来て、あのお父さんと口論してくれた時、かしら……。ずっと否定されてきた私にとって拓哉の言葉は、私とお父さんすら変えてくれた恩人だから……」
「わ、私は、ですね……えと……最初に秋葉原でその、絡まれてた時に助けてもらった時からずっと気になってて……要所要所で助言を言ってくれたりして……拓哉くんの言葉一つ一つにずっと助けられてきたから……好きに、なりました……」
「凛はねー、自分に自信が持てなくて女の子らしい服も着れなかった時、たくや君が凛を普通の女の子だから自信を持てって言われたのがきっかけ、かな……。あれが普通の言葉だったとしても、それで凛が普通に女の子の服を着れるようになったのはたくや君のおかげだから」
「……、」
誰もがハッキリしていた。
自分が何故好意を抱くようになったのか。何がきっかけでどう変わったのか。いつの間にか好きになっているのはよくあることだが、ここまでハッキリ覚えていることは珍しい。
それに、9人の言い分にはどれも共通しているものがあった。
それは拓哉が必ず誰かを“助けた”、“支えた”、“救った”。そこから好意に派生しているのだ。
普通ならそこは感謝だけで終わるのが自然なのだが、拓哉がそれをするとどうにも変わってくるらしい。
感謝以上の感情が芽生える。それはつまり、拓哉の行動言動にはそれほど人を変える力があるのだと思う。影響力も含め、普通の人だったものまで輝きを出す者へ変貌させてしまう。まさにヒーロー体質。
「あれで自分はどこにでもいる普通の高校生って言ってんだもんなあいつ……。これのどこが“普通”なんだよまったく」
普通の高校生が複数の美少女から好意を寄せられてたまるかと声を大にして言いたいが、自分はしかも付き合っているから強く言えない。
と、本題を思い出す。
「分かった。お前らの気持ちは本物のようだな。言葉や表情だけでどれだけ拓哉を想っているのかよく分かったよ」
「おお……で、何かアドバイスとかあるの神崎君!」
興味津々で聞いてくる穂乃果に既視感を覚えつつ頭を整理する。
正直、ここまで彼女達が自覚しているなら、言うことは一つしかなかった。
「ああ、俺から言えることはただ一つ」
μ'sの全員がゴクリと唾を飲む。
いつも彼女達なりに少しずつアタックしているつもりなのだが、あの少年はそれを華麗にスルーするように気付かない。だからここでアドバイスを貰えるなら、それは良い収穫にもなる。
「好きにやれ」
「「「「「「「「「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」」」」」」」」」
女神から威圧されたような気がした。
「いや、気持ちは分かる。分かるけどとりあえず落ち着いて聞いてくれ!」
普段優しい花陽やことりでさえ八の字眉からの蔑むような目をしていた。この世界のμ'sはちょっと危ないかもしれない。
「俺はお前らがあやふやに拓哉を好きなら何か具体的なアドバイスをしようと思ってた。けど1人1人がちゃんとしたきっかけを覚えていて、それを大事な思い出として話せる。それだけ好きでいられることはとても大事なことなんだ」
最初に聞いた時は驚いた。
誰も無理に思い出すようなこともなくスラスラとその時の出来事を鮮明に思い出しているかのように語っていた。
「だったらもう俺から言うことは何もないよ。お前らがそんだけ想っているなら、思うままのアタックをすればいい。俺が拓哉から聞いた話だと、多分全員脈はあるはずだしな」
「「「「「「「「「それって本当!?」」」」」」」」」
「お、おう……息ピッタリだな……」
今日だけで一体何回ハモっているのか。
これだけ仲も息もピッタリなら問題もないだろう。
「いっそ全員で告白してみるか? あいつならそれなりに良い答え出しそうだぜ?」
「そ、それはまだちょっと……」
「さっきまでの積極性はどこいった」
積極的だと思っていた穂乃果が渋っていることに驚きを隠せない。他のメンバーも首を横に振っている。まあ告白は男子でも女子でも一世一代の勇気と覚悟があって為されるものだ。無理して変な告白になるより、ちゃんとした機会がくるのは待てばいいだろう。
「まあそんなもんだ。脈あり、お前らの気持ちも本物。あとは来るべき機会の時に告白すればい―――、」
「ウィース、悪い遅くなったなー。それとそろそろ準備もし……何してんの?」
結構話していらしい。時間をすっかり忘れていた。そのせいで拓哉が帰ってくる頃合いを注意していなかったのが悪かったかもしれない。
その結果、いきなり帰ってきた拓哉の目の前には謎の光景が広がっていた。
「お、おう拓哉……ちょうど今地震がきた時の訓練をしてたとこなんだ……。お前もやるか?」
「やらねえよ。何で今訓練してんだよバカなのか。……何かこいつらに変なことしてねえだろうな」
「し、してないしてない!! それだけはしてない!! 俺だって命が惜しいんだ!」
何故か必死になって言う零を訝しむが、気付けば時間も時間なので話を先に進める。
「まあいいか。穂乃果達は衣装を持って講堂へ集合。俺は零を連れて客席に案内するから、ここからは俺がいなくても大丈夫だろ。各自忘れ物がないよう確認してから講堂に来るように。じゃあ解散。行くぞ零」
「「「「「「「「「「は、はーい……」」」」」」」」」」
零もμ'sに混じって返事しながら拓哉に着いて行く。
男子がいなくなった部室内。咄嗟にテーブルの下に潜って正解だった。
そうじゃないと。
「あ、危なかった~……。こんな顔、たくちゃんに見せられないよ~……」
熟したリンゴのように真っ赤な顔をしたμ'sが見られる羽目になっていたから。
―――――――――――――――――――
「おお、もう満員になってんのか」
「予想以上に多くの人がμ'sを見に来たらしくてな。それで俺も先生に呼ばれたんだ」
2人で講堂の客席で座りながら周囲を確認する。
始まる数分前であるが、拓哉達が来た頃にはもうほぼ満席になっていた。見れば立ち見でいる人も結構いるようだ。
「また高校生だったあいつらのライブが見れるなんてな~」
「一応周りに人がいるんだからそういうこと言うのやめろバカ」
傍から聞けば頭のおかしい人に思われている可能性が高いだけだが、ここの生徒の拓哉はまずそんなことすら思われたくない。
講堂内が暗くなる。始まる直前の合図だ。それに伴い観客も声を上げている。
「なあ零」
「何だ?」
「俺達の世界の穂乃果達はどうだったよ。ちゃんとお前の目的は果たせたのか?」
徐々にスポットライトも点けられ、ヒデコ達によるライブが始まる前の放送が響く。
「……ああ。十分話せたよ。普通ならこんな体験するだけでもおかしいんだけど、楽しかった」
「……そうか」
放送が終わる。
同時にカーテンが開かれた。
佇むは、9人の女神。
「じゃあ最後によく見とけよ。俺の世界の女神達を」
そして、幕は開かれた。
Music:Music S.T.A.R.T!!/μ's
―――――――――――――――――――――――
「いやー、良かった良かった!」
「よかったのか、穂乃果達に別れの挨拶しなくて」
ライブも無事に成功し、観客が出ていくタイミングで拓哉と零は誰もいない校舎の裏まで来ていた。
「いいんだよ。言っただろ、目的は果たせたって。こっちのあいつらと話せた。それで十分だ」
講堂に人が集中している今にとって、校舎裏というのは絶好の隠れ場所である。
そこでこの改良型パラレルリープマシンを使えば誰にも見られず零は元の世界に帰れるというわけだ。
「お前がそれでいいならいいけど。まさか零と一晩同じ部屋で過ごすとは思ってなかったぞ」
「それは俺もだっての。でもそのおかげで唯ちゃんとも会えたし結果は上々だな」
「唯に手出したら殺すからな」
「妹のことになると暴力性悪化させるのやめない!?」
何故μ'sではなく妹でこういう風になるのか謎だが、これに関してはもう零が何を言っても無駄だろう。
ため息は吐きながらマシンを出す。もう何のリスクもない、ワープしても手元に残り、干渉しすぎてもありとあらゆる不安要素をなくしてくれるぶっ壊れ機能、連続で使っても充電がいらなくなった元凶のマシンを。
「あ、拓哉も一回俺の世界来るか? もう何度でも使えるし便利だぞこれ」
「行かねえよ。誰が好き好んでお前とμ'sのイチャイチャ見なきゃならねえんだよ」
「ちぇー、俺と穂乃果達のイチャイチャを見てお前にもハーレムの良さを気付いてもらおうと思ったのに」
「そういうのはアニメとかラノベで間に合ってるから」
完全に拒否されて軽く涙目な零。
そこで拓哉が何か思いついたように言った。
「なあ、そういやそのマシンって前は3つしか他の世界に行けなかったけど、もっと改良すればチャンネルは増やせるのか?」
チャンネル。言ってしまえば前回拓哉達が行った3つの世界。それをもっと増やすということは、それ以上の世界へ行けるということになる。
「秋葉なら多分できると思うぞ。頼めば余裕で」
「異次元すぎるわ。というかまだ他の世界とかあるのかよ。俺達以外の世界とか」
「あるだろうな。どんな世界線かは分からないけど、世界には多様の可能性がある。あらゆるifの世界ってやつだ。俺達の世界だって言ってみればifみたいなもんだ。なら当然他の世界も存在する」
「例えば?」
「俺達が存在していない世界とか、穂乃果達がまったく別の人生を送っている世界とか。同じ人物がいても顔が違ったり性別が違ったり、また
挙げれば挙げるほどその可能性は増えていく。ほぼ無限に近い多様性を秘めるifの世界というのは、どこまでも人間の範疇を超えていく。たった一つの選択から何百通りの平行世界が現れるのと同じように。
「……だったら、こんな世界もあんのかな」
「どういう?」
ありとあらゆる可能性が秘めているifなら、こんな世界だってあるかもしれない。そんな根拠のない可能性だって、きっと十分にあり得るはずだ。
「俺と零が一緒の学校に通って、穂乃果達と騒がしい日常を過ごしたりしてる世界、とかな」
「……なるほど、そういう世界だってあるかもな! いや、あるさ。そんな世界もきっとある。バカみたいに笑って俺達が過ごす日常はあるさ。だってほぼ無限の可能性の世界があるんだから」
自分で言っておいて笑ってしまう。
たった2回しか会っていないのに、あれだけ言い争ったりしていてもやはり、神崎零といる時間も悪くないと思えてくる。結局は似た者同士なのだ。
「おっと、拓哉もライブ終わったばかりの穂乃果達のとこに行ってやらなくちゃいけないよな。俺はもう行くよ」
マシンを起動させると、零の周囲に青白い光の粒子が出始める。
いよいよ別れの時だと、嫌でも実感させるように。
「なあ拓哉、また来てもいいか?」
「来たいならな」
「お前もこっちの世界に遊びに来いよ!」
「マシン持ってないのに行けるわけねえだろ! あっても行かんわ!」
「ははっ、やっぱ俺達はこういう関係が一番かもな」
光はどんどん強くなり、零の足を順に粒子となり消えていく。
「……だな」
「もし次会う時はさ、行ったことない世界とか行ってみね?」
「異世界旅行とかもう会話レベル意味分かんねえな……。まあそれなら悪くない」
「んじゃ決まりだ! 次は別の世界で穂乃果達に会ってみよう!」
最後まで明るい青年に、思わず拓哉も笑みを隠せない。
だからこちらも最後は満面の笑みで別れを言おうではないか。零がもう首辺りまで消えてるのを確認して声をかける。
「なあ」
「何だ?」
そして告げた。
「元気でな、バ神崎!!」
「ちょ、おまっ、最後がそ―――、」
消えた。
跡形もなく、友人は元の世界に帰った。
虚空を見つめ、彼がいた空間を見直しても何もない。
まるで一時の夢を見ているような感覚だった。けれど、決して悪くない夢。楽しかった夢。
「さて、戻るか」
気を引き締める。
穂乃果達に挨拶なしで零が無断で帰ったことをどう説明するか考えながら歩き出す。
あらゆる可能性を秘めたifの世界。
そこで彼らは、お互いに思い思いの日常を過ごしていく。
さて、いかがでしたでしょうか?
2回目のコラボなので、前回の続編として書かせていただきました。
コラボということでもちろん薮椿さんとこの主人公、神崎零くんとの絡みを多くさせていただきました。
ちなみに軽く説明させていただきますと、作中でありとあらゆるifの世界と表現したり、終盤に岡崎と零くんが一緒に穂乃果達と日常を過ごしているというifの世界もあるかもしれない、と言っていましたが、勘のいい方なら分かるはず。
そう、まさにそれが薮椿さんが書いているコラボ回での世界です(笑)
前回のコラボ回ではあちらが普通に岡崎と零くんが一緒の学校に通っている話でしたので、そういう可能性、ifの世界もあるのだと遠回しに表現させていただきました。
コラボならではの話ですねw
そしてもちろん、多様性のある、ほぼ無限な可能性を秘めている世界というのが、つまりは私や他の作者の方々が書いている二次小説のような、ありとあらゆる世界のことです。
書いてて楽しかったですここはw
今回もお互いどのような話を書いているかは知らないので、自分も含め、皆さんも薮椿さんの作品を見にいきましょう!!
そしてお互いの作品に感想をいただけると幸いです!
それが作者にとってモチベに繋がるので!!
では、この場を借りて今回コラボ相手に自分を選んでくださった薮椿さんには感謝を。
お互い長いあいだラブライブ小説を書いている身としてとてもありがたいです!
お疲れ様でした!また機会があれば!!
いつもご感想高評価ありがとうございます!!
これからもご感想高評価お待ちしております!!
いやー、それにしても秋葉さんの万能性は無限大ですね(笑)