ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

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 ――最終章・序章――

『μ's解散編』



 始動。





128.或いは、当たり前の物語

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 始まりがあるならば、当然終わりも存在する。

 

 

 

 

 

 

 それはこの世界のどれにおいても当てはめられる事であり、どうしたって逃れられない結末でもあるのだ。

 

 

 時にそれは美しく。

 時にそれは残酷に。

 時にそれは唐突に。

 

 

 終わる。

 

 

 人は生まれてから老いて死に、物は作られてから壊れ、緑は生えてから枯れる。

 物事に永遠など一律には存在せず、必ず終焉が訪れるものだ。

 

 そしてそれを繰り返しながら年月は過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、そんな大層な話じゃない。

 

 

 

 

 どこかの街にいるスクールアイドルが、活動を始めてから終わりを決断するまでの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「やったー! これで音ノ木坂だよ! 私達、音ノ木坂の生徒だよ!」

 

「うん!」

 

 隣で喜んでいるのは雪穂と亜里沙。

 今日は音ノ木坂学院の合格発表であり3人で見に来たのだが、どうやら自分も含めてみんな合格したらしいと安堵する岡崎唯。

 

 亜里沙には同伴者で絵里が着いて来てるが、自分の兄はここにはいない。

 ただでさえ真冬の朝、それも休日。

 

 寒さと朝に飛び切り弱い兄を自分の都合で起こして着いて来てもらうのは気が引けたからだ。

 超絶シスコン野郎のことだから必ず着いて行くと言っていたのだが、案の定当日になると布団にくるまり爆睡していたのでさっさと家を出てきた。

 

 唯的にはそっちの方が兄に無駄な精神を遣わせるにはいかないと思ったから好都合だったのである。

 

 

「良かったよ~唯~!」 

 

「はいはい、そうだねえ。3人共合格でホッとしたよ」

 

 もちろん合格したのは嬉しい。この時のために必死に受験勉強してきた結果が出たのだから。飛び跳ねたいほど気持ちも舞い上がってくる。

 だけど、自分よりも嬉しそうにして抱き付いてくる亜里沙を見れば自然と落ち着いた反応をしてしまう。どちらかというと妹をあやす姉みたいな気分だ。

 

 

「μ'sだー! 私μ'sだー!」

 

「ッ……」

 

「……、」

 

 亜里沙の不意な発言に言葉が詰まった。

 

 

「お姉ちゃーん! μ'sだよ! 私、μ'sに入るー!」

 

 そう言って絵里の元へ笑顔で駆けていく亜里沙を見て、受験合格という高揚感は既にどこかへ消えていた。

 絵里と楽しそうに話している亜里沙はきっと本心でああ言っている。本気でμ'sが好きだから。

 

 

「μ's、か……」

 

 呟く雪穂を見ると、多分同じことを考えているんだと予想できる。

 亜里沙はμ'sに入ると言った。そこに問題はあるかと聞かれれば、問題はないのかもしれない。

 

 だがそこに生じるのは、きっと多大な違和感だろう。

 新しくμ'sに入る者がいるのならば、μ'sからいなくなる者もいるのだから。

 

 

 この先を考えるのは今はよそう、と頭を振り切る。

 まずは家に帰って家族に合格を自分の口から報告するべきだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

 

 家に帰るとさっそくドタドタとありきたりな足音と共に家族が飛び出てきた。

 

 

「どうだった!?」

 

「休日の朝から祝杯の準備はできているぞ唯!」

 

「マイシスター何故俺を起こさなかった! 合格発表という大事な日ならお兄ちゃん何が何でも着いて行くと言っただろ! いや起きれなかったけど! 目覚まし時計うるさくて壊しちゃったけど!!」

 

 母の春奈、父の冬哉、兄の拓哉。

 全員からそれぞれ聞かれ言われを受けた唯だが、とりあえずどこまでも優しい家族に朗報を知らせる事を優先した。

 

 

「……にひー、無事合格したよっ!」

 

 満面の笑みでピースを形作る。

 唯の言葉を聞いて、家族が目を見開いてから数秒間たってから。

 様々な声が家の中で響く。

 

 

「はぁー良かった……。唯なら心配ないと思ってたけど、今日の晩ご飯はご馳走にしなくちゃね」

 

「おっしゃァァァあああああああああああああああああッ!! 昼から堂々と酒じゃあああああああああああああ!! 母さん、家にあるもので最高の酒を用意してくれ!!」

 

「きゃっほぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおう!! これで音ノ木坂に俺の癒しが増えるぅぅぅ!! 唯という名の最高の癒しが俺を待っているぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 母以外は何だかおかしな絶叫をしているが、どれも喜んでいてくれているからこちらもまた嬉しくなってくるというものだ。

 

 

「唯の入学式には有給とって新調したスーツで行かなければな! どう思うかね唯!」

 

「そうだね、いいんじゃないかな、どうでも」

 

「どうでも!?」

 

 相変わらず父に対しては少し当たりが強い唯。明確なダメージを負った冬哉は春奈に首根っこを掴まれてリビングへと消えて行った。

 多分このあと喜びと悲しみの酒を浴びるほど飲むに違いない。そして当然冬哉を気にも留めない拓哉は未だ興奮冷めやらぬ声音で唯に声をかける。

 

 

「どうだ唯。何か欲しいものとかあるか? 合格祝いだ。俺が何でもくれてやろう。もちろんお兄ちゃんの財布とATMが空にならない程度でな! さあ、何が欲しい?」

 

「お兄ちゃんが欲しい」

 

「はっはっは! 嬉しいのか知らんがそこは『お兄ちゃんが欲しい』じゃなくて『お兄ちゃん“〇〇”が欲しい』だろ。よく考えりゃいいさ。唯のワガママくらい叶えてやる」

 

 よく考えた結果が()()なのだが、どうやら兄は本当に言い間違えたと思っているらしい。いや、兄妹の関係上それが普通なのだが。

 ともあれ、穂乃果達のアピールにさえ気づかないほどの超絶鈍感クソ野郎だ。ましてや唯の気持ちに気付くはずもないのは、唯自体が分かっている。

 

 

 故に。

 

 

「うーん、じゃあお兄ちゃんとお揃いのお財布がいいかな? そのシンプルなデザイン私も好きだし、赤かピンクのカラーくらいはあるでしょ?」

 

「あれ、お前って長財布使うタイプだったっけ。まあそれがいいなら買ってやるよ。確かピンクはあったはずだしな。値段は多少するけど」

 

 最後何かボソッと言っていたが気にしない。ストラップとか小物系をお揃いにすると周囲にすぐバレそうなので、一応分かりにくい財布をお揃いにすることにした。財布なら周囲の人間にもあまり見せないしバレることもないだろうと判断である。

 

 

「わふっ」

 

「そっかそっかー、受かったかー。勉強見てた俺から見ても充分受かると思っていたけど、いざ妹が合格ってなるとやっぱ嬉しいもんだな」

 

 いきなり頭を撫でられされるがままだが、一切止めない。むしろ唯からすれば嬉しい以外の感情を持ち合わせていないからついつい口が綻ぶ。

 その結果。寒い廊下だということもお構いなしに大好きな兄へダイブする。

 

 

「うおっ」

 

「やった、やったよお兄ちゃん。私、音ノ木坂学院の生徒だよ!」

 

「……ああ、そうだな」

 

 家の中だろうと廊下には暖房はなくもちろん効いていないため寒い。だから寒がりの拓哉はすぐにでもリビング避難したいはずなのに、嫌がらずにしっかりと唯を受け止めてくれた。しっかりと密着された人間というのは、案外どちらも温かかったりする。

 

 

「これでお兄ちゃんは私の先輩にもなるね! その時はよろしくだよお兄ちゃん!」

 

 自分の顔を見てニカッと笑う妹を見て、拓哉も笑みが零れるのを抑えきらない。

 妹であり、4月から後輩の唯へ向けて一言を放つ。

 

 

 

 

「おう、よろしくな。後輩」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっと、この事は自分から言うべきではない。

 そう唯は思った。

 

 自分達が入学するということは、必ず3年は卒業する。

 つまり、μ'sにいる3年のメンバーも。

 

 であれば疑問や質問も脳内に溢れてくるが、これはまだ部外者の自分が言っていいことではない。

 この問題は早い段階でμ'sに訪れる。なら必然的に拓哉もそれに関わることになるだろう。

 

 だから、何も言わない。

 拓哉達も薄々分かっているはずだから。

 

 どんな結末になろうとも、これだけは拓哉達が決めることだから。

 岡崎唯は気になる疑問を消し去り、ただ兄の胸に喜びと共に顔をうずくめるのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月曜日。

 時は既に放課後の部活練習の時間になっていた。

 

 

 

 

「ラブライブの本大会まであと1ヵ月。ここからは負荷の大きいトレーニングは避けて、体調を維持することに努めてもらう」

 

 場所はいつもの部室。

 そこでメンバー全員が座り、ホワイトボードの前で手伝いの拓哉が説明と共に立っている状態であった。

 

 

「練習随分少ないんだね」

 

「うん、完全にお休みの日もある」

 

「ああ、A-RISEのツバサにアドバイスも貰ったからな。そういう日も入れてあるんだよ」

 

「普通にやり取りしてんのねアンタ達」

 

「仕方ねえだろ。あいつが先に送ってくるんだから。無視するのも悪いし、実際こうやってアドバイス貰えるのはありがたい」

 

 ツバサの相手をする代わりにアドバイスを貰っているのだが、あのA-RISEのリーダーから直々に教えてもらえるのはこれ以上にないほど助かるものだ。それにツバサが教えてくれるということは、少なくともμ'sを応援してくれているに違いないだろう。

 

 

「ん、どうした穂乃果。ボーっとして。ちゃんと話聞いてたか?」

 

「……あ、う、うん、ごめん。あはは~」

 

「珍しいな。お前がこういう時にちゃんとしてないって」

 

「そうかな~」

 

「……、」

 

 ラブライブも近づいているからか、最近の穂乃果はずっと真面目に練習をこなしたりミーティングもしっかり聞いていた。練習に関しては始めた当初からだが、ミーティングはいつも海未や拓哉に任せっきりでよく分かっていなかったのが、今ではしっかり聞いているのだ。

 

 そう思った矢先にこれである。

 拓哉が不思議がるのも無理はない。と、ここで真姫が思い出したかのように話を切り出した。

 

 

「そういえば唯ちゃんと亜里沙ちゃんと雪穂ちゃん、合格したんでしょ?」

 

「うん、3人共春から音ノ木坂の新入生だよ」

 

「唯は受かって当然だからな」

 

「亜里沙ちゃん、ずっと前からμ'sに入りたいって言ってたもんねっ」

 

「……、」

 

(……そういうことか)

 

 ことりが言った瞬間、穂乃果の視線が落ちたのを拓哉は見逃さなかった。

 多分この休日のあいだに何かあったのだろう。それで穂乃果がまた考え事をしているに違いない。

 

 

「じゃあもしかして新メンバー!」

 

「ついに10人目誕生!?」

 

「ちょっと、そういう話はっ……」

 

 真姫が止めるように言ったが、それはもう全員に聞き届いてしまっていた。

 10人目であって10人目でない。もし誰か入るとしても7人目から始まってしまう。そういう仕組みに、必然的になってしまっているのだから。

 

 

「卒業、しちゃうんだよね……」

 

 花陽の言葉で部室の雰囲気はより暗くなってしまう。

 μ'sのメンバーは綺麗に学年ごとに3人ずつ分かれている。

 

 つまり、卒業すれば絵里、希、にこの3人はμ'sを抜けるということになる。なってしまう。

 仕方のないことで、どうしようもないことで、それが自然ということも分かってはいる。分かってはいるが、どうすればいいか分からない。

 

 

「……どうやろ?」

 

「え?」

 

「にこっちは卒業できるかどうか……」

 

「するわよ!」

 

 希が暗い雰囲気を紛らわすようににこを弄ってみるが、予想以上にメンバーの雰囲気は暗く、再び沈黙が訪れてしまう。

 同じμ'sのメンバーだから、誰かが抜けるという事実に精神的ショックも大きいのかもしれないし、やはり思うところがあるのが普通だろう。

 

 ならば、こういう時にこそ流れを変えるために、非情にならなければならない時に非情になれる人物が介入する。

 

 

「ラブライブが終わるまではその先の話をするのはしない約束だったろ。ここに来て気持ちが揺らいじまったら勝てるものも勝てなくなるぞ。目的を忘れるな。まずはラブライブ優勝が最優先だ。さあ、練習に行くぞ。今日はグラウンドでランニングだ」

 

 手を叩いて注目を集めてから叱咤する。

 返事をしてから次々とメンバーが部室から出ていく。

 

 穂乃果を残して。

 

 

「……穂乃果」

 

「……ぁ、うん、ごめん、すぐ行くねっ」

 

 声をかければ穂乃果もそそくさと部室を出て行った。

 最後に残ったのは当然部室の鍵を閉める役割の拓哉1人のみ。

 

 誰もいない部室で、少年は静かに拳を握る。

 先ほど言った言葉。

 

 自分で言っておいて何だが、あれはきっと間違っている。

 ラブライブ優勝が最優先だとは言ったが、それはその場での流れを変えるために言った発破に過ぎない。

 

 一度心に靄がかかってしまえば、簡単に取り除くことはできない。その靄はどれだけ掻き消そうとしても、まるでいつまでたっても喉に異物が引っかかっているかのような違和感があるのと同じように消えることはない。

 

 

(やっぱりこのままじゃダメだよな……)

 

 ラブライブが終わるまでその先の話はしない約束をした。

 けれどそれが最善策だとは思っていない。むしろその思考から逃げたいがための愚策かもしれない。できるだけ考えたくないかのように。

 

 だがその瞬間は必ずやってくるものであり、逃げられるものでもない。

 なら、少しでも早くこの問題を解決しなければならないのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………今日は俺も走るか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこかのスクールアイドルの手伝いをしている少年は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこかの街で、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、いかがでしたでしょうか?


いよいよこの回がやってまいりました。
最終章、序章です。
四段構成にするなら『起』、三段構成にするなら『序』ってところでしょうか。
彼ら彼女らの選択を見守っていただければと思います。








始まりがあるならば、終わりをどう迎えるかは自分自身で決める事だ。
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