総合140話、本編130話突破しました。
ありがとうございます。
続くものですなあ。
「ただいまー」
「おかえりー」
家に帰るとリビングの方から母の声が聞こえてくる。
微かに良い香りが漂ってくるのは晩ご飯の準備をしているからだろう。
(……やっぱ唯はまだ帰ってきてないか)
いつもならいの一番に駆け寄ってきて出迎えてくれる妹の靴がない。
雪穂と亜里沙とどこかに行ったと思っていたが、どうやら間違いではなかったらしい。
(とりあえず俺も今後のことを考えよう)
珍しく帰りの遅い唯のことも気になるが、今はそれよりも優先すべき問題がある。
自分はどうすればいいのか、なんてことは考えない。結論を出すのは穂乃果達であって拓哉じゃない。
であれば、まずは穂乃果がどういう答えに行き着くのかを待つしかないのだ。
そして、それを受け入れる覚悟を有しておかなければならない。
「いつまで玄関で突っ立ってるのよ。さっさと部屋に荷物置いてきなさい」
「っ、ああ」
いつまでも階段を上がる音がしないと思って見に来た春奈に言われて我に帰る。
気付けば空腹になっていたらしく腹の音も鳴っていた。とりあえずは腹ごしらえが先だろう。
「……、」
最後に定位置にいつもあるはずの唯の靴がある場所を一瞥して、階段を上がっていく。
―――――――――――――――――――
ほぼ同時刻。
冬の夜空ではあるが、どうやらこの付近も都会に近いせいか星はあまり見えない。
そんな神田明神には、3人の少女しかいなかった。
「私は、そうするべきなんじゃないかって思うんだけど、どうかな」
静かな神社に岡崎唯の声だけが透き通った。
色々話した。亜里沙がどれだけμ'sが大好きなのかも知っている。どれほどμ'sに入りたいと思っていたかも知っている。
その上で、いいや、だからこそ唯は全てを話した。
自分の気持ちを。
「私は唯に賛成、かな」
雪穂はこちらに微笑みながら了承してくれた。雪穂も常々疑問に思っていたそうだから何となくそんな気がしていた。
最後に2人は1人の少女を見る。
究極の選択。
苦渋の決断。
正否の問答。
きっと亜里沙の中では色々なものが葛藤として渦巻いている。
それでもなお、ここで決めなければならない。
いや、答えは既に出ていた。
唯から話を聞かされた時点で分かっていた。
だけど、それを口に出すのは簡単なことではない。それだけの想いを、亜里沙は確かに誇りを持って掲げていたから。
だからそれを簡単に口に出してしまえば、それでこそ自分の気持ちは軽いものでしかなかったのではないかと思ってしまいそうで。
亜里沙の気持ちくらい、ずっと側で見てきた唯と雪穂は知っている。それ故に、待つ。
普通なら完全否定して口論になってもおかしくないほどの問題なのであろうが、生憎と絢瀬亜里沙はそういう人種とはかけ離れている。
だから。
自分の気持ちとμ'sを天秤にかけてしまえばハッキリした。
どこをどれだけ取り繕ったところで、言い訳がましい世迷い言を言ったところで、どうあがいても天秤が1ミリたりとも亜里沙の気持ちに傾くはずもなかった。
いよいよ口に出す。笑えてはいるが表情は微かに寂しさも交わっていた。
「……うんっ、私も、賛成……」
精一杯の笑顔。
唯の選択はきっと間違っていない。
けれど、親友のこの顔を見てしまった以上、どうしても言わなければならない。
「ごめんね、亜里沙……ありがとう……ッ」
3人が寄り添う。
ここに1つの結末が生まれた。
3人の少女は決断した。
それはきっと、少女達の新たな成長の一幕であったに違いない。
――――――――――――――――――――
「あ」
「ん?」
バッタリ会った。
穂乃果の家とは近い分、登校時間も自然と被るものである。スクールアイドルを始めてからの穂乃果は寝坊することもなくなったため、わざわざ拓哉が迎えに行く必要もなくなって別々に登校しているのだ。穂乃果達は常に一緒に行きたがっているが。
「おはよう、たくちゃん」
「おう」
朝だからか分からないが、穂乃果の表情に明るさはさほど感じられない。
拓哉が帰ってからも1人考え込んでいたんだろうと推測しながら声をかける。
「どうだ、答えには行き着いたか?」
「ううん、結局まとまらなかったよ」
答えを聞かずとも分かる。
もし穂乃果が結論を出したら、きっとこんな表情はしないはずだから。
「そうか」
一言言って、前を向いた時だった。
「お姉ちゃんっ」
前方に3人の少女がいた。
というかお馴染みのシスターズだった。
「雪穂? 亜里沙ちゃんも」
「唯?」
どうりで先に家を出て行ったわけだ。
唯の目を見る限り、何か話があるのは見て取れる。
「ちょっと話があるんだけど、いいかな」
「え?」
唯からのアイコンタクトを感じて何となく察しがついた。
そっと穂乃果の腰辺りに手を当てて前に出してやる。穂乃果はキョトンと拓哉を見てから雪穂達の方へ視線を向けた。
「亜里沙」
「うん。……あの、私……」
亜里沙の表情は、何故か先程までの穂乃果の表情に似ていると感じた。
それはつまり、そういうことなんだろうと拓哉は結論付ける。
「私……μ'sに入らないことにしましたっ……」
「……え?」
「……、」
何故昨日の夜、唯達がいなくなったのか。その理由が分かった気がする。
これはきっと唯達が決めた1つの決定事項だ。わざわざ穂乃果に伝えなければならないほどの決意表明みたいなものだろう。
「昨日唯達に言われて分かったんです。私、μ'sが好き。9人が大好き……。みんなと一緒に一歩ずつ進むその姿が好きなんだって……」
「亜里沙ちゃん……」
唯でもない。雪穂でもない。μ'sのことを本当に尊敬していて大好きでいてくれる。μ'sに入りたいと言っていた絢瀬亜里沙だからこそ、彼女の言葉にはとてつもない力が生まれ、穂乃果の心にスッと入り込んでいく。
「私が大好きなスクールアイドル、μ'sに……私はいない」
その言葉にハッとする。昨晩あれだけ考えて悩んだ末に行き着いた先には何もなかった。
結局は暗闇の解答で白紙にすらなれないものだった。
でも。
だけど。
「だから、私は……私のいるハラショーなスクールアイドルを目指します! 唯と雪穂と一緒に!!」
決意。あるいは決別。
けれどそれは少女達が行き着いた最高のゴールであってスタートに違いない。
「だから、色々教えてね。先輩」
「スクールアイドルの先輩としても、頼りにしてるからね」
なんてね、と冗談交じりに笑い合う3人を見る。
今でこそこんなことを言っているが、この決断をするのに亜里沙はともかく、唯や雪穂もどう言おうか迷っていたに違いない。
親友だから言いづらいことも当然あって、分かってしまうから戸惑うこともあって、傷付けたくないから逡巡する。
だけど、結果的に少女達は答えを出した。
それは、ずっと凄いことなんだと思う。
まだ中学生の身にして、苦悩を乗り越えたのだ。成長速度で言えば将来的に恐ろしいものになるかもしれないが、頼もしいのも事実。
穂乃果を見る。
同時に自分の顔が綻ぶのを感じた。
答えは、出たようだ。
「ダメ、かな」
雪穂の問いに、確かに首を振った。
「ううん。ううんっ」
「うぉわ、お姉ちゃん?」
吹っ切れたかのように穂乃果が3人を大きく抱えるように抱く。
「そうだよね……。当たり前のことなのに、分かってたはずなのに……」
当たり前だから怖かった。
分かってたから恐れてた。
答えを出してしまうのが。
しかし、目の前の少女達の決意を目の当たりにした。
ならば、自分も正直になろう。目前の問題から目を逸らすようなことはしない。向き合って、結論を出そう。
「言ってやれよ、穂乃果。後輩がお前の言葉を待ってるぞ」
その前に、まずは音ノ木坂学院の新しいスクールアイドルになるであろう少女達に。
μ'sのリーダーはこう言った。
「頑張ってね!!」
「「「はい!!」」」
雪穂達と別れていつもの学校への道のりを歩いていると、穂乃果が前を見ながら呟いた。
「たくちゃん、分かったよ」
「何がだ」
分かっていて、あえて拓哉は聞き返す。
聞かなくても分かるのだ。穂乃果の目にはもう迷いはなかった。
「たくちゃんが昨日言ってくれたこと、さっき亜里沙ちゃん達が言っていたこと。それでようやく目が覚めたよ。私の答えは、もう決まってたんだ」
確かに芯のある瞳をしている。
だけど、微かに寂しさも中に映っているような気がした。
それでも、岡崎拓哉は受け入れる。
受け入れて、穂乃果の言葉に頷いた。
「そうか。じゃああとは他のみんなと話し合わなくちゃな」
「うん……。でも、きっとみんなも同じ気持ちだよ」
「へえ、何でそう言い切れるんだ?」
わざと意地悪っぽく言ってみる。
だけどそれは効かなかったらしい。
「そんなの決まってるよ」
高坂穂乃果は迷わずに返して、こう言い切った。
「私達は、μ'sだから」
さて、いかがでしたでしょうか?
区切りが良いので今回は短めでした。
シスターズの決意が穂乃果の目を覚ましました。
いよいよ次回はみんなで遊びに行くという多忙な回。
そして。
そして。
そして。
いつもご感想高評価ありがとうございます!!
これからもご感想高評価お待ちしております!!
最近感想も高評価も少なくて寂しかったり。
今年も寒くなってきました。
いやホント寒い。