「できたー!!」
「んぁ……? あれ、え、何で俺ここにいんの」
気付けば学校にいた。
というか部室にいた。
おかしい、記憶があやふやだぞ。すでにμ'sのメンバー全員がパジャマ状態で普通にいるし、布団ももう用意されてある。
家に帰ったらそのままぶっちして朝になったらごっめーん☆家でそのまま寝ちゃってたみたいてへぺろっ☆作戦使うつもりだったのにどうなってるんだ俺の記憶……。
確か家に帰ってからすぐに風呂入ったのは覚えてる。そして風呂から上がって寝巻きに着替え……あれ、そこからの記憶がないぞ……?
どういうことだ。あと後頭部が少しズキズキ痛むんだけど。
「私が説明してあげるよ」
「何か知ってんのか穂乃果」
意外なとこから真相を知っているらしい人物が現れた。
「たくちゃんのことだからきっと家に帰ったらそのまま学校に来なさそうだって思ってね、実は私が根回しして唯ちゃんに事の顛末を連絡したら協力してくれることになったんだ」
ふむ、何だろう。
穂乃果の言葉に頷くことりと海未を見て、幼馴染に見事お見通しされてる恐怖と聞かない方がいいかもしれないという思考に行き着きそうだぞこれ。
「それで唯ちゃんからあとは全部任せてって言われて、たくちゃんがお風呂入ってるあいだに荷物を唯ちゃんが全部用意しててね。たくちゃんがお風呂から上がって着替えてるとこをこっそり室内に忍び込んでたたくちゃんのお父さんが後ろからたくちゃんを気絶させて荷物と一緒に車で学校まで連れてきてくれたんだよ」
「よーしまずは頭蓋骨骨折だ」
「待ってたくちゃんそれはもう死刑とあまり変わらないよ!」
「うるせー! 人の風呂上りに奇襲とか犯罪者一歩手前だろそれ!! つうかどこのコナンくんだよその犯行の仕方!!」
どうりで後頭部がズキズキ痛むと思った。
あの野郎……次会ったときは覚えてやがれ。ジャンピングニーバットを即座に喰らわせてやる。上手く気絶させるとか加減上手過ぎだろ。
「……で、結局俺はまんまとお前らに嵌められて学校に連れて来られたってわけか」
「……そのとおりであります」
「まあいいじゃない拓哉。せっかくなんだしもう観念しましょ」
「お前がそれを言うか……」
穂乃果を庇うように話しかけてきた絵里。
そういやこいつのせいで俺の思考回路はパンクしてまともな考えができなかったから絵里も原因の一因ではあるんだよなあ。
というか、もうみんな普通に寝巻き、いや、これはパジャマか。着ちゃってんじゃん。男いるのに恥じらいもなく普通にいるじゃん。絵里とか胸元見えちゃってんじゃん。希とかめちゃくちゃ人妻っぽい色気あんじゃん刺激強すぎるじゃん。
何気に背後には海未やことりもいるし、ちゃっかり囲まれて逃げ場もない。ついでに穂乃果が俺の腰にくっついて離さない。
「はあ……しゃあない。今から帰るのも面倒だしな」
「やたー!」
親父のせいだろうが、すでに俺は寝巻き用のスウェットに着がえさせられている。手持ちのバッグを見れば明日着る制服もちゃんと用意されていた。さすがは我が妹っていったところか。
「みんなと学校でお泊まり。テンション上がるにゃー!」
「ドキドキするねっ。なあ拓哉君」
「何で俺に振ってくるんだよ」
分かったような視線を送ってきやがって。何だったら希のパジャマが一番色気あるぞ。いつもと違う髪の結び方をしているせいで余計そう感じてしまう。あれで巫女やってるんだから属性持ちすぎな感じする。
「でも本当にいいんですか?」
「うん。お母さんに聞いたら本当は2週間前に合宿申請出さなきゃダメなんだけど、お母さんが見落としてたってことにしてくれたから大丈夫なのですっ。えへへ~」
「ことりさん? それって実質職権乱―――、」
「見落としてたんだよ~」
「ハイ」
危ねえ。あと少しで凍り付くとこだったぜ。ことりの笑顔に冷気を感じたらすぐに目を逸らそう。そうしないと一生視線を外せずにどうなるかも分からない。少なくとも俺は走馬灯が見える。
「はいお待たせー! 家庭科室のコンロ火力弱いんじゃないの~?」
「おおー良い匂い!」
「麻婆豆腐か。さすがに腹へってきたな」
にこがいないと思ったら晩飯作ってたのか。さすが家で妹達の世話してるだけある。大人数の料理作るのも上手い。
そういや花陽もいないってことは……。
「花陽ーご飯はー」
「炊けたよ~!」
いつの間にご飯担当になってたんだろうこのお米大好きッ子は。まあ花陽にご飯任せれば絶対美味しいって確信できるからいいんだけどね。
「いいやん!」
「そして凛はラーメンも!」
「いつの間に持ってきたのよ……」
「それじゃあ夕食にしましょうか」
「ふふーん、にこ特製麻婆豆腐ご飯よ!」
「何だこれ、美味すぎる……!」
カレーのようにご飯を盛った皿に麻婆豆腐をかけて食べる。
とてもシンプルなのにこれがまた美味しい。いつものこの時間帯ならもう食べ終えて部屋で寛いでるのに、今日はまだだったから空腹状態がレッドゾーンに入っていたのだ。
「何か合宿の時みたいやね」
「合宿の時より楽しいよー!」
「うるせっ」
右隣の穂乃果がいきなり声を出すから驚いた。
いつもは端の1人で座るとこにいるのだが、何故か今日は穂乃果と絵里のあいだに座らされた。俺がよく食べるから余り物とか取りやすい位置にしてくれたのか?
「だって学校だよ! 学校!」
「最高にゃー!」
「まったく、子供ねー」
にこが髪を下ろしてるせいかいつもより大人っぽく感じる。いつも下ろしてたらいいのにとか言ったらまたアイドルがどうのこうのと言われるんだろうか。
「あ、ねえねえ、今って夜だよね?」
「あん? 思いっきり夜だぞ」
何だ、とうとう時間の感覚も分からなくなったか。
一発脳天チョップしてやったら元に戻寒っ!!
「わー!」
「いきなり何やってんだ寒いわ!!」
「夜の学校ってさ、何だかワクワクしない? いつもと違う雰囲気で新鮮!」
「そ、そう……?」
ん? 絵里の反応が急に大人しくなった。
……あ。
「あとで肝試しするにゃー!」
「ええ!?」
はーい、ここで絵里センセー脱落でーす。
そういえば夏合宿の時に言ってたな。暗いとこが苦手って。肝試しとかしたら下手すると泣くんじゃね。特にそういう噂はこの学校じゃ聞いたことないけど。
「いいねえ。特にエリチは大好きやもんね~」
「希!」
「絵里ちゃんそうなの?」
これ知ってて言ってるな希のヤツ。
みんなといれば怖くないとか言ってたけど、やはり怖いものは怖いんだろう。
「い、いやあ、それは……ッ! ひゃああああ!!」
「んぐぉッ……え、絵里……ぐ、ぐるじぃ……絞まってる、首が締まってるからぁ……!!」
「離さないで離さないでぇ……!」
どこにこんなバカ力隠し持ってたんだと思うくらい強いんだけどこのクォーター。
首が苦しいのもあるけど、絵里のパジャマが薄いせいか俺のスウェット越しにも絵里の胸の感触が伝わってくるのがとても体に悪い。やめろ、理性を保て俺。ついでに意識も保て俺。
「もしかして絵里……」
「暗いのが怖いとか?」
「新たな発見やろ?」
「希ぃ……! 真姫早く電気点けてぇ!」
「はいはい」
「……はぁ、はぁ……い、色んな意味で死ぬかと思った……」
首の骨と俺の理性は何とかもってくれたようだ。
命の危険と引き換えに胸の感触を味わうとか代償が大きすぎでは?
「待って! 星が綺麗だよ!」
「そっか。学校の周りは灯りが少ないから」
それはそうだけど絵里がまた怖がるからいい加減電気点けてくれませんかね。いつ俺のとこに来るか気が気でないんですが。あと誰も俺の心配しないのな。それはそれで拓哉さん悲しいなーなんて。
「……ねえ、屋上、行ってみない?」
「え、やだよ」
「えー! そこは行く流れじゃん! 何で嫌なの!?」
「寒いからに決まってんだろ! 夜はまだ寒い部類に入るんだからな!? 極度の寒がり拓哉さんをあまり舐めないでもらいたい! 行くなら勝手に行きなさいお母さん知らないからね!」
「何でお母さんっぽくなってんのよ」
真姫からのツッコミは反応しない。実際寒いから外なんて行きたくないのが本音である。何なら窓もすぐに閉めてほしいくらいだ。あと絵里はそろそろ俺の服の袖を掴んでるの離してほしい。今でこそ女の子らしいが、さっきまであなたとんでもない力使ってたからね。
「ほら、穂乃果が行きたいって言ってんだから行くわよ。リーダーには従いなさい」
「何でこういう時はリーダーの意見が優先なんだ! 行きたい人だけ行けばいいじゃん! 俺は断じて行か―――、」
「たっくん……お願い……」
「全員防寒の準備はできたかァ!! 準備ができたヤツからさっさと行くぞオルァ!!」
「久しぶりにことりのお願い作戦が炸裂しましたね」
――――――――――――――――――
「ほら花陽、掴まれ」
「う、うぅ……ありがとうございますぅ」
花陽の手を引っ張って上に上げてやる。
春が近いとはいえ半そで半パンのパジャマじゃそりゃ寒いだろうな。
「見て見て!」
花陽に毛布をかけてから街を見渡す。
するとそこには。
「わあ……」
普段見れないような景色があった。
夜の学校の屋上じゃないと見れない。そんな綺麗な夜景。街景色とでも言うのか。
「凄いね……」
「光の海みたい……」
とてつもないほどの光量が街を綺麗に彩っている。残業で残っている社会人達の光と言ってしまえばそれで終わりかもしれないが、それでも、正直に綺麗だと思った。
「この一つ一つが、みんな誰かの光なんですよね」
「その光の中でみんな生活してて、喜んだり、悲しんだり」
「この中にはきっと、私達と話したことも会ったこともない触れ合うきっかけもなかった人達がたくさんいるんだよね」
「……でも、繋がった。スクールアイドルを通じて」
それはきっと偶然に過ぎないものだった。
だけど、それでμ'sを応援してくれる人達がどんどん増えていった事実は変わらなくて、それがかけがえのないものだと分かっている。
「偶然流れてきた私達の歌を聴いて、何かを考えたり、ちょっぴり楽しくなったり、ちょっぴり元気になったり、ちょっぴり笑顔になってるかもしれない」
「そんなちょっぴりでも誰かを元気づけることができるのは、μ'sだからだろうな」
「だからアイドルは最高なのよ」
「うん……!」
雲で隠れていた月がやがて姿を現した。街灯りしかなかった景色に、月明かりが足されていく。
まるで足りなかったワンピースを埋めるかのように。
「私、スクールアイドルやってよかったー!!」
「どうしたのいきなり!?」
「いくら周りに学校以外何もないからって大声出すもんじゃねえぞー」
「だって、そんな気分なんだもん!」
いやどんな気分だよ。
本当に人気がなくてよかった。もしいたら苦情もいいところだぞ。何なら俺達が特定されて陽菜さんに説教喰らうレベル。
「みんなに伝えたい気分。今のこの気持ちを!」
「我慢ってのを知らねえのかお前は……」
「みんなー! 明日、精一杯歌うから聴いてねー!!」
言ったそばから大声出すのね君。もはや何も言うまいよ俺は。
こうなったら思う存分声出せばいいじゃない。俺知ーらない!
「「「「「「「「「みんなー! 聴いてねー!!」」」」」」」」」
「いやいやいやさすがに9人同時にそんな大声出したら誰かに聞こえちまうからやめろって! これで苦情来たら俺まで怒られるんだからな!?」
「もー、アンタは雰囲気ってのを知らないわねー」
「それとこれとは話が別ですぅー! 俺は保身主義者なんですぅー!」
「よく言うわ誰かのためだったら自己犠牲厭わないくせに」
「自己犠牲のつもりなんてねえわ! そんなことするヤツは本当のバカだけだっての!」
「あーはいはい。それじゃそろそろみんな戻るわよー。これ以上外にいたら風邪引いちゃうかもしれないし」
このやろう……ことごとく俺の話を聞きやしねえ。他のみんなもにこに従ってるし。あれ、これ俺の人望薄すぎない?
結局、俺は誰にも相手してもらえず部室に戻るのであった。
―――――――――――――――――――
「んじゃ電気消すぞー」
はーいと誰かの返事を合図に消灯する。
全員が布団にいるのを確認してから俺ももう片方の部室の布団へ向かう。さっきまでみんなで食事をしていた机も端に寄せれば1人分寝れるスペースは余裕で作れた。
「寒すぎるだろ……」
向こうはストーブがあるから暖房できているが、こっちは布団以外に何もない。つまり、めちゃくちゃ寒いのである。
いや地獄じゃん。これ超地獄じゃん。確かに女の子が優先されるべきなんだから仕方ないけど、それにしてもこれは寒い。
「さっさと寝たほうがいいなこれ」
寝てしまえば寒さも幾分か誤魔化せるだろうと思い布団にくるまる。
と言っても人が入る前の布団というものは冷たかったりするのが普通。こりゃ寝るまでちょっと時間かかりそうかねえ。
しかしそうなれば寒い現実といつまでも戦うはめになるのでやはり寝る努力を惜しまないのが俺だ。
そう、目を閉じて適当に考え事でもしていればいつの間にか寝ていて明日になっているだろ。
ということでさっそく何か考えてみる。
そういやこの部室って普段俺以外は全員女の子が使ってる部室なんだよな……。しかも制服から練習着に着替える時なんかもここを使っている。
……あ、あれ?
もしかして今俺がしていることって、よく考えてみれば女の子がメインに使っている部室で寝ている男子高校生ってことにならないか?
ちょ、ちょっと待て岡崎拓哉落ち着くんだ岡崎拓哉何だかいきなりこの部室良い匂いしてきたんじゃないか岡崎拓哉。
大丈夫かこれ。いや大丈夫だ。これはただ学校で合宿しているに過ぎないんだ。何もやましい気持ちなんて芽生えてはいない。
そう、これは、あれだ。あの、えっと、うん……大丈夫だ、問題ない。
……いや問題だ。よく考えても考えなくても問題しかなかったわ。ええい健全な男子高校生には刺激が強すぎますよこれ!
俺がそうやって寝ようにも寝付けない無駄な戦いをしている時だった。
穂乃果達が寝ている方からガチャッとドアをこっそり開けるような音がした。
落ち着け俺。きっと誰かがトイレに行こうとしているだけだ。だから仕方なくここを通るしかないだけなんだ。
いかん、さっきまで余計なこと考えてたせいで思考が危ない方向にいっているぞ。
寝るぞ。寝るぞ俺。いっそ気絶しろ俺。仮死状態になれ俺。気付けば明日になっててくれ。
寝たフリを必死にしていると、足音が俺のすぐ背後まで来た。
そして。
ゴソッと俺の布団に潜り込んできた。
なるほど、トイレじゃなかったのか。ただ俺の布団に入りたかっただけなんだな。それならまあいい。これで俺ももう少し温かくなれるってもんだ。
……………………………………………………………ん?
ゴソッと?
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!
えっ!? 誰!? μ'sの誰かだよねこれ!! 幽霊とかそんなオチじゃないよねこれ!!
ストーブあるあっちじゃなくて何もないただ寒いだけのこっちに来るとか正気の沙汰じゃないよ!
何なら俺がいると分かってて来るのも正気の沙汰じゃないよ!
ちくしょう、さっきまでがさっきだったから変になってるな俺。
一度深呼吸しよう。いやダメだ。深呼吸すると起きてることがバレる。ここは寝たフリを貫いて生殺し状態を耐えるしかない。
だがしかし。
もう一度だけよく考えてみよう。
わざわざ向こうから俺の布団に来るんだ。
そんなの気心知れたヤツしか絶対に来ない。つまりだ。
今俺の背後にいるのは幼馴染の穂乃果、ことり、海未の誰か。
そして海未は自分からこんなことはしてこない。きっとハレンチですとか言いながらビンタしてくるのがオチだ。
ならばことりか。
いや違う。ことりならまずたっく~ん♪とか言いながらイタズラ心満載で来るに違いない。
であれば消去法。
穂乃果だ。穂乃果なら昔一緒に寝たことも何回もあるから本選を明日に控えた今日くらい久々にいいだろうとか考えてるに違いない。それかただ単に圧倒的寝相の悪さでこっち来ただけか。
なら対処法は簡単である。
振り返って叱咤して向こうに帰すだけだ。
いくら穂乃果と言えどもう高校生の女の子。
さすがに思春期の男女が同じ布団にいるのはまずい。そのまま寝てしまえば明日起きたあとみんなに何を言われるか分かったものではない。
さあいくぞ。
振り返るぞ。
準備はいいか。
いつもの平静を装って淡々とした態度でせーの!
「なーに人の布団に潜り込んできてんだ。幼馴染だからってもうちょっと自分が高校生っていう自覚を持てよ穂乃―――、」
「拓哉ぁ……」
「…………ごめんちょっと待ってタイム」
振り返って声と顔を確認してからもう一度考えるため背を向ける。
……あれ、俺の目がおかしかったのかな。
穂乃果ってあんなに髪が金髪だったっけ。あんなに大人の色気ムンムンだったっけ。俺のこと呼び捨てにしてたっけ。
もう一度振り返ってみる。
「うぅ……何であっち向いちゃうのよぉ……」
そしてまた背を向ける。
オーケー。ちゃんと誰かは確認した。穂乃果じゃないってことも理解した。その上で何を言うのかも頭の中で整理した。よし、言おう。
「……えっと、こんなところで一体全体何をしているのでせうか絵里さん……?」
「……あぅ、その……寝ようとしてたらいきなりさっきの肝試しがどうのこうのって思い出して、急に眠れなくなったというか……」
「ああー……」
凛が冗談半分で言ってた肝試しするぞって言ってたやつか。
まあそれなら納得もいく。絵里は元々怖がりだし、実際さっきも俺が死にそうになるくらい怖がってたしな。
だからわざわざ寒くても俺のところまで潜り込んできたのか。
女の子がたくさんいるとはいえ、どうせ頼るなら男にってのも充分納得いくな。
「いやいやいやいや納得できるかっ。怖いって言っても屋上行く際も戻ってくるときもみんなと一緒だったろ。怖がる素振りとかなかったじゃねえか! そこらへんの説明責任を求めます!」
できるだけ小声でツッコむ。
一応平静を装おうと努力はしているが、如何せん絵里の今の姿は見慣れていないパジャマ姿だ。しかも1人分の布団に2人というあまりにも狭い状況で密着している。何このラブコメ展開。
「ほ、ほら、夏合宿のときもこんなことあったじゃない? 拓哉の部屋に私が行って暗いとこが苦手って打ち明けた時……。だから今回も拓哉のとこに行けば怖さも和らぐかなって……」
「そのせいで俺が今どれだけ理性という名のファイアウォールで守っているか分かってもらえると助かるんですが」
普段がしっかりしている絵里だから、こういう時に怯えた表情でしかも髪下ろしてパジャマ姿なのはとてもズルいと思います。目とか潤わせんな。上目遣いすんな。彼氏でもない俺にそんな態度許すな何でこれギャルゲーじゃないんだ選択肢出てこいよ!
「ね? す、少しだけだから、ここにいさせてほしいの……。安心したら向こうに戻るから……」
「……少しだけだぞ。気が済んだらあっちに戻ってくれよ頼むから」
「うん……」
再び背を向ける……わけにもいかないので仰向けになる。
今のところ平静を装ってはいるが、これってギャルゲーなら朝まで一緒に寝るイベント。エロゲーならそのまましっぽりイベントだよなあ。
とは思っていてもやはりこれは現実で。俺にそんな勇気も度胸も何もなくて。つまりは何も起こらないし起こせないのがリアルなのだ。決してヘタレじゃない。彼氏彼女でもないのにそんなイベントを起こすのがそもそもの間違いである。
そう、我は賢者なり。悟れ。脳内を菩薩化するのだ。
さすれば一片の煩悩も捨てさることができるでしょう。
「……ね、ねぇ……手、繋いでもいいかしら……?」
「……お、おう」
ヘーイ、一気に煩悩ぶり返してきましたよー。
逆転サヨナラホームランばりに持ち直してきちゃったよー。柔らかい女の子の手が繋がれてきましたよー。くそう、この娘、素でやってることだからなおタチが悪い。
「明日本選なのにそんなんで大丈夫かよ……」
「それとこれとは別なのっ……」
「さいですか」
俺が仰向けになっていて絵里が俺にくっついているという形になっているからか、絵里の髪からほんのりと甘い香りがする。何だこれ、新婚夫婦かよ。
恥ずかしさは当然ある。だけど、そのおかげか体温も上がっているのが分かる。いつの間にか寒さの感覚はなくなっていた。
「……やっぱり拓哉のそばにいると安心するなあ」
「惚れてもないヤツに安々とそんなセリフ言うもんじゃないっての……」
「え?」
「何でもねえよ……」
ボソッと呟いたのが功を奏したらしい。絵里には聞こえていなかった。
聞こえてたらそれはそれで問題だったが。
何だろうか。さっきまでは絶対寝れないと思っていたのに、手を繋いで絵里の体温を直に感じているとこちらまで安心してしまう。
寒さはもう感じなくなっていて、布団の中は人の温もりだけが支配していた。
やばいな……。急に瞼が重く感じてきたぞ。
絵里が安心できるまでは俺も眠らないほうがいいのに。
自然と、睡魔に……負け……て。
「ふふっ、ありがとね、拓哉。あなたのおかげで安心できたわ。それに、本選前に2人だけの良い思い出も残せてよかった……」
そんな声も、俺にはすでに聞こえていなかった。
微かに頬に触れた何かの感触も分からないまま。
ラブライブ。
本選を迎える。
さて、いかがでしたでしょうか?
自分は2年組が大好きなんですが、その次に好きなのが絵里なのです。
だからどうしても彼女達を贔屓してしまう←
書かれていないところでは他のメンバーも頑張ってアプローチしていると思ってやってください(笑)
次回はとうとうラブライブ本選!
いつもご感想高評価ありがとうございます!!
これからもご感想高評価(☆10)お待ちしております!!
『悲劇と喜劇』は今週投稿できるかどうか怪しいかも……?