「第一回! μ's限定ガールズトークーーーっ!」
割とでかい部屋、というか間違ってハネムーン仕様に彩られている室内で絵里が声を上げる。
おバカ数人がわーと言いながら軽い拍手をしていれば、ちょっと戸惑っている花陽やツンとしている真姫も連れて来られていた。
「で、いきなり部屋に呼ばれたと思えば何このひと昔前の深夜番組にありそうなコーナーは」
「さあ……何か珍しくエリチが鼻息荒そうにテンション上げてるから気になって来たけど」
同じ部屋だった真姫と希が絵里を見て感想を漏らす。
間違って酒入りのお菓子でも食べて酔ったのかと思ったが顔も赤くないしそれはないだろうと結論付ける。
最終的に同部屋の穂乃果とにこに疑問という名の視線をぶつけると、すぐさま察した穂乃果が説明に応じてくれた。
「絵里ちゃん達と寝るにもまだ22時だし早いかなーって話してたんだけどやることなくてどうしよっかってなってたら、こういうどこかでお泊まりするときはガールズトークが定番だよね~って話してみたら絵里ちゃんがノリノリになっちゃった☆」
「なっちゃった☆じゃないわよ! そんな軽いノリで呼ばれたの私達!?」
「まあまあ、エリチも何だかんだアメリカってことで内心楽しみにしてたんやろうし、テンション上がってたんとちゃうかなあ。ほら見てみ、エリチの瞳の中にお星さん見えるやろ?」
「あれでシラフなんだから信じられないわよもう!」
依頼のためとはいえやってきたのは大国アメリカ。
クォーターとはいえ長年日本にいたのでいっぱしの日本人気質な絵里だ。ただの女子高生がアメリカに来て楽しみがないわけがない。……海未は例外だろうが。
「でもガールズトークって言っても何を話すのかな?」
「いいわね、みんな」
花陽の疑問の言葉に絵里が普段みんなをまとめるような声音で答える。
目は真剣。なのにどこかワクワクを隠しきれていない表情で指を立てて言う。
「旅行と言えばガールズトーク。ガールズトークと言えば恋愛話。恋愛話と言えば恋バナよ!」
「最後のイコールいる?」
「ただの略称だにゃー」
「こ、恋バナっ……ですか……?」
「そう! 女子高生が旅行先の夜に華を咲かせるのは恋バナと相場が決まっているの! それに私達ならきっと会話が弾むこと間違いなしだもの」
ちょっとしたキャラ崩壊が起きているのではないかと思うほど張り切っている金髪美少女。
するとそこで意外に賛同の意を唱える者がいた。いざという時みんなのお母さん的役割をもつ世界の矢澤にこである。
「まあ、これも良い機会だと思ったのよ」
「良い機会?」
「ええ。おそらく、いいや、断言するわ」
自然と円の形にμ's全員がなる。
にこの言うことが何となく分かるからだ。
そして、これが初めて確認することであるのも。
「μ's全員が、拓哉が好きだってこと」
派手に驚くことはない。
何せ言うことが分かっていたから。
それでも、リアクションは人それぞれなのも確かであった。
自分の想いを再確認する者、改めて思うと顔を赤くする者、堂々としている者と、三者三葉の表情が散りばめられている。
「否定も反論もなし。やっぱり穂乃果の予想通りになったわね。まあ薄々みんなも分かってただろうけど」
「私とことりちゃんと海未ちゃんはずっとたくちゃん一筋だからね! それに長年好きでいるからか、みんなのたくちゃんを見る目がどんどん変わっていくのも分かってきたし」
「まあ、たっくんなら無理もないかなあって」
「拓哉君のそばに異性の方がいればほぼ100%ですからね」
何が100%なのかは聞かないでおくとして、やはり小さいころから片想いをしているからか幼馴染組のメンタルはダイヤモンドレベルだった。
近くにいれば何かしらがあって少年に恋してしまうことも仕方ないことだと、もはや呆れさえ感じてしまうほどの正妻感を漂わせている。
「そっ、だからこの際はっきりみんなと話しておいたほうがいいんじゃないかって思って私も賛成したの」
「にこちゃんが賛成なんて珍しいにゃ」
「幼馴染の穂乃果達は言わずもがなだけど、私達だってあいつともう1年近くの関係よ。お互いそれぞれのアプローチをしてもあの唐変木野郎は気付かないし、愚痴の一つや二つも溜まってるでしょうから今日くらい吐き出しても構わないでしょ」
「「「「「「「「それは言えてる」」」」」」」」
ガールズトークで惚れてる相手の話をするのに何だか飲み会でもあるような愚痴大会が繰り広げられそうな予感しかしない。
とりあえず最初の確認として絵里が先頭を切った。
「もう一度確認しておくけど、ここにいるみんな拓哉が好きなのよね? 異性として」
各々が首を縦に振る。
違う男子を好きになってガールズトークはよく聞くが、9人共同じ男子が好きでガールズトークなんてちょっとした異常なのは言うまでもない。
「ちなみに拓哉は今どうしてるのかしら?」
「あ、たっくんなら今またシャワーでも入ってるんじゃないかな? さっきまで私と海未ちゃんとババ抜きして最終的に海未ちゃんに振り回されてたから……物理で」
「どうやったらババ抜きから物理的にジャイアントスイングの流れになるのよ」
「いつまでも勝てない私を煽ってくるものですからつい……」
「たくちゃんご愁傷様すぎるよ」
さっそく隣部屋の想い人の心配になるが、煽って振り回されたのなら一応自業自得なので放っておく。
「でもお風呂上がりのたっくん、何だか男の人特有の色気があって良かったなあ~」
「何それ詳しく」
「いつものツンツンしてる髪がちょっとだけ垂れてて~、緩みのある黒いシャツから見えそうになってた胸元に何回も視線持ってかれちゃったよ~」
「ことりちゃん、ブツは?」
「大丈夫、こっそり隠し撮りしといたから。最高のアングルで」
「ナイス」
何気に盗撮している衝撃的事実が暴露されたがそれを気にする恋する乙女達ではない。
μ's9人だけのグループ内トークアプリから拓哉隠し撮り写真が貼られてそれを恍惚とした表情で見る9人は、決して女神と言えるものではなかったりする。
そして話は本題へ。
普段はツンとしている真姫が意外と素直に話へ参加する。
「ところで穂乃果達は他の女の子が、例えば私達が拓哉を好きになっても何とも思わなかったの?」
「うーん……元々私達がお互いたくちゃんを好きになったのが小さいころだったから特に嫉妬も敵対意識とか何もなかったかなあ」
「そのことに私達も気付いてたし話し合ったこともあったけど、結局は3人で頑張ろうね~みたいな。あわよくば3人共たっくんとお付き合いできればいいねみたいな」
「まあ拓哉君の鈍感癖は今も昔も変わらないので、他の女の子に言い寄られても自分が好意持たれているという認識に一切辿り付かないのが不幸中の幸いでもありますね」
「ことりちゃん最後ぶっこんできよったな」
話を聞いているとこの3人の達観振りというか、悟りの境地を開いている感が凄まじいのを改めて思い知る。
長年あの少年の幼馴染をしていると色々苦難がありそうな気がしてならない。
「そりゃあ見知らぬ女の子とたくちゃんが仲良くしてたら嫉妬しちゃうけど……絵里ちゃん達はもうたくちゃんと親密な関係っていうか、私にとっても大事なみんなだからむしろ嬉しいんだ~」
「案の定みんなたっくんのこと好きになったから仕方ないなって。だからいっそ9人共たっくんとお付き合いできればいいねって思ってるよ」
「というよりもすぐ近くに9人もの人物に好意を持たれてるのに気付く気配ないのない拓哉君にそろそろ苛立ちすら覚えてます」
「後半2人の考えが何かズレてる気もするけど……一理あるわね」
いっそ9人同時にくっつけばハッピーエンドになるのではないか。
そんな男としての威厳も法律すら笑顔で無視しようとすることりだが、大事な誰かが報われない結末を見るのが嫌なくらい大切に思っていることの証でもある。
なのにこのままじゃ誰一人報われず高校生活を終えることになりそうなほど鈍いあんちくしょうに苛立ちを覚えるのも分かる。
そういう意味でのガールズトーク発案でもあったのだ。
「そもそも! 全部把握してるわけじゃないけどみんなそれぞれ拓哉にアプローチしてることくらいは分かるわ。なのにあのクソヤローはドギマギするだけして全然気付かないのはいったいどういうことなのよ!」
「確かに……私も夏合宿の時の夜に少しアプローチしてみたけど何もなかったし、ラブライブ前夜の時も拓哉の布団に潜り込んだのに特に相手されなかったわね……」
「私だって夏合宿の時さりげなく好みの対象とか聞いたし、たまに家に来てこころ達と遊んで家族ぐるみの付き合いしてるのに何とも思われてないって何よ! あいつ女子に興味ないとかじゃないでしょうね!」
「女の子ばかり出てくるアニメとか大好きだしそれはないと思うけど2人共今さりげなくとんでもないこと暴露したよね!?」
爆弾発言投下したにも関わらず本人からは弁解も何もない。
おそらく恋バナという名の愚痴大会に熱が入っているようだった。
「凛もドレスの衣装着たときたくや君から求婚されたけど、あれはきっとたくや君のいつものジョークなんだよね……。あー、何だかそういうの分かってきたらムカついてきたにゃー!」
「拓哉くんいつも私を優しい花陽だけは味方だとか言って期待させてくるけど、実際は助け船としか思ってくれてないんじゃないかって不安になったり……」
「私のパパはもう完全に拓哉を婿に迎え入れるつもりなのに全然音沙汰ないって言ってたし、あのバカはそういうとこだけ生真面目に逃げるのよねえ」
とうとう1年組からも不満の気持ちが溢れてくる。
ガールズトークとはと言われれば、おそらく誰もがこう返すだろう。これはガールズトークなどではなく、一種の昼ドラなのではないかと。
「ウチはいつもちょっとしたおふざけで夫婦漫才みたいなことしてるせいで、本気のときも拓哉君からしたらただのコントやと思われてそうやなあ」
「私は何故かいつもバトルになります」
「私も天使天使としか言われなくて、もう人間として見られてるのかすら危ういよ?」
「私なんか良い雰囲気になったりすることも何回かあったのに、結局はいつもバカにされたりで進展のしの字もないよー!」
結論、あのクソヤローはヘタレクズということになった。
既に華のあるガールズトークなどどこにもなかった。
「でもさ」
それでも、どれだけ愚痴を吐いても、不満ばかり出ていても、気付かれる気配もなく相手にされているかどうかさえ分からなくても。
「みんなたくちゃんのこと好きなんだよね」
この気持ちに揺らぎなんてあるはずがない。
そんな簡単にブレるほど、『好意』というものを甘く捉えているわけではない。
それぞれがそれぞれに理由があって、岡崎拓哉という一個人に好意を持った。
理由の大小などは関係ない。人を好きになるのに変な理屈や道理はいらない。好きになったから好きでいる。それだけでいい。
よく一緒にいるから愚痴が零れる。
いつも喋っているから不満が出てくる。
アプローチしているから不安にもなる。
結局は全部裏返してみればこれなのだ。
好きなところが10個あれば嫌いなところも10個あるように、表も裏もあってこその好意。
それをこの9人は充分理解している。
ゆえに競争関係であり、協力関係でもあるのかもしれない。
いいや、いっそ9人全員が報われることこそ全員の願っていることなのかもしれない。
それほどに、一人の少年を好いているのだ。
「よし、せっかくアメリカに来たんだからこの機を逃す手はないよ! ここにいる間にみんなたくちゃんと少しでも進展するようにがんばろー!!」
「少しでも良い雰囲気になってアタックするしかなさそうだものね、あのバカ相手には」
「私にもできるかな……」
「かよちんもたくや君が好きならきっと大丈夫にゃー!」
「各自自分の好きなようにして拓哉と接近。進展するためにも頑張りましょう」
今ここに9人の結束が固まった。
同じ者を好きになり、けれどお互いの健闘を祈る。
全員報われることを願う9人は、世間からすればおかしいのかもしれない。
でも。
だけど。
これはどこにでもいる『普通』の女子高生達。
恋する乙女として当然で。
そして友として普通で。
どこまでも平凡な願いでしかなかった。
そして当の本人はといえば。
「シャワーから上がってみれば隣の部屋から賑やかな声が聞こえてくるけど、9人で集まってんのか? うーむ、アメリカに来たんだし女の子同士で積もる話でもあるのかもしれないもんなあ。ここで俺が空気読まずに部屋に突っ込めば今度こそ海未に殺されそうだし……今回は大人しく寝るか」
割と当たっている推理で危機回避していた。
さて、いかがでしたでしょうか?
今回は完全オリジナル回のガールズトークでした。
好き勝手言い放題の彼女達は書いてて楽しかったです。
さあ、彼女達はどうアプローチしていくのか。そしてそれはヤツに響くのか……って感じですね!
いつもご感想高評価ありがとうございます!!
これからもご感想高評価(☆10)お待ちしております!!
海未ちゃん誕生日おめでとうございました(過去形)