本編も150話に入りました。
自分でも凄いなと少し思ってます。
「……、」
各々が見たいところを見ている今、岡崎拓哉は一人先ほどの感情について考えていた。
(何だったんだあれは……。あんなに胸が締め付けられるような感覚になったのは今までなかったのに)
不思議と嫌な感覚じゃなかったのは覚えている。
むしろ高揚感にも似た、どちらかというとプラスの感情かもしれない。
(穂乃果と海未が普段と違う服装をしたから? それだけであんなドキドキするもんなのか? あいつらが元々可愛いのは知ってることだし、別段驚くことでもなかったはずだ)
そもそもだった。
今日の穂乃果達の様子は何だかおかしいと思っていた。
変に過剰なスキンシップをとってきたり、彼女達が普段あまりしないようなことをしてきたからか、自分も今日はどこか変に感じているだけなのだろうか。
というよりも先に、自分の思考に疑問が生じた。
(……ちょっと待て。ドキドキ? 何で俺がドキドキしてるんだ。少女マンガじゃあるまいし、ましてやドキドキなんて今までだって何度もしてきただろ)
穂乃果達の衣装や、幾度となく彼女達と接してきたから自覚はある。
今までだってそういうときに何度も体が熱くなるような感覚にはなっていた。いわゆる照れや胸の高鳴りともいう。
唯や桜井夏美と接しているときだった何度か経験したこともある。
だから慣れてはいないが覚えのある感情だと思っていた。
なのに。
今までにないほど心臓が跳ね上がっていたのが何故だか分からない。
(どういうことなんだよこれは。胸がドキドキなんて……これは……これって、もしかして……)
岡崎拓哉は恋というものを知らない。
今まで誰かと付き合ったこともモテたこともない(自称)のだから、誰かを好きになるという感情をよく理解してすらいないのは当然だろう。
アニメやマンガが好きだからといってそれを全て理解できないのと同じように、いくら恋愛マンガを見て同じ状況になったとしても、主人公とそれを読んでいる自分自身が必ず相手に同じ感情を持つわけではないのだ。
だからこんなに動悸が激しくなることも初の経験だった。
つまり。
(不整脈の恐れがあるのでは!?)
バカだった。
生粋のバカであった。
(変に動悸が激しくなるのは何かしらの病気かもしれないって何かで見たことあるし、放っておいたらまずいやつなのか……? 穂乃果と海未の服装を見て変な感じになったのもそれが原因かもしれない……? これは一度医者希望の真姫に聞いてみたほうがいいか?)
聞いたら間違いなくバカと言われビンタされるオチが待っているだろうが、それを分かる少年ではない。
もしそんなことが自分で分かっていたら穂乃果達だってそんな苦労しないはずなのだから。
「そういえば不整脈の他に胸がドキドキするって違う言い方があったような……何だったっけ……ドキがムネムネ?」
「何クレヨンな幼稚園児クラスに戻ってんのよアンタは」
「にこか」
独り言が聞かれたことよりも何故ここにいるのかという疑問が先に勝った。
確か先ほど希と違うところにいたはずで、拓哉とは別行動していたのに。
そんな疑問が視線に現れていたのだろう。
言葉に出すより先ににこがそれを読み取って解答した。
「別に、見るもの見たし希と外に出たらアンタが見えたから来ただけよ」
「そゆことやで~」
「さいですか」
まあ理由としては妥当なとこだろう。
にこと希が戻ってきたところでさっきの思考を一旦放棄する。
「ところで何あれ?」
にこの指差すほうへ視線を向けると、そこには横に吊るされた紐が連なっているところに2足の靴がまた結ばれていて、それを横に吊るされている紐にぶら下げられていた。
自分のことで頭がいっぱいになっていた拓哉はその存在に気付くこともなく今ようやく視認した。
「ハロウィンの時なんかに街の人がイタズラでやるんだって」
「新手のイジメじゃねえかそれ」
「ウチらもやってみる?」
「できるの?」
「なあ話聞いてた?」
拓哉の言葉も空しく、希はにこの足元をずっと凝視していた。
この時、にこもはっきりやらないと断っておけばよかったのに、興味本位で言ったのが不幸の始まりだった。
「任せといて~」
「え?」
「は?」
そこからは何とも言えない早業だった。
何故かいきなり拓哉ににこをおんぶさせ、そこからにこの靴を両方奪った希は即座に鞄から紐を取り出して2つの靴を離れないように結び付けた。
そして一つの完成形になった靴は希の正確な投球によって、綺麗に他の吊るされている靴と同じところへぶら下げられている。
この間およそ30秒。あまりにも唐突で何が起きたかよく分かっていないにこはようやく自我を取り戻す。
「あー!! 私の靴ー!!」
「いや遅いな反応。てか俺も流れに任されておぶらされてるんだけど」
「ほなな~」
「「いや待てい!!」」
見事なハモりが希の足を止めさせる。
いくらなんでもこの状況で放置されるのはまずい。というか常識的に考えてまるでこちらに非がなく、非がある希を止めるのは当然の行為だった。
「どしたん?」
「どしたん? じゃねえわ何普通に移動しようとしてんの!? あまりにも自然な言葉すぎて一瞬何でもないって言いかけたわ恐ろしいなお前! というか背中の荷物どうにかしろよ俺が疲れるんですけど!!」
「人の靴取れない場所に投げといてよくもまあ放置できるわねアンタ! これじゃ私ずっと裸足状態じゃないどうしてくれんのよ! あと荷物とか言うなこのバカ!」
「いででででででででで」
少年の耳を引っ張るにこはさながらちょっかい好きの幼女に見えなくもない。
それを見ながら希は一言。
「靴下は履いてるから裸足ではないで」
「そういうことじゃないから!! これじゃ外で歩けないって言ってんの!!」
「あまり背中で暴れないでくれませんかねお嬢ちゃん。バランスとるこっちの身にもなってくれよ」
「お嬢ちゃん言うな私のが年上よ!!」
「はあ、しょうがないな~」
まるで兄妹のように騒ぐ2人へ近づく。
何事かと希を見る2人だが、にこを支えるために両手が塞がっている拓哉の両耳を塞いだ。
「?」
「にこっち」
「何よ……」
目の前の少年が何も聞こえてないのを確認すると、さっきのイタズラっぽい笑みとは違う笑みで希は言った。
「何でウチがこんなことしたか分かる?」
「知るわけないでしょ。嫌がらせか何かじゃないの?」
「全然違うんやけどな……」
さすがに3バカの一人であるにこには直接言わないと伝わらないらしい。
ということで直球で言うことにした。
「靴がなくて歩けないにこっちは靴が必要で、それまで運んでくれる人も必要。つまりは靴を新しく買うことになるけど、そのあいだは拓哉君と2人や。あとは分かるね?」
「合点承知」
究極の手のひら返しが展開された。
ここまでちょろいのもどうかと思うが、目的が目的なだけあってあっさり怒りを収める。
そこまでいって希は拓哉の耳を塞いでいる手をゆっくりと離す。
「何の話してたんだ?」
「拓哉君、あの靴はもう取れないから新しい靴買わないとダメなん。だからにこっちに付き合ってあげて」
「え、何で俺が―――、」
「ええいさっさと行くわよ拓哉! 私をおぶってるんだからそれぐらいしなさい!」
「おぶってるというよりかは無理矢理おぶらされたんだけどそこんとこどうなんですかね!?」
どうやら自分の意見は受け入れられないらしい。
手を振りながら去っていく希を見つつ世の理不尽を垣間見た拓哉は仕方なくにこをおぶって歩き出すが、如何せんどこへ行けばいいのか分からず再び立ち止まる。
「なあおい」
「何よ」
「……いったいどの店に行けばいいんだこれ。さすがに周りの店を把握してるわけじゃないからどこに靴売ってるとか知らないんだけど」
「……、」
背中から返事は来なかった。
沈黙ということはにこも知らないのだろう。あいにく先ほど行ったことりの店からはだいぶ離れていて今から戻るのは難しい。
「仕方ない。適当に歩いてれば靴売ってる店くらいはあるだろ」
「そうね。んじゃよろしく」
「もうちょっと感謝の気持ちはねえのかお前は……」
幸い周りを見渡せば店は山ほどある。
だからその中を見てまわれば割とすぐに見つかるんじゃないかとは思っている。
ただ日本人の男女がおぶりおぶられの状態で街を徘徊している様子は傍から見れば不審感極まりないだろう。
これはさっさと店を探し出す必要がある。
「……なあ、にこさんや」
「何よ改まって。夏合宿前のときみたいにさん付けになってるけど」
「この際おぶるのは仕方ないと割り切ったけど、その、俺にもたれかかりすぎではなかろうか」
何だか体重を完全に預けられているような感覚がしてならない。
唯や穂乃果ならまだしも、他の女の子とはあまり密着したことがない拓哉にとっては少し刺激が強かったりするのだ。
「別にいいでしょ。それとも何、アンタは女の子をおんぶしておいて重いとか言うクチ?」
「いやむしろ全然軽いんだけど、ほら、やっぱり一応俺達は男女なわけでして……当たっちゃ困るモノと言いますか、理不尽な言いがかりでとんでもないことになりそうな予感がプンプンしてですね」
「あー」
今更思い付いたように声を上げるが、もちろんこれはにこがわざとやっていることだ。
やはりにこの推測は当たっていた。
以前の少年なら何も気にせずにいただろうが、いいや、気にしていたとしてもデリカシーのない発言をしてくるのすら予想はしていた。
けれど今の少年はむしろ男子特有の反応をして初々しさすら感じる。
数十分前に穂乃果と海未を見て何だか様子がおかしいと思っていたが、予測は正しかったようだ。
自覚しているかしていないかは分からない。だけど彼の自分達に対する認識が少し変わっているのは確かに分かる。
ならば、少しは大胆になってもいいのではないだろうか。
「気にすることないわ。わざとだし」
「……はい? わ、わざと?」
「どうせ当たるような大きさじゃないんだし当たってもよく分かってないでしょアンタは」
「ふむ、それは確かにあるな。にこのならそこら辺にいる男子と変わらごごごごごごごごごごッ!?」
「やっぱりデリカシーってのが足りてないわねアンタは!! 少しは社交辞令とか言えないわけ!?」
拓哉的には当たるモノより密着度のほうを気にしているのだが、やはり女の子が気にするところはそこだったらしい。
首を絞められているせいか社交辞令を言う前にこの世界から辞令を出されかねない。
「し、死ぬかと思った……」
「一回死んだほうがその唐変木も直るんじゃない。ほら、落ちろ」
「首絞められても決して落とさない俺の優しさは無視ですか」
一方的な罵倒が拓哉を襲う。
正直、何とも思っていないわけではない少年だったが、それをにこに勘付かれるとまた厄介なことになりそうなので黙って歩く。
(くそっ、俺だって意識してるに決まってんだろ。ただでさえ今日は変なのに余計調子を狂わされてたまるか。いつもみたいにボケたおかげでバレてはないけど、そのせいで死にかけるのもアレだな……)
そう、実際めちゃくちゃ意識していた。
胸の大小なんて拓哉からすれば些細なことに過ぎない。
そもそも夏合宿のときににこと話したはずだ。
好きになったら胸の大小なんて関係ないと。それをにこが覚えているかは分からないが、嫌ってもいない女の子とこんなにも密着すれば嫌でも意識はしてしまう。
「あっ、あそこ女性用の靴置いてあるわよ。行きましょ」
「はいはい」
「……、」
「……ちょっと? あんだけ言っておいて何でまた密着してきてんだよ。今度は首に手まで回してきて嫌がらせか何かか。冤罪だけはごめんだぞ」
「うるさいわね~。そんなに私にこんなことされるのが嫌なの?」
「……や、別に嫌ってわけじゃ……」
ただ恥ずかしいだけなのと変に意識してしまうのだが、返事に力がこもっていなかったのがいけなかった。
にこはそれを聞いて思わず口角が上がるのを感じた。当然、おんぶしている拓哉からは見えない。
「だったら黙ってあの店に向かいなさい。にこにーは楽をしたいの」
「ったく、思いっきり走ってやろうかこいつ……」
そんなことは言っても決して走らないのが少年の優しさだった。
たったそれだけの気遣いが、にこの気持ちをどんどんと昂らせていく。
きっとあの店に着けばおんぶは終了。
こんなに密着することはもうないんじゃないかと思うと、若干の寂しさが出てきてしまう。
だから少女はそっと少年の首に手を回し、全信頼と共に体重を預ける。
ピクッと反応した少年に可愛らしさすら感じて、先ほどまでの喧騒すら忘れて愛おしくなった。
ほんの少しの残された時間を、少女は永遠に感じていたいと思いながら堪能する。
(希には感謝しないとね)
対して、少年もこう感じていた。
(心臓に悪いとはまさにこのことだな……)
気持ちの変化なんて、些細なことがきっかけで変わるものなのだ。
さて、いかがでしたでしょうか?
希のサポートあってにこのアタック(?)が炸裂します。
次回はにこの靴選びから始まると思います!
いつもご感想高評価ありがとうございます!!
これからもご感想高評価(☆10)お待ちしております!!
オリジナル要素は書いててとても楽しいですね。