「う~む、迷うわね」
「そんな悩むことか? 靴選びなんて大体それっぽいの選べばいいだけだろ」
「アンタのセンスを疑いたくなるけど見た目が様になってるから余計腹立つわね」
名残惜しいおんぶという密着度MAXの時間は終わり、今は靴を専門で売っている店の中でにこが色々吟味していた。
女物の服装があったらアレだが、ここは靴のみを売っているので男一人の拓哉が付き添いでいても何ら肩身狭さはあまり感じない。
「アンタみたいな感覚派は知らないけど女の子は見た目が肝心なの。小さなアクセサリーや身だしなみの一つで抱かれる印象が違うんだからしょうがないでしょ」
「そんなもんなのか?」
「女の買い物は長いってよく言われるでしょ。それにだってこういったちゃんとした理由があってのことよ。たった一つのアイテムが見栄えを左右するの。だからこうやって色々じっくり見ながら自分に一番似合いそうな物を選ぶのよ」
「店員に借りて履いてるスリッパがなければもっと良かったんだがな」
「それは希が私の靴を放り投げたのが悪いのであって私は悪くないわよ!」
入店したら迎え入れてくれた女性店員が驚きの表情を浮かべていたのは記憶に新しい。
英語は全然喋れないが、ジェスチャーとド下手な英語だけで事情を理解してくれた女性店員の察しの良さと優しさがとても身に染みた。
そんなこんなでにこは店用のスリッパを借りて店内で散策しているのだった。
とは言ってももうかれこれ20分は経とうとしている。見ての通り拓哉は女の子ではなく男なのでさすがにそろそろ退屈さが出てくる。
「なあ、そろそろ決めてぱっぱと買おうぜ。他にも見ときたい場所とかあるんだろ。靴選びに時間ばかりかけてちゃ足りなくなっちまうぞ」
「……、」
返答がない、というよりは何かを考えている様子だった。
どれにするか決めたのかと思った矢先、にこはこちらをチラチラと見たり見なかったりしながら口を開く。
「……じ、じゃあ、拓哉が選んでよ……」
「あん?」
「聞こえなかったの!? アンタが私の靴を選べって言ってるの!」
「いや聞こえてたけど意味が分からなかったんだよ何で俺がお前の靴を選ばなきゃいけねえんだよ!」
「あ、あれよ! 私だとまだ時間かかっちゃいそうだし? それで時間潰してしまうのも悪いし? だったら拓哉に手っ取り早く選ばせてあげようって話じゃない?」
「何で最後上から目線なんだよ」
明らかに拓哉が選んだ靴なら嬉しがってどれでも履くような表情を隠しきれていないが、それに気付く少年ではない。
「……まあ、にこがそう言うなら選ぶけど、あとで文句とか言うなよ? さすがの拓哉さんも女子アイテムのセンスは分からないからな」
「そんな期待もしてないからいいわよ。アンタの感覚で選んでくれていいから」
ならさっきまでのじっくり吟味は何の意味があったんだとツッコミたいが言わないでおく。
これで少しでも時間が短縮できるならさっさと選んでしまったほうがいいだろう。
20分は経っているが、にこの横で何となく一緒に靴は見ていたので大体の感じで並べられている商品をもう一度だけ見直していく。
さすがにさっき女の子はアイテム一つで見栄えが左右されると言われれば適当に選ぶわけにもいかない。
けれどそんなに時間をかけるわけにもいかないから本当に感覚で無難な物を選ぶほかないのだ。
「へえ、適当に手伸ばして決めるのかと思ったけどちゃんと見るのね」
「うっせ。あんなこと言われちゃ俺だって考えるわ」
悪態付きながらも視線は並べられた靴に向けられている。
そういえば、先ほど希に投げられた靴が白かったのを思い出す。
ファッションに疎い拓哉でも、靴は何気にファッションの全体を担う役割を持っていることくらいは雑誌で見たことある。
ある意味において靴は全体的なファッションの顔なのだ。
そしてファッションにおいて白のアイテムは基本的に何にでも合うと言われている。
白いシャツの上に上着を羽織ればとりあえず様になるように、いわば万能的な色と言えよう。
つまり、何泊もするなら当然衣服は数着必要になり、またそれによって気にする人はファッションに見合う靴も考えないといけない。
その上でにこは選んだのだろう。白い靴ならほとんどの衣服もオシャレに見えると。
結論、白い靴を選べば自分もにこも安牌。
そんなわけで数ある白い靴からどれか一つを選ぶところまで進展した。
「……あ」
意図もせず口から漏れ出た音はにこには聞こえていなかったらしい。
視線の先にあるのは白ではあるがほんの少しピンクの色が入っているレースアップシューズだった。
特に飛びぬけた派手さもなく、何なら他のシューズとさほど変わりないようにも見えるが、何故かその靴から目が離せない。
「どうしたの? 決まった?」
「……ああ、決まった」
感覚。
と言ってしまえばそれで終わりだろう。
だけど、数ある商品の中からにこに一番似合うのはこれだと、直感でそう感じた。
その靴を手に取り、にこへ見せる。
「これがアンタが感覚で決めたってもの?」
「いや、どうだろうな」
「? どういうこと?」
「いつもならそういう風に決めるけど、これに関してはこれだって直感でそう思った」
「何をどう思ったのよ」
「決まってるだろ。お前に一番似合いそうだって思ったんだよ」
「なっ」
何故自然にそんなことが言えるのかと、にこは顔を赤くさせながら決して少年から見えないように顔を下げ靴だけを見る。
拓哉からすれば不格好な物を選ぶより当然似合う物を選んで当たり前だろうという気持ちで選択したのに違いない。
ただ、
ましてや、惚れている異性に言われるとなると尚更だ。
確かによく見てみればこのシューズはにこのイメージカラーであるピンクが少し入っていて可愛らしいと言えよう。
それを含めてこれを選んでくれたという事実が少女をまた赤面と高揚感へと感じさせる。
「おっ、これ中に低反発クッションとかあって疲れにくいらしいぞ。今日はまだまだ歩くしちょうど良いんじゃね」
「……いや、ほんとさすがだわアンタ……」
「何がだよ。褒めてんのか。直感で機能性も抜群な靴を選んだ俺を褒めてるのか」
雰囲気ぶち壊しもいいとこだが、よく考えてみれば疲れにくいという点では今非常に求めている一品でもある。
それに少年が選んだという事実があるだけで、結局にこは何でもよかったのだ。機能性や見た目なんておまけ程度にしかならない。
「じゃあこれにしようかしら。サイズもこれで合ってるし」
「分かった。んじゃ買ってくるからそこのイスに座って待ってろ」
「え?」
「ん?」
買いに行こうとしたところでにこの素っ頓狂な声で足が止まる。
認識の齟齬が生まれた瞬間だった。
「いや、何で拓哉が買おうとしてんのよ。私の靴なんだから私が買うのが当たり前でしょ」
「何言ってんだ。仮にも靴を選んだのは俺だぞ。値段見てみれば割とするし、ここは選んだ俺が買うのが当然だろ」
「それがおかしいって言ってんの! アンタは何も悪くないんだしただ靴を選んだだけでしょ!? お金払う理由なんてどこにもないじゃない!」
「だから高いのも知らないで値段も見ずに俺が選んじまったから責任取って払うっつってんだろうが!」
「そんな責任取らなくていいのよ別に! ……まさかアンタ、他の女の子にもこういうことしてるんじゃないでしょうね!? これだから唐変朴念仁なのよアンタは!!」
「変な略し方してんじゃねえよ何だその理不尽なあだ名は! というか論点変わってるじゃねえか!!」
痴話喧嘩に見えなくもないやり取りを女性店員が困惑した表情で見ているが、バリバリの日本語なので雰囲気でしか感じれないオーラに喧嘩を止める術すら分からなくて戸惑っている。
そんな店員の精神が削られているあいだにも日本人男女はヒートアップしていく。
「そもそもアンタのそういうとこが女たらしの原因の一つなんだからもう少し注意したらどう!? そんなんじゃいつか愛想尽かれるわよ!」
「愛想尽かれるほど誰かからモテたことなんて一度もないですぅー!! 女たらしなんて俺には似合わなすぎて反吐が出るわ! 何なら女たらしになってみたいぐらいだわちくしょう!!」
「こ、の……本当に罪深い男ねえアンタは! それで何人の女の子泣かせてきたのよこのクズ!!」
「いや話聞けや!! これ以上言われると俺の男としての尊厳が踏みつぶされ過ぎてそろそろ泣くぞこら!!」
もう論点のすり替えどころの話じゃなく、ただの痴話喧嘩になっていた。
悲しき口論の末、拓哉の女性経験ゼロというとてもとても悲しい事実だけが浮き上がってきていて何なら勝敗はもう決まっちゃっていた。
大声で言い合っているせいか二人の息は荒く、どちらもお互いを牽制しながら睨みあっている。
数秒の沈黙を破ったのは岡崎拓哉だった。
「はあ……はあ……こうなったら、あっちむいてほいジャンケンで決めようぜ」
「はぁ……はぁ……いいわよ。それなら文句もなしね」
ジャンケンには勝つ法則があるとかないとか囁かれているが、結局は運の確率が大きい。
だからあっちむいてほいなら運というよりも相手の顔の予備動作を観察していれば勝てる可能性もでかくなってくるのだ。
「「じゃんけんぽん!!」」
勝ったのは拓哉。
むしろここからが本命なのでまだ油断はできない。
にこはできるだけ予備動作をしないように拓哉の指先だけを睨む。
拓哉はにこの顔を見てじっくりと観察しながら、決めた。
「いくぞ。あっちむいて……ほぉぉぉおおおおおおおい!!」
思わず勢いで目を閉じて右へ顔を振り向けたにこ。
拓哉が指先を向けたのは下。
というわけでもう一度じゃんけんからし直す。
はずだった。
「っしゃいただきぃー!!」
「……ん? え? ……っはぁっ!?」
にこが反射的に目を閉じて違う方へ向いたのがいけなかった。
いいや、ルール上それはして当然なのだが、拓哉がとった行動がルールの範囲外だったのだ。
にこが振り向いた瞬間に拓哉は靴を持ったままレジへと直行。
それに気付くのが数瞬遅れたにこはあまりの驚愕に行動を移すのができなかった。
つまりは、拓哉の反則勝ちというルールもへったくれもない形で勝敗は決した。
早々に困惑していた女性店員とレジでやり取りを済ませた拓哉はそのままにこの元へ戻ってくる。
「アンタねえ……」
「恨むんなら安易に俺の作戦に乗った自分の浅はかさを恨むんだな」
がっはっはとバカみたいに笑う拓哉ににこはただため息を出すしかない。
何かと言ってやりたいことばかりだが、既に会計を終わらせたからこれ以上は野暮というものだろう。
仕方なく靴を受け取ってその場でスリッパと履き替える。
「何でそんな卑怯な手まで使って自分で払ったわけ?」
「そもそも自分の金使わなくて済んだのを素直に喜ぶところじゃないのかそこは」
サイズがピッタリなおかげか、スムーズに履くことができた。
履き心地も良い。値段が値段だからかやはりそこらへんも考えられているようだ。
その様子を見て、拓哉は頭に手をやりながら重い口を開く。
「まあ、何だ。俺が選んだからってのは本当だけど、本気でお前に似合うって思ったから、どうせなら俺自身がにこにプレゼントしたかったってのもある」
「……まさかそのためにムキになってたの?」
「ああそうだよ悪いか」
どこまでお人好しなのか、それともただのバカなのか、おそらく両方なんだとにこは思う。
好きでもない女の子にそこまでできるのはもはや一種の才能なんじゃないかと思うほどの所業だろう。
それでも、そんな心遣いが、とても心地いい。
どれだけ言い合っても、どれだけ口論しても、結局は
些か少年に心酔しすぎではと自分でも思うほどに好いているのだろう。
でもそれでいい。それがいい。
少年からのプレゼント。
しかも本気で似合うと思って選んでくれた物なら、嬉しくならないはずがない。
さっきまでの怒りの感情はどこかへ吹っ飛び、イスから立ちあがる。
「何だ、急に機嫌よくなったな」
「まあよく考えたら私にはマイナスなこと一つもないし、いいかなって。それより行きましょ。みんなと合流しなきゃでしょ」
「はいはい。女の子の機嫌はコロコロ変わるって言うけど本当に分からんな」
ため息交じりに呟きながらも、にこの表情を見てこちらまで口角が上がってしまう。
卑怯な手こそ使ったが、多分これが最善だったんだろう。
そんなことは、今の少女を見ればよく分かる。
「ほら早くしなさいよ拓哉ー。にこにーを待たせるなんてこの世で一番の重罪よ~死刑よ~」
「大銀河宇宙ナンバーワンアイドルが軽く死刑とか言うんじゃありません」
矢澤にこは、自分の名前の由来に負けないような笑顔で手を振った。
さて、いかがでしたでしょうか?
オリジナル要素書くのが楽しすぎて今回もにこ回になっちゃいました←
読者ににこ推しの人はどれだけいるんだろうと思う今日この頃です。
いつもご感想高評価ありがとうございます!!
これからもご感想高評価(☆10)お待ちしております!!
ところで今期アニメのヒナまつりが面白いです。