ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

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153.旅先でトラブルは付き物

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とあるレストランにて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うぅ……っ……」

 

「花陽ちゃんが泣いてる……」

 

「どうしたのよ?」

 

「まさか落とし物でもしたか?」

 

 公共の場にも関わらず、小泉花陽は両手で顔を覆いながら呻くようにすすり泣いていた。

 入店する前までは普通だったと記憶しているが、メニューを睨むように見渡したと思ったらこうなったことに拓哉は疑問に思う。

 

 

「にこちゃんかよちんに何かした!?」

 

「してないわよ!」

 

「具合でも悪い?」

 

「ホームシック?」

 

 希と絵里の問いに対して首を横に振る。

 ならば何だというのか。泣くほどのことがあるとすれば大事な物をどこかで落とした以外で思いつかない。

 

 

「……くまいが……」

 

「くまい? 何それたくちゃん、英語?」

 

「知らん。俺に聞くな」

 

「白米が食べたいんです!!」

 

「ああ、なるほど……」

 

 一瞬で納得した。

 

 

「こっちに来てからというもの、朝も昼も夜もパンパンパンパンパン! 白米が全然ないの!」

 

「でも、昨日の付け合わせでライスが―――、」

 

「白米は付け合わせじゃなくて主食! パサパササフランライスとは似て非なるものッ!!」

 

「諦めろ海未。花陽に米の話で勝てるヤツはきっとこの世にはいない。おそらく米農家ほどじゃないと太刀打ちできないぞ」

 

 すっかり忘れていた。というわけではないが、そういえばこっちに来てから白米という白米を食べた記憶がない。

 拓哉達からすれば問題はない。けれど、自他共に認める白米教信者あるいは教祖と呼ばれるかもしれない花陽にとっては重大も重大すぎる問題であった。

 

 

「ごに飯と書いてご飯……白米があってご飯が始まるのです……!」

 

「花陽ちゃんってここまで重症だったっけ」

 

「ここ数日白米食べてないせいで禁断症状でも出たんだろ。花陽にとってはある意味ホームシックより重い問題だからな……」

 

「うぅ……あったかいお茶碗で真っ白なご飯を食べたい……。あ、このパン美味しっ」

 

「ちょっと揺らいでんじゃねえか」

 

 かといってこのままだと本当に白米が食べられない花陽はどこかで愚図りそうでならない。

 毎日摂取したいほどたまらなく好きな食べ物があったとして、それが数日間食べれなかったりすればこういうことに陥るのかもしれない。

 

 花陽にとって白米はある種の麻薬ではないかと思わないでもないが、できるものなら何とかしてやりたいというのが本音だ。

 

 

「凄い白米へのこだわり……」

 

「と言ってもねえ」

 

「……仕方ない。真姫、どこか白米食べれるような店とか知ってるか?」

 

「まあ、知らなくはないけど……」

 

 困ったときの万能お嬢様知識が役に立つときだった。

 そうと決まれば善は急げである。

 

 

「よし、じゃあ移動だ。久しぶりに白米でも食べに行こうぜ。幸いまだ何も頼んでないし、先出のパンだけだから何とかなるだろ」

 

「ほんとですか!? 行きましょうすぐ行きましょうマッハで行きましょう!」

 

「キャラ変わってんぞ」

 

 何はともあれ10人での大移動が再び始まる。

 正直拓哉も日本食が少し恋しくなっていたのは事実だった。何だかんだで自分は日本人なのだと異国に来て思い知らされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この街にもこんなお店あるんだね~」

 

「世界の中心だからね。大抵のものは揃っているわ」

 

「それにしても分かりやすい外観だよなあ」

 

『GoHAN-YA』と書かれた看板を見ながら思う。

 これほどシンプルで日本食を扱ってそうな店は日本でも早々ないだろう。

 

 店内で食べた物もちゃんとした日本食ばかりだった。

 拓哉達が普通の定食を頼んでいるとき、花陽だけが定食に特盛ご飯を頼んでいたのはもう想定内だったから驚きもしない。

 

 

「美味しかった~。やっぱり白米は最高です~!」

 

「良かったね、かよちん!」

 

 日本でよく見るたぬきの置物の腹を撫でながらご満悦の花陽。

 満足しているなら連れてきた正解だっただろう。

 

 

「さて、どこでライブするかも決まったし、そろそろホテルに戻るか」

 

「そうね。早めに戻って準備しておいたほうが余裕もできると思うし」

 

 花陽が白米にがっついていた以外では話し合いはスムーズに進み、元々の目的であったライブのステージをどこでするかはすぐに決まった。

 アメリカの名所であって誰もが注目するという意味では、きっとあそこが正解だろう。

 

 メンバー全員が店から出てきたのを確認してから歩き出す。

 

 

「何だかこうしてると学校帰りみたいだねえ」

 

「そうね」

 

「不思議な感じ」

 

「国も違うのにな」

 

「みんなとこうしていられるのももう僅かなはずなのに、この街は不思議とそれを忘れさせてくれる」

 

 本来ならもう卒業式は終了していて、活動自体が終わっていてもおかしくはなかった。

 そんなところに依頼が来たからこうしてまだ活動も続けられていて、みんなと一緒に同じ道を歩くことができる。

 

 たとえ僅かな時間でしかなくても、これは拓哉やμ'sにとってはとても貴重で大切な時間なのだ。

 まるで余命がほんの少しだけ延びたような感覚。それでも、だからこそ大事にしなくちゃいけない。噛みしめなくちゃいけない。楽しまなくちゃいけない。

 

 

「しんみりするのはまだ早いだろ、絵里」

 

「拓哉……」

 

「少しだけだけど、残された時間を俺達は俺達なりに楽しんでいこうぜ。そのための、まずは明日だ」

 

「……そうね!」

 

「っ……」

 

 スッと、普段の絵里では見られないようなニカッとした笑みに言葉が詰まった。

 いつもが大人らしい清楚美人なイメージを持っていたから、今のは余計に心にくるものがあった。

 

 

「? どうしたの拓哉?」

 

「……いや、何でもない」

 

 いつもならふざけて可愛いだの愛してるだの言ってきた拓哉だが、最近はあまり言わない、というより言えないようになってきている。

 常日頃から彼女達のことは可愛いとは思っているが、最近はそれ以外の感情のようなものが邪魔して容易に口に出せないでいた。

 

 理由は分からない。それ以外の感情も何なのか分からない。

 恋愛初心者以下の少年に恋心を理解できるはずもなく、ただただアニメやマンガから得た知識で分かったような気になっているだけに過ぎないのだ。

 

 鈍感というより、無知。

 知っているから理解はできるものであって、知らなければ理解するのは難しいのと同じようなもの。

 

 

(何なんだいったい?)

 

 自分の内に問いかけるものの、当然答えは返ってこない。

 そもそも自分でも分からないのに、自分の心に問いかけたところで分かるはずもない。内なる自分なんてそれこそ二次元の世界の話だ。

 

 

「うーん」

 

「何かお悩みですか拓哉くん?」

 

 腕を組みながら歩いていると、大好きな白米を食べることができてご機嫌な花陽が笑顔で前に出てきた。

 

 

「悩みってほどでもないと思うんだけどなあ」

 

「その割には唸ってますけわひゅ」

 

「やっぱな~、何だかな~」

 

 目の前を歩く花陽の頭に手を置いてわしゃわしゃするも、何かが分かるということはない。

 ただ花陽が可愛いという事実に頭が埋め尽くされるだけである。

 

 

「うん、多分これは俺の気持ちの問題だと思うし、まあそのうち分かるだろ。心配かけて悪かったな花陽。飯は美味かったか?」

 

「はいっ、とても美味しかったです!」

 

「そっか、そりゃあ何よりだ」

 

 小動物のような雰囲気を纏わせながら笑う花陽にこちらまで笑みが零れる。

 この問題は拓哉の中だけで生じている。だからμ'sの活動自体には支障はない。言ってしまえばさほど気にすることでもないのだろう。

 

 そう結論付けて拓哉は穂乃果達の背を見ながら歩を進めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 案外すぐに、その問題と向き合うことになるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「大都会特有なのかこの駅内のめんどうくささってのは」

 

「人口が多いと駅によっては広いとこじゃ迷路みたいになるのは仕方ないことなのかもねえ」

 

 そこは日本の東京と変わらない感じなのだろうかと、改札を通りながら愚痴を零す。

 人が多いのもあって立ち止まることができずに進んでいく。

 

 

「帰宅ラッシュでもないのに人が多いとかどんだけなんだよアメリカ……」

 

「ほら、文句言わないでさっさと進む」

 

 絵里に宥められながら階段を下りていく。

 ここでこれなら眠らない街と言われているラスベガス付近の駅は四六時中こんななのかと勝手に気分が落ちる。

 

 混雑時は日本と変わらないのに、周りから聞こえてくるのは日本語ではなく英語ばかり。

 それだけで異国感は凄まじい。おそらく一人になればすぐに迷子になるだろう。

 

 見知らぬ地で迷子になるのはさすがの拓哉でも恐ろしい。

 海未達みたいにまだ数人いれば別だが、一人となると色々変わってくるものだ。

 

 

「あ、あれじゃない?」

 

 絵里の指さす方を見ると、ちょうど電車が来たところのようだ。

 ホームのほうは人はそんなに多くなく、スムーズに電車内に入ることができた。

 

 

「部屋に帰ったらシャワー浴びて寝るかなあ」

 

 軽く伸びをしながら独り言を呟いた直後。

 ことりが声を上げた。

 

 

「あれ、穂乃果ちゃんは?」

 

「……は?」

 

「え、来てないの?」

 

 思わず素っ頓狂な声が出てしまうが関係ない。

 慌てて周りを見渡すも、穂乃果の姿はどこにもなかった。

 

 まだ階段を下りてきていないのか。それともどこかではぐれたのか。

 人が多いということは、それだけ誰かとはぐれることも迷う確率も多くなる。

 

 

(くそっ!)

 

 失念していた。

 いくら混雑しているとはいえ、せめて後方確認とかしておけばよかった。最後尾で誰もはぐれないか見守っておけばこんなことにはならなかったはずだ。

 

 

「ねえ、あれって穂乃果ちゃんやない!?」

 

 希の声に勢いよく振り向くと、向かいの止まっている電車に穂乃果らしい人物が慌てて乗っている姿が見えた。

 というか、穂乃果本人であった。

 

 どうやら乗る際に転けたようで顔を手で覆っているが、こちらには一切気付いていない。

 そんなことよりもだ。こんな呑気なことを考えている場合ではないのをすぐ思い出して乗っていた電車から降りる。

 

 

「だぁー! 何やってんだあのバカ!! あれ逆方向行きの電車じゃねえか!!」

 

「ちょっと拓哉!? どこ行くのよ! もう穂乃果の乗ってる電車閉まってるわよ!」

 

「俺はこのまま走って穂乃果の電車追いかけるからお前らはホテルに戻ってろ!!」

 

「何言っ―――、」

 

 真姫の言葉は閉まったドアによって遮られた。

 穂乃果でもさすがに間違えたことに気付いて一つあとの駅で降りるはずだ。

 

 だからまずはその駅へ向かって走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしても騒ぎ起こさなきゃ気が済まねえのかあいつは!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 特大の愚痴を叫びながら少年は背の高い人々の障害物をかわして抜けて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





さて、いかがでしたでしょうか?


穂乃果といえばトラブル!!
そして花陽は可愛い。白米のことになると熱くなるギャップがいいですよね。



いつもご感想高評価ありがとうございます!!


では、新たに高評価(☆10)をいれてくださった


カシム1267さん


最近高評価がなくてモチベ微妙だったのですが、救われた思いです。本当にありがとうございました!!
これからもご感想高評価(☆10)お待ちしております!!




来週更新できるか微妙かもしれません。
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