ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

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155.その先

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たまにいるんだよねえ。あなたみたいに迷子になっちゃう人」

 

「こいつの場合は場所とタイミングが最悪だから他の人と一緒にしちゃダメですよ」

 

「辛辣にもほどがあるんだけど!?」

 

 

 

 外で変に注目度を集めていた拓哉達は目的の駅へ向かう電車内でもちょっとした注目を浴びていた。

 

 

「うるせえ、何で一大事なときに限って携帯の充電が切れてんだよ何回電話したと思ってる!」

 

「だって観光とかでいっぱい写真撮っちゃったんだから仕方ないじゃん!」

 

「開き直って逆ギレたぁいい度胸だなコラ!!」

 

「まあまあ二人とも落ち着いて。ここ電車内だから」

 

 年上お姉さんの一言で2人の高校生は綺麗に押し黙る。

 いくら異国の地だとしても常識とモラルは守らねばならないのである。

 

 そんなこんなでようやく落ち着きを取り戻した拓哉と穂乃果だが、その表情はまだお互いムスッとしていた。

 絶妙に変な雰囲気にも関わらず、そこはさすが大人な女性が余裕をもって何の気なしに口を開く。

 

 

「これだけ怒ってるのも何だかんだ彼があなたのことを凄く心配してたからだと思うよ? ほら、今だってまだ汗引いてないし」

 

「なっ」

 

「あ、そういえば……」

 

 まだまだ暑くはない時期ではあるが、さすがに全力疾走を長くしていたら汗もたくさん出てくるものだ。

 どれだけ穂乃果を怒鳴っていても、その汗を見れば拓哉の焦りと必死さは伝わってくる。

 

 

「いくら心配してるからって一駅をノンストップで全力疾走するなんて、それだけ大事に思われてる証拠だよ。幸せ者ねっ」

 

「そ、そうなのたくちゃん?」

 

「まじまじと見てくんなそして近寄るな汗かいてるから汗臭いぞ今の拓哉さんは」

 

 ほんのりと頬を赤くしながら見つめてくる穂乃果に、拓哉は照れ臭さを感じつつ顔をそらす。

 何で余計なことを言ったんだこの人はと若干の恨みがましさを込めて女性を睨むと、いたずらっ子のような顔を浮かべて舌をちょこっと出していた。間違いなく確信犯だと言い切れる。

 

 

「で、どうなのたくちゃん。たくちゃんは私を心配してくれた? 大事に思ってくれてるの?」

 

 いくら顔をそらせど穂乃果はお構いなしにどんどんと顔を詰めてくる。普通の女の子なら汗臭いであろう男子に近づくはずないのだが、そこはやはり幼馴染だから今更どうも思わないのかというどうでもいい結論に至った。

 

 微笑みながらこちらを見つめている女性に少し悔しく思いながらも、このままじゃ穂乃果が食い下がらないのは目に見えてるので一応答えておく。

 

 

「……言わなくても分かるだろ。大事に思ってなきゃ走ってこねえよ」

 

「……おぉ」

 

 自分で言っておいて何だかむず痒い気持ちになるのを必死に顔をそらして誤魔化す。

 穂乃果は穂乃果で感嘆しているのが声だけで分かった。さっきまでのちょっとした喧嘩ムードも大概であったが、今の変な雰囲気にも耐えられない純情少年はすぐに話をそらすことに努力する。

 

 

「そ、そういや俺がいるからもうホテルの場所も駅も分かるのに、何で一緒に来てくれるんですか」

 

「確かに!」

 

「え? そうだなー……っと、その前に」

 

「?」

 

「君、私に敬語使わなくていいよ」

 

「……はい?」

 

 突然の承諾というか許可を勝手にされたことに思わず素で声が出てしまった。

 いったい脳内でどんな思想回路をしていたら質問にこう返してくるのか甚だ疑問に思うのも無理はない。

 

 

「いや、いきなりそんなこと言われても……」

 

「君あまり敬語使うの得意じゃないでしょ? さっきだって私が声かけたとき知らない人だと分かってて結構口調荒かったしな~」

 

「や、あの、その節はどうも無礼を働いてしまい誠に申し訳ないと言いますか……」

 

「いいよいいよ。それに私自身あまり敬語使われるのは苦手でね。他の人ともフレンドリーな感じでいたいんだ」

 

「けど、どう見ても年上だし」

 

「たくちゃん大人でも問答無用で説教するときあるけどね」

 

「こんなときに揚げ足取るなよ揚げるぞ」

 

「ほのフライになっちゃう! それともほの天!?」

 

 隣でフライか天ぷらか騒いでいるアホは置いといて、再び思案する。

 穂乃果の言ったとおり、拓哉は時々大人でも容赦なく怒鳴りつけることがある。西木野真姫の父親である西木野翔真のときがいい例だろう。

 

 ただしそれは例外であって当然年上なら基本的に敬語で話しているのは本当だ。

 担任の山田先生の場合はボケることもあってかツッコミをする際は砕けるときもあるが、立場を弁えるところはちゃんとしているのである。

 

 

「それじゃこれは私からのお願いってとこでここは一つ、どうかな?」

 

「……はぁ、分かりま―――分かったよ。あとで元に戻せとか言わないでくれよ?」

 

「オッケーオッケー!」

 

 何故だかこの女性からのお願いを断る、なんてことはできなかった。

 明らかに初対面なのに既視感があるというか、見覚えもないのに覚えがあるような感覚。もっとちゃんと女性の容姿を見てみる。

 

 明るめの茶髪ロングに、ほんのりと青い瞳。見た感じ腰も細く、出てるところはしっかりと出ている。プロポーションはほとんど非の打ち所がないように見えた。

 極めつけはその笑顔だろうか。優しさで相手を包み込むような包容力を感じさせる笑顔。

 

 まるで、どこかの誰かに似ているように感じた。

 

 

「で、さっきの質問の答えを聞いても?」

 

「あ、そうだったね。うーん、まああれだよ。あなた達の降りる駅が私の最寄り駅だから、知り合ったついでに一緒に行こうかなって」

 

「……? なるほど、まあそれなら納得だな」

 

「おー、だから私の言った特徴だけですぐに分かったんですね!」

 

「そんなとこかな」

 

 最寄り駅だから、というたった一言で済ませられる答えを何故詰まったのか疑問に思うも口には出さない。

 それよりも気になることがあった。

 

 

「特徴?」

 

「うん! 大きな駅があるところの大きなホテルがあるところで、大きなシャンデリアもあるって言ったらすぐに分かってくれた!」

 

「色々と大雑把すぎるだろその特徴。よく分かったな」

 

「最寄りだから分かるのよ。余裕余裕! ……はっ!!」

 

 これまた余裕な笑みでイキっていた女性が一転して絶望的な表情に変わる。

 この人もこの人でころころ表情が変わるなと思いつつ何を言いだすのか待ってみる。

 

 

「どうしたんですか!?」

 

「……もしかして私、マイク……忘れた……!?」

 

「ええー!?」

 

 それが本当ならシンガーとして割とまずい。歌うことが趣味であり仕事であるならば、そのメイン武器と言っても過言ではない物をどこかに置き去りにしてしまっているからだ。

 だが岡崎拓哉は慌てない。こういうときほど冷静になるのが大事なのをトラブル体質な少年は一番理解している。

 

 というより、慌てる必要すらない。

 まずいのは、()()()()()()()()()()()()だから。

 

 答えは目の前にある。

 

 

「いやそれマイクじゃね」

 

「「え?」」

 

 二人して拓哉の指さすほうへ視線を向けると、そこには明らかにマイクを入れるべきであろうケースが置かれている。

 まじまじとそれを見つめること約十秒。

 

 

「「あ」」

 

 バカが二人いると確信した瞬間であった。

 

 

「……てへっ☆」

 

「灯台下暗しにもほどがあるだろ」

 

「ごめんごめん! あったんだからいいじゃない」

 

 ちょうど電車が目的の駅に着き開かれたドアから出る。

 

 

「こっちでずっと歌ってるんですか?」

 

「まあね」

 

「これでも昔は仲間と一緒に歌ってたのよ、日本で」

 

「そうなんですか?」

 

 人が多数行き交う間をすり抜けるように歩きながら会話を進める。

 アメリカでずっと歌っているということは、やはり英語も流暢に話せるのだろう。先ほどのバカは撤回したほうがいいかもしれない。

 

 

「うん。でも、色々あってね」

 

「……、」

 

 その“色々”とは何なのか。

 さすがに聞く勇気もなく、野暮だと思い耳を傾ける。

 

 

「結局グループは終わりになって……当時はどうしたらいいのか分からなかったし、次のステップに進める良い機会かなーとか思ったりもしたわね」

 

「?」

 

 何だろう。

 どこか、いいや、やはり既視感みたいものを感じる。

 

 この女性の語っていることが、まるで今のμ'sと酷似しているように思えてならない。

 今でこそ一人でシンガーとして活動しているものの昔は仲間と一緒にやっていたのなら、穂乃果達と同じように青春して、同じように解散という形で終えたのなら。

 

 この先の話は必ず聞くべきだ。

 穂乃果もそう思ったのか、続きを話そうとせず足を進める女性に反抗するように足を止めた。

 

 

「どうしたの?」

 

「……それで……それで、どうしたんですか?」

 

 その先を聞きたい。

 いいや、聞かねばならないと。直感でそう感じた。

 

 自分達のこれからのために、未知の不安を少しでも和らげるために。

 女性は自分の身の上話をしているだけで、こちらのことは何も知らない。

 

 穂乃果達がμ'sというスクールアイドルをやっていることも、μ'sというグループがこれから解散していくことも、本当に何も知らない。

 なのに何故そんな真剣な目でその先を聞きたそうにしているのかもおそらく分かっていないだろう。

 

 だけど、穂乃果の目を見て女性シンガーは何かを察したのか、包み込むような笑みでその先を言った。

 

 

「簡単だったよ」

 

「……え?」

 

「とっても簡単だった」

 

「なん……」

 

 穂乃果とは別の意味で不意に声が漏れる。

 この女性の言い方や仕草が、本当に穂乃果を見てるような錯覚に陥った。

 

 

「今まで、自分達が何故歌ってきたのか。どうありたくて、何が好きだったのか。それを考えたら、答えはとても簡単だったよ」

 

(……穂乃果)

 

 女性の出した答えを聞いた穂乃果がどのような反応をするのか見ると、どうにも納得していない様子だった。

 多分これはわざと分かりにくい言い方をしたのだと思う。

 

 これこそ簡単に分かってしまったらいけないと、拓哉自身も何となくだがそう思う。

 きっとこれは核心を突く答えのはずだ。

 

 言ってしまえば、まだここで理解するのに適していない時期。

 

 

「むぅ~。何だかよく分かるような分からないようななんですけど~」

 

「今はそれでいいのっ」

 

「え~!」

 

「それでいいのっ」

 

「やです~!」

 

「いいのっ」

 

「え~!!」

 

「あんまりしつこく聞くことじゃないぞ」

 

 再び足を進め始める女性の後ろを付くようにして聞く穂乃果を軽くあしらっている。

 自分達のためにも軽くフォローしながら穂乃果の首根っこを掴んで離すと、背後からじゃ表情が見えない女性シンガーが小さく呟いた。

 

 

 

 

 

「すぐに分かるよ」

 

 

 

 

 自分達のこれからを知らないはずなのに、知っているような口ぶりで女性シンガーは言った。

 

 

(すぐに、か……)

 

 信じる必要もないのに、やはり女性の言う言葉は無視できない。

 これが女性のただの呟きだとしても、穂乃果達には必ず同じような未来が来るのを知っている。

 

 

 そんな思考に耽っている時。

 

 

 

 

 

 

 聞き慣れた声がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「穂乃果ッ!! 拓哉君!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






さて、いかがでしたでしょうか?


女性シンガーも登場し、物語もだんだん動き出そうとしています。
まずは、次回、波乱な始まりになりそうですね←


いつもご感想高評価ありがとうございます!!
これからもご感想高評価(☆10)お待ちしております!!






穂乃果と絡めるの夫婦漫才みたいで楽しいです。
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