ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

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真姫ちゃん誕生日おめでとう!!

ほんの少しお待たせしてすいません。え?待ってない?まぁまぁそんな事を言わずに。
いつもの自己満足です。


それでもという方は覚悟してご覧あれ~


西木野真姫 番外編.いつしか偽物は本物へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 人はそう簡単には変わらない。

 

 

 

 

 

 

 いつしか誰かが言った言葉やネットで見たその言葉を思い出すと思う。

 

 

 

 

 

 

 確かにそうだと。何かを変えようにも、それには大体の者が長い年月をかけてやっと変われるくらいなのだと。すぐに変えようとして、自分は変わったと言う者は大概が上辺だけで、裏では何も変わってなく、偽物であると。

 

 

 

 

 しかし、変わろうと思えば変われる事もまた、事実なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、西木野真姫という少女もそれと同じで、いつも素直な気持ちを隠して、思ってもない事を先に言ってしまう。いわゆるツンデレなのだが、それを直そうと、変わろうとしている偽物なのである。

 

 

 

 

 

 これは、そんな偽物の少女が、自分を少しでも変えるための、他人からすると小さく、しかし当人からすれば大きく感じる、そんな物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日はμ’sの練習はなく、ミーティングのみだった。

 

 

 ミーティングも終わり、普通ならすぐ帰ろうとするのだが、μ’sのメンバーは違った。

 ミーティングが終わるや否や、全員がその場に残り各々が雑談を始めている。学年が違うと喋る機会が中々なく、こういう時にいっぱい喋っていたいというのが彼女達の気持ちなのだろう。

 

 しかし、全員が全員喋っているわけではなく、μ’sメンバーの1年生組の1人、西木野真姫は1人で本を読んでいた。

 たまに喋りかけてくる同級生に適当な相槌を返しつつ、読書に集中する。これがいつも彼女のやっている事だった。それが面倒くさいと思った事は一度もない。むしろ少し心地良いと感じているのだ。

 

 そして、そんな彼女と同じように、あまり喋らずに読書をしている者がいる。真姫の机の対向に座っている、この学校で唯一の男子生徒であり、μ’sのお手伝いでもある岡崎拓哉は、たまにお茶を飲みつつラノベを読んでいた。

 真姫が読んでいる推理の本とは違い、ラノベはギャグ要素も含んでいるのか、時々「おふっ」とか「えふっ」などニヤニヤしながら我慢ならずに変な声が漏れ出ている。

 

 

(気持ち悪い……)

 

 拓哉を何度かチラ見している真姫の本音である。しかし、これがいつもの彼なので慣れているのも事実だった。彼はいつも自然体で、自分に正直だった。思った事はすぐに口に出して意見を出してくれるので、真姫的にもそれは助かっている。口に出し過ぎていつも海未やにこに制裁を受けている事も多々あるが。

 

 そんな拓哉を真姫は羨ましく思っていた。以前よりは素直に言える事も増えてきたが、それでもまだ上手く出せないでいる。こんな自分とは違って、拓哉はいつも正直に自分をさらけ出していた。

 自分の思いを口にし、自分の思うように行動し、そんな拓哉の素直な思いや行動に、他のメンバーは惹かれているのだろう。恐らく、真姫自身も……。

 

 自分とは正反対の拓哉を、近頃真姫は密かに観察していたりする。観察と言っても、ストーカーしたりとかではなく、こういう何気ない時に何気なく、拓哉をチラ見しながら見ているのだ。理由は簡単。今の自分を変えるため。

 

 拓哉を見ていれば、何かヒントが得られ、自分も拓哉みたいに変われるのではないか、と。そんな簡単にはいかない事は分かってるつもりだった。それでも思ってしまう。今ではこんなにも心から信頼出来る仲間が増え、みんなも自分を信頼してくれているのも分かってる。

 

 なのに、自分は素直な気持ちを中々言えないでいるという事に、少しのわだかまりを感じている。このままじゃダメだ。その気持ちが真姫を今の行動に移させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところで、今の観察状況を改めて見てみようと思う。読書をしながら拓哉へチラ見する。

 そこに映ったのは、

 

 

 

「たくちゃん! 明日練習ないんだしどこか行こうよ!」

 

「たくや君! 凛とラーメン店巡りするにゃー!」

 

 穂乃果と凛に言い寄られている拓哉の姿が目に映った瞬間だった。

 

 

「いや、ほら、俺は明日アレがアレでアレだから……」

 

 渋々読書を止め、2人の相手をする拓哉。

 断る理由が曖昧すぎるのはきっと即興で何も思い付かなかったからだろう。

 

 

「「アレって何!?」」

 

「アレってお前ら……アレだよ。アレでソレがコレでアレだから明日は行けないんだよ。分かったか?」

 

「結局理由が曖昧だよ!!」

 

「何も分からないにゃー!!」

 

 2人が抗議の目線を拓哉に送る中、当の拓哉は何やら考え事をしていた。

 手を顎に当てながら考える姿は中々に様になっている。

 

 

(い、いや、様になってるとかはどうでもいいのよ! ていうか完全に今断る言い訳を探してるわね……)

 

「仕方ない。もっと分かりやすい理由を言ってやる。……明日は家で溜まったマンガを読みたいから行かん。以上だ!! 分かったか!?」

 

 まさに火に油だった。

 

 

「分かりたくないよ!!」

 

「うにゃあああ!!」

 

「うぉぉおおっ!? いきなり飛び掛かってくんじゃねえよ! 凛に至ってはもはやただの猫じゃねえか!!」

 

 狭い部室でちょっとした戦闘が繰り広げられていた。だからといって誰も止める気配がない。そう、この光景はもう日常になっていた。海未も最初は止めていたのだが、最近では「気が済むまで放っておきましょう……。後で拓哉君だけお仕置きしておきますので」「何で俺だけ?」といった感じになっていた。

 

 さて、この光景は日常になっていたと言っていたが、穂乃果と凛はよく休日に拓哉を遊びに連れて行こうしている。しかし拓哉は頑なに行こうとはしないのだ。

 真姫は後から分かった事なのだが、拓哉は運動神経が良く、行動力もある事から、真姫は拓哉をアウトドア派と思っていたのだが。全くの逆で拓哉は思いっきりインドア派だったのだ。

 

 何でも拓哉が言うには『休日は休む日と書いて休日なんだ。つまり外には出ずにずっと家で休んでいるのが正解なんだよ。休日に外に行くのはバカのやる事だ。マンガとかを買いに行くのは例外だ。OK?』らしい。これを言った時は海未とにこに両サイドから正拳突きを受けていた。

 つまり外に行くのが基本的に面倒くさいのだろう。

 

 

(でも、休日かあ……)

 

 そこで真姫は一つある事を思い付いた。それは真姫にとっては至難の業。おそらく穂乃果と凛も拓哉が好きだから必死に誘おうとしているのだろう。それは分かってる。でもそれなら真姫だって同じである。好意を抱いてるなら、自分だって頑張らないと実る物も実らない。それに、これは変わるための大きな一歩になる。

 

 

(いつまでも観察してらんないし、じ、自分のためでもあるんだから……!)

 

 意を決し、本を閉じてから今も争っている拓哉達の所へ向かう。一歩一歩進む度に決心が鈍るような思いに駆られる。それを何とか堪え、やがて、目的の人物のすぐ傍までやってきた。

 

 

「た、拓哉……!」

 

「しつけえなお前ら……っと、ちょいストップだほのりん。ん? どした、真姫?」

 

「何か略されたよ凛ちゃん!」

 

「仲良しな感じでグッドにゃ!」

 

 バカ2人を無視しながらずっと真姫を見つめている拓哉の顔は?だらけだった。とうとう真姫にまでお仕置きされるのか? という危機感だけは持ち合わせているといった感じだろう。

 

 

「あ、あの……穂乃果達の誘いを断ってるのを承知でお願いなんだけど……」

 

「ああ、殴られないのか良かった。で、何だ?」

 

 何故最初に殴られるという思考に至るのか問い詰めたい気持ちをグッと抑える。

 

 

「明日なんだけど……き、曲の事で……そ、そう! 曲の事で色々考えたいから、あなたにも、少し、手伝ってほしいんだけど……。一緒に、その、出掛けられるかしら……?」

 

「ああ、いいぞ」

 

「……え?」

 

 思考が一瞬止まる。さっきまで頑なに穂乃果達の誘いを断っていたのに、急な真姫の誘いは断らなくて、しかも即答でOKが貰えた真姫は顔が硬直したままだった。

 それは他のメンバーも同じで、

 

 

「ちょ、ちょっとたくちゃん! 何で私と凛ちゃんはすぐに拒否したのに真姫ちゃんだけいいの!?」

 

「そうにゃそうにゃ!!」

 

「明日は空から石でも降ってくるのでしょうか……」

 

「それはちょっと言い過ぎじゃないかな海未ちゃん……せめて雹とかあ……」

 

「あわわわわわわ……」

 

「どこか頭でも打ったんじゃないの?」

 

「スピリチュアルやね」

 

「私も何かコメントした方がいいのかしら?」

 

 他者多用の反応だった。

 

 

「あの、みんなの俺を見る目が日に日に酷くなっていってるのは気のせいですかね? 言っておくがこれにはちゃんと理由があるからな」

 

「理由……?」

 

 メンバーも気になっているが、一番気になっているのはOKを貰えた真姫だった。

 

 

「ああ。穂乃果と凛の誘いを断ったのはただ単にこいつらは遊びたいからという理由だけだろ。でも真姫は活動の一環として誘ってきたんだ。μ’sの手伝いが役目である俺が断るわけにはいかない。ちゃんとμ’sの事を考えてる真姫と、遊びたいが為に俺を外に出そうとするお前らとは格が違うのだよ!!」

 

「もっともらしい事を言ってるけど、真姫ちゃんが普通に遊びたいって言ったら断ってたって事だよね?」

 

「そうだ!!」

 

「この人最低だよっ!」

 

 またもや拓哉と穂乃果が言い争っている中、真姫は1人内心ガッツポーズしていた。理由は何であれ、明日は拓哉と2人でお出かけだ。もちろん曲のどうのこうのは嘘で建前である。

 

 

(これで、あ、明日は拓哉とで、デート……!)

 

 

 

 

 

 そこで真姫はまだ気付いてなかった。

 

 

 

 

 自分がこういう行動をした時点で、既に大きく変わってきている事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前10時48分。

 

 

 

 真姫は待ち合わせ場所に走っていた。

 

 

 昨日部室で色々と決めようとすると穂乃果達がうるさいので、帰ってからメールで場所など決めていたのだ。待ち合わせ時間は午前11時。時間は余裕を持っていたはずなのだが、昨夜は中々寝付けず、いざ寝ようとした時にふと、どの服を着ていくかを決めていないのを思い出し、余計に就寝時間が遅くなって少し寝坊したのが原因だろう。

 

 しかし、寝坊と言ってもそんなに遅い訳でもなく、予め予定より早くアラームを設定していたおかげで時間にはまだ余裕がある。今も10分前に着けば大丈夫だろうと、真姫は思っていたのだが、

 

 

「……え、あれ……? 拓哉!?」

 

 待ち合わせ場所のそこには、既に拓哉がいた。

 

 

「ふぁあ~……ん? おう、真姫、おはようさん」

 

 大きなあくびをしてから真姫に気付いたようで、挨拶しながら歩み寄ってくる。

 

 

「ええ、おはよう……って、そうじゃなくて! お、思ったより早いわね。着くの……」

 

 再度言うが、拓哉は基本インドア派なのだ。だから待ち合わせ時間のギリギリに来ると真姫は思っていた。

 だが、

 

 

「ああそれなんだがな。休日に真姫と出かけるって言ったら『お兄ちゃんが休日に出かけるなんて……しかも女の子と……! 嬉しいような悲しいような……。お兄ちゃん! 待ち合わせの30分前には着いておかなきゃダメだよ!』って唯に言われて強制的に家を追い出されたわけです。しかもギリギリでいいじゃんって言ったら蹴られて締め出されたんだよ。妹の反抗期に拓哉さんは悲しいですよ……」

 

 真姫の考えは当たっていた。しかし妹である唯のせいでこんなにも早く着いていたのだろう。

 

 

「……ちょっと待って。てことは、拓哉はもう20分も前からここに居たって事?」

 

「そうだけど」

 

 しまった。やらかしたと真姫は内心落ち込む。インドア派の拓哉をこんなにも待たせていたとなると、不機嫌になっていそうだからである。でも不機嫌以前に、唯の反抗期に悲しんでいる拓哉を見ればそんな事はないと分かりそうなのだが、デートだと思っている真姫にはそんな事気付く余裕はないのである!

 

 

「まあいいや。お前を待たせるよりかはいいしな。そんじゃ行きますか」

 

「え? 何で私を待たせるよりいいの?」

 

「そりゃお前、女の子を待たせるわけにはいかんだろ」

 

 それがギリギリでいいじゃんと言った奴のセリフか! というツッコミはこの際しないでおく。

 

 

「それにお前を待たせると後でめんどくさそブゲラッ!?」

 

「いつも一言多いのよあなたは!!」

 

 腹を押さえてうずくまる拓哉は「とうとう真姫まで……」などと言っている。これは自業自得だろう。

 

 

「ほら、揃ったんだし行くわよ!」

 

「中々の扱いの雑さだね君。もう少し気遣いというものが出来ないのかな?」

 

「あなたには言われたくないわよ……」

 

「それもそうだな。それじゃ行こう! さっさと終わらせて帰ろう!」

 

「そっちが本音ね……」

 

 もちろんすぐに帰らすつもりはない。向こうは活動の一環として来てるつもりだろうが、真姫はデートのつもりなのだ。嘘をついたとはいえ、勇気を出して行動したからには、何かしらの結果を出すつもりでいる。

 

 

「まあいいわ。行きましょ。目的地もすぐ近くなんだし」

 

「おう」

 

 わざわざ家の近くではなく、目的地の近くに待ち合わせを設定したのは特に理由がある訳ではないが、強いて言うなら、自分の服装を見てほしいから、だろうか。得てして女子というものは、好きな異性と出かける際には、オシャレをして、それを異性に評価してほしい節がある。

 

 しなかったらしなかったで不機嫌になる女子も多いという話で、男子からすれば理不尽極まりないが、女子とは難しい生き物なのである。

 それはこの西木野真姫という少女も例外ではないのだが、

 

 

(やっぱり拓哉にそういうの期待するだけ無駄よね……)

 

 いかんせん、この男は歩いてる今でさえ、真姫の方を見ずにただ「今日まだ晴れて良かったなー。雨なら帰宅してたわー」とか言いながら前を見てるだけである。無駄な期待は後で落ち込むのが普通。

 そう思っていると、

 

 

「そういや真姫、お前さ」

 

「ん、何?」

 

「何か今日の服可愛いなお前」

 

「――なっ!?」

 

 内で落ち込んでいるといつもこの男はこうなのだ。

 

 

「いや、可愛いってより綺麗か? お前の場合はどっちでもいけるから表現に困るな……」

 

 拓哉の言葉が耳に上手く入ってこない。心の準備が出来てるならまだしも、不意に言われると頭が勝手に混乱してしまう。

 この不意打ちに一体どれほどの女の子が打ちのめされたのであろうか。そう思うと、自然に冷静に戻る事が出来た。

 

「まあ、これが私の普段の私服だけどね」

 

「さすがお嬢様。見た目も良いし、服も良いとすげえな。両方が合わさって最強に見える。なるほど、これが正しい使い方か」

 

「何言ってんのよ……。行くわよ!」

 

「ああおい! ちょ待てよっ」

 

 後ろでキ○タクのマネをしてるバカをスルーして歩く。その顔はまるで、好きな人に褒められたかの様な嬉しい顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デカい」

 

「まあデパートだしね」

 

 

 

 

 

 

「人が多い」

 

「まあ今日オープンのデパートだから人も多いんでしょうね」

 

 

 

 

 

 

「よし、帰るわ」

 

「待ちなさい」

 

 ぐぇぷっ! と首根っこを掴んで拓哉を逃がさんとする真姫。こういう時の女の子の力は凄まじく強いのだ!

 

 

 

 

 

 

 そう、今日の目的地はこのデパートなのである。しかも今日がオープンの新しいも新しいデパートなのだ。

 ショッピングするには十分で、デートするにも申し分ないのが利点だ。

 

 

 

「で、着いたのはいいが、こっからどうする? 帰る?」

 

「何で帰る事が一番に出てくるのよ……」

 

 拓哉はいつでも拓哉だった。確かに周りを見てみればそこには人、人、人。いくらオープン日だからと言ってもさすがに多すぎるくらいの人々がいる。拓哉でなくとも、これは少し面倒と感じるのも無理はない。

 

 しかし、せっかくの拓哉とのデートを無下にするというのはハナから真姫の頭にはない。人が多くても、やる事は変わらない。

 

 

「帰らないわよ。それに、せっかくだし色んな所見てみましょ!」

 

「げっ、マジで?」

 

「拒否権はないわ。さあ行くわよ!」

 

「拒否権はなくとも人権はある!」

 

 首根っこを掴みながら歩き出す。こうでもしないと本当にこの男は帰りそうだからだ。それに、真姫もこのデパートに来て、見たい物が増えた。作曲するための譜面の紙なども買うのは決めていたが、やはり女の子はショッピングにはワクワクするものなのだ。

 

 真姫は一般の女子よりも、少しお嬢様の部類に入る。そんな真姫は実は、デパート自体が今日初めて来たのだ。よく凛と花陽とどこかに寄ったりしたりはしているが、デパートは行った事がない。だからだろうか。こんなにも嬉しそうな顔をしているのは。

 

 

 

 

 

「拓哉! 服売ってるお店がいっぱいあるわよ!?」

 

「そりゃデパートだしな。服屋がなけりゃおかしいだろ」

 

「わあ……あ、この服可愛いわね……ちょっと試着してもいいかしら?」

 

「ええ~……うっ、わ、分かったからそんなに睨むなよ……」

 

「ど、どう……?」

 

「お、おう。まあ、何だ。いいんじゃねぇの?」

 

「そ…そう……ふふっ」

 

「……、」

 

 

 

 

 

 

 

 

「拓哉! レストランがいっぱいあるわよ!?」

 

「正しくはフードコートな。昼飯時だし、何か食うか?」

 

「全部なんて食べきれないわよ!!」

 

「食べたいやつだけ買えばいいでしょうおバカ」

 

 

 

 

「そ、そっちのも、美味しそうね……」

 

「んぁ? 一口いるか? ほれ」

 

「うぇぇ!? ……あ、あむっ……美味しい……!」

 

「俺が美味しくない物を食べるわけないだろ。……ん?」

 

「ほら……一口くれたから、その、お、お礼に、こっちも一口あげる、わ……」

 

「え、いや、でも……分かったよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここはゲームセンターね。さすがに知ってるわよ!」

 

「の割にはテンション上がってますねお嬢」

 

「うるさいわよ! さあ、拓哉! 私とゲームで勝負しなさい。負けたら勝った方の言う事を一つ聞く罰ゲームよ!」

 

「おいおいいいのかよ? これでも俺はゲーセンは結構得意分野に入るんだぜ? 前の学校の奴らには負けた事ないしな」

 

 

 

 

「おかしい。どうしてこうなった……!?」

 

「天才真姫ちゃんを甘く見ない事ね!」

 

「これまでほとんど負けた事なかったのに……」

 

「ていうか、拓哉の友達みんなが平均より弱かっただけじゃない?」

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「わあ~……可愛いわねこのポメラニアン!」

 

「もふもふしたいでござる」

 

「拓哉は飼うなら犬と猫どっちがいいのよ?」

 

「猫だな。いちいち散歩しなくていいし、あの自由奔放さが俺と合ってるな。それにたまに寄って来て甘えてくるのがたまらん」

 

「そう。私は犬ね。小型犬はテクテク歩くのが凄く愛らしいし、尻尾振りながら寄ってくるとこっちまで微笑ましくなるわよ」

 

「猫に決まってるだろ。何? やるか? お?」

 

「犬でしょ。何よ? やる気?」

 

 

 

 

「犬可愛すぎかよ」

 

「猫ちゃん愛くるしいわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うげっ、マジかよ……」

 

「どうしたの?」

 

「昨日遅くまでマンガ読んでて気づかなかったんだけど、携帯充電するの忘れてたせいで、たった今電池切れですたい……」

 

「何で遅くまでマンガ読んでるのよ……」

 

「今日出かけるから昨日の内に読んでおきたかったんだよ! せめて充電だけでもしておけば良かった……」

 

「バカじゃないの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「拓哉、ほら次行くわ、よ……? 拓哉……?」

 

 はしゃぎ過ぎたせいだろうか。真姫はいつの間にか、店を回る際に、気付かぬ内に走っていた。人混みの中をスイスイと抜けて行くように。しかし、拓哉は違う。真姫のように体が小さいわけではない。真姫のようにはしゃいでたわけではない。真姫のように走っていたわけではない。

 

 つまり、真姫は拓哉とはぐれてしまった。

 この広いデパートで、この人混みの中で、よりにもよって初めて来たこの場所で。

 

 

「そ、そうだっ! 拓哉に電話すれば……っ!」

 

 携帯を出そうとした所で手を止める。さっき言っていたではないか。もう充電が切れたと。

 連絡が取れない。はぐれてしまった時のための集合場所を決めていたわけでもない。

 

 完全な手詰まり。

 その事が真姫の頭を駆け巡り、余計な焦りを感じさせる。

 

 

(とりあえず、拓哉を探さなくちゃ……!!)

 

 人混みを避けながら今居る階を探し回る。下手に走り回ってもすれ違ってしまう可能性がある事を考えている余裕は真姫にはなかった。初めて来た場所で1人になってしまった事実が焦りと孤独感を与える。

 

 

(どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう……っ!!)

 

 走っている最中にふと、自分の瞳から水滴が漏れるのを感じた。そこで立ち止まり息を整える為の呼吸を繰り返す。

 汗ではなく、明らかに自分の瞳から零れる雫。

 

 

(拓哉……拓哉ぁ……っ!)

 

 高校生にもなって迷子で泣くな、と他人から見ればそう思うだろう。でも真姫は違う。違うのだ。

 小さい頃から他とは違うお嬢様で、小さい頃から医学の勉強ばかりしていて、勉強ばかりしていたせいか友達があまり出来なくて、やっと出来た高校での仲間にも中々素直に言えなくて、だから世間の事も中々知らなくて、少しズレていて、そしてただの女の子なのだ。

 

 寂しければ表に出さなくても寂しいし、悲しければ陰で泣く日もある。そんな女の子なのだ。放ってはおけない、こんな子だからこそ、守らなければいけない。

 

 

 

 

 

 だから、

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ……ったく、勝手に走り回んなっての」

 

 彼が来る。

 

 

「っ、た……くや……っ……」

 

「泣くなって、俺が泣かしたみたいになっちゃうだろうが」

 

「ぐすっ……泣いてっ……なんか、ない…わよ……っ」

 

 まるで小さい女の子を慰めるかのように、頭を撫でる。

 

 

「へいへい、分かったよ。ほら、夕方だし今日はもう帰るぞ」

 

「う……うん……」

 

 今度ははぐれないように、お互いの手をしっかりと繋いで帰路につく。少し息を切らしてるとこを見ると、拓哉も走り回っていたのだろう。

 

 

「……ごめん」

 

「んぁ? 何が?」

 

「私が、勝手にはしゃぎ過ぎちゃったせいで、拓哉にこんなにも迷惑かけて……」

 

 申し訳なさが込み上げてくる。

 デートだからと思って、初めてのデパートだからといって、自分ばっかり楽しんで、拓哉に迷惑をかけたんじゃないか、と。

 

 

「――確かに、とんだ迷惑だったな」

 

「っ……」

 

「でも」

 

「……?」

 

「まあ、何だ……。俺も楽しかったっちゃあ楽しかったし。今回はお咎めはなしにしといてやる」

 

 その姿は高校生男子らしい照れ方で、目を一向に真姫に合せようとはしなかった。

 

 

「……ふふっ」

 

「なっ、何笑ってんだよさっきまで泣いてたくせに!」

 

「それはもういいでしょう! ……でも、ありがとねっ」

 

 それはもう、泣いた後の子供が、目の周りを赤くしながらも笑顔でお礼を言ったような、そんな生き生きとした表情だった。

 

 

「……やっぱほっとけねえよな」

 

「? 何が?」

 

「お前だよ。勿論μ’sもだけど。お前が一番ほっとけねえって事。世話かかるし、素直じゃねえし」

 

「何よそれえ!」

 

 外に出たらもう夕日が出ていた。拓哉達と同じく、帰宅する客も多いようだ。

 

 

「そのまんまだよ。誰もいない所で泣くし、いつも強がって1人で抱え込むし、だから、俺みたいなやつが守ってやらないといけない」

 

「ひ…1人で抱え込むのは拓哉だって一緒でしょ!?」

 

「否定はしないのな」

 

「うるさいわねえ!」

 

「真姫」

 

 突然自分の名前を呼ばれたかと思うと、拓哉の手からある物が手渡された。

 

 

「これは……赤い、ブレスレット?」

 

「そうだ。意味は『情熱』『愛情』『勇気』とか、他にも色々あるけど、お前に合ってると思ってな」

 

 拓哉から渡されたのは赤いブレスレット。何故そんな物が渡されたのか疑問に思っている真姫を見て、拓哉は呆れながらも、

 

 

「誕生日おめでとう、真姫」

 

「――え?」

 

 呆気にとられる真姫。そう、今日は真姫の誕生日なのだ。当の本人である真姫は、今日の拓哉とのデートで頭がいっぱいで忘れていたという、何ともマヌケな感じなのだが……。

 

 

「そういえば、今日誕生日だった……」

 

「おい、まさか忘れてたのか?」

 

「う、うん……」

 

 それを聞くと拓哉はマジかよ……と言いながら片手で顔を覆っている。

 

 

「俺はてっきりお前が今日誕生日だって自覚してるから昨日俺を誘ってきたと思ってたんだが……まさか違うとは……。とんだ恥かいたぜ……」

 

「え、じゃあ拓哉は昨日私が嘘ついたの分かってて承諾してくれたの?」

 

「当たり前だろ。あんな見え見えの嘘俺には通用せんわ」

 

 急激に自分の顔が真っ赤になるのを感じる。嘘がバレてて、しかも自分はデートの事で頭がいっぱいでそれを忘れている事に、こんなにも自分は今日に必死だったのかと思い知らされてるような気がして。

 

 

「真姫、お前はいつも強がりで、素直じゃない。でもな、μ’sのあいつらには、もっと素直でいてやってもいいんじゃないか?」

 

 突然、諭すような口調に変わり、真姫に問いかけてくる拓哉。言いたい事はよく分かってる。

 

 

「そんな事は分かってるわよ。でも、そう簡単にはいかない事も分かってる。だから――」

 

「分かってるならいいんだよ」

 

「え?」

 

 そこから、拓哉が何を言いたいのか、分からくなった。

 

 

「分かってるって自分で自覚してるならそれでいいんだよ。自覚があるって事はそれを直そうとも思えるって事なんだ。俺は知ってる。最近の真姫は今の自分を変えようとして頑張ってるって。だから以前よりは素直になってきてる。でもまだそれじゃお前自身が満足出来ないんだろ? なら俺も協力してやる。1人で変えるのに限界がきたら、2人で頑張ればいい。簡単にはいかないって言っても、絶対に変えられない訳じゃないんだ。いつかは絶対に変えられる。ゆっくりでもいいんだよ」

 

 ああ、自分はちゃんと見られていたんだな……と、真姫は思った。最近は素直になろうと、変わろうと頑張ってると自分では思っていた。

 でも結果はいつもとあまり変わらない。完全に素直になりきれないでいる。変われないと諦めようとした時もあった。でも諦めきれなかった。

 

 そんな時に拓哉の今の言葉を聞いた。ちゃんと見てくれている人はいたという事。それも好きな人に。2人で頑張ろうと言ってくれた。

 気付いた時には、また瞳から涙が流れていた。

 

 

「あ、あれ……? 何で……?」

 

「おぉふ、ちょっと待ってお嬢さん。また泣かれたら困るって! 俺が不審者扱いされるかもしれないって」

 

 どうやら拓哉は女の子に泣かれるのがどうも苦手らしい。さっきといい、とても慌てている。しまいには「いないいないばぁー!」とか子供にやる様な事をしでかしている。

 

 

「私そんなに子供じゃないわよっ」

 

 そう言いながらも顔は笑っているようで、拓哉も落ち着きを取り戻したらしい。

 

 

「ま、まあ、そんな感じだ。それで、真姫はどうしたい?」

 

 改めて問われる。

 

 答えは最初から決まっていた。

 

 迷う必要なんてどこにもなかった。

 

 

「変わりたい。だから拓哉も手伝って」

 

「分かった」

 

 拓哉も最初からその答えを用意していたかのような即答だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰宅途中。

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ拓哉」

 

「ん、何だ?」

 

 肩を並べて歩いていると、真姫が何かを企んでいるかのような顔をしながら拓哉に向けていた。

 

 

「ありがとねっ」

 

「……なっ!? ちょ、おま、やめなさい! 公共の場所でしょうがっ」

 

 真姫は大胆に拓哉の腕に自分の腕を絡めていた。

 言うなればカップルがよくやってるやつだ。

 

 

「やめないわよ。これからどんどん私のために協力してもらうから!」

 

「……言うんじゃなかったかなあ」

 

 

 

 

 素直じゃない彼女がこんなにも大胆な行動した時点で、急激に変わり始めていた事を、真姫は自覚せず、拓哉も気付かないままだった。

 

 

 

 

 

 

 オレンジ色に染まる景色の中、仲睦まじく(?)帰っている2人の背中が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人はそう簡単には変わらない。

 

 

 

 

 

 

 いつしか誰かが言った言葉やネットで見たその言葉を思い出すと思う。

 

 

 

 

 

 

 確かにそうだと。何かを変えようにも、それには大体の者が長い年月をかけてやっと変われるくらいなのだと。すぐに変えようとして、自分は変わったと言う者は大概が上辺だけで、裏では何も変わってなく、偽物であると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、変われない事など決してない。人は変われるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 例え今が『偽物』でも、少女は確かな『本物』にゆっくりと、確実に、着実に、変わっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 10000文字超えは中々に疲れますな……。
 でも書きたいから書くしかないじゃん!


 今回は真姫ちゃんが変わっていくというのを課題にしてた訳ですが、このまま変わらなくてもいいんじゃね?と思う方もいると思います。
 かくいう自分もその1人です。

 変わったらツンデレ真姫ちゃんじゃなくなっちゃうし、今の真姫ちゃんを受け入れてるからこそのμ’sメンバーだし、的な感じです。


 でもまぁ、誕編だからこその世界線という事で許してつかぁさい!
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