ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

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167.恋への自覚

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ単純に耳を疑った。

 彼女に悪態をついたわけでも、別に疑っているわけでもない。

 

 しかし、その言葉を聞いて瞬時に脳が理解しなかったと言ったほうが正しいか。

 岡崎拓哉は僅かに混乱していた。

 

 そして改めて目の前のシンガーは言った。

 

 

「君がずっと彼女達を思っていたその気持ちは、恋そのものなんだよ」

 

 まるで追い打ちをかけるかのように放たれた言葉に拓哉はただたじろぐことしかできない。

 けれどこのまま黙っていれば女性シンガーは余計に言ってくるかもしれないと思い、何とか口を開ける。

 

 

「……い、いや、待てよ……。俺はあいつらをただ守りたい存在だって、それ以上でもそれ以下でもない気持ちを持ってるだけなんだぞ。それが恋って、そんなのいきなり言われても腑に落ちるわけがないだろう」

 

「それは君がそう言ってるだけ。女の子に対して守りたい存在だって思ってる時点で、君はあの子達が好きなんだっていう証拠になるだけだよ。腑に落ちないとかさ、そういう理屈じゃないんだよ、誰かを好きになるっていうのはさ」

 

 理屈じゃない。実際そうなんだろうなとは思う。

 そんなのはマンガなどでいくつも見てきた。ラブコメのマンガやラノベのアニメで文字通り山ほどそういうシーンを見てきた。

 

 それで分かった気でいたのだ。

 誰かを好きになる。誰かに恋をする。ありふれた日常から突然そういう気持ちに芽生えるのだって不思議じゃないと、岡崎拓哉は分かったつもりでいた。

 

 しかし実際はどうだろうか。

 女性シンガーの言うとおりなのだとすれば、自分は本当に恋というものを何も理解していなかったのかもしれない。分かった気でいたただの大人ぶったガキと変わらないのではないか?

 

 

「……もし、もし仮に、アンタの言うことが本当だとしてだ。俺はμ'sを……いいや、それが結成されるずっと昔の小学生の時から穂乃果やことりや海未を守りたいって思ってきた。あいつらの泣き顔を見たくないから、ずっと笑っていてほしいからだ。アンタの言うとおりなら、俺はその頃から穂乃果達を、その……好きだったって言いたいのか……?」

 

「そうだよ」

 

 清々しいほどの即答だった。

 

 

「君がその頃からあの子達をそう思っていたんなら、もう好きだったんだよきっと。そして今は守りたい人が増えたってことは、その子達をも君は好きになったってわけなんじゃないかな。好きでもない人をずっと守りたいとか、他の人には渡したくないなんて普通思わないもの」

 

 言われてみればそうかもしれない。

 今まで拓哉は様々な人と出会ってきた。

 

 穂乃果達と別れて過ごしていた中学生活でも、自分からトラブルの中心へ何度も飛び込んでは初対面の人間でも容赦なく関わっていった。

 そんな経験が幾度もあった中で、ずっと守りたいや他の者に渡したくないなんて思ったことは一度もなかったはずだ。

 

 中学で知り合った桜井夏美という少女は付き纏ってきて疎ましくは思っていたが、他の人とは少し違う感情を持っていたりもした。

 だが、穂乃果達ほどではないと思う。

 

 産まれた時からずっと大切な存在である岡崎唯という少女はいつまでも守ってやりたい大事な存在だ。

 だが、そもそも唯は妹であって家族だ。

 

 どこまで思い返していても、拓哉が限定的な感情を持っているのは穂乃果達だけだった。

 

 

「そもそもさ、どうしてあの子達をずっと守りたいって思ったの? どうしてあの子達を他の人に渡したくないって思ったの? それをちゃんと自分の中で自問自答してみて。そしたら簡単に解けるよ。君の気持ちはどこまでも真っ直ぐなんだから」

 

 自問自答など、するまでもなければする必要もない。

 答えなんて、とうの昔から出ていた。

 

 

「……俺は穂乃果達を大事なヤツらだって思ってる。守りたいのだって、渡したくないのだって、ただ俺がそばにいたいだけってのもあるけど、それ以前の問題なんだよきっと」

 

「へえ?」

 

「結局俺はどこまでいっても平凡止まりな人間なんだ。二次元のキャラみたいに主人公補正もなければ、多くの人々を救えるような特別な力もない。離れたところで誰かがピンチになっても、そこへ間に合うように駆け付けれるような人間じゃないんだよ俺は……」

 

「……、」

 

「だから、せめて本当に大切な人達だけは、俺のこの手が届く範囲にいる限り守ってやりたいと思ってる。いざって時に俺が近くにいれば何とかなることもあるかもしれないからな」

 

 あくまで普通の人間だから、自分のやれることの限界などとうの昔に理解している。

 ならば、自身のやれることの限界を突き詰めればいい。自分の手が届く範囲、届けさせられる範囲にいれば、何かが変わるかもしれないと信じて。

 

 

(平凡な人間がそこまで言えるってだけでも充分凄いんだけどね……)

 

 恋に正解や不正解なんて誰にも分からない。

 それでも自分の進む道の先に何かがあると本気で信じている者に、運命というものは味方してくれるものだ。

 

 であればこそ、道の先へ背中を押してくれる誰かがいても何ら不思議じゃないのである。

 

 

「なるほどよーく分かった。やっぱり君はあの子達が大好きなんだ」

 

「うぐっ……いや、正直ここまで来ても俺が穂乃果達のことを好きだっていう実感があんまり湧いてこないというか……いきなり自覚なんてできないんじゃないかって思うんだけど……」

 

 要は長く一緒にいたせいで本当に恋心なのかどうかという、ある種の幼馴染キャラとしての宿命がここに来て問題になってしまった。

 もちろん幼馴染ではない絵里達も年月は違えどずっと一緒にいたからという理由で同じ気持ちになっている。

 

 

「うーん、まあ確かにそれはあるかもだけど……自覚してないだけで好きだったんなら、過去に君は無自覚にそういう(好き的な)ことを彼女達に言ったりしてない? よく思い出してみて」

 

「そんなこと言った覚えは……」

 

 ない、と言い切る前に振り返ってみると、ありすぎた。

 よくよく思い返す必要もないくらいそんな思わせぶりな発言をしていたようが気がする。

 

 ことりがメイド店でバイトしてるときも彼氏ができたのではないかと勘違いして、勝手に穂乃果達にまで彼氏できるのは反対だとか言っていたり、事あるごとにことりへ求婚したり希にもラブコールをしていた記憶しかない。

 

 結論的に言えば、何かめっちゃ言っちゃっていた。

 どうしようもないくらい好きですアピールを無自覚にやっちゃっていた。

 

 顔に熱が溜まるとはこういうことなのだろうかと思うほどに、少年の顔は赤く茹でだこのようになっている。

 

 

「あらあら、その顔は心当たりあるって感じね」

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………、」

 

 女性シンガーにも見破られ、いっそ殺せと言いたいレベルにまでなっていた。

 自分が彼女達を好きなんじゃないかと言われ意識してしまえばもう終わり。あとは顔に熱が籠っていくだけである。

 

 

「もし相手が君のことを全然好きじゃなかったらある意味セクハラだよね」

 

「やめてっ! それ以上は色んな意味で死にたくなるからやめてちょうだい! ただいまのわたくしめは自己嫌悪と自己憎悪でもういっぱいいっぱいなんですよーッ!!」

 

「けど君達を見てるとどっちも嫌いというよりかは好き方面に近いから大丈夫なんじゃない?」

 

 軽く言ってくれるなコノヤローと内心は思うが、そういえばことりも希も冗談交じりに見えて実は本気だったかもしれない拓哉からのラブコールを軽く流していたような気がする。

 何だったらことりに関しては本気かは分からないが即答でOKしてくれていたような記憶が……。

 

 

「あ、あれ……? いやでもちょっと待て」

 

「どうしたの?」

 

「や、あの、俺があいつらを、好きだとして……そうだ、そうだよ。よくよく考えてみればおかしいんだ」

 

「何が?」

 

「そもそも好きな人ってのは普通1人のはずだろ? 誰か1人に恋をしてその人と結ばれて幸せになるならまだ分かる。だけど、アンタが言ってることは今の俺が誰か1人じゃなくて、あの9人全員を好きになってるみたいな話になってる。これじゃおかしいんじゃないのか。それが本当なら俺は複数人に恋心を抱いてるただの最低野郎じゃねえか」

 

 大前提の話だった。

 1人が1人に恋をするならまだしも、1人が9人に恋をするなど論外も論外である。それも初恋ならもってのほか。

 

 それこそマンガやアニメという二次元の中での話しかないようなことではないか。

 現実でこんな話は聞いたこともない。理由は火を見るよりも明らかで、誰もそんな最低なところまで達していないから。

 

 さっきから聞いていれば岡崎拓哉はμ's9人を好きになっていると言われてどうも引っかかっていたところだ。

 女性シンガーの言っていることが真実であれば、拓哉は本当にただのクズ野郎という称号を手に入れてしまう。

 

 

「別にいいんじゃない?」

 

「……………………はい?」

 

「だから、別に9人好きな人がいてもいいんじゃないって話」

 

 対して、オトナな女性シンガーの言った言葉は純情少年(笑)岡崎拓哉に到底理解できるものではなかった。

 聞き間違いでも何でもなかった。この女、まさかまさかの肯定しやがったのではないか。

 

 

「いやいや、いやいやいやいや! おかしいだろこんなの!? 何でアンタが肯定するんだよ!? 分かってるよな。このまま俺が9人を好きだって認めちまえば、それこそ類を見ないほどの大馬鹿野郎がここに誕生しちまうんだぞ!?」

 

「大馬鹿野郎でもいいじゃない。それだけ相手のことを大事に思えるなら、そんな大馬鹿野郎がいても私はいいと思うけど?」

 

「アンタがそう思っても、こういうのは普通世間から見ても変に思われたりするもんだろ! 一夫多妻制が認められてるナイジェリアやセネガルとは違うんだ。日本じゃそういうのは批判の目で見られて、下手すりゃ罰せられるかもしれないんだぞ!?」

 

「結婚しなければ重婚罪にはならないし密かに愛を育むのもそれはそれでありなんじゃない」

 

「だから……! ああ、オーケー、落ち着け俺……一夫多妻制とか結婚だとか重婚罪だとか言う前にもっと大前提としてのものがあるだろ……。そう、俺があいつらを好きでも、あいつらが俺を好きでいる可能性がまずないんじゃないかっていう致命的な問題がな!!」

 

 色々と飛躍しすぎていて忘れていたが、まず結婚がどうのこうの言う前に付き合ってすらいないし両想いの確率を考えればほぼ0なのではないかと思い直す。

 9人のうちの誰かに告白して振られて、また違う人に告白して振られて、数撃ちゃ当たる精神でいけばワンチャンあるかもしれないが、そうしてしまえばいよいよ男として終わりな気がする。

 

 問題は山積みだった。

 

 

「うーん、その辺は問題ないと思うけどねえ」

 

「……あん? むしろ問題しかないと思うんだけど。9人好きな時点で終わってるのにこれ以上俺を男として終わらせるのは勘弁してくれ」

 

「まあそこの問題は君達自身がどうにかするとして、まずは君が9人が好きなのを認めることだね」

 

「それを認めてしまえば俺は……ああ……はは、何かもう逆に笑えてきたぞひゃっほーう」

 

「真顔で笑われても怖いだけだよ」

 

 恋とは甘酸っぱいみたいなイメージがあるが、そんな青春紛いな素敵印象は一瞬で崩れ落ちてしまった。

 自分が割と初恋でクズをやらかしてしまった感が強すぎて甘酸っぱいどころかゲキニガレベルまで達している。どっちみち男としては終わっているのではないだろうか。

 

 

「この際あの子達が君を好きかどうかは置いといて、大事なのはやっぱり君の気持ち次第だよ。どうなの? 世間の目や常識に囚われて正論をぶつけられて、それで自分の気持ちに嘘をつける? あの子達への想いはその程度の気持ちだった?」

 

「……、」

 

 やはり、どこまで思考を深く潜っていっても辿り着く先は一緒だった。

 どれだけの理屈を並べても、正当な理論や倫理観を鑑みても、感情には勝てないものなのだと知ってしまった。

 

 目の前の女性に気付かされ、自分の中で改めてそれを認識する。

 口に出すのは何となく重苦しいが、それは決意表明と割り振るしかない。

 

 小学生の頃から数えれば約8年。

 短いようで長い年月を経て、少年はいよいよ自覚する。

 

 

 

 

「……俺は、穂乃果達が……好きだ」

 

 

 

 

 聞いて、女性は艶やかに笑った。まるで100点満点の答えを出した子供へ向けるような笑顔で。

 そして、最終確認へと入る。

 

 

「それが世間から批判を受けたり、一歩間違えれば法律を犯すことになっても?」

 

「ああ。認めるよ。何十回何百回同じことを聞かれても、同じ答えを出してやる」

 

 世間が何だ。

 法律が何だ。

 

 どれだけ世界が自分を蔑むような目で見てきても、少年は堂々と正面を見据えて反論してやる。

 

 

「しょうがねえだろ。同じくらい大切な人が9人もできちまったんだ。ずっと守ってやりたいって思えるような人達ができちまったんだ。それがどれだけド底辺で最低でクズで大馬鹿野郎な考えだとしても、これだけはもう変わらない。変えさせない」

 

 正しいことだけが幸せとは限らない。

 間違った選択をしたって、愚かでも純粋に貫き通す気持ちが大事なときだってある。

 

 世間や法律はもう知らない。

 最低でもクズでも大馬鹿野郎でも構わない。

 

 片想いだとしても、彼女達を守ると誓った想いだけは、誰にだって否定させてやることはできない。

 

 

「……うん。合格だっ!」

 

「ごふっ!?」

 

 1人満足そうに言ったシンガーは拓哉の背中を大きく叩いた。

 何はともあれ、少年は言ってみせた。

 

 μ'sの9人を好きだと。長年の時を経て恋というものを自覚した。世間の常識を遥かに超えた答えを出した。

 ある種の成長を遂げたのだ。

 

 スタイルはどうあれ、ここは大人の女性として盛大に祝ってやらなくちゃいけない。

 

 

「それだけ胸張って言えれば大丈夫だよ。あの子達が好きなんだっていう自信を持って。常識からすれば間違っているかもしれないけど、君のその純粋な想いは決して間違っちゃいないんだから!」

 

「だあー! 分かった、分かったから背中叩くのいい加減やめてくれ! 体内の空気全部吐き出させる気かアンタ!!」

 

 半ば抜け出すように女性シンガーから少し離れる拓哉。

 それを良い合図とでも解釈したのか、シンガーはマイクスタンドケースを持ち再び傘を開いた。

 

 

「これで君の問題も解決したね。いいや、今のところは解消ってところかな?」

 

「?」

 

「私はそろそろ行くね。やっぱり君と話すのは楽しくて時間を忘れちゃってたよ」

 

 雨の中へ踏み出そうとする女性に拓哉は声をかけた。

 

 

「なあ」

 

「何?」

 

「アンタは結局、何がしたかったんだ? どうして、俺達に対して道を指し示してくれたんだ」

 

 何故それを聞いたのかは、恐らく拓哉自身もあまり分かっていない。

 ただ、純粋にそれが気になったというべきか。

 

 この女性シンガーと出会って、岡崎拓哉も、高坂穂乃果も答えを導き出すことに成功した。

 偶然の出会いが、まるで運命の出会いと思ってしまうほどに。

 

 そんな運命的な出会いを果たした女性は、最後の最後に振り返ってこう言った。

 

 

 

 

 

 

「私も、あなた達と同じようなことが昔あったからかな」

 

(…………………………………………………あ)

 

 最初に会ったときから不思議と似ているなと思っていた。

 時々見せる笑顔はどことなく見慣れていて、むしろ安心感さえ感じられるようなオーラを放っていた気がする。

 

 きっと彼女は、以前や今の穂乃果と限りなく近い状況になったことがあるのかもしれない。

 だから正確なアドバイスができて、間違えることのない道を教えてくれた。

 

 奇しくも、その出会いは偶然であって運命的だった。

 最後に、女性シンガーは振り返らずに手だけを振った。

 

 

「これからのことは君達自身が信じた道を決めるんだよ。そうすれば、どこまでだって切り開いていける。何だって上手くいくよ。きっと、恋も……」

 

 突然の強風が拓哉を襲った。

 両腕で顔を覆って防ぐ。風が止まったあとにすぐ女性シンガーがいた場所を見ると、そこにはもう彼女の姿はどこにもなかった。

 

 

「……、」

 

 その場所を見つめ呆然と立ち尽くすことしかできないが、自然と笑みが零れる。

 半ば強引とはいえ自分の本当の気持ちに気付かせてくれて、穂乃果にも道を教えてくれた。

 

 本当にどこまでもお人好しな善人へ向けて、どこにでもいる平凡な高校生は1人呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






さて、いかがでしたでしょうか?


とうとう主人公が恋を自覚しました。
約3年半という年月を経てようやっとです。長かった!
※そして、結局は誰か個人というわけではなく9人全員が好きだと判明しましたが、世間的な意見や正論はぶつけないでやってください(笑)


いつもご感想高評価ありがとうございます!!
これからもご感想高評価(☆10)お待ちしております!!







ヒーローに憧れてるのに複数人の女の子が好きとはいい度胸だなこいつ。
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