ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

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169.言わなくても伝わる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 岡崎拓哉も、高坂穂乃果も、数日前はお互い色々あった。

 

 

 

 

 μ'sの他に高校生ならではの問題にぶつかり、女性シンガーによって自分自身の答えを導き出すことができた。

 2人とも同じ気持ちを持っていてもそこはやはりただの人間。テレパシーを使えなければ精密な以心伝心、読心術を持っているわけではない。

 

 故に、お互い想いを結びあってはいてもお互いがその想いに気付くはずもなく、交錯していくのが今の現状だ。

 しかし、問題はもう一つある。

 

 恋云々は別にまだ時間がある。

 だが、μ's存続問題が続いているのだ。

 

 絶対に解決しなければならない。

 必ず答えを出して全員で納得のいく結論を出すしかない。

 

 

 

 

 そのために岡崎拓哉、高坂穂乃果の両名は練習のなかった土日明けの学校、いつもの屋上へと足を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 一足先に着いたのはμ'sの手伝いをしている少年のほうだ。

 屋上のドアを開ける。ギィィと、若干古臭い音を醸し出すドアが開き、太陽の光が視界に差し込んできたところで気付いた。

 

 

「……先に来てたのか」

 

「ええ。やはり穂乃果は最後のようですね」

 

 そこには穂乃果以外のメンバーが全員揃っていた。

 集合時間にはまだ全然余裕があったため、自分が一番乗りだと思っていた拓哉は少し驚く。一人しかいない屋上で少し心の準備をしようと思っていたからである。

 

 

「拓哉君、どうかしましたか? 顔が少し赤いような……具合が悪かったりとかしますか?」

 

「い、いや、別に体調悪いとかじゃないからっ。むしろすこぶる元気だぞ? これは~、あれだ、ちょっと運動がてら階段を早めに上がってきたせいだと思う。うん、きっとそうだ」

 

「それなら別にいいけど、何でさっきから私達を見ないで目そらしてんのよ」

 

「いやほら、俺ってば見つめ合うと素直にお喋りできない体質だから」

 

「嘘付け初耳すぎるわ」

 

 にこからの痛い指摘を受け仕方なくいつも通り目をメンバー達に向ける。

 拓哉の態度がおかしいからか、全員が怪訝な目でこちらを見ていた。これはこれで耐えられる気がしない。

 

 

(あ、あれれ~おっかしいぞ~。何で俺まともにこいつらを見れないんだ。いや何となく想像はできるけども。これほどか、これほどの威力なのか『恋』というフィルター目線ってのは!!)

 

 海未達は何も悪くない。

 むしろ悪いのは全面的に自分なのだが、どうしても彼女達を見ていると自然と謎の高揚感が押し寄せてくる気がする。

 

 いっそのこと早く穂乃果来てくれと切に願う拓哉だが、そんな願いは軽く一蹴されるのがこういうときの現実なのだった。

 とはいえいつまでたってもこの状態なのは非常にまずい。何が何でもスイッチを切り替える必要がある。

 

 

(今は照れたり恋に現を抜かしてる場合じゃない。いや、それも大事ではあるがそれよりも優先すべきなのは現状のμ's存続なんだ。まずはそれが終わってからじゃないと穂乃果達にも失礼ってもんだろうが岡崎拓哉。そう、こういうときのための、スイッチを切り替えるにふさわしい条件は揃ってる。それをフル活用させてもらうぞ)

 

 少年は覚悟を決めた。

 そして目の前にいる人物へと声をかける。

 

 

「海未、理由は聞くな。俺を思いっきり殴ってくれ」

 

「分かりました」

 

「ありがぶりゅぇッ!」

 

 困ったときの海未神様のご降臨であった。

 拓哉の言葉を受けてからの見事な即答と豪快な腕の一振りが少年の頬を貫く勢いでぶち込まれ、容赦なく柵まで吹っ飛んだ。

 

 

「ええ!? 何がどうしてそうなったにゃ~!?」

 

「拓哉君はとうとうMに目覚めてしまったんやろか」

 

「即答してすぐ殴り飛ばす海未ちゃんも凄いね……」

 

「拓哉君の希望なら応えてあげなくてはなりませんから」

 

 各々の反応を耳にしながらヨロヨロと何とか立ち上がろうとする。

 まさかの一秒の猶予もなく来た拳はさすがに拓哉も予想外だったらしく、受ける準備をする前に殴られたのでダメージは大きかったようだ。

 

 

「だ、大丈夫ですか、拓哉くん?」

 

「うぶふぅ」

 

「余裕で保健室行きの吹っ飛びようだったけど、拓哉ならすぐ治るでしょ」

 

 花陽の真姫によろける体を支えてもらいようやく地に足を付けて安定させる。

 

 

「ああ……真姫の言う通り大丈夫だよ。俺も色々と切り替えなきゃいけなかったから、海未の拳がちょうどよかったんだよ。ありがとな、海未」

 

「え、ええ、拓哉君が大丈夫ならよかったです。……それにしても、全力でやったつもりだったんですが、さすがですね拓哉君……」

 

 海未がボソッと何か言っているが気にしない。

 何はともあれ、これで頭を切り替えることができた。余計な雑念は今は仕舞っておく。

 

 じんじんと響く頬を無視して拓哉は素直に疑問に思ったことを聞いた。

 

 

「ところで何で海未達はこんなに早く来たんだ? 時間まではまだだいぶ余裕があると思うんだけど」

 

 聞いて、絵里が答えようと口を開きかけた瞬間。

 勢いよく屋上のドアが再び開かれた。

 

 誰だ、なんて疑問は一切なく、もはや確信すらもった顔で全員がその場へ目をやった。

 μ'sのリーダー。言いだしっぺ。結成した張本人。

 

 誰もが認めるその少女。

 高坂穂乃果が良い意味で以前とは違う顔つきで現れた。

 

 

「みんな……!」

 

「随分の遅い登場ですね」

 

「時間には全然間に合ってるけどにゃ~」

 

「たくちゃんも、みんなも、少し久しぶりだね」

 

「お、おう」

 

 何故自分だけ個人で呼ばれたのか気になるが黙っておく。

 と、ここで先ほど拓哉の質問への返答の続きが放たれる。

 

 

「そろそろ練習したいなって」

 

「私達もまだスクールアイドルだし」

 

「ま、私は別にどっちでもよかったんだけどっ」

 

「めんどくさいわよね。ずっと一緒にいると、何も言わなくても伝わるようになっちゃって」

 

 以前、言わなくても伝わるなんてものは少し嘘だと言ったことあるが、それは親密でないからであって、拓哉とμ'sは充分なほどに親密な関係に至っている。

 つまり、お互い何も言わなくても分かっていたりするのだった。

 

 

「みんな、きっと答えは同じだよねっ」

 

 ことりの言葉を聞いて、拓哉は確信した。

 やはり、ここの誰もが行き着いた答えは一緒だった。

 

 

「答えは出たんだな。穂乃果」

 

「……うん」

 

「μ'sはスクールアイドルであればこそ」

 

「全員異議なし、ね」

 

 

 悩むときは悩んだ。

 けれど、結果は変わらなかった。

 

 μ'sは『スクールアイドル』であって『アイドル』ではない。

 それ以上でもそれ以下でもないのだ。だからこそ、μ'sは終わらせる必要がある。

 

 一つの懸念を残して。

 

 

「でも、ドーム大会は……」

 

 そう、A-RISEもいなくなりμ'sまで終わってしまえば、ドーム大会の実現は難しくなる可能性が大きい。

 圧倒的人気を誇るグループの消失は、それほどまでに影響しかねないものなのだ。

 

 そこは拓哉も思っていた懸念の一つ。

 しかして同時に、それは穂乃果によって消えることとなった。

 

 

「それも絶対実現させる!」

 

「どういうこと?」

 

「ライブをするんだよ! スクールアイドルをいかに素敵かみんなに伝えるライブ! 凄いのはA-RISEやμ'sだけじゃない。スクールアイドルみんななんだって! それを知ってもらうライブをするんだよ!」

 

「けど、具体的にどうするんだよ?」

 

「実はね、すっごい良い考えがあるんだよ! ねえねえ、ねえ」

 

 こっちに来いと言わんばかりに手招きをする穂乃果にみんなが円になる形で近づく。

 そして穂乃果がコソコソと耳打ちをするかのような声で案を言った結果。

 

 

「「「「「「「「え~!?」」」」」」」」

 

 拓哉を除くメンバーの声が屋上に響いた。

 

 

「本気ですか!?」

 

「今から間に合うの!?」

 

「そうよ。どれだけ大変だと思ってるのよ!」

 

「時間はないけど、もしできたら面白いと思わない? ねえ、たくちゃんはどう思う?」

 

 μ'sのリーダーからμ'sの手伝いという決定権すら持ち合わせていない少年へ問いかけられる。

 対して少年は、いっそ不敵な笑みを浮かべて答えた。

 

 

「いいじゃねえか。その案、俺は乗った。少しでも不可能を可能にできるんなら、俺は全力を尽くさせてもらうよ」

 

「ええやん、ウチも賛成!」

 

「面白そうにゃ~!」

 

「じ、実現したらこれは凄いイベントになりますよ!」

 

「スクールアイドルにこにーにとって不足なし!」

 

「そうだね! 世界で一番素敵なライブ!!」

 

「確かに、それは今までで一番楽しいライブかもしれませんね!」

 

「みんな……」

 

 異論を唱える者はここに存在しない。

 答えは決まった。何をすべきかも分かった。

 

 あとは行動するだけだ。

 

 

「じゃあまずは一番身近なとこへ協力要請しに行かないとな」

 

「私も一緒に行くよたくちゃん。まだμ'sのリーダーとしてやらなきゃいけないことたくさんあるもんね!」

 

「お、おう、分かった……」

 

「あれ、何で目をそらすの?」

 

 ここにきて初心な少年の再来だった。

 スイッチを切り替えられたと思ったのだが、そういや穂乃果は普段から何かと距離が近いというのを忘れていた。

 

 顔と顔の距離が15㎝とないところにあるので嫌でも目を逸らしてしまう。

 

 

(おかしい、穂乃果って、こいつらってこんなに可愛かったっけ……。いや、よくよく考えなくてもこいつらって全然美少女の部類に入るよな……。そんなヤツらとこんなに一緒にいてよくもまあ以前の俺は悠々としてたもんだわ)

 

 自分で過去の自分をぶん殴ってやりたいところだが、そんなことは当然できないため現実逃避をやめることにした。

 

 

「……や、別に何でもないから。つうか近い、近いから離れろ。もう少し俺達は男女だってことを理解しなさい」

 

「……ふーん、りょうかーい」

 

 言われた通りすぐに離れた穂乃果を見て安堵の溜め息一つ。

 惚れた女の子にはてんで弱いことが明らかになってしまった。

 

 

(まあ、わざと近づいたんだけどね。前は全然だったのに今は効果ありっと)

 

 天然と思わせて策略の一つに過ぎない穂乃果の作戦だとも気付かずに。

 そう、カリスマ性に溢れた穂乃果は既にμ'sの今後のライブ、そして拓哉への告白という二つの作戦を同時に進行しようとしていた。

 

 

「それじゃたくちゃんは先に向かっててくれる? 私はちょっと海未ちゃん達と話してからすぐ追いつくから」

 

「え? ああ、分かった」

 

 

 少年が屋上を去るのを確認してから、再び穂乃果は円の形になるようメンバーを呼ぶ。

 

 

「どうしたの穂乃果?」

 

「うん、あのね。そろそろ私達も一大決心しなきゃって思うんだけど、どうかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恋する少女達もまた、成就のために動きだそうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






さて、いかがでしたでしょうか?


恋を自覚してから会うと、やはり緊張してしまうのが純情少年なのです(笑)
初心なヤツは告白よりもまずは目先の問題を、そして子供の頃からずっと想いを抱いていたカリスマ穂乃果はそのどちらも進行しようとするのでした。
普段バカな穂乃果がどんどんと計算高くなっているような……。


いつもご感想高評価ありがとうございます!!
久しぶりに高評価をいただきました!!


長音さん


一名の方からいただきました。
久方ぶりの高評価にテンションが上がりました!本当にありがとうございました!!
これからもご感想高評価(☆10)お待ちしております!!







今回は穂乃果の一枚上手だった模様。

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