ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

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172.一大決心

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう無理……足の疲れよりも遥かに精神的に疲れて拓哉さんはヘトヘトですぞ……。効果的だからって電車乗りまくって他の学校行くとかするんじゃなかった……」

 

「随分とお疲れのようね」

 

 

 

 

 部室に帰ってイスに座って突っ伏してからの第一声がそれだった。

 にこの言葉の通り、岡崎拓哉は燃え尽きていた。

 

 歩くこと自体は何も疲労感はないのだが、春休み中とあって電車は常に席が埋まっている状態。長時間ほどではないが常にじっと立ったままというのは体力よりも先に精神が参ってしまうことが多い。

 

 それを他の学校へ行くために何回も繰り返すため、結果拓哉の精神はグロッキー状態であったのだ。穂乃果達は割とケロッとしているのは、女子同士で会話に華が咲いたから特に疲労感も感じてないのかもしれない。

 

 拓哉の精神的ダメージを例えるならこれだろう。

 言うなればテーマパークへ行って何に乗るか迷いながら話してるときは楽しいが、アトラクションのために長時間突っ立って並んでいる時間が苦痛なのと同じ。長時間歩くよりも立ったままでいることのほうが案外辛かったりする。

 

 

「穂乃果達は女の子らしい会話で盛り上がってたけど、黒一点の俺には訳の分からん呪文と変わらないし会話に着いていけなくてな……。おかげで地獄のような電車のたらい回しだったよ……。何故か勧誘しに行ったスクールアイドルと対決したりもしたし」

 

「最後のが一番気になるんだけど」

 

 一発目からスクールアイドルと勝負をするとは微塵も思っていなかったため、これがスクールアイドル界の常識なのかと数分ほど疑った。

 2組目のスクールアイドルはすんなりと受け入れてくれたから違うのだと分かったが。

 

 

「ちょっと、携帯のバイブ音鳴ってるわよ」

 

「……あ~、多分チャットだから大丈夫だろ。どうせどっかの公式アカウントからのメッセージとかだよ。俺そんな友達登録してないし……」

 

 ブー、ブーと、特に基本誰からもチャットが来ないため通知音もバイブだけにしている少年はポケットから携帯を出すことすらしない。

 最後の何気に悲しい発言に同情されたのか、凛が自販機で買ってきた紙パックの飲みかけ(重要)ジュースを与えてそれをちゅーちゅーと飲んでいる。多分どちらも無自覚だろう。

 

 

「ふう、ところで花陽、メールの方はどうなってる?」

 

 無自覚間接キスという名の水分補給を終えたことで気力が少し回復した罪な男岡崎拓哉。

 PCで色々やってくれている花陽に質問を飛ばすと、

 

 

「メールが来ました! 東京だけでなく、全国から何校も!」

 

「凄いわねえ」

 

「これでもう20組にゃ!」

 

 凛がホワイトボードに参加表明してくれたスクールアイドルの数だけ可愛らしいデフォルメ猫ちゃんマークを描いている。

 ここは分かりやすく『正』の字じゃダメなのかというツッコミはきっと野暮なので黙っておくことにした。

 

 仮にも、というより正式に拓哉はμ’sの手伝いを名乗っている立場だ。

 なのにいつまでたっても机に突っ伏して花陽にPC関連の雑務を任しているのでは役割として矛盾している。だからそろそろだるい体を起こして代わろうとしたところで、部室のドアからコンコンとノックの音がした。

 

 

「ハロ~」

 

「あんじゅさん!? 何で!?」

 

 第一回ラブライブ優勝者、A-RISEのグループの一人、優木あんじゅが音ノ木坂学院のアイドル研究部の部室へやってきた。

 ドアの向こうからはリーダーの綺羅ツバサともう一人、統堂英玲奈が顔を覗かせている。まさかのA-RISE総出であった。

 

「曲作り、手伝いに来たわよ」

 

「これ、お土産だ。有名なドーナツ屋で買ってきたぞ」

 

「よお。結構早かったな」

 

 一度に複数の驚愕が襲ってきてμ’s一同が唖然としている。

 たった一人、岡崎拓哉だけは平静のまま片手を上げて挨拶をしていた。

 

 そんな少年へツバサは怪訝な視線を送りながら、

 

 

「拓哉君にそろそろ着くわよってメッセージ送ってたはずなんだけど、まだ誰にも言ってなかったのかしら」

 

「え、メッセージとか送ってきてたっけ? ……あ」

 

 言われてようやっと思い出す。

 そういえばついさっきポケットの中に入っている携帯のバイブ音が振動していたこと。それをにこに指摘されたがどうせどこぞの公式アカウントからのくだらない宣伝メッセージだと決めつけて確認を怠ったこと。

 

 そう、全面的に拓哉の確認不足だった。

 

 

「ほんとにツバサからチャットが来てた……だと……? こういうときは必ず誰から来たのかちょっとしたワクワクとドキドキを抱えて見ると結局はいつもと同じ知らん広告紛いの宣伝メッセージだったりして携帯を叩きつけるのがオチって相場が決まってて友達の少ない純情男子高校生のピュアハートを粉々にしてくるこのチャットアプリがこんなときだけ本来の働きをするなんてあり得ないのにィー!!」

 

 とうとうA-RISEからも同情の視線を獲得した残念男子岡崎拓哉。

 英玲奈からお土産という名の差し入れを受け取った絵里は、早々に本題へ入ることにした。

 

 

「ということはつまり、私達に協力してくれると?」

 

「もちろん。そのつもりでここに来たんだから」

 

「……ありがとう。助かるわ」

 

 元生徒会長と、A-RISEのリーダーが握手を交わす。

 μ’sとA-RISE。かつてラブライブ優勝を制した2組が、いよいよ本格的な手を組んだ。

 

 スクールアイドルが社会現象になるまで流行っているこの世界で、このトップ同士の握手をどれだけのマスコミが写真に収めたいと願っているだろうか。

 間違いなく一面を飾れるトップニュースの瞬間を何の惜しげもなく終わらせた2人は、さっそくやるべきことを確認していく。

 

 

「まずは衣装だけど、事前にことりが何着か作ってくれているからそれをベースにして他の衣装も作ってくれるかしら」

 

「衣装のことならあんじゅが得意だから任せるわ。あんじゅなら早く丁寧に作れるから安心してちょうだい」

 

「ええ。次に作詞ね。こちらの考えとしては、海未と相談して参加してくれるスクールアイドルの人達から単語や言葉を一つ募集してるの。あなた達が要求してきた条件。スクールアイドルのための歌なら、全国のスクールアイドルから言葉を募ってそこから作詞する。それが良いと思ったの」

 

「悪くないわ。むしろそのほうが確実にいい。作詞は英玲奈が担当してるから、一緒に募集した言葉を選んでより良い歌詞にするくらいは容易のはずよ」

 

「最後に作曲。真姫には予めある程度の作曲はしてもらってるから、そこにアレンジか何かあれば助言してほしいの」

 

「最後は私の出番ね。任せてちょうだい。一度μ’sの作曲担当さんと一緒に曲を作ってみたかったの」

 

 手順の確認はできた。

 あとはこれを元に作業を進めていくだけだ。

 

 μ’s9人。A-RISE3人。手伝いが1人。

 計13名の、間違いなくラブライブを戦い抜いて生き残ってきた精鋭達が動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まず最初に。

 優木あんじゅが既に作られている衣装を見ていた。

 

 

「あら、可愛い衣装!」

 

「ありがと~。穂乃果ちゃんに言われて急いで作ったんだ」

 

「ふふっ、お互い強引な相棒を持つ者同士、大変ね。さて、これからもっと衣装用意しなきゃだし、忙しくなりそうね~」

 

 ふわふわオーラを醸し出している2人の会話をPC作業をしながら何となく見ていた拓哉は、そういや穂乃果はどこに行ったのかと思いを馳せてみる。

 穂乃果に関しては衣装作りも作詞も作曲も、てんでダメだ。だから3つのうちのどれかに着いて行っているわけでもないはずだが。

 

 と、そんな矢先。

 

 

「じゃーん! 衣装考えてみたよ! うっふーん、どう?」

 

 とんだバカが部室の更衣室から出てきた。

 基本ベースとなっている衣装をガン無視し、何故だかまだ肌寒い春の季節なのにも関わらず、意味不明にもハワイでありそうな花冠に花の首飾り、フラダンスでもするのかと言いたくなる藁のスカート。あまつさえへそ出しという今の拓哉にとって色々と理性との戦いになりそうな恰好をしていた。

 

 

「バカか。やっぱ根本的にバカなんだなお前! 夏でもないのにそんなハワイアンな衣装誰が着るかってんだ!」

 

「えー!! だからこそあえてのこういう衣装選んでみたのにー! 季節感のギャップってやつ?」

 

「ギャップじゃなくて季節感のないバカ集団で終わりにされるぞそれ。基本ベースの衣装を無視したらことりが作った意味無くなっちまうでしょうが! あと個人的に刺激が強いのでさっさと着替え直しなさい!!」

 

「……本当、大変ね」

 

「あはは……」

 

 忘れてはならないが、ツッコミ混じりの拓哉の顔は少し赤みを帯びている。

 文化祭の時の衣装やハロウィンイベントでの衣装も割と露出はしていた記憶はあるが、そこで拓哉は何とも思ってはいなかった。そこを思えば、今回の拓哉の赤面の意味は、やはり穂乃果達を女の子として意識しているという成長の証になる。

 

 そしてそれを見逃すはずもない10年来の片想い経験者高坂穂乃果。

 僅かな違和感も少年のことなら絶対に気付くのだった。

 

 

(やっぱり前とは反応違うなあ。それも当たりのほう。あのお姉さんの言ったこと、案外間違ってなかったのかも?)

 

 拓哉が穂乃果に背を向け見ないようにしてる隙に、ことりへアイコンタクトをとる。

 

 

(効果抜群になってるみたいだねっ)

 

(うん、これなら今日の作戦……ほんの少しは可能性出てくるかもしれないよ!)

 

 あんじゅにも気付かれない巧妙なアイコンタクトを取りつつ、少女達の一大決心の暗躍は着々と進められていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 音楽室。

 そこでポーン……と、名残惜しさすら感じさせるような音の終わりが微かに反響した。

 

 

「良い曲ね」

 

「何かアイデアがあれば言って。取り入れてみるわ」

 

 お嬢様学校に通う絶対的なリーダーと本物のお嬢様という、一般人なら近づくことも話しかけることも憚れるような、いっそ神聖な空間かと思えてしまうほどの場所で2人は作曲をしていた。

 

 

「そうね。じゃあ、こういうのはどう?」

 

「えっ?」

 

 声のするほうを見てみれば、そこには同じ同性でも見惚れるような表情があった。

 可憐な魅力を放ちつつも、その凛々しい表情は性別問わず魅了してしまう。

 

 これがA-RISEのリーダー、綺羅ツバサ。

 こんな化物グループに予選で勝利を飾った。それがどんなに凄いことなのかを今更実感してしまう。

 

 

(今日はいよいよ穂乃果の言ってたアレがあるし……進められる作業は早く終わらせて、か、覚悟だけはしとかないと……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所はまた部室へと戻る。

 そこで作詞担当の園田海未と統堂英玲奈がPC画面を前に椅子に座っていた。

 

 

「これが全国から集まった言葉だ」

 

「こんなにあるのですか?」

 

「何なら参加表明するスクールアイドルは今も増えてるからな。募集している言葉もまだ増えるかもしれないぞ」

 

 PC作業を一通り終えた拓哉が募集していた歌詞の言葉を2人に見せた結果が今になっている。

 およそ100を超えるグループからの言葉やメッセージ性のある歌詞が送られてきた。

 

 これを一つ一つ見ていってどう歌詞として繋げていくかを考えると、海未1人では難しかったかもしれない。

 しかし、今回は1人じゃない。

 

 

「こ、この中から選ぶ……」

 

「みんなの思いが篭ってる。やるぞ」

 

 A-RISEの統堂英玲奈がいる。

 たったそれだけで、心強さというものは強固になっていく。

 

 

(ここは俺がいたら逆に邪魔になりそうだし、一旦離れとくか)

 

 2人の集中している姿を見て、拓哉は部室をあとにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の作業は終わって、A-RISEも全員帰っていった。

 時刻は夕方。

 

 まだまだ陽が落ちるのが早い季節だ。

 暗くなる前に自分も家に帰って明日の準備をするために色々することがある。

 

 そんな思いをしながら帰り支度をしていた岡崎拓哉に、穂乃果から声がかかった。

 

 

「たくちゃん」

 

「んあ、なん、だ……?」

 

 振り向いて、言葉が詰まった。

 いつものような明るい穂乃果の顔はなく、真剣な表情で、いっそそんな顔だからこそ拓哉も少し見惚れてしまう。

 

 穂乃果の後ろにはメンバー全員がもちろん揃っている。

 普段と違うのは、皆が皆適当な会話をするのでもなくこちらを真剣に見ていた。

 

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

(何だ。何かやらかしたか俺……? それともこいつらのこの表情。まさか俺の好意がバレたとか……じゃないよ、な……?)

 

 期待感というよりかは不安のほうが心を支配していた。

 だっておかしい。今日一日穂乃果達には特に何も変化はなかったはずだ。普段と変わらない、スクールアイドルとしての活動を一生懸命やっていたはずだ。

 

 不穏な影や嫌な予感など何一つなかった。

 だからこそ自分だっていつも通りのことをしていた。

 

 だから。

 なのに。

 

 これから何があるのか。何が起こるのかさえ一ミリの予想もつかない。

 日常と変わらない。何の違和感もなかったはずの今日に、突如穂乃果達がこんな顔をするような何かがあったとでもいうのか?

 

 

「たくちゃん」

 

「ッ」

 

 思わず体がビクッと震えた。

 明らかに違う。普段聞き慣れている穂乃果の声とのギャップに、いよいよ不安材料が投下されてしまうかのような感覚に襲われる。

 

 しかし、そんな拓哉とは裏腹に。

 メンバーを代表して穂乃果がその一線を越えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とうとう覚悟を決めた。

 少女達の一大決心が、少年の覚悟よりも遥かに早く降りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





さて、いかがでしたでしょうか?


いつものように作業を進めていたはずが、突如として日常の終わりを迎えました。
お互いもはや両想いなど両者は当然知る由もなく、少年は色々片付いてから言おうとして。
少女達は自分達の最後を最高の形で見てもらいたいから一大決心をして。
両者の思いは交錯し、けれど確実な終着点へと動いている。



いつもご感想高評価ありがとうございます!!
これからもご感想高評価(☆10)お待ちしております!!






誰もがハッピーエンドを掴み取りたい一心で、少年の後から言うか、少女達の先に言ってしまうかという些細な違い。
そんな、相手を想うが故の誰も間違ってない想いを抱いて。
両者のすれ違った気持ちは果たしてどこへ向かうか。
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