晴れてμ'sの9人と付き合うことになった岡崎拓哉は今、待ち合わせ場所の音ノ木坂学院の校門にいた。
メンバーではない自分にできること。それはサポートも当然だが実のところライブまでの準備、そこまでの流れが一番やることが多い手伝いである。
例えば準備に必要な物、場所の確保と使用許可の申請、それぞれの学校から出せる予算の整理、正確な人数の把握から衣装の用意、その他近所への協力申請など、やらなければならないことが山ほどあった。
それを拓哉はこの数日でたった一人でやってのけたのだ。
やる気はもちろんあったが穂乃果達と付き合うことになった結果、一層その気持ちに拍車がかかったのかもしれない。
そのおかげで着々と準備を進めることができ、今日はそれを実行していく運びとなった。
拓哉の他に誰もいない理由としては、拓哉が部室から必要な書類やら何やらを確認するために穂乃果達よりも先に来たというわけである。
と、待ち合わせ時間にもそろそろ差し迫ってきたところで見慣れたサイドテールの茶髪の女の子が視界に入ってきた。
「たくちゃーんッ!!」
「よ、よおおおぐぁっ!?」
付き合い始めて数日を跨いだせいか何となく気恥ずかしくなりながら手を上げるや否や、そんなのはお構いなしの穂乃果流直伝穂乃果ダイブが岡崎拓哉を襲う。
後頭部への痛みが緊張を抹消したせいで何だかもうムードもへったくれもなかった。
「だあー! 何でいきなり飛び込んでくるんだよ危ねえだろお前には遠慮というものがないんですか!?」
「たくちゃんにはもう遠慮はいらないかなって! たくちゃんが見えた瞬間私の我慢の限界は一瞬で消えちゃったのでしたー!」
「ちょっと可愛く言うんじゃねえよ。せめて遠慮して。俺じゃなかったら頭かち割れてたかもしれないから」
穂乃果に乗られたままため息一つ。
いつもなら拳骨の一発でもくれてやるのだが、それが出せないのは惚れた弱みだからかもしれない。
「朝から頑丈ですね拓哉君は」
「おはよ~たっくん。今日もいい天気だね♪」
「すげえ。朝から頑丈ってパワーワードに驚きを隠せないしことりに至っては普通に挨拶してきたんだけど。誰も俺の心配してないんだけど」
「幼馴染の理解力を舐めちゃダメだよたくちゃん!」
「お前はさっさとどきなさい。俺の理性が蒸発したらどうすんだ」
何気に付き合ってる彼女に馬乗りというこれ以上ないほどのシチュエーションではあるが、ここを公共の場+学校の校門前ということを忘れてはいけない。
一歩間違えればレッツポリスメンである。それだけは避けたい。
どうにかして前のめりにならずにすみ穂乃果をどかして起き上がると、妙に3人の顔が砕けているように感じた。
「何だお前ら、何か良いことでもあったのか? 変にニヤケてるけど」
穂乃果とことりだけならまだしも、あの海未までにへらとしているのだから気になって仕方がない。
聞かれた3人娘はもはや照れすら隠さずに答えた。
「えへへ~だって私達ぃ、たくちゃんの彼女だもんね~!」
「ずっとこうなりたいって思ってたし、穂乃果ちゃん達とも仲良くできるんだから嬉しくもなっちゃうよぉ」
「それに、まさか拓哉君まで私達のことを好きになってくれていたのだと思うと、こう……平常心を保つのが難しいと言いますか……」
よくもまあそんな恥ずかしいことをスラスラとであった。
聞いている拓哉が赤面してしまう羽目になるとは以前の岡崎拓哉なら絶対にあり得ないことである。これも一種の成長か。
「ったく、こっぱずかしいこと言うのはやめてくれ……。これから準備で忙しくなるってのに」
「聞いたのはたくちゃんなのにー!」
「……いや、まあ、それはーそうなんですけどね……。拓哉さんもそうストレートに言われると照れちゃうというか何というかなんですよ分かります?」
「たっくん私達のこと好き?」
「大好……愛してる」
「そこは素直なんですね」
100点満点なら120点を軽々と叩き出した真っ直ぐ少年岡崎拓哉。
何だかんだこの中でも一番ストレートなのは拓哉だということを忘れちゃいけない。言うときは言う男なのだ。
「たーくちゃーん、私も愛してるよー!」
「私も~!」
「もちろん、私もです」
「あれだな。自分から言うのはいいけど、言われるとなるとやっぱ心にめっちゃくるなこれ。今なら俺幸せすぎて紐なしバンジーも行けそう」
「それただの飛び降り自殺です」
他人が見れば口から砂糖のシャワーを出しそうな会話をしていると、残りのメンバーもぞろぞろとやってきた。
「何朝からイチャついてんのよアンタ達。階段上ってる途中からでも聞こえてたわよバカ共」
「そんなっ……にこにバカと言われる日が来るなんて……私はいったいどうすれば……!」
「おい海未が一番ダメージ喰らってるぞ。どうしてくれるにこ」
「海未の性格上、幼馴染の中でもある意味一番苦労してきたっぽいしそれが爆発したんでしょ。ほら、普段怒らない人が怒ったら凄く怖いみたいな、今まで抑えてた感情が一気に放出されたとか。だから悪いのは今まで我慢させてた拓哉よ。謝りなさい」
「なるほど、それはごめんなさいだわ。……ん? あれ、何か流れおかしくない?」
正直言って拓哉も浮かれているせいか頭ユルユル状態で簡単ににこに流されてしまう。
しかし、いつまでもこんな状態でいられても困るものは困るので軌道修正が必要だった。
こんなときのための頼れるクォーター金髪美人お姉さん絢瀬絵里の出番である。
「ほらほら、みんな集まったことだしそろそろ秋葉原に行かなきゃでしょ? 拓哉も海未も、みんな付き合うことができて嬉しいのは分かるけど、私達の今やるべきことは何か、分かってるわよね?」
「そりゃもちろん。抜かりはないぞ」
「うっ、確かにそうですね……。拓哉君と付き合えたこととにこにバカと言われたことが今世紀最大にショックでおかしくなっていました……」
「アンタが一番私をバカにしてるの分かってんだからなおい」
「ま、まあまあ……」
新たなバトルが勃発してしまいそうなところで花陽が割って入る。
彼氏彼女という関係になったところで今までとあまりやり取りが変わらないのは良いのか悪いのか。
これが少年達の間柄だからこその関係であることに変わりはない。
ただこれまでのやり取りにカップル的な会話が増えたものだと思えばいいかもしれない。
「あ、そういえばたくや君、唯ちゃんには凛達の関係とか言ったのー?」
「いや、まだ言ってないぞ。言わなきゃいけないのは分かってるんだけど、結構複雑だからどう言えばいいのか分かんねえってのが正直なとこなんだよなあ」
「うーん、まあ唯ちゃんなら案外すぐ分かってくれると思うけど、そこはたくちゃんに任せるよ」
「その自信はどこから来てるんだ。あとそれまともなこと言ってるように思えるけどただ俺に全部投げてるだけだからな」
先日は唯に様子がおかしいと言われたが、拓哉自身浮かれていたし準備のあれこれで言う暇も時間もなかった。
拓哉的には最愛の妹に複数人と付き合い始めたと告げて何を言われるかただただ恐怖でしかない。
世間の声や意見などどうでもいいと豪語はしたものの、唯から拒絶の言葉を言われた瞬間ビルから飛び降りる自信がある。
唯の意見は拓哉にとって世間というより世界の意思と言っても過言ではないのだ。
「くそう、今から憂鬱になってきたぞ……。唯にだけは否定されたら体中の水分が枯渇するほど泣いちゃうかもしれない」
「そこまで思い詰める必要もないんじゃない?」
「あん? じゃあそういう絵里とか穂乃果は亜里沙と雪穂に言ったりしたのかよ?」
「「……、」」
「ほれみろ言ってねえじゃん! やっぱちょっと戸惑ってるじゃん!! そんなお前らに俺をとやかく言う資格はないですぅーバーカバーカべろべろばー!!」
「……私達って彼女だしたくちゃんにもう遠慮は必要ないよね。つまり絵里ちゃん」
「ええ。もちろん分かってるわ」
「「この野郎をぶん殴る」」
「え、あれ、ちょっとお二人さん? 口調が少し荒ぶっておられるのでは……? ちょ、ま、ここは落ち着いぎゃーッ!?」
「あれで全員付き合ってるんだから不思議だわ……」
「カップルになってもお互い遠慮のいらん関係ってのも素敵やん?」
拓哉とほのえりが騒いでるのを傍から見ている巻き髪お嬢様と似非関西弁巫女。高みの見物であった。
待ち合わせ時間が若干過ぎたところで彼氏の胸ぐらを掴んでいる金髪ヤンキーと化した絵里に声をかける。
「エリチーもうその辺にしときや~。そんなでも一応ウチらの彼氏なんやから~」
「そんなでもって何? 立派な彼氏だから! 紛れもないみんなの彼氏拓哉さんだから! だからこのヤンキー彼女誰か止めてっ。あと俺の背中に連続パンチしてくる穂乃果テメェこの野郎何気にめっちゃ痛えんだからなやめろやめてやめてくださいお願いしますうー!!」
彼氏の風上にも置けない体たらく岡崎拓哉。さすがに彼女2人に手を組まれると手も足も出ない。フルボッコである。
もはや他のメンバーも見慣れた景色なので特に気にしている様子がない。唯一の良心ことりと花陽も困り眉で笑っている。そう、笑っている。
「あらかじめ時間に余裕のある待ち合わせにしてるけどいつまでこんなことやってるのよ。さっさと行かないとでしょ。A-RISEも待ってるはずだし」
「まったく、舞い上がりすぎてんのよアンタ達は。私達が付き合ったからって特に何かあるわけじゃないでしょ。今までどおりでいいのよこんなの」
お姉さん気取りの真姫と実質μ'sのお姉さんにこからのありがたいお言葉であった。
こちらから提案しておいて待たせるのはさすがにまずい。他にも来れる範囲にいるスクールアイドル達がみんな来るから遅刻なんてもってのほかだ。
「そう、ならにこはいつも通りでいていいわよ。行きましょ拓哉。これからは堂々と腕組んでもいいでしょ?」
「ちゅん♪」
にこの言うことなんてお構いなしの絵里。直前まで胸ぐらを掴んでいたヤンキームーブはどこへやら。
拓哉の右腕を自分の胸に堂々と寄せて満面の笑みを浮かべていた。まさにアメとムチである。
そして何故かことりがその場のノリで拓哉の左腕を独占。豊満なアレの持ち主である2人に挟まれては何も言えない無垢なムッツリ少年。むしろ内心ではガッツポーズしていた。
であって。
当然外面じゃこんなことを言っているお姉さん矢澤にこではあるが、自分だってもちろん彼氏とイチャつきたいのが本心なわけで。
なのにこんなにもこれ見よがしに見せつけられたら乙女として怒っちゃうのも必然であった。
「よーしそこの金髪と雛鳥今すぐそこをどけさもないと無駄に溜まった乳の脂肪を削ぎ落としてくれるわあッ!!!!」
「(何か、思ってたのと違うなこれ……)」
付き合い始めたらもっとこう、ピンク色な青春をイメージしていたのに見事殺伐とした光景を目にして少年は静かに呟いた。
さて、いかがでしたでしょうか?
次回本編に戻ると言ったな。あれは嘘だ。
いや、ほんとすいません。本当に本編に戻るつもりだったんですけど、いきなりスクールアイドル達の前に出て普通に進行するのは不自然かと思いまして、急遽馴れ初めみたいなものを入れました。
だがしかし、ピンクな世界には必ずなるというわけでもなく、この作品じゃ余裕でコメディーになるということを忘れてはいけない(戒め)
とまあ、色んな意味でこれまでと違い、余計遠慮のいらない関係になったということと思ってくださればと。
次回は絶対に映画本編に戻ります。
そして、この作品の感想数が見事超大台の1000件をとうとう突破しました!
これも毎回感想をくださる読者の方、たまにでも感想をくださる方のおかげでございます。
本編が終わるまでに達成したかった目標の一つだったので感無量です。高評価やお気に入りが増えるのはもちろんモチベになるのですが、直接読者の方から貰える感想というのは個人的に一番モチベに繋がるので(笑)
反応があるのとないのとじゃ気持ちの持ちようも段違いなのです!
ということでいつもご感想高評価ありがとうございます!!
これからもご感想高評価(☆10)お待ちしております!!モチベのために!
【報告】
本編プロローグ~4話までを若干手直ししました。
以前の文章をできるだけそのままに、読みやすく少しの付け加えや修正など。
【宣伝】
さて、ここからは宣伝になります。
今回、『ラブライブ!~μ's&Aqoursとの新たなる日常~』を執筆している薮椿さんが主催するラブライブの企画小説に参加することになりました!
テーマはラブライブ、もしくはサンシャイン、または合同でも基本自由。
総勢30人を超えるハメの作家が参加する大所帯の企画となっているので自分も今からどんな物語が見れるのかワクワクしています。
投稿は11月25日、時間は21:00から毎日1話投稿となっております。
自分の順番はまだ分かりませんが、決まり次第また宣伝しようと思っていますので、その際には企画小説の方も読んでみてください!この作品とはまた別の物語を書いているので!
その時に感想をくださればもちろんその返信も致しますので是非とも!
ちなみに来週はライブがあったりと忙しいので更新はないかもしれません。