何だかんだ準備は着々と進んでいた。
普段スクールアイドルをやっているからか、それぞれのチームワークはどれも完璧に近い。
そのおかげで作業もほとんど止まることなく順調に完成へと近づいていった。
昼休憩を挟んでまたチラシ配りや飾り付けの作業をしている約150人ほどのスクールアイドル。
街を歩く人々もだんだんお祭り気分へと色を変えていく秋葉原を見て楽しそうにしている。効果は充分に発揮されているようだ。
で。
岡崎拓哉はやはり巡回中であった。
その途中、気になる人だかりがあったから見に来てみると、案の定予想通りの人物が大きな筆を持って何かを書こうとしている最中だった。
「……何やってんの」
「見ての通りです」
「いや分かってるよ。だから聞いてんだよ。何か見かけないなと思ってたらこんなところで女子高生がでけえ筆持ってたら色々と聞きたくなるでしょうが」
「まあ見ていてください」
誰もが認める大和撫子、園田海未が何やらどでかい筆を墨に付けてこれまた大きな用紙に何かを書いていく。
どこかのヤクザでもこんなでかい習字はしないだろうと心の中でツッコんでおく少年。
「……ふう、できました」
「いや、だからヤクザかよ。もしくはヤンキーかよ」
用紙に書かれたのは『
何故素直にアイドルと書かなかったのかという疑問だけが拓哉の脳を支配するが、今更書き直しにするわけにもいかないので仕方なくこれで許すしかない。
「我ながら良い出来ですね!」
「おう、そうだな。ちなみにそれを飾るのはオフマップの裏な」
「はい、分かり……ってそれ見えないじゃないですか!」
「当たり前だろ。何でカラフルな風船とか華やかな女子高生が集うポップなイベントなのに一つだけ極道チックな飾りを付けにゃならんのだ。たった一つのマイナスイメージだけで好印象だったのがイメージダウンになることだってあ―――、」
「そんなことを言わずに! 私だってそれなりに考えて書いたのに表にも出させていただけないなんてあんまりです……! 拓哉君はそんな非人道的な人だったのですか!? あまりにも惨すぎる仕打ちです……! 人が考えることじゃありません!」
「俺が人間じゃないみたいな言い方ばかりすんのやめてくんない? めっちゃ言われるから俺も一瞬自分を悪魔かなって思っちまいそうだったわ。あと近い、超近い。良い匂いするけどそんな迫ってこないでドキがムネムネするからっ」
ほぼ涙目で拓哉に詰め寄る海未。
必死すぎて鼻と鼻がタッチしそうな距離である。ここが公共の場所というのを忘れてはいけない。
珍しく必死になる海未に何故かと問おうとするがやめる。
ここで理由を聞けば余計に海未が詰め寄ってきてつらつらと早口で理論武装をぶつけてきそうでならない。
「分かった。分かったから離れなさいっ。それを飾るのは許すから! ただしできるだけ上の方だからな。下が風船とかポップな感じにしてるから雰囲気を損なわない程度にしてくれよ」
「はい! もちろんです! 私達にとって最初で最後のスクールアイドル合同イベントなので何か大きな跡を残しておきたいと思ったから良かったです……」
「……、」
「拓哉君? どうかしたのですか?」
「……いや、ちょっとした自己嫌悪だよ……」
早口で理論武装をぶつけてきそうとか勝手に思っていた自分をぶん殴りたい衝動に駆られるも我慢する。
海未にとって、すなわちμ'sにとってこれは最初で最後のスクールアイドル合同イベントだ。
この先同じようなイベントがあるかは分からないが、μ'sではこれが最後。
だから海未もこのように自分にとって忘れられない思い出を作ろうとしていたのだろう。
思いは人それぞれなのだ。
――――――――――――――――――
「結構様になってきたか」
辺りを見渡せば周囲の建物にまで様々な飾り付けが施されている。
もちろん事前に許可はとっているから何も問題はない。申請をした時、μ'sとA-RISEの名前を出した途端どこの店の人達もむしろ喜んで承諾してくれた。
優勝経験者が主催だからそれで店が少しでも繁盛すると思ってのことだろう。
あるところではスクールアイドルのキャンペーンをすることで順調に客足を伸ばしているらしい。どちらもwin-winなら誰も苦情は言わないだろうと思う。
不思議と街が飾り付けでいっぱいになると気分が高揚してくるものがある。
家族連れなどでは小さな子供が風船を見るだけで嬉しそうにしていた。スクールアイドルのイベントではあるが、せっかくだから色んな人々に楽しんでもらいたいと思うのは悪いことではない。
「そういやテレビ局も来てるんだったな」
歩道の邪魔にならないところにカメラマンとキャスターっぽい人がいた。
というか何かめちゃくちゃ見たことある人だった。いつかのハロウィンイベントの際、μ'sにインタビューをしていたメガネの人がまた特集をしてくれるらしい。
謎テンションが多い人だからか今度もまたカメラに映らない場所からアシスタントの人に抑え込まれている。
多分ああいう人のほうが案外現地のインタビューに向いているのかもしれない。
先ほど凛とにこがいた店に戻ると、そこに2人はいなかった。
代わりにいつものヒフミトリオがいた。
「おっす、あれ、にこと凛はどうしたんだ?」
「巡回お疲れ様。2人はμ'sだからチラシ配りのほうが集客しやすそうだしそっちに行ってもらったよ。はいこれストロベリーソフトクリーム、ライブにも参加してね~!」
慣れた手付きでソフトクリームを客に渡し明日の宣伝もさりげなく伝えるフミコ。
もしかするとこの3人、何をやっても器用にできるのではないだろうか。
「まあそっちのが配り終わるのも早いしな。こちらとしてはμ'sだけじゃなくて色んなスクールアイドルをもっと知ってもらいたいって気持ちもあるけど」
「あー……スクールアイドル全般のイベントだもんねえこれ。μ'sやA-RISEだけが目立ったら主旨違ってきちゃうからなあ。もしかして代わらないほうがよかった?」
「いや、どっちみち本番は明日だしそのときにμ'sだけじゃなくスクールアイドル自体がメインってのを知ってもらうからいいよ。今はとにかく準備を終わらせるのが先ってとこかな。つってもみんなのおかげでもうすぐで終わりそうだけど」
時刻も夕方を差している。
季節的に陽も高くはなってきているため微かな澄色が空を徐々に染めていく直前であった。
始めはどうなることかと若干の不安はあったが、見る限り準備はそろそろ終盤を迎える。
暗くなる前には終われそうだ。
「俺もちょくちょく力仕事はしてるからそろそろ行くわ。1人でも男手が必要なとこはまだありそうだし」
「うん、こっちはもう大丈夫だから。いってらっしゃーい」
「おう」
これでも初期の頃から関わりの深いヒデコ達だ。
お互いの言葉は少なくても大体分かるものである。
「拓哉君やけに表情明るくなってない? あんな爽やか系だったっけ?」
「私の知ってる拓哉君はもっと熱くなりやすく基本気だるい系のラノベ男子と思ってたんだけど」
「……これは何か良いことあったに違いないね」
「というと?」
「男子が突然明るい爽やか系になるなんて思い当たる節は一つしかないっしょ」
「その心は?」
「男女関係」
「「やはりか!」」
つまり、薄々気付かれているものかもしれない。
――――――――――――――――――
周囲から感嘆の声が聞こえる。
「ふう、これで終了か」
最後の力仕事を終えた拓哉は一息つく。
気付けばすっかり空は青から一変した澄へと変わっていた。
しかし同時に今の作業をもって準備は完了した。
これであと迎えるのは明日の本番ライブだけである。
「できた!」
「ところどころちょっと曲がっていたりするけど」
「これも味でしょ?」
「ふふっ、うん」
何やら向こうで穂乃果達が話しているのを自分もそこへ行く。
「お疲れ様、拓哉。はいタオル」
「おう、さんきゅ」
軽く汗を拭いて振り返ると、巨大なハート型の風船に小さな風船を詰め込まれたイベントステージの見物である超巨大オブジェが立っていた。
これによって準備が完成されたことを目で自覚する。
「自分達で作ったステージにみんなで……」
「ワクワクするにゃー!」
「何か、踊りたくなっちゃうね」
「え、まじか」
「何言ってんの。本番は明日よ」
何やら流れが変わってきた気がする。
準備が終わった今、あとは明日に備えて各自しっかり休んだほうがいいと思っちゃう基本的に休日は家から出たくない人間岡崎少年。
しかし、既にやる気は充分なスクールアイドル達は止まらない。
「でも練習しちゃおっか!」
「今からですか?」
「もう夕方よ?」
「そうですよーお前ら。明日は大事な本番なんだからここは無理せず休んだほうがいいと拓哉さんは思いますですます」
「そうよ。拓哉の意味不明な言動を置いといて、A-RISEだってそんな急に―――、」
「別に構わないが」
まさかのどんとこい精神であった。
ここには拓哉よりも熱血系の者しかいないかもしれない。体力あり余ってるどころの話じゃない。
「いいねえ。よーし、じゃあ最後にみんなで練習だー!!」
μ'sのリーダー、穂乃果の一言が決定的だった。
その声に全員が手を挙げて同意する。これはもう完全にそういう流れができちゃっていた。
しかしここで穂乃果、あるいはμ'sの面々、そして岡崎拓哉の耳に入ってきた言葉がその流れを止める。
「よーしやるぞー!」
「A-RISEμ'sに着いていくぞー!」
「負けないように頑張るんだからー!」
「私だってμ'sに負けないんだから!」
何気ない言葉。
ただ自分達を奮起させるための鼓舞。
スクールアイドル代表と言っても過言ではない者達と同じステージに立てるというだけでやる気に満ち溢れる歓声。
それだけなのに、心には僅かなわだかまりが生じた。
「穂乃果」
「……うん」
しかし、それは自分達が招いたもの。
であれば、ちゃんとそのわだかまりを消す方法も自分達がよく分かっている。
拓哉の声が穂乃果の小さな背中を押す。
「ねえ、みんな。私達、みんなに伝えないといけないことがあるの」
先ほどとは打って変わったような声にスクールアイドル達は一斉に穂乃果へ視線を向ける。
「あのっ、私達……私達μ'sは……」
若干言葉が詰まる。
絵里達にμ'sを終わりにすると決めたときも同じようなことがあった。
リーダーだからこそ、それを言うことへの責任と重圧が生じる。
これを言ってしまえば、とうとう世間にも伝わるだろう。μ'sというグループが終わることを。
ちゃんと言わなければいけない。
自分達の中ではそのためのイベントでもあり、決別でもあるのだから。
そして。
「μ'sは……このライブをもって、活動を終了することにしました」
さて、いかがでしたでしょうか?
終わることをとうとう言っちゃいました。
この作品もそろそろ終盤だということを思い知らされますね。
来年の1月か2月には終わるかも?
いつもご感想高評価ありがとうございます!!
では、新たに高評価(☆10)を入れてくださった
ノアブラックさん
1名の方からいただきました。
最終回まで突っ走っていきます!本当にありがとうございました!
まだ高評価入れていない人はモチベに繋がるのでぜひともよろしくお願いいたします!
薮椿さん主催の企画小説にも自分の作品が既に投稿されているのでまだ見ていない方はぜひ見て下さい!
あわよくば感想とかもいただけると嬉しいです!