ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

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180.真意は如何に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 岡崎拓哉にとって、それは穂乃果達に告白したとき以上の緊張があったかもしれない。

 

 

 

 

 当然ではあるが家族として同じ時間を穂乃果達よりも過ごし、自他共に認めるシスコンばりの愛情を注いできた妹だ。

 これだけ仲の良い兄妹も今の世の中では珍しい部類だろう。お互いがお互いを好きとはっきり言える家族関係は傍から見れば羨ましい限りだった。

 

 故に、拓哉の心情はこれまでの人生で一番不安と緊張でどうにかなりそうになっていた。

 9人の彼女がいますなどとバカ正直に言ってしまえば、それだけでこれまでの関係が一瞬で氷河期レベルにまで陥ってもおかしくないのだ。

 

 自分達の想いで決めたからこれでいいと思ってはいたものの、普通に考えてみるとどれだけの罵詈雑言を浴びせられても何も言い返せないくらいのことを自分達がしているのを忘れてはならない。

 改めて思い知る。

 

 自分がどれだけ異端の選択をしたか。

 普通や平凡とはかけ離れた人生を歩む決意をしたか。

 

 

「お兄ちゃん? 急に黙ってどうしたの? 言うことがあるって何?」

 

「あ、ああ、えっと、そうだな……」

 

 キョトンと聞いてくる唯の顔は拓哉の言葉を待っているようだった。

 これ以上逡巡していても何も変わらない。結局はいつか言わなければならないのだ。だったらできるだけ早いほうがいいに決まっている。

 

 唯にだけは嫌われたくない拓哉としてはもう当たって砕けろ精神でいくしかない。

 最終的にどういう反応するのかは拓哉が分かるわけもなく、いっそ懺悔するように言って少しでも兄妹としての関係を維持できることを願うばかりだ。

 

 ベッドに座っている唯に向き合い、重い口を開く。

 

 

「あのさ、唯。お、俺……じ、実は……えっと、その……μ's、というか……あの9人って言えばいいのかな……。信じられないかもしれないけど……穂乃果達9人と、恋人として付き合うことに、なったんだ……」

 

 言った。

 言ってしまった。

 

 もう後戻りはできない。するつもりもないが、これがいつもの冗談として捉えられても困る。

 9人のうち誰か1人と付き合うならまだ分かるが、普通9人と付き合うことになったと言われると誰もがまず理解できないだろう。

 

 いきなり常識の範疇を超えたことが起きると人間というものは脳が理解する前に一旦放棄してしまうものだ。

 だから理解するのに時間が要することもあれば、ガス欠が起きたみたいにそのまま思考放棄さえすることもある。

 

 現に目の前にいる唯もポカンとしたまま動かない……ように見える。

 いきなり兄から支離滅裂な発言を聞かされたらこうなるのも無理はないだろう。この部屋の時間だけが止まっているようにさえ思える。

 

 岡崎拓哉としては今この時間がまさに拷問のようだった。

 自分の言うべきことは言った。あとは唯が何を言うのかで色々と変わってくるだろうが、それがある意味死刑執行を待つ囚人のような気持ちにさせてくる。

 

 いっそこのまま時間が本当に止まってくれないかという気持ちと、さっさと何か反応を見せてこの生殺し状態から解放してくれという気持ちがぶつかっていた。

 何故告白の返事の時よりもこんなに心臓の音が自分でも聞こえてくるのか。

 

 唯に対しては兄としての思い以上に愛情を注いできた自信はある。

 小学生の頃、いじめを受けていた唯を助けてからいつも以上に唯へ気を配るようにしてきた。

 

 自分が絶対に守り続けると、少しでも唯を傷付けようとする者がいれば誰だろうが許さないと。

 そう思っていたのに、今の自分の行いをよく考えてみればどうだ。

 

 9人もの人と付き合えば唯を守り切れるかどうか分からない。

 それ以前にだ。唯を少しでも傷付ける者は許さないと自分で決めておきながら、世間から冷たい目で見られてもおかしくない選択をしたのが実の兄だと本人から告げられたらどうなる。

 

 軽蔑されてもおかしくない上に、そんな兄の妹である自分にショックを受けてもおかしくないのではないか?

 自分はこんな最低な選択をしたヤツの妹なのかと、自己嫌悪すらしてしまうのではないか?

 

 考えれば考えるほど思考の悪循環が止まらない。

 やはり言うのはもう少し後にしてもうちょっと言葉を選ぶべきだったかと今更後悔すらしている。

 

 しかし、現実は当然時間が戻ることもなく平等に進んでいく。

 次に唯から出る言葉で全てが変わるかもしれない。吉か凶か、なんて生易しい展開は期待していない。

 

 あの唯でさえ、これに関しては難色を示して当たり前のことなのだから。

 覚悟はしていても実際唯から暴言を浴びせられると耐えられるか分からない。

 

 思わず唯から顔をそらして俯く。

 すると、視界に映る唯の足が微かに動いた。

 

 まるでそれが合図と言わんばかりに、それは唐突に紡がれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー、やっとか。おめでと、お兄ちゃんっ」

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………、」

 

 今度の今度こそ。

 時間が止まった気がした。

 

 

「…………え?」

 

「ん?」

 

 顔を上げるとこれまたキョトンとした表情で唯がこちらを見ている。

 拓哉の反応の意味を分かっていないのか。いいや、拓哉も唯の反応の意味を正しく理解できているかは定かではないが。

 

 

「い、今、なんて……」

 

「ん? 穂乃果ちゃん達と恋人になったんでしょ? だからおめでとうって言ったんだけど」

 

 さも当たり前のように言う岡崎唯。

 この妹、本当に分かっているのだろうか。これじゃ唯の反応を思い悩みながら待っていた拓哉がただの思い込みバカみたいになってしまう。

 

 

「……ちょ、わ、分かってるんだよな? “穂乃果”と恋人になったんじゃないんだぞ。“穂乃果達”と恋人になったんだぞ? 分かる、この意味。この選択の意味が」

 

「もちろん。あのμ'sの9人でしょ。凄いじゃん。おめでたいじゃん! お兄ちゃんはみんなが幸せになれる選択をしたんだから!」

 

「え、あ、お、え、ん、んん~?」

 

 何だかもうよく分からなくなってきた。

 拓哉のほうが思考放棄しそうになっちゃっていた。

 

 てっきり妹から罵詈雑言の嵐を浴びせられるかと思っていたら普通に祝われたという謎展開が繰り広げられた。

 予想の真逆すぎてさっきまで後悔していた気持ちを返してほしいレベルだ。何はともあれ一応関係悪化にはならなくて済んだと思っていいのだろうか。

 

 

「……あれだぞ、唯。俺は、9人の女の子と付き合ってる男だぞ? 普通に考えたらおかしいってならないのか?」

 

 このまますんなり納得して祝福されるとそれはそれで今度は妹の将来が心配になってくる。

 しかし、それでも唯は分かってると言わんばかりにこう言った。

 

 

「うん。だってお兄ちゃん普通じゃないし」

 

「ぐぼぇッ!?」

 

 言葉の暴力が物理で襲い掛かってきたかと錯覚してしまうようなダメージがシスコンを襲う。

 

 

「それに、μ'sのみんながお兄ちゃんを好きだってことくらい私はとっくに知ってたもん」

 

「なん……だと……!? い、いつから?」

 

「穂乃果ちゃん海未ちゃんことりちゃんは昔から、他のみんなもこの1年近くでそうなったのも分かってるけど。私的にはお兄ちゃんが恋を自覚したことに一番驚いたけどね」

 

 一番の理解者はやはり拓哉の何歩先をも視ていたらしい。

 おそらくこうなることを唯は遅かれ早かれ予想していたことになる。

 

 

「唯は……その、軽蔑とか、しないのか? みんなが幸せになれる結末を選んだと言っても、周りからすればただの9股男だぞ」

 

「まあ、確かにそう言われてみれば非常識だよねえ。日本じゃ認められてないのに堂々と9人と付き合うって言ってるし。2人は3人ならまだしも9人だよ9人。もはや何でもありじゃんね」

 

「自分から振っといて何だけど、唯に言われたら今すぐ死にたくなってくる」

 

 兄妹だからか発言の遠慮が一切ないので唯の言葉一つ一つが拓哉の心をグサグサとストレートにぶっ刺してくる。

 これが赤の他人ならダメージ0なのだが、溺愛している妹から言われてしまえばシスコン兄貴には即死コンボ並の地獄であった。

 

 

「……それでも、お兄ちゃんはやっぱり誰も傷付かない結末を選んだんでしょ。自分の気持ちもみんなの気持ちも踏まえた上で選んだ選択がそれなら、少なくとも私は祝福するよ。私もみんなのこと好きだし、何より楽しそうっ」

 

「唯……」

 

 いつもの可愛らしい笑顔ではにかむ唯に陰りは一切なかった。

 本当に心から祝福してくれているのだろう。付き合った人が唯も知る穂乃果達だからというのもありそうだが。

 

 

「だからお兄ちゃんは胸を張っていいんだよ。誰かの泣く姿を見たくなくて頑張るのがお兄ちゃんなんだから、誇っていいんだよ。何回も言ったでしょ。誰が何を言ったって私はいつだってお兄ちゃんの味方だよ」

 

「……そうだったな。ありがとう、唯。何か心が軽くなった気がするよ」

 

 言葉や気持ちではああ言ったものの、心の奥底では誰かに肯定してほしかったのかもしれない。

 こんな非常識な選択をしていても、誰かが認めて応援してくれることがこんなにも嬉しいなんて知らなかった。少なくとも、唯からのこの言葉だけでこれ以上芯を曲げることはない。

 

 

「それにしても、マンガとか好きなお兄ちゃんがまさか本当にハーレムを作っちゃうなんてねえ」

 

「ああいうのは大体なんちゃってハーレムが多いから。女の子達の一方的な好意だけで主人公がまったく気付いてないのがよくあるやつだ。俺をそんなのと一緒にしないでくれ。俺はちゃんと付き合ってるからな!」

 

「急に自信満々になるのはいいけど、この前まで一切気付いてなかったくせによく言うよね」

 

 気持ちの切り替えは大事なのだった。

 唯に認められてしまえばもはや無敵である。誰にどう言われようが鼻で笑ってスルーしちゃうくらい怖いものなしのスター状態であった。

 

 兄から恋人が9人できたと聞いてむしろ祝福した妹は突然ベッドから立ち上がる。

 

 

「はいお兄ちゃんここで私の質問に答えてください」

 

「え? あ、お、おう」

 

 まるで最終確認するように人差し指を突き立てて岡崎唯は何かを計画しているかのように言葉を綴る。

 

 

「お兄ちゃんは9人と付き合うことになったよね?」

 

「う、うん」

 

「それが普通じゃないってことも分かった上でそうしたんだよね?」

 

「うん」

 

「つまりそれだけの覚悟があって決意したわけだ」

 

「うん」

 

「じゃあもはやお兄ちゃん的には何でもありってわけだね」

 

「うん」

 

「なら私もお兄ちゃんの恋人になってもいいんだよね?」

 

「うん」

 

「よっしゃ。じゃあこれからもよろしくねお兄ちゃん」

 

「うん。…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………うん?」

 

 何だか今流れに身を任せてとんでもないことを言わなかったかこの妹。

 完全にこのまま流してはいけない言葉を言ってしまったような気がする。

 

 

「じゃあねお兄ちゃん。明日のライブ楽しみにしてるから♪」

 

 理解が追いつく前に唯はさっさと部屋を出て行った。

 支配するのは場の沈黙。自分以外誰もいなくなった空間で拓哉はポツンと突っ立ったまま、ようやく素に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………じょ、冗談、だよな……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唯本人しか分からない真意を確認できないまま、岡崎拓哉は夜を過ごすこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






さて、いかがでしたでしょうか?


先週は引っ越しの手伝いなどで家にいなかったので更新できませんでした。
今回、唯の最後のセリフをどう捉えるかは岡崎次第、そして読者の皆様次第です。
流れに身を任せた結果、この先の唯との関係はどうなるのか。読んでいけば多分分かるでしょう!


いつもご感想高評価(☆10)ありがとうございます!!


では、新たに高評価(☆10)を入れてくださった


弐式水戦さん


一名の方からいただきました。
あまり詳しくないのにこの作品を読んでくださって恐悦至極!本当にありがとうございました!!
これからもご感想高評価(☆10)お待ちしております!!

最近話数別に感想が見られるようになったのでお気に入りの回の感想を見直してはニヤついている自分です。
モチベに繋がるとはまさにこの事。




今年最後の投稿になりましたが、来週は年末年始真っ最中ということもあり当然大忙しなわけでして……投稿はないと思っててください……。

今年もこの作品を読んで着いてきてくださってありがとうございます。
来年の2月頃にはおそらく最終回を迎えると思いますが、どうかその時まで皆様には読んでいただけることを祈りつつ、今年はこれで終わりにしたいと思います。
来年もよろしくお願いいたします!!
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