(・8・)
太陽が沈みかけ、空も景色もオレンジ色に染まった道を歩きながら、さっきサイドテールの少女と茶髪のツンツン頭の少年が言っていた事を思いだす。
『私、西木野さんの歌声大好きなんだ』
『放課後、毎日穂乃果達は朝と夕方に神田明神の階段でトレーニングをしているんだ。だから、まぁ、何だ。良かったら見に来てやってくれ。あいつらの、ちゃんと本気でやっている所を見れば、お前ももっと何か感じれるものがあるかもしれないからな』
最初それを聞いた時は何だそれは、と思った。でも後から考えて少年の意図が分かった。分かったからこそ、腹が立った。
何故か心の中を見られている様な気がして、自分の気持ちに変化が訪れたのが分かったかのように振る舞った少年に対して。
そして、結果的に言えば少年の思う壺になっている自分がいる。
今歩いているこの道は帰路ではない。西木野真姫は、少年の言った通り、神田明神へ足が出向いていた。
しかし、これは決してあの少年が言ったから行く訳ではない。少し、ほんの少し気になっただけだから様子見に行くだけ。そんな言い訳がましい事を内心で考えながら歩く真姫の顔は少し険しくなっていた。
「(絶対、絶対違うんだから!私がちょっと気になっただけだから見に行く。ただそれだけ!)」
教室でも、休み時間でも、放課後でも、いつも1人でいる真姫は誰とも喋る事はない。いつも1人だからこそ、必然的に考え事が多くなってしまう。なのに、いつも1人でいるのに、最近はしつこく喋ってくる2年の先輩が現れた。
その目的は作曲の依頼だった。当初は、何故2年の先輩が1年の自分に話しかけてくるのだろうと疑問に思っていたが、蓋を開けて見れば所詮はこんなものだ。当然、その依頼を蹴った。アイドルなんかをやって、生徒を集める?ふざけている。馬鹿げている。そんな軽いもので集められるなら、この学校は廃校までに陥らないはずだ。
その考えが、真姫の態度の答えだった。そしてそのアイドルの歌う曲を自分が作るなど以ての外だった。決して作曲してやるもんか。アイドルというそんなもののために手伝ってやるもんか。そう考えていた。
なのに。
さっきの音楽室でのやり取りが蘇ってくる。
笑顔でありながらも、激しい踊りをし、安定した歌声を披露しなければならない事を知った。腕立てをし、そのままずっと笑顔でいる事のキツさを知った。2年の彼女も、唯一の男子生徒であるあの少年も、本気で活動をやっている事を知った。
だから、今真姫は神田明神まで足を運んでいた。それは、彼女の考えが変わろうとしている証拠だった。
少年の言っていた神田明神へ入るための階段の曲がり角が目に見えた所で、声が聞こえてくる。
恐る恐る曲がり角から階段の上の方へ目を向けるとそこにあったのは、
「もぉぉぉぉダメぇぇ~~~……!」
「もう……動かない……」
「ダメです。まだ2往復残っていますよ!」
「ぜぇっ……はぁ……はぁ……!!何でっ…俺まで……やらされてんだよっ……。しかも俺だけ、うさぎ跳び20往復とか……修行じゃねぇんだよ!」
ぐったり座り込んでいる少女が2人、仁王立ちしている少女が1人、うつ伏せで死人の様になりながらもツッコんでいる少年が1人という、何ともシュールな光景があった。え、何あれ?と疑問に疑問が重なる真姫だが、その光景を隠れながら見ている真姫も十分にシュールなのは言うまでもないだろう。
真姫の疑問とは裏腹に、会話は続けられていく。
「あら?何を言っているのですか拓哉君……?先程穂乃果から話は聞きましたよねぇ……?」
「…………え、あ、ちょ……だからそれは色々あっての事で―――、」
「その色々を何故私達に言って下さらなかったのですか……?」
「いや、だって、別に言う必要もないというか……海未達の気にする事じゃないといいます――ひぃっ!?」
「ほう…………」
何やらあの少年が危険な目に遭いそうなのは分かった。でもそれは自分の知った事じゃないから、あの少年がどんな目に遭おうが構わない。寧ろあの少年の事で今腹が立っているのだから好都合とまで真姫は思っていた。世は非常なのである!
「まだ罰が足りないと……?」
「いやホント調子乗ってすんませんでした勘弁してください許して下さい生まれてきてごめんなさい」
「ねぇ海未ちゃ~ん。ちょっとだけ休憩しようよ~」
「おい、俺を貶めた元凶さんが何を言ってくれちゃってんの?さっさと2往復走って来いやゴルァ!俺はうさぎ跳びでももう20往復終わったんだぞウラァ!!」
「はぁ……拓哉君はちょっと黙ってて下さい「はい」……。穂乃果、休憩するという事は、諦める事になりますけど、それでもいいのですか?」
「もぉ、海未ちゃんの悪代官!」
「それを言うなら、鬼教官のような……」
何の会話だ?真姫は正直にそう思っていた。単なる頭の悪い会話なのか、それともこれが彼ら彼女らのいつものコミュニケーションなのか。それは、いつも1人である真姫には分からなかった。知りえなかった。
友達と話す、喋るという事はあんなに楽しいものなのか。そんな雰囲気があそこから伝わってくる。何やら言いあっている様子ではあるが、それでもあの空間の中は優しいオーラに包まれているようだった。
キツイであろう練習も文句は言いながらではあるがこなしている。それが彼女の、高坂穂乃果の答えだった。岡崎拓哉という少年はこれを見せたかったのだろう。言葉だけでは伝わらない。ならば、態度で示そうと。それを見て、決めてくれと。
思考というものは段々と深くなっていくものである。だから周りが見えなくなる事もある。
故に。
真姫は自身の後ろから胸へと迫る手に気が付けずにいた。
ガシッ‼と。
「きゃああああああああああ!!!!」
少女と思わしき悲鳴が聞こえた。
「ん?何―――、」
だろうと、発する前に。
バッ‼と、穂乃果の前を人影が通り過ぎて行く。
言うまでもない。
「お前らはそこにいろ!!動くんじゃねぇぞ!!」
拓哉だ。
「やっぱり、たくちゃんはたくちゃんだなぁ……」
「考えるより先に体が動いちゃうんだもんね」
「全く、つい今まで疲労で倒れていたというのに……」
海未の言う通り。
拓哉の体は疲労感でマックスだった。
今までやった事もないうさぎ跳びをいきなり20往復やり、疲れないはずがないのだ。今も疲労で足が笑っている。
でも、
「(くそっ、貴重な練習場所の近くに不審者とかシャレになんねぇぞ!!)」
体が勝手に動いてしまう。どんなに疲れていても、どんなに日常にいようとも。たった1つの声でいとも簡単に非日常へと足を向かわせる事が出来る。それが岡崎拓哉なのだ。
急いで階段を降りる。声がしたのはこのすぐ周辺だ。
「(声がしてからまだ十数秒。事はまだそんなに大きくなっていな――――、)」
曲がり角を曲がった所で拓哉の思考が止まる。
巫女さん(東條希)に胸を掴まれている女の子(西木野真姫)がそこにいた。
「な、何すんのよ!?」
「まだ発展途上といったところやなぁ」
「はぁぁ!?――――って、」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………や、やぁ」
何ともまぁ、タイミングの悪い時に来ちゃったなぁと、拓哉が思う前に。
瞬間。
スパァァンッ!!
真姫の平手打ちが拓哉の頬にクリティカルヒットしたのだった!
「や、あのですね。悲鳴が聞こえたので不審者が出たのかと思い、急いでここに来た訳ですよ。するとそこにいらっしゃったのがまさかのあなた達でして、ええ……」
またしても。
ニヤニヤしている巫女姿の少女と、腕を組んで見るからに怒ってますよの雰囲気を纏っている音ノ木坂学院の制服を着た少女と、顔に紅葉型の痕を作りジャージで道端に正座をさせられている少年という、シュールな光景が繰り広げられていた。
「じゃあ岡崎君は何も悪くないのにビンタされたって訳やね。ほら、謝っとき?」
「元はと言えばあなたが余計な事するからでしょ!?」
そう、希が真姫の胸を揉まなければ、真姫は恥ずかしい思いをしなくて済んだし、拓哉も顔に紅葉型の痕を残す事もなかっただろう。しかし、この東條希という少女に反省の色は見えない。寧ろこの状況を楽しんでる様に見える。
「余計な事やないでぇ。後輩の成長を確かめるのも先輩の役目やし~」
「余計なお世話よ!!」
「あのー、俺はそろそろ席を外してもよろしいのでございましょうか……?」
正座をさせられている拓哉としては早くこの場から去りたいというのが正直の感想だった。
「まぁまぁ、岡崎君もせっかくやしちょっと喋ったらいいやん」
「喋るって何を?世間話するつもりはないんですけど……」
「世間話やのうて、胸の大きさの話やん?」
「なっ、何言ってんのよ!!」
「いやホントに何言ってんだよ。俺にまたビンタされろってのかお前は。巫女さんなのにドSなの?」
話ながらも正座のままの拓哉を、道歩く人は通り過ぎる度に見て行く。傍から見ればちょっとした修羅場に見えなくもない、のか?という疑問を見て行く人々全員が思っていた事だった。
「でも望みは捨てなくても大丈夫や。大きくなる可能性はある」
「人の話全く聞いてねぇぞこいつ」
「何の話ぃ!?」
「恥ずかしいんなら、こっそりという手もあると思うんや」
「…………」
「っ、だから何―――、」
「分かるやろ?」
それだけ言うと、希は階段を上って行った。
希の言っていた事の意味が、一瞬分からなかった。何かふざけているのかと思えば、含みのある言い方に急に変わる。真姫にとって東條希は、何を考えているか分からない相手、というのが正しいだろう。
「……なるほど。東條も何かしらどこかで噛んでるって訳か」
目の前の少年が何かを呟いたのを、真姫は見逃さなかった。
「は?」
「いや、こっちの話だ」
「とりあえず正座止めたら?こっちまで変な目で見られるんですけど」
「させた張本人がそれを言いますかね……」
言いながら正座を崩し、立つ拓哉。その際、あ、疲労と正座のせいで足が変に痺れ……てる……、と苦痛の表情をしていた。
「そ、それと……!」
「いつつ……んぁ?」
「あの……その……、さ、さっきは……その……ビンタしちゃって、ご、ごめんなさい……」
確かに、さっき胸を触られていた所を見られたからビンタした。でも、それは悲鳴を聞いた拓哉が心配して来てくれたからだ。端に言えば、本当に拓哉は何も悪くない。恥ずかしいからと言って反射的に手が出た自分が悪いと、真姫はちゃんと自覚してはいたのだ。
元々、希があんな事をしなければ良かった話なのだが。終わった事をいつまでも言い訳にする訳にはいかない。つまり、悪い事をしたから謝る。それだけの、とても簡単な事だった。
「ああ、別にいいよ。俺も偶然とはいえ見ちまったし、お前の判断は女の子として間違っちゃいないさ。それに、」
そんなはずはない。ただ偶然に偶然が重なってああなったとしても、悪いのは完璧にこちら側なのだ。彼が非に病む事はこれっぽっちもないのだ。
なのに、
「俺としては何も起こってなくて安心したよ。お前も無事で良かった。東條も無事で良かった。はいっ、これでこの話はお終い!」
手拍子をすると同時に、スイッチを押したかのように切り替えようとする拓哉。これ以上この話をするのは野暮ったいという事なのだろうか。とりあえず、拓哉がそう言うなら釈然とはしないが、この話は終わりにしようと思った。
「それと、あいつらの事、見に来てくれたんだな」
突然の事に、一瞬言葉を失った。
「べ…べつに、ちょっと気になっただけだから来ただけよ!」
おぉぉ、リアルツンデレきたーと、拓哉は軽く呟いてから、
「でも、来てくれたんだな」
「うっ、うぅ……」
拓哉の言う事は正解だった。何だかんだ言いつつも、結局真姫はここに来た。それが全ての証明になった。
「で、でも!本気で練習してないと作曲なんかしてやらないんだから!それを確かめるつもりで来たんだし!」
「それで、あいつらがどれだけ本気か分かったか?」
笑顔で問いかけてくる拓哉にまたしても真姫は口ごもる。
答えは既に真姫も知っている。ついさっきもう彼女達の本気を見たのだ。今出た言葉は口実を上手く作るための手段に過ぎない。
「ま、まぁ、ちゃんとやってるって事は、わ、分かったけど……」
「なら、お前の中で答えは出たんじゃないか?」
何を知った風な口を……と言おうとして止めた。悔しいけど当たっていたから。
「……私はもう行きますから」
「ああ、見に来てくれてありがとな」
拓哉に背を向け、去ろうとした所でまた声が入る。
「“またな”、西木野」
ホント、最後まで分かった様な事を言って憎たらしい男だと、そう思いながらも、
「ええ、“また”」
同じように返す。今度の今度こそ、真姫は去る。
ようやく本当に帰路に着きながら、真姫は思った。
あの巫女姿の少女の考えている事も分からない。確かに分からないのだが。……本当に何を考えているのか分からないのは、あの岡崎拓哉という少年だと。
こちらの考えが筒抜けの様に分かって、けれどどこか1歩引いた所から接してきているような感覚。何か探られているような感覚。でも、嫌な感じはしなかった。腹が立つが、憎たらしいが、よく分からないが、悪い人ではないという事は嫌に分かった。
高坂穂乃果率いる彼女達の事を必死に考えて、その助けになろうとしている。
彼も彼女達も本気。
であれば。
「はぁ~……仕方ないわねぇ……」
少女のやる気の溜息にも似た何かは、夕の空へと消えていった。
―――――――――――――――――――――
「悪い、待たせたな」
西木野と別れてから元に戻ると、完全に休憩モードから帰宅モードに変わっている幼馴染達の姿があった。
「遅いよたくちゃ――ってあれ、その顔の赤い痕、どうしたの?」
「まぁ、何?軽い事故だ。気にするな」
これを追及されたら俺はさっきより酷い目に遭うだろう。嫌だ、タクヤマダシニタクナイ。
「つうか何?今日はもう帰るのか?」
「ええ、もう本当に走れなさそうにしていたので」
結局諦めたのかよこいつら……。西木野に本気見せてやったぜと思ってた矢先にこ―――、
「でも代わりに腕立て腹筋としたよ!」
れじゃない。うん、俺は知ってた。こいつらを信じてたよ?俺がこいつらを疑う訳ないじゃないですかやだなーもー。
「そういう訳だし、今日は帰ろー!」
穂乃果を筆頭に俺達はそれぞれの家に足を向けた。
「ふぅ……」
頭をタオルで軽く拭きながら冷蔵庫まで向かう。
正常に機能していて冷えた冷蔵庫の中から目的のブツを取り出し、それを開ける。
そしてそれを一気に口に含み、飲む。
「んぐっ……んぐっ……―――――――――ぷはぁっ!!うん、美味である!」
やっぱ風呂上りはコーヒー牛乳だな!異論は認める。王道な牛乳でもいいし、マイナーなイチゴ牛乳でもいい。だがフルーツ牛乳、テメェはダメだ。小さい頃、風邪を引いて粉薬を飲む時、粉薬の味が凄く嫌いだった俺は飲み物を一緒に飲んで誤魔化そうとした。それに使用したのがフルーツ牛乳だ。
そして結果は、うん、まぁ、えと、何?めちゃくちゃ吐いた。
だってくっそ不味かったんだもん。フルーツ牛乳の中にバラバラになった粉薬が地雷の様にばら撒かれていて、誤魔化す所か全ての地雷を自ら踏み込んでいくまである。念のためにトイレで実践して良かった。もしリビングでやってたら唯に嫌われる所だった。
とりあえず、俺はそれからフルーツ牛乳が大の苦手になった。以上、QED。
「お、唯、受験勉強か?」
リビングのテーブルで、唯が資料などの勉強するための一式を広げていた。
「あ、お兄ちゃん。そうだよ~、私、頑張ってますっ」
ふんすっ!っとワザとらしく口に出してドヤ顔で見てくる唯。はいはい可愛い可愛い。誰にも渡さん。
「でもちょっと休憩~。ぷふぅ~」
そう言ってソファに座っている俺の隣に腰を下ろす。唯もさっき俺の前に風呂入ってたせいか、ほんのりシャンプーの香りが鼻をくすぐる。俺も同じのを使ってるはずなのに自分じゃ何も匂わないってどういう事なの?俺の体は無臭にする能力でも秘められてんの?何それ加齢臭とかしなさそう超便利。
「勉強は順調か?」
「うん、今の所は大丈夫かな~って。分からない所はお兄ちゃんに教えてもらう~」
「いや、俺より母さんの方がいいと思うんだが……」
俺は成績自体は悪くない。だからといってめちゃくちゃ良い訳でもない。言うなれば普通だ。うん、やっぱ普通が1番。無難でいいのだ。普通最高!
「何言ってんの?私はお兄ちゃんに教えてもらうって言ったんだよ?」
はぁ?何言ってんのこいつバカなの死ぬの?みたいな目で見ないでくれません?妹にそんな目で見られるとさすがにお兄ちゃんショックですよ?
「あいあい、分かったよ。分からない所は俺が出来る範囲で教えてやる。でも俺でも分からない所は母さんに聞けよ?」
「はぁ~い!」
何とも間の抜けた返事である。一応釘は刺しておいたけど分かってんのかこいつ?今も隣で体がくっつきながら足をパタパタさせている。てか近い、近いよ。
兄妹だから気にしたりはしないけどさ、年頃の女の子はもっとそういうのにデリケートなんじゃないの?お兄ちゃん分からないよ。
ちなみに件の母さんは既に寝ている。我が家の母はやる事を全て終えたらすぐに寝るのが日課なのだ。主婦の朝は早いというが、全く以てその通りである。そのために母さんはいつも早めに寝る様にしている。今は9時だ。いや、小学生かよ。
なので、いつもこの時間帯は俺と唯の2人だけになる事が多い。しかし、唯はいつも自室で受験勉強をしているため、休憩の際にしかリビングに来ないはずなのだが、何故か今日に関してはリビングで受験勉強をしている。
だから俺もいつもはすぐ自室に戻りテレビやゲーム、マンガを読んだり、穂乃果達を手伝えそうな事をググったりしているのだが、今日に関してはリビングに留まっている。一体どうしたというのだろうか。自室じゃ堅苦しいからリビングでリラックスしながら勉強しようと思ったのか?
そこまで考えて、ふと、テーブルに置かれている資料やノートに目が行った。
そういや、唯はどこの学校に行くつもりなんだ?
やはり有名なUTX学院か?あそこなら設備も良さそうだし、不自由なく学校生活を送れそうではあるが。
「なあ唯、お前って、どこの学校受けるつもりなんだ?」
「音ノ木坂学院だよ」
「…………………………………………………………………………………………………………は?」
「だからぁお兄ちゃんも通ってる音ノ木坂学院だよ~」
あまりにも即答されたものだから一瞬理解が追いつかなかった。というより、ちょっと待て。何で唯はわざわざ廃校になりそうな音ノ木坂を選んだんだ?
「いや、ちょっと待てよ。今の音ノ木坂は廃校になりかけてるの、お前も知ってるんだよな?」
「知ってるよ~」
抜けた返事が返ってくる。
「なら余計待てよ。それなのに何でわざわざ音ノ木坂に入ろうとしてんだ?もし廃校になっ――――、」
「雪穂から聞いたんだ」
またしても抜けた返答。
「な、に……を……?」
「お兄ちゃん達がその廃校を止めるために今頑張ってるんだって」
「…………」
言葉が止まる。
「だから私は音ノ木坂を受ける事にしたの。それに最初から音ノ木坂にするつもりだったし!」
雪穂から聞いた。というのは、穂乃果達がスクールアイドルを始めて、俺がそれを手伝っている事をだろう。雪穂の奴、勝手に言いふらしやがって……次会ったらデコピンの刑だな。
それにしても、それだけで音ノ木坂に決めるだろうか?そんな軽く言って決めれるものなのだろうか?
「言っておくけど私、軽い気持ちで言ってる訳じゃないよお兄ちゃん」
考えが読まれたような気がした。やっぱり今読心術流行ってんの?
「お兄ちゃん達が学校を守るために頑張ってる。動いてる。だから決めたの」
理解出来るようで、理解出来なかった。
「いや、言ってる意味がよく分からないんだが……」
「簡単な事だよお兄ちゃん!お兄ちゃんは守るって決めたものは絶対に守るって事を私は知ってる。だから音ノ木坂学院は廃校になんかならない」
それは、あまりにも不確定要素が多かった。理解が追いつかなかった。
はずだった。
「もっととっても簡単に言っちゃえば、私、唯はお兄ちゃんを全面的に信じているからですっ!」
ああ……なるほど。そう言う事か。だから唯は自信満々にそんな事が言えるのか……。やっぱり俺の妹はどこまでも俺の妹だったよ。
そこまで言われちゃ、お兄ちゃんもっと頑張んねぇとな……。
「そうか……。また、守る理由が1つ増えたな……」
そう言いながら俺の左肩に頭を置いている唯の頭を撫でてやる。まだ若干濡れている髪を優しく撫でる。その度にシャンプーの香りがふわりと鼻を優しく刺激してきた。
「うひゃぁ、守る理由が多い程、お兄ちゃんは強くなるもんねぇ」
「……そうだな。もっと頑張れそうな気がするよ」
そうだ。
何を言っていたんだ俺は。
何がもし廃校になったら入れないなどと言いかけたんだ。
もう守るって決めた事じゃないか。
穂乃果達も、他の生徒も、先生ごと学校を守ってやると決めたじゃねえか。
妹が関わる事になった途端、弱気になる必要なんてどこにもなかったんじゃねえか。
信じてくれている。それで十分だ。
守る理由が多い程、俺は強くなると言ってくれた。それは真実なのかもしれない。何せ今、とても勝気な表情をしているのが自分でも分かるから。
「お兄ちゃん、良い顔になったよ」
隣の唯も、何やら嬉しそうな顔をしている。
この笑顔を守ろうと誓ったのは小学5年の時だった。
今、新しく誓おう。
穂乃果達の笑顔も唯の笑顔諸共全て守ってやろうと。
「唯」
「ん、何?」
「音ノ木坂は俺が、穂乃果達が守る」
「うん」
「絶対に、成功させて守ってみせる」
「うん…」
「次の年の生徒が入って来られる様に頑張るから」
「うん……」
「だから、少し先で、俺達はお前を待ってるぞ」
「うん!!!」
守ると誓った笑顔が、とても輝いていた。
やってやる。
そろそろ次の誕生日の話考えとかないとなぁ……。
活動報告とやらも軽くしていこうかなと思いまする。