何かμ'sの曲を聴く度に映画を思い出して喪失感が凄い。
例えるなら、ライブの翌日に、あぁ、昨日のライブ楽しかったな……と感じる位に辛い。
……分かりにくいな。
時間は少し経って、ここは穂乃果の家。
俺と穂乃果、海未の3人は今、穂乃果の部屋でパソコンを開いている。
先に述べた通り、ランキングチェックと他のスクールアイドルの動画を見るためだ。と言っても、大体A-RISEの動画ばっか見てんだけどね。だってあれじゃん?上手い人のを見ろって言うじゃん?という安直なものです、はい。
「うぅーん、やっぱり動きのキレが違うよね~。……こう?こう。こーう!?」
A-RISEの踊りを真似ようと、穂乃果が立って振り付けをし始める。こらやめなさい。スカートのまま目の前で踊るんじゃありません。目が釘付けになっちゃうでしょうが。
「ん?あ」
何とか目を逸らすためにパソコンを見ると、
「あぁ!」
「?どうしました?」
「ランクが上がってる!」
μ'sのランキングが上がっていたのだ。
「きっとチラシを見てくれた人が投票してくれたんだね!」
「嬉しいものですね……!」
「海未。これが頑張った証なんだよ。決して無駄じゃなかったろ?」
「……はい!」
満面も笑みで返してくれた海未。そうだ、3人が、特に恥ずかしがりの海未も頑張ってチラシを全部配り終えたのだ。絶対に無駄ではなかった。その証拠として、今こうしてランクが上がったところを見る事が出来た。
こいつらの頑張りは決して無駄にはならない。見てくれてる人もちゃんといるのだ。投票してくれて、頑張れって思ってくれているのかもしれないのだ。穂乃果達の思いは伝わっている。それを目の当たりに出来た事が、俺は嬉しかった。
そこで、
ガララッと部屋の引き戸が開かれる音がした。
「お待たせ~!」
こ、この脳がとろけるような甘くて安心するエンジェルボイスは……!!
「会いたかったぜマイラブリーエンジェルことりぃ!!」
「さっき会ったばかりでしょうが……」
「バッカお前、さっきだとしても俺には数年振りに思えたね。時が止まってるかのような感覚に襲われていたね。まさかその辺にディオが……!?」
「さっき振りだねたっくん♪」
「もう放っておきましょう」
いやん、海未ちゃん冷たい!海のように冷たい。海未だけに!……あ、ちょ、何で睨むんですか海未さん声に出してないじゃないすかエスパー何ですかエスパー伊藤なんですかいやすいませんごめんなさいマジすんませんした。
「そういえばことりちゃん、見て見てー!」
穂乃果さんは完全にスルーっすかそうっすか。いや、別に悲しくなんてないから。いつもの事だし慣れてるから。……ホント慣れてるから!(泣)
(泣)って入れてるとマジっぽく見えるっしょ。え、見えない?
「わぁー凄い!」
あ、ことりまでスルーするなんて……!うおおおおおーん!!!!
「あ、もしかしてそれ、衣装!?」
穂乃果が急に目を輝かせていた。その目線の先には1つの大きめな紙袋が。なるほど、それが衣装か。
「うん!さっきお店で最後の仕上げをしてもらって!」
ほう、という事は衣装はもう出来上がったという事か。この前ことりに見せてもらった衣装のイラストがあったが、気になるのはそれをどこまで再現出来てるかだな。
「ワクワク……!」
「…………!」
穂乃果も早く見たいのか感情を思いっきり口に出している。分かり易過ぎだろこいつ。海未は海未で逆に緊張してるな。こいつの言った希望はちゃんと叶えられているかどうかって感じか。
「じゃーん!」
ことりの声と共に出されたのは、まさにあの時見たイラストそのものだった。
お、おぉ……すげぇ、まさに再現ってのが文字通りなくらい再現出来てるぞこれ。ことり裁縫得意すぎだろ嫁度高すぎウチに来てくれ。
「うわぁぁ~……!可愛いぃ~!本物のアイドルみたい!」
穂乃果の言う事ももっともだった。ホントによく出来てる。アイドルが着ているものと言われても違和感がまったくない。それ程までの完成度だった。
……ん?あれ、でもこれって……、
「ホント!?」
「凄い!凄いよことりちゃーん!」
「本物ってまでにはいかないけど、なるべくそれに近く見えるようにしたつもり!」
「おぉぉぉ~!!」
2人は完全に舞い上がっている。それも無理はない。穂乃果としては、これほど完成度の高い衣装を自分が着れるという事に興奮しているのだ。ことりもそう、自分が作った衣装を穂乃果がこんなにも褒めてくれて嬉しいのだ。
しかし、しかし、
「ことり」
「「?」」
海未の一言が、嫌に通るように聞こえた。
そして、
「そのスカート丈は……?」
一石が投じられた。
「え、あ……」
ことりがやっちゃった感満載の顔になっていた。そこでその時の思い出してみる。
『いいですか!?スカートは最低でも膝下でなければ履きませんよ!いいですね!?』
『は、はいぃぃ……!!』
あぁ、あの時の怯えたことりも可愛かったなぁ……じゃない。その回想を踏まえた上で、もう一度今ある衣装を見てみよう。スカート丈は膝下まであるか?
ない。以上Q.E.D.。
「言ったはずです……!最低でも膝下までなければ履かないと……!」
海未が海未神様になっておられる。誰かー!海未神様のお怒りを鎮めたまえーい!え、俺?無理無理、火に油注ぐだけだから。
「だってしょうがないよ、アイドルだもんっ」
おぉっと、ここで穂乃果さんまさかの火に油のうえに、ガソリンとダイナマイトまで放り込んだぁ!身の程知らずとはまさにこの事である。
「アイドルだからといって、スカートは短くという決まりはないはずです!!」
「それはそうだけど……」
海未の言う通り、アイドルとはいえ、絶対にスカートを短く、履かなければならないという決まりはない。別にちゃんと歌って踊ればズボンでも構わないのだ。まぁ、アイドルは短めなスカートが印象的なのは否めないが。海未の言う事も筋は通っている。
しかし、
「でもぉ、今から直すのはさすがに……」
そう、ことりはもう衣装を完成させてしまっている。それ即ち、時間的に考えても今から直しても当日までには間に合わないだろう。海未の逃げ場を意図的になくそうとしているのか定かではないが、もしそうならことりマジ策士。小悪魔天使と言われてもおかしくはない。…悪魔なのに天使とか矛盾してるだろ。
「そういう手に出るのは卑怯です!」
海未もそう感じ取ったのか、珍しく少しご立腹な様子であった。
「ならば、私は1人だけ制服で歌います!」
「えぇ!」
「そんなぁ」
カバンを持って帰ろうとする海未。ま、忠告したのにそれを聞き入れてもらえず、恥ずかしい恰好で舞台に出なければならないと分かれば、海未の気持ちを考えれば分からない事もない。
「そもそも3人が悪いんですよ!私に黙って結託するなんて!」
ちょっと?何さりげなく俺も犯人扱いされてんの?俺何も知らなかったよ?俺はシロです!
「海未、俺は何も知らな―――、」
「……だって、絶対成功させたいんだもん」
そろそろ本気で泣くぞ。つうかマジで結託してたのかお前ら。何故俺を入れなかった!?俺ならもっと海未に恥ずかしいような恰好をさせようと考えたのに!
…あ、これじゃ結局今の結果と変わらなかったか☆
すると、何やら真剣な思いを口に出すかのような表情で、穂乃果は口を開いた。
「……歌を作ってステップを覚えて、衣装も揃えて、ここまでずっと頑張ってきたんだもん……。3人でやって良かったって、頑張ってきて良かったって、そう思いたいの!」
それは紛れもない本音だった。穂乃果の正直で、ド直球な程真っ直ぐで、嘘偽りのない本音だった。
ここまで自分達でやってきた。途中、西木野の力を借りて曲を作ってもらった事も確かにあった。でもそれを実現出来たのは、穂乃果の気持ちが西木野に届いた結果である事に変わりはない。
そこまで全て含めて自分達でやってきた。ならば、やはり3人で一緒の衣装を着て、一緒の歌を歌って、一緒に考えた振り付けがしたいという考えは全然不思議な事ではない。寧ろ当然の考えというものだ。
「……穂乃果?」
言うだけ言うと、穂乃果は突然窓の方へ駆け寄り、
「思いたいのぉぉぉぉおおおおおーーーーーー!!」
「なっ……!」
暗くなった外へとその大きな声を思いっきり叫びだした。
「何をしているのですか!?」
「もう夜なのに近所迷惑になるだろ。何やってんだお前……」
これで苦情が来ても怒られるのはお前じゃなくて桐穂おばさんと大輔さんなんだからな。そのあとその2人に怒られそうだけど。
「それは、私も同じかな」
俺と海未の言葉を流すかのように、ことりから呟きが聞こえてきた。
「え……」
「私も、3人でライブを成功させたい!」
「ことり……」
ことりも、本音を言った。衣装を作ったのだから、一緒に着たいのは当たり前の考えだろう。今の所、自分の意見を言った穂乃果とことり2人、何も言ってない俺と海未が2人、引き分けている現状である。
だからか、穂乃果は真剣な目で、ことりは優しく微笑んで、海未は戸惑いを感じさせながら俺をジッと見ていた。俺の考えを言えと目線で言っているのだろう。
「……俺は、実際に歌って踊るのはお前らだから、手伝いでしかない俺が何かを言う権利はないと思ってる。だから決めるなら、お前ら自身で決めるんだ」
「拓哉君……」
海未が少しもの悲しそうな顔で見てくる。穂乃果もことりも少し表情が暗くなっているのが分かる。でもこれが俺の本音なのだ。
所詮は手伝いでしかない。そんな俺に決定権なんてのは最初からないのは分かってる。そのうえでサポートしてきた。いつだって決めるのは、μ'sである彼女達なのだから。本人達が決めないと意味がない。
「たくちゃん、そんな事な―――、」
「でも」
「え……?」
それでも、俺だって最初からμ'sに関わってきた。
彼女達が結成した瞬間をこの目で見た。
μ'sというスクールアイドルが生まれたのをこの目で見た。
なのであれば。
1つくらいは、意見を言っても罰は当たらないだろう。
そう願う。
「それでも、俺が何か言う事があるのなら……。俺も、穂乃果、ことり、海未、お前達3人の同じ衣装で楽しく歌って踊る姿が、そういうファーストライブが見たい、かな」
これも俺の本音だった。せっかくの最初のライブなんだ。統一感がなくてどうする。大事な門出ならば、揃って見てやりたいと思うのが俺の本音である。
「たくちゃん……!たくちゃーん!!」
「な、ちょっ、おわっ!?いきなり抱き付いてくんな!」
ええい、暑苦しい鬱陶しい可愛いいい匂い可愛い離れろ!
「……はぁ。いつもいつも、ズルいです……。……分かりました」
少し嘆息してから、海未は俺にくっ付いたままの穂乃果に向き合って、口に出した。
肯定の意味での言葉を。
「海未ちゃん……!だぁーいすきぃ!!」
俺から離れて今度は海未に抱き付く穂乃果。ここにキマシタワーを建てよう。
でも2人を見てると分かる。
そこにはもう、何もわだかまりはなかった。明るい笑顔が、その場を包んでいた。
「たっくん、寂しいなら私が抱きしめてあげよっか?」
「何それそんな素晴らしい日本語があったのか是非よろしくお願いし―――、」
「それはダメ!」「ダメです!」
「お、おう……」
食い付き過ぎだろ……。それにあなた達たった今抱き合ってたじゃないすか。穂乃果なんてついさっきまで俺に抱き付いてたじゃないすか。何でことりはダメなんだよぉ。
「あ、そうだ!せっかくだし今から神社まで祈願しに行こうよ!」
話を逸らさんとばかりに穂乃果が違う話題を振ってきた。
「つってももう夜だぞ?」
「そこはたくちゃんがいるから私達のボディーガードって事で!」
「……はいはい、喜んで守らせていただきますよ姫様達……」
こんな時くらいしか役に立てそうもないしなぁ。都合の良い男みたいになってる気がしないでもない。
「それでは時間も時間ですし、早めに向かいましょうか」
海未の言葉を皮切りに、俺達は暗くなった外へと、神社まで足を進めた。
「夜の神社って結構怖いイメージがあったんだが、神田明神は何故かそんな雰囲気まったくしないな」
「元々神社は神様を祀ってある所なので、怖い場所というより神聖な場所だと思うのですが……」
ふむ、毎年何回かやる心霊番組を見てるせいか、そんなイメージが勝手に出てきてしまってるな。それにここは人も少なからず来るし、何せ東條がここで働いてるからか寧ろ安らぐ感じがする。東條いるだけで安らぐとか東條神様かよ。毎日参拝するわ。
辺りを見回しても、人の姿は見えない。さすがに東條も帰ってるだろうし、夜にわざわざ参拝しに来る人もいないのか、この神社にいるのは俺達だけだった。
「んじゃ、とっととお祈りでもしてこい」
俺は後ろで親のように見といてやるから。正直財布から5円出すのめんどい。すると穂乃果がポカンとしながら口を開いた。
「何言ってるの?たくちゃんも一緒に祈願するんだよ?」
……ホワイ?
「え、何で?」
今度は俺がポカンとする順番だった。
「たくちゃんも言ったじゃん。私達が同じ衣装でステージに立つファーストライブが見たいって!」
うっ……それを言われると俺も祈願せざるを得ない。仕方なく3人の隣に並び、財布を出し、5円玉を取り出す。
「じゃあいくよ。せーのっ!」
穂乃果の掛け声で一斉に賽銭を賽銭箱に放り投げる。
「どうか、ライブが成功しますように!いや、大成功しますように!」
穂乃果さん、気持ちは分かるけどちょっと声デカいわ。それと言い直さなくても分かってるよ。
「緊張しませんように……」
とうとう恥ずかしがりを直すために神様頼りにしちゃいますか海未さん。それほどあなたにとって重要な事なんですね、分かります。
「みんなが楽しんでくれますように!」
大天使。
「よろしくお願いしまーす!!」
それぞれが手を合わせ、思いを、願いを、祈りを、渾身に込めて届ける。
それは決して届くのかは誰にも分からない。もしかしたら届かないのかもしれない。それでも人は祈る。本当にいるのかも分からない神様という不可思議な存在に。何かにすがり付くような思いで。確信のない自信を持ちたいが為に。
願いというものは、結局人の自己中心的な傲慢なのだろう。自分の願いを勝手に願い、他人の願いを無自覚に蹴落とそうとしているのだから。自分の欲望ばかりを神様に押し付け、他人の事など一切考えない、大層ご立派な傲慢である。
それに、神様だってそんなにいっぺんの願いを叶えられるはずがない。いや、もしかしたら出来るのかもしれない。が、それも確証ではない。そもそも神様自体いるのかいないのか分からないのだから。もしいるとしての体で話すのなら。
神様というのは便利な存在だ。何でも分かってしまう、何でも出来るというイメージを多く持たれている。それを踏まえるなら、人がどれだけの欲望を抱えて、どれだけの渇望を抱えて、どれだけの貪欲を抱えながら祈願しているのも分かる。
だから、神様は無数ある願いの中からほんの少しの選別をする。本当に、真剣で、真面目に、純粋に込められている願いを叶えてやるために。汚い欲ばかりを出す人間の願いを蹴り、澄み切った気持ちで祈りを届けようとする人間の気持ちを汲み取るために。
きっと、穂乃果達の願いも、少しは欲望にまみれているのかもしれない。本人が純粋に思っていたとしても、心のどこかでは下心があるのが人間だ。だから、穂乃果達の願いも、傲慢だと選別されるかもしれない。
しかし、それなら、誰かが他人の願いを一緒に願えば、祈れば、傲慢も少しは緩和、もしくは中和されるのではないか?誰か1人が複数人の願いを一緒に祈ってやれば、その複数人の願いが叶えられる可能性が、ほんの少しは増えるのではないか?
ならば、
「そういえばたくちゃんは何も言ってないけど、何をお願いしたの?」
俺が祈願中何も言わなかったのが気になったのか、穂乃果が聞いてきた。海未もことりも同じくこちらを見ていた。
「普通祈願する時は声に出さない方が正しいと思うんだが……まぁ、何だ」
「何々!?」
どんだけ気になるんだよ……。大した事願ってねぇぞ俺。
でも、こいつらになら、言ってやってもいいか。こいつらに関係してる事だし。寧ろこいつらにしか関係ない事だし。
ならば、
「少なくともお前らの願いが、叶えられるようにってな」
俺がこいつらの願いを一緒に祈ってやろう。この願いこそが傲慢だと思われるかもしれない。それでも、俺はこいつらの願いを叶えてやりたい。もし神様がこいつらの願いを踏みにじったとしても、俺が叶えてやりたい。
たとえ傲慢でも、貪欲でも、こいつらの頑張りを否定してやりたくない。俺だけは、こいつらを肯定してやらないといけない。それだけ、頑張ってきたんだから。それだけ、決意して走ってきたんだから。
「たくちゃん……それってちょっとベタすぎじゃない?」
「うっせ、ベタな王道でもいいんだよ。それとも何、俺だけ美少女とキャッキャウフフしたいとか願ってもいいの?」
せっかくお前らの事思ってやったのに酷い言い草だった。こんな重い事言ってるけど、俺だって普通に神頼みしてるしな!大体出会いが欲しいとかそんなのばっか。…あれ、こんなのばっか願ってるから俺には出会いがないのか?
「ぶっ飛ばします」
何であなたが即答するんですかね海未さん……。言葉遣いが崩壊しかけてるよ。あと怖い。
「ふふっ、でも私達の事を思ってくれてたんだよね。ありがとたっくん♪」
凄く見惚れるくらいの笑顔が向けられた。
「けっ……決してそんなのじゃないんだからね……!」
「たっくん……?」
危ない危ない。あやうく結婚しよ…って言いそうになった。咄嗟にツンデレっぽく言ったから何とか誤魔化せたから良かったけど。…いやよくねぇよ男のツンデレとか誰得だよ。
その前に結婚しよ…とか何だよライナーさんじゃないぞ。もしかしたら鎧の巨人になれるかもしれない。
「うわぁ……見て見て!綺麗な星空だよ!」
穂乃果が俺のツンデレ芸を華麗にスルーして、空へと指を指した。
穂乃果の指に促されるように俺達は夜空に視線を向けると、そこにあったのは、
「ほぉ……」
「すごぉい……!」
「綺麗ですね……」
どこまでも永遠と広がる、満天の星空だった。
無数の星々が見上げる空に広がり、それは何だか、俺には無限の可能性があるのだと感じさせた。無数の星たちと同じように、人間にも無数の可能性があると俺は思う。
今まで人類は様々な進化をし、文化を築き、技術を発展してきた。何もなかったはずの大地から電気を作り、施設を造り、機械を生み出した。そう、宇宙が未知の世界だと言うのなら、人間にだってまだまだ未知の可能性があるのだろう。
1人1人が各々の人格を持ち、各々の才能を持ち、各々の可能性を秘めている。
それは穂乃果達にも言える事だ。
3人にも3人それぞれの才能がある。可能性がある。それはまだ小さな芽でしかないのかもしれない。でも、それをやがて蕾へ変わり、花へと開花させるには、3人が自分の可能性に向き合って気付く時が来たら、そうなるのだろうと思う。
その芽を大きくするための第一歩が、
「明日か……」
穂乃果が静かに呟いた。
明日。
いよいよμ'sのファーストライブが行われる。
芽を大きくするための重要なキーとなるだろう。
そこから、誰も口を開く事はないのに、静かに、3人がお互いの手を取り始めた。長年一緒にいれば、言葉はいらないってか。俺はそれを2歩うしろで眺める。
「頑張ろうね、ライブ」
穂乃果が口を開いた。その声音はとても澄んでいて、とても強い意志で紡がれていた。
「うん……」
「はい……」
ことりも海未も、簡単な返事だけを返した。
簡単でいいのだ。もう気持ちはお互いに全部分かりきっているから、最低限の言葉だけで伝わる。それくらいの関係が、彼女達にはある。
3人の手を繋いでいる後ろ姿を見て、俺はもう一度夜空を見上げる。
こいつらのファーストライブを、成功させてやりたい。
こいつらの夢を叶えさせてやりたい。
きっとこいつらなら、奇跡だって起こせるに違いない。
確信のない自信を、無数の星々がはびこる夜空を見ながら。
俺はこの熱い気持ちを拳を握る事で、噛みしめるように、実感させた。
穂乃果達なら、きっとやれる。