俺は自分の部屋で荷物の整理を終えてからリビングのソファで休憩していた。
「うあ~……疲れた~」
「男なのにそんなことで疲れてどうすんのよ」
「男でも疲れるのは疲れるんですよーだ……」
重くてデカい荷物を両手で持ちながら駅からずっと歩いて来たんだぞ。あと途中で恥ずかしいからちょっと走ったんだぞ。恥ずかしい思いしたのは自業自得ですけどね!
「だらしないわね~あんた」
酷い言われようである。
母親ならもうちょっと労いの言葉とかくれてもいいんじゃないですかね。拓哉さん悲しい。
「ちゃんと体鍛えてんでしょうね?」
母さんが呆れたように俺を見て言ってきた。
む、何を失礼な。
「一応だけどそれなりに鍛えてるよ。ムッキムキにならない程度ではあるけど」
男としてやはり筋肉はつけておいた方が良いということで俺はたまに自分の体を鍛えている。だけどガチムチにならない程度で。これ重要な。
言うなれば中背中肉くらいだと思う。細マッチョよりちょい下位である。
「そ、ならいいけど。その方が頼り甲斐があっていいわね」
鍛えている理由は他にもあるが今はいいか。
「拓哉が成長してこっちに帰ってきてくれたから、これからはどんどんパシらせられるわね」
「息子を何だと思ってやがる」
「パシ……げふんげふん、大事な息子に決まってるじゃない」
完全に言いかけてじゃねえか。本音8割出てたじゃん。
もうこんなとこやだ拓哉おうちかえる! ……ここ俺ん家だったわ。世も末だな。
「ちょっと拓哉、冗談だってば! 半分くらいは」
「そこは半分って言っちゃダメだろちくしょうっ!!」
ダメだ、ここにいたら余計疲れる……。この場を離れないと精神的にも辛くなってきそう。
仕方ないからどこか避難しようと時計を見るとちょうど12時を差していた。そろそろ昼時だし外出がてらに外で昼飯でも食べるか。
「はあ……んじゃ俺はちょっと出掛けてくるから、昼飯は外で食べてくるわ」
「あら、そうなの? ……ははーん、なるほど母さん分かっちゃったわよ? 会いに行くんでしょ? 久しぶりに」
相変わらず無駄に鋭い母だ。何だそのにやけ面はやめろ。
「まあ、それもあるけど、5年振りの町を見たりとか秋葉で買い物ついでにな」
「はいはい、言い訳はいいからさっさと行ってらっしゃい」
くそっ、精一杯の反抗のつもりが軽くあしらわれてしまった! この母親には反抗期になっても勝てない気がする。
もういいもん! さっさと行くもん!
足早に外出準備を終え靴を履いてさあいざ行かん!! としていたら階段から唯が下りてきた。
「あれ? お兄ちゃんどこか出掛けるの?」
「ん? ああ、ちょっと出掛けてくるよ。昼飯も外で食べるつもり」
「そうなんだ。もしかして久しぶりに会いに行くの?」
親子揃って女の勘は鋭いな。エスパーか何かかよ。
いや、俺が分かりやすいだけなのか? すぐ顔に出たりするとか? ヤバイ、こうなったらクールで無表情な渋い人になるしかない。
「そうだけど、どうして分かったんだ?」
一応理由を聞いてみる。
「だってお兄ちゃん、別れる時に“帰って来たら最初に会いに行く”って言ってたでしょ? だからかなって」
「そ、そうか…」
おぉふ、まさか唯が覚えていたとは……。ん? じゃあ母さんも俺が言った発言を覚えてたから当てられたのか? ということは別に俺は顔に出るとかそういうわけじゃなかった? なるほど、そうかそうか。
なら安心して出掛けられるぞ、さあいざ行かん!!
「それにお兄ちゃん、場合によっては結構顔に出やすいタイプだからね」
岡崎拓哉轟沈であります。
ふっ、笑えよベジータ……。
―――――――――――――――――――
そんなこんなで俺は今道を歩いている。
と言っても幼馴染みの家は俺の家からたったの5分だ。走ったら1分いくかいかないかというレベル。会ったら何を話そうかとかもうそんな心の準備をする暇もない。やばい、もう家の前まで来ちゃったよ……。
和菓子屋『穂むら』、それが幼馴染みの家だ。名前でもう分かってると思うが和菓子の店をやっている。ここの穂むら饅頭は小さい頃から好きだった記憶がある。なんか新作メニューとか増えてるだろうか。
なんて現実逃避しても店の前でずっと突っ立ってる者がいたらそれは怪しい者以外の何者でもない。
ここでウジウジしても仕方ないし、男ならアドリブでぶつかってやろう。
軽快な音と共に引き戸を開けて店内に入ると誰も居なかった。
まさか奥の方にいるのか? と思った矢先。
「あらごめんなさいねえ」
奥から女性が出てきた。
「ご注文は何になさいますか? ……って、あら? あなた、少し見覚えが……。もしかして……」
「どうも、お久しぶりです、桐穂さん」
「た、拓哉君? あなた、まさか拓哉君なの!?」
そう、この人が俺の幼馴染みの穂乃果の母親である
「そうですよ。5年振りにここに帰って来たんですよ。さっき帰って来たばかりなんで挨拶しに来ました」
「へえ~、そうだったの。それにしても大きくなったわねえ。あたしよりでかく成長しちゃってまあ……。それに……うん、やっぱり良い男になったじゃないの! かっこよくもなってるし!」
そんなまじまじと全身見られると緊張するんですけど……褒めてくれるのは嬉しいんですけどね?
「そうですかね? 大きくなったのは分かりますけど、1度も彼女出来たことないしモテてないんでカッコいいかは分からないですよ。むしろ出会いが欲しいまであります」
嬉しいけどお世辞として受け取っておこう。嬉しいけど!
実際俺に彼女とかいたことないからモテるのはあり得ない。自分で言ってて悲しい。
「あら、お世辞じゃないのよ? 本当にイケメンになったと思ってるんだから。謙遜なんかしないの!」
「それを言うなら桐穂さんだって、5年振りに会いますけど全然見た目変わってないしずっと若いままですよ」
このまま褒められっぱなしは照れるので俺からターゲットを桐穂さんに変える。
いやほんと、見た目全然変わってないなこの人。
「やだちょっとお世辞も上手くなっちゃってもう!!」
バシバシと俺の背中を叩いて照れる桐穂さん。
痛い、普通に痛いです。力強くしすぎじゃないですかね。元気あり余ってんな。
「あ、そうだ。久しぶりに会ったんだから出来立ての饅頭サービスしてあげるわ!」
「お、マジすか!」
これはとてもありがたい。
昼飯代が少し浮くのでこちらとしては是非お願いしたい所存だ。思わぬ収穫だった。
「じゃあちょっと上がって待っててくれる? お父さんに作ってもらうから!」
「あ、はい。分かりました」
そう言って桐穂さんはキッチンの方に消えていった。
さてと、なら俺も上がらせてもらって待ちましょうかねえ。……いや、このまま穂乃果の部屋に行ってサプライズで脅かしてやろうか。久しぶりに会った穂乃果の驚いた顔で爆笑してやろうそうしよう。
そう思ったら即行動。と、そこまで思って上がろうとしたら2階の階段から急に激しい足音がして下りてくる音がする。
しまった。桐穂さんと喋ってた声が聞こえて穂乃果にバレたか? サプライズドッキリ始まる前に終わってしまったら視聴率取れないじゃんかよ。テレビに流れないけど。
そんな俺の心情とは裏腹に下りてきた人物は穂乃果ではなかった。
短めの少し赤みがかった茶髪の子なんて、一人しか知らない。
「たく兄ィィィいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッッ!!!!」
……あれ、なんかデジャヴを感じるぞ。
嫌な予感しか感じないんだけど。
「お前、雪ほぼぅッ!?」
回避の暇なんてなかった。
俺の腰に突撃ダイブしてきたと同時に俺ごと後ろへぶっ飛ばされる。もちろん後頭部大ダメージだった。
あ、頭が、頭が割れるぅぅううううッ!? せっかくさっきの後頭部の痛みが引いたのに……。というか2回目って何だよ。こんな後頭部に何度もダメージ喰らうなんてそうそうねえぞ!
痛みでまためのまえがまっくらになりかけていると、
「久しぶりだね、たく兄!! 元気だった!?」
穂乃果の妹――
「元気かどうかと問われれば、元気だった……かな……」
「何で過去形?」
いや理解しろよ、してくれよ、してくださいよ。危うく頭が2つ出来るかと思ったわ。いや出来ないけどさ。
「ゆ、雪穂……何で、いきなり俺に突撃ダイブしてきたんだ……?」
「それはね、唯がメールでたく兄がこっちに向かうって連絡が来て、たく兄に思いっきり飛び付いたら喜ぶよって教えてくれたんだ」
……あるぇー? 唯さんさっき謝ってきたよね? 俺がめちゃくちゃ痛がってたのを見て謝ってきたよね? なのに何で雪穂にこんなこと教えたんだよお兄ちゃんに何か恨みでもあったのか唯さんは。これは帰ったら説教する必要がありますねえ。
「だ、だから俺がいるって分かったのか」
「うん!!」
相も変わらず無邪気に答える雪穂。小さい頃から雪穂はあんまり変わってない……のか? 小さい頃みたいに実の兄のように懐いてくるのは変わってなかったから変化という変化はなし、なのだろうか? うーん、女の子はよく分からん。
「なるほどね。とりあえず雪穂、そろそろどいてくれないか? 体勢的にも色々とまずいのでせうが……」
端から見ると雪穂が俺を押し倒してるようにしか見えないだろう。
店内に誰もいないから見られずに済んだがそういう問題ではない。主に俺が。
「え……? あっ……あ、あややややや、ご、ごめんなさい!!!!」
自分の体勢と状況を理解した雪穂は即座に光速が如く俺から飛び退いた。あの速さ、俺でなきゃ見逃してるね。
「いや、俺は別に大丈夫なんだけどさ、雪穂が今の態勢を誰かに見られたら色々マズいだろ? ほら、何か、アレだったし」
そう言うと雪穂は顔を赤らめ何故かモジモジしている。
「ええ、ああいや、その……たく兄はそんなことしてこないって信じてるから私は見られても平気だよっ!!」
「オーケー待つんだ雪穂。とりあえず落ち着いて今言った発言の意味を考えて、取り消すんだ。そうじゃないと殺されるぞ。主に俺が」
「……ぁ、ああああああ! ご、ごめんなさい!!」
いきなり何て発言してくれちゃってんのこの子? もし今のがキッチンにまで聞こえてたら俺はすぐに大輔さんに饅頭にされてしまうぞ。物理で。
ちなみに大輔さんってのは穂乃果の父親の
そんなことを考えてる内に雪穂も深呼吸して少し落ち着いてきたようだった。
「ふう……。あ、えっと、私お姉ちゃん呼んでくるね!」
「ん? ああ、頼ん……はやっ」
俺が言い終わる前に雪穂は脱兎の如く階段を登って行った。
それにしても、雪穂もちゃんと成長していたな。いや、当たり前だけどさ。うん、なんか、可愛くなってた。唯には劣るが胸もそれなりに成長してたし、これは将来有望ですな!
何幼馴染の妹の発育状況を冷静に分析してるんだ俺は。この5年間で大分キモくなってるらしい。自己分析だけど。
腕を組みながら自己嫌悪していると、2階から先ほどと同じく階段を下りてくる足音が……って、ふんっ、さすがにもう学習してるっての。二度あることは三度あるって言葉があるくらいだ。うっすら予想はしてたからな。雪穂が呼びに行ったからおそらく下りてくるのは穂乃果だろう。
いいぜ、来いよ! こちとら三度目の正直だ。踏ん張って受け止めてやるよ今度こそ!!
万全の態勢で待っていると、下りてきたのは案の定俺の幼馴染の
5年も会ってなかったけどやはりそこには5年前の面影がある。あの頃と変わらないサイドテール、つぶらな青い瞳、どことなく無邪気さを感じさせる雰囲気。体もしっかりと成長していた穂乃果が今まさに目の前にいた。
ん? 目の前?
あれ、拓哉さんの脳内では穂乃果が叫びながら俺に飛びついてくるという鮮明なシーンが再生されてるのですが……。
あ、これ恥ずかしいパターンのやつや。2人も飛びついてきたから3人目も飛びついてくるやろと自信満々に受け止める態勢に入って結局何も起こらないという一番恥ずかしいパターンのやつや。穴があれば入りたい。
「た、く……ちゃん……?」
すると穂乃果が俺の名前を確認するように、しかしか細い声で聞いてくる。
「ほ、穂乃果さん? 一体全体どうしたんでせうか……?」
逆に聞いてみたら穂乃果は俯いてしまった。
何かおかしいと思いながらも俺は恥ずかしさを紛らわせるために言葉を紡ぐ。
「ほら、こんなキャラじゃなかっただろお前? お前はなんかこう、無邪気で元気いっぱいな感じのヤツだったろうが! そんなお淑やかにキャラチェンジしてたら拓哉さんもさすがに困惑しちまいますよ?」
俯いてプルプルと震える穂乃果の前で俺は羞恥心を紛らわせるためにさっきまでとっていた受け止める態勢を崩した。
否。
「あとお前、この歳になってたくちゃんはもうやめ―――、」
「たくちゃあああああああああああああん!!!!」
「なんでッッ!?」
ゴガーン!!と。
もうお馴染みの後頭部直撃だった。
お、ぉぉぉぉおおおおおおお……ッッ!? の、脳が揺れる……! ちくしょう! フェイントはなしだろうがよ!! 聞いてねえよこんなの!!
飛びついて相手の後頭部にダメージ与えるの流行ってんのか!? 今年の流行動大賞でも狙ってんのかこのやろう!! あっ、でも今の結構上手いこと言えたかも。
「本当にたくちゃんなんだよね!? 間違いないよね!?」
「合ってるけどもし違ってたらお前は殺人未遂で捕まってるところだな」
「ええ! ひどいよたくちゃん!!」
何言ってんのこの子は?
ひどいのはどっちなのか理解してないのかこの小娘ェ!
「俺は現在3度目の後頭部直撃のダメージで脳がミックスジュースになりそうなんだよ。これについてはどう思うかね?」
「痛いの痛いの飛んでけー!!」
「続きは署で聞こうか」
「わー! ごめんごめん!! 冗談だよたくちゃん!」
こいつなら本気で痛いの痛いの飛んでけーとか言いそうなんだけど。
「でも、こうして話してるとやっぱりたくちゃんが帰ってきた感じがするね! おかえりたくちゃん!!」
俺を押し倒したままの態勢で笑顔のまま俺に穂乃果は言ってくる。
この態勢のまま言うことかこれ。
「こっちは頭が痛いってのに……。まあでも、ただいま」
穂乃果をどかしてからもう一度お互い向き合う。
「ほえ~、たくちゃんおっきくなってるね~」
や、だからお前も全身見回すな。親子揃って天然か。ちなみに俺が穂乃果の体を見回すとセクハラになる。男って……辛いよな。さっきの雪穂とかは決して見回してなどいない。雪穂の服装を見てただけだ。分析はしてたけど。十分ダメだったわ、うん。
「お前も女の子としては充分でかくなってるだろ。外面だけ」
それを聞いて穂乃果がふくれっ面になった。
頬を膨らましてる顔は子供のころと変わらないらしい。
「もう! 外面だけってどういうこと!?」
「はっはっはっは!! 文字通り中身はガキのままだと言ってるんだよ!!」
やっぱり穂乃果をからかうのは面白い。昔からツッコミの上手いヤツだったけど、それは今も健在なようだ。こんなやり取りも懐かしいと思える。
だけど、やっぱり昔から変わってないなこいつは。
「昔から変わってないな、お前」
思っていたことを口にしたら穂乃果の顔がキョトンとする。
どうしたんだろうか。
「たくちゃんも変わってないよ?」
あまりにも自然な言葉で返してきた。
自分でも少し目を見開いてるのが自覚できる。
「いや、俺は結構変わったぞ? 昔よりちょっと荒っぽくなってるからな」
中学の頃を思い出しながら冗談半分真実半分で言ってみる。
トラブルやらのせいでしたくもない喧嘩を結構頻繁にしていたからあながち間違ってはないはずだ。
「ううん、それは嘘。たくちゃんは何も変わってない。根本は何も変わってないよ。だって帰って来たばっかで最初にこの家に来てくれたもん。あの時の約束も、ずっと覚えててくれてたんでしょ?」
「……、」
どいつもこいつもするど……いいや、穂乃果の場合は違うか。こいつだけは俺が言ったことを本当にずっと覚えてて、だから会った時もすぐに飛びついては来ずに、あの時の言葉を体に染み込ませて俺にぶつかってきた。
『約束する。すぐには無理だけど、でも、絶対いつか帰ってくる! だから泣かないで笑って見送ってくれよ。そして帰って来た時も、最高の笑顔で迎えてくれ』
別れる時に、俺が小さいながらも穂乃果を説得するために必死に紡いだ言葉。そして本音の言葉でもあった。
この言葉を穂乃果はしっかりと覚えていた。そして約束通りに穂乃果は最高の笑顔で迎えてくれたのだ。
そう思えたら、頭の痛みはなくなっていた。
これが俺と穂乃果との再会だった。
かよちん誕生日おめでとうございました!
来年はちゃんと個人の短編書くからね……。
書ける時に書かないと……。
やっと原作キャラ出せた……。
と言っても一人だけですけどね!
誤字等あればご報告ください。