ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

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凛ちゃん誕生日おめでとう!

明るい凛ちゃんのエピソードは他の作者様の方々がやってくれるはず。
だから自分はほんの少しだけしんみりするお話でも!

でも最後はやっぱりハッピーエンド!!
そんな感じに出来てたらいいな!


そして、今回の話ですが、以前、歌を題材にして書いた海未誕の時のように、今回も歌を題材として書いています。

よって、UVERworldの『君のまま』という曲を聴きながら見るとより面白いかもしれません。
では、どうぞ。



星空凛 番外編.君のまま

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、ある少年が大学4年生、ある少女が大学3年生。

 

 

 

 

 

 

 

 3月、少年の卒業式。

 

 

 

 

 

 

 

 その当日に、少年から少女へ、あまりにも唐突に告げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……凛、俺さ、数年の間、日本を出るよ』

 

 

 

『…………え?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……疲れたぁ……」

 

 

 

 

 

 

 日が暮れかけて赤く染まる街を帰り道として、星空凛は溜め息を吐きながら帰路についていた。

 

 

 

 

 

 

 あれから2年とちょっとが過ぎた。

 

 

 今では凛も大学を卒業し、立派な社会人として働いていた。と言ってもまだ新入社員の部類に入るので、こうして覚える事が苦手な凛は四苦八苦しながらも何とか会社で働いている。

 

 

(ホントなら今頃凛は働いてなくて専業主婦になってるはずなのにー……)

 

 

 そんな思考が頭の中で愚痴として出てくる。

 約2年前、凛を日本に置いて世界へと飛び出していった少年、岡崎拓哉の事を少し恨めし気に思いながら、夕食の材料が入っている袋を見つめ、また溜め息を零す。

 

 

(でも、いつ帰って来てもいいようにしとかないとね)

 本当ならそこら辺のコンビニで弁当やスーパーで惣菜でも買えば楽にできる。しかし、それを絶対にやろうとはしなかった。一時はたまにはいいかなと思って誘惑に負けそうな日もあった。

 

 けれど、やらなかった。理由は単純であり、とても彼女らしい乙女で純粋な思いがあったから。

 少年が帰って来たら、精一杯の手料理を振る舞うために、こうして毎日仕事の帰りでも手作り料理を作っている。たまに親友達と会って晩御飯を食べに行く事もあるが、それは例外であり、それ以外では毎日料理して腕も上達していってるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうこうしてる内に家に着く。

 

 

 

 

 

「ただいま~……」

 

 

 暗闇の部屋へと声をかける。もちろん返事は返ってこなかった。ここには凛以外は誰もいない。いや、正しく言えば誰かと一緒に住んでいた(、、、、、、、、、、、)と言った方が正しいかもしれない。

 

 

 大学の頃から凛は少年がせっせとバイトをしてやたらと貯めていた貯金で2人暮らしをしていたのだ。ここまで言えば分かるが、凛と少年、岡崎拓哉はお互いの想いもあって交際をしていた。

 

 凛の純粋な想いと、拓哉の持ち前の真剣な気持ちもあって、お互いの両親は快く2人の交際に快諾した。そして2人が同棲する事にも快諾した。その甲斐もあってか、凛と拓哉は同棲をし始めたのだ。

 

 

 

 

 お互いの両親も軽くだが2人の生活を支えるため、仕送りや援助などもしていたが、拓哉も凛もバイトをやるなりして特に苦もなく幸せな生活を送っていた。

 

 

 

 

 しかし。

 突如の変化が訪れたのは拓哉が大学を卒業する時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆         ◆         ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……凛、俺さ、数年の間、日本を出るよ』

 

 

 

『…………え?』

 

 

 

 

 

 理解するのに数十秒を要した。

 そして理解して尚、その言葉が受け入られなかった。

 

 

 

『たくや、君……?日本を出るって……何で、そんな急に……?冗談だとしたら、さすがの凛も怒っちゃうよ……?」

 

 

 分かっている。

 この少年が、凛が1番大好きなこの少年は、こんな時にくだらない嘘を吐く事なんてしないのだと。

 だからこそ、分かっているからこそ、嘘であってほしいと思っていながら、言葉とは裏腹に、目はすがるように必死に少年を見ていた。

 

 

『冗談なんかじゃないさ。凛も知ってるよな、俺が色んな人達を助けたいっていつも思っているのは。その気持ちを酌んでくれたのか、2日前に親父が誘ってくれたんだ。色んな人達を助けたいなら、まずは世界中を旅して人々を助けてこいって』

 凛は知っていた。一時的にでもいい、拓哉が人を助けられる事がしたいと言っていた事を。だから拓哉の父がそれを知っていて、拓哉のためにその話を持ち掛けてきたのも理解できる。

 だったら、その話は拓哉にとってはとても良い経験になる。拓哉の願っていた事が現実になるという事だ。願ってもない事。仕方のない事。

 

 

 であれば。

 

 

『いわゆるボランティアってやつだよ。世界で困ってる、苦しんでる人達を助けるためのボランティア。もちろん危険がない訳じゃない。戦争中のとこだってあるはずだ。……でも、それでも俺は行かなくちゃいけない。たとえどんな危険があろうと、苦しんでる人達をテレビで見てそのままヘラヘラ笑っていられるような人間にはなりたくない。独りよがりでもいい。今の俺にできる事がどこまでなのか、それを確かめに行きたいんだ』

 

 

 自分はこの少年を見送ってやらないといけない。大切な者がやりたいと思っていた事をできる時がきたのだ。ならその彼女である自分は彼を笑顔で見送ってやらなくちゃいけない。

 

 少年の顔には決意の意志が溢れていた。

 いつだってそうだった。どんな時でも、かつて通っていた学校が廃校になりかけていた時も、μ'sというスクールアイドルが危機の状況に陥った時も、この少年だけはいつだって逆境を乗り越えるための意志が宿っていた。

 

 

 そんな少年に、いつだって自分の意志を曲げない少年に、凛は惹かれて惚れたのだから。いつも勝手に無茶をして、心配させて、いきなりどこかに行っても、必ず安心させてくれるような笑顔でヒョロッと帰ってくる。そんな少年に、惚れてしまったのだから。

 

 

 半端な覚悟でこの少年と付き合おうと思っている者がいるならば、絶対にやめておいた方がいい。現に今付き合っている彼女にも、急に世界へ行くなどと規格外の事を言ってのけるのだから。そう簡単にこの少年の彼女は務まらないぞ。

 

 と、この少年を狙っている者がいれば凛はそう助言するだろう。

 

 

 それを踏まえて、

 

 

 

『急にこんな事言っても納得できないのは分かってる。それでも―――、』

『行ってきていいよ』

『え……いい、のか?』

 目を見開いて聞き返してくる少年に、思わず溜め息を零しながらもこう返す。

 

『もうっ、行くって言ったのはたくや君でしょ!ずっとたくや君がしたいって言ってた事だにゃ!だったらたくや君は行くべきだよ!確かにたくや君がいなくなっちゃったら少し寂しいけど……たくや君がこのまま行かなくて後悔してる顔なんてもっと見たくないもん!……だから、行ってきていいよっ』

 その言葉に嘘はなかった。強いて言うなら、少し寂しいと言ったのだけは嘘だった。少しなんてレベルじゃない。少年が本気で好きだから、どれだけ寂しくても、少年が本気で好きだから、見送ってやらないといけない。たとえどれだけ行ってほしくはなくても。

 

 

『凛……、分かった、ありがとな……』

 少年も凛が何を思ってそう言ってくれたのか、ちゃんと理解していた。これでも一緒に暮らしてきて長年付き合ってきたのだ。大体の事は言わなくても伝わる。

 

 

『その代わり、ちゃんと無事に帰ってくる事が条件だよ!』

 胸に人差し指を指してきて、自分を見上げてくる少女におかしくなりながらも、気持ちは伝わってきている。危険な場所の方が多いかもしれないのだ。どんなに少女が心配していても、この強気な表情を作っているのかも伝わっている。

 

 

 だから、自分のできる限りの笑顔で、少年は言う。

 

 

『ああ。いつ帰るか分からないけど、絶対にちゃんと帰ってくるよ。だから、それまでこの家を頼むな』

『……任せるにゃ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ところで、いつ出発するの?』

『確かチケットに書いてあったのは……明後日だな』

『えっ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 玄関の中、まだ明かりを点けていない暗い部屋で、そんな日の事を思いだす凛は、いつも思っている事がある。

 

 

 

 

 

 

 

 もしかしたら、この玄関のドアを開ければ、本当に、今までの事が嘘だったかのように、いつものように変わらず少年がいるのではないか、と。何の気なしに少女の帰りを待っていてくれてるのではないかと。

 

 

 そんな確証も何もないけれど、いつかそういう日がきた時のために、少女は絶対に家へ帰る時は言うのだ。“ただいま”と。そして少年が帰ってきた時はこう言おう。“おかえり”と。

 

 

 そんな当たり前の事を言い合うために、少女は今も、少年の帰りをいつも待っている。

 

 

 

 

 ようやっと明かりを点け、部屋着に着替えるためにクローゼットへと向かう。

 着替えてる途中にふと思い出す。

 

 

 

 

(そういえば、出て行くのが明後日で驚いて、色々準備とかしてる内に、もう当日になっちゃってたんだよね……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆         ◆         ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もう、明日の夕方には行っちゃうんだよね~……』

 

 

 せっせと準備をしている少年のよそ見に、凛はベッドで枕を抱きながら壁に背を預けていた。

 

 

『仕方ねえだろ、ホントに急の事だったんだから……。というか、準備手伝ってくんない?』

『分かってるにゃ~。言ってみただけですぅ』

 拓哉の頼みを無視しながら凛は枕に軽く顔をうずくめる。

 

 

 世界などと規模のデカい事を言うものだから行くのももっと先の事だと思っていた。だから行ってこいと胸を張って言う事もできた。しかし、それは凛の希望的観測でしかなかった。

 

 拓哉が出て行くのは明日の夕方。昨日言われたのが夜だったからあとはもう今日しか色々と話す猶予はなかったのだが、世界へ行くという事で多くの準備に追われるのは当然の事だった。

 

 だから特に何も話せず、やる事もできず、ただこうして拓哉が準備している時に何となしに話しかけて少しでも気を紛らわそうとしている。そしてふと、準備をしている少年の顔を見てみる。

 

 

 そこには、普段の彼とは違う。いや、昨日の彼とはまた違う顔つきをしていた。世界へ行くと決めて、出来る限り人々を助ける。その意志が、強固な決意が、少年を昨日よりも大人に見せているような気がした。

 

 

 もう、決まった事だ。

 今更行かないでなんて言うのは到底無理なのも分かっている。自分自身が行けと言っておいて都合の良い話なのも分かっている。少年ももう決めた事なのだから。

 

 

 

 だから、もう、少女には何も言えない。

 明日には少年はこの家からいなくなってしまう。そう考えると、途端に胸が苦しくなってくる。自分じゃコントロールできない程の想いが込み上げてくる。

 

 

 

 

 これ以上はいけない。無理矢理にでも自分の体を抑えるために、少女は眠りにつく。

 

 

 

 

 

(嫌だなぁ……)

 

 

 

 

 

 本心を隠しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付けば拓哉が出発する当日になっていた。

 

 

 

 

 

 凛はそのまま眠ってしまったから覚えていないが、昨日の内に拓哉は準備を終えていたようだった。夕方までの時間を凛とゆっくり過ごすために。2人でテレビを見たり、2人で世間話や今までの事を喋ったり、とりあえず2人で家の中でゆっくりと過ごした。

 

 

 

 

 

 そして、やがて時間はやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

『それじゃ、行ってくる』

『……うん』

『この家の事、頼んだぞ』

『……うん』

『俺がいなくても、大丈夫だな?』

『………………うん』

 

 

 拓哉が何を言っても、凛はただその二文字を繰り返すだけだった。他に何かを言おうとするなら、言ってはいけない事を言いそうな気がして。

 

 

『……いつになるかは分からない。でも、俺はちゃんと帰ってくる。他のどこでもない、俺と凛が住んでるこの家に必ず帰ってくるから』

『………………うんっ』

 笑顔で頑張ってきてって言うつもりだった。心配させないように元気で見送るつもりだった。けれど、どうしても、溢れてくる想いは止まらなかった。一歩間違えれば行かないでと言ってしまいそうで。

 

 自分の意気地なしが、今拓哉を困らせているかもしれない。傷つけているかもしれない。困らせたくないのに、立派な彼女でいたいのに。

 

 

『っ……』

 なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俯いたまま、彼の手を握ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あの頃はみっともなかったなぁ~)

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、あの時拓哉は優しく凛の手を解き、

 

 

 

『ごめんな、凛。……行って来る』

 

 

 

 この一言だけを残し、彼は世界へと旅立っていった。凛はただ、その場で座り込み、静かに泣いているだけだった。夕方まで一緒に過ごしていたのが余計に、凛の心を苦しめていたのかもしれない。

 ただ、ただ、自分が泣き止むのを待つしかなかった。涙が枯れるまで、自分をコントロールできるまで、落ち着くまで、時間が解決してくれるまで。

 

 

 拓哉は大学を卒業してから行った。だがまだ凛はあと1年残っていた。それが救いかどうかは分からなかったが、それのおかげで凛は少しずつ、ほんの少しずつだが、笑顔を取り戻していった。

 

 時には友達に、時には親友に、時には親に、時にはかつてのμ'sに。みんながみんな、凛を気遣ってなるべく一緒にいてくれたのだ。それが何故なのかはあとで分かった事なのだが、事前に拓哉がみんなに頼んでいたらしい。

 

 

 

 

 ―――俺がいない間、凛の事を頼む

 

 

 

 

 

 

 と。

 それを聞いて何か吹っ切れたのか、凛はそれ以降泣く事は少なくなった。

 

 今も時々寂しくはなるが、それでも涙を流す事もない。拓哉は何もかも分かっていたのだ。凛がこうなる事も、いなくなったら泣いてしまう事も。だから、それを見越した拓哉はみんなに頼み込んだ。

 

 

 だから凛は思った。そんな事を聞いてしまっては、もう泣けないではないか。ただ帰りを待つしかないではないか。凛のためを思ってそこまでしてくれたのだから、ずっと泣いて待っていられる訳ないではないか。

 

 

 それからの凛は、虚勢でもない、本当の笑顔を取り戻す。いつか少年が帰ってきたら今度こそ笑顔で迎えるために。料理を作ってあげて振る舞ってやろうと、今まで待たせた分を存分に甘えるために、今は全てを我慢して彼を待とうと。

 

 

 

 

 

 

「……よし!明日も頑張るにゃー!!」

 

 

 

 

 

 

 だから今日も、彼女は彼のために頑張り続けられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の夕方の事だった。

 

 

 

 

 

「まさか雨が降るなんて~!!」

 いつも通りの仕事帰りに買い物を済ませ、帰宅していると雨が降ってきた。晴れているのに。とりあえずどこかで一旦雨宿りをするために屋根のあるとこに逃げる。

 

 

「うぅ~……ずぶ濡れだよ~……」

 避難してからカバンに入れていたハンカチで少しでも濡れている部分を拭く。すると、雨は降っている途中なのに、日の光が凛の視界に差し込んだ。

 

 

(そういえば、晴れてるのに雨が降る事って、何ていうんだっけ……)

 思えば、大学に通っていた頃に拓哉と帰ってる時にもこんな事があったはず、と思いながら雨の中を通り過ぎるように走っている子供達を目で追いかける。何だったのかを思い出す前に、その答えは子供達の方から聞こえてきた。

 

 

 

「知ってるかー!晴れてんのに雨降ってるのって“狐の嫁入り”って言うんだぜ!」

「っ!!」

 そこでハッとする。そうだ、あの時拓哉もそれを言っていた。

 突然の雨に、いつも以上に忙しくなる街を眺めながら、子供達が濡れているのにも関わらずはしゃいでるのを見て、あの時の事を思い返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆         ◆         ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なあ凛、知ってるか?』

『何を~?』

 

 

 

 突然の雨に降られ、雨宿りのために一時避難した拓哉と凛だったが、拓哉の言葉に凛は疑問を返す。

 

 

 

『この雨を何ていうかだよ』

『雨?普通に雨じゃないの?それか夕立とかかにゃ?』

『それが違うんだよ。この雨はさ、“狐の嫁入り”って言うんだよ』

『あー!何か聞いた事ある!でも何でそう言うの?嫁入りって普通誰かがお嫁さんにいく時に言うもんじゃないかにゃ?』

『いや、まあ色々言われてるんだけどさ、その話のどれもが嫁入りの時に雨を降らすからそう言われたんだとよ』

 

 全部を説明するのが億劫になった拓哉は大分掻い摘んで話したが、一応凛には伝わったようで、

 

 

『なるほど、つまり凛がたくや君のお嫁さんにいく時も狐の嫁入りって言うのかにゃ!?』

『いや、それは言わないかもだけど……サラッと恥ずかしい事言ったなお前』

 凛の突然の爆弾発言に戸惑いながらも間違ってはないので何も言う事ができない拓哉だった。そこで、拓哉はある一説を話す事にした。

 

 

『これは、ある一説の話なんだけど。ある村は全然雨が降らなくて農作物が全然育たなくなってしまったんだ。それで村人達は神に生贄を捧げて雨乞いをしようとする。それでまず生贄を何にしようかと考えるんだ』

『生贄って、食べ物とかじゃないの?』

 生贄にまず『人』が出てこない純粋な凛に可笑しくなりながらも、拓哉は続けた。

 

 

『違うよ。村人達は生贄に狐を選んだ。でも狐をどうやって捕まえるか。そこで狐を騙して生贄にしようと考えた。その村の近くには化けるのが得意な女狐がいた。それを見つけた村人達はその狐に対して、村で1番の男前である男性に狐に結婚を申し込ませ、嫁入りに来たら殺して生贄にする。それがその村人達の計画だったんだ』

『……なんだか、仕方ない事かもしれないけど良い気分はしないにゃ……』

『まあ、この一説は悲しい恋の物語みたいなものだからな……』

 少し落ち込む凛の頭を撫でながら、続きを話す。

 

 

『でも、いくらかの交流をしていく内に男性とその女狐である女性は心を通わせるほどの仲になった。そしてそんなある日、女狐は男性の、村人達の本当の計画に気付いたんだ』

『ってことはその女狐さんは逃げたの!?それでいいから逃げて!』

 何故か一説の話に夢中になっている凛を落ち着かせつつ、最後の話をしていく。

 

 

『それでも、その女狐は嫁入りする事に決めたんだ。騙されてもいい。本当の計画を知る前に、その男性が好きになってしまったから。だったら、好きになった男性のために、男性の住んでいる村のために、自分は殺されて生贄になろうとした。そして、分かってはいても辛かったんだろうな。殺される際に流した女狐の涙が、晴れているはずの村に大粒の雨を降らせた。……まあ、これで終わりだけど、これも数ある話の1つだよ……っと、凛?』

 

 話が終わると、急に凛は拓哉に抱き付いた。人通りが少ない場所で、幸いだと思いつつ拓哉は凛に問いかける。

 

 

『……何だか、嫌だなーって。女狐さんもそうだけど、残された男の人も可哀想だよ……』

『凛……そうだな、どっちも悲しい。だからこれは悲しい恋の物語なんだ』

 数ある話の一説なのかもしれない。そんな話は本当はないのかもしれない。けれど、凛にはそれがどこか他人事には感じられなかった。

 

 

『たくや君、たくや君は、凛を置いて死んじゃったりしないよね……』

『……は?お前、何言って―――、』

『分かってるの!一説の中の話だって事も分かってる。でもね、何だかそれを凛達に重ねてみたら、嫌だなって……』

『ねえ、何で俺が女狐役の方なのかな……』

『凛は絶対たくや君を置いて死なないもん。でもたくや君は苦しんでる人がいたらどこにでも行っちゃうから、もしかしたらいつか……って思って……』

 

 

 凛に言われて拓哉はああー……っと上を向く。何とも否定できないから。実際、どこで何が起きるのかなんて誰にも分からない事なのだ。ルールを守って信号を歩いていても、信号無視した車に轢かれて死ぬかもしれない。つい転んで階段から転げ落ちて頭を強打すれば死んでしまうかもしれない。

 

 どこにだって身近に“死”は潜んでいる。それをちゃんと理解して、分かった上で、拓哉は答えた。

 

 

『……大丈夫だ。俺も凛を置いて絶対に死なない。帰る場所がある限り、俺は凛のところに必ず帰ってくる』

 それを聞いて、やっぱり聞いて正解だったと凛は確信する。この少年の言葉にはどこか信頼できる安心感がある。この少年が言うなら、きっと大丈夫だろうという、どこにも確証や根拠もないのに、そう思えてしまう。そんな力が、この少年にはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『これは誓いだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 現在の凛は急に胸が苦しくなるのを感じた。

 体の良い悪いという意味ではなく、心が締め付けられるような感覚に襲われる。この感覚は久し振りだった。両手で強く手を握り胸を押さえつける。

 

 

(……っ……なん、で…………!)

 止みつつある雨の中を走って家へとダッシュする。

 

 

 

 偶然でも思い出してしまった。よりにもよってあの時の事を。よりにもよって、死ぬ死なないの話の時の事を。今まで封印していたはずの思いが出てきそうになる。会いたいとかそういうのよりも、不安の方がより大きくなって。

 

 

 こんなのじゃ、こんなのじゃまるで……、

 

 

(たくや君がどこかで……っ!!)

 

 

 溢れる思い出が、どんどんと不安になり凛の心を砕いて行く。走馬灯のように、頭の中を駆けていく。あってはならない。絶対にあってはならない事が、凛の頭の中で勝手に想像されていく。

 

 

 戦争中の地域にも行くかもしれないと言っていた。もしかしたら、そこで拓哉は……と。嫌な事はこれでもかというほどに連鎖を続ける。ダメだと分かっているのに、嫌な方向へと想像してしまう。

 

 

(たくや君……!お願い……早く、早く帰ってきてよ……!)

 いつしか、足は止まっていて、雨も止んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 そうだ。

 少年は言っていたじゃないか。

 

 

 

 

 

 

『帰る場所がある限り、俺は凛のところに必ず帰ってくる。これは誓いだ』

 

 

 そう言った時に、拓哉に渡された物があるではないか。

 

 

 

「たくや君……」

 ネックレスだった。凛に絶対似合うからと言われ、その時から毎日ずっと付けていた黄色のネックレス。2人のお守りなと言われ、それを凛が持っていてくれと言われて、ずっと持っていたネックレス。

 

 

 走っている時に揺れてこれが見えたから、落ち着きを取り戻す事ができた。

 

 

 

 

 

 

(……もう、大丈夫だよ。たくや君……そうだよね、凛がたくや君を1番信頼しないとダメだよね……!)

 岡崎拓哉はどこにいても岡崎拓哉。どこにいてたって変わりはしない。それを再認識する。ならば、星空凛も変わりはしない。変わってしまったら、何か違う気がするから。何も変わらない、関係も、帰る場所も、周りが変わったって、自分だけは変わらずに少年を迎えてやろう。そう思える。

 

 

 

 歩いてると、花があった。昨日も見た花だった。足で踏まれたのか、自転車のタイヤで踏まれたのか、その花は潰されていた。昨日の帰り道の道端に咲いてた花は、今日も綺麗に咲いている。そう思っていた。しかし、違う。

 風は吹いていても、今頬を撫でてくれたこの風は二度と戻らないのと同じように。

 

 当然のように昨日あったものが今日なくなるなんて事はよくある話だ。

 

 

 

 

 当たり前のようでいて、実はとても難しい願い。

 

 

 人は老いて物は壊れる。

 食べ物は腐って金属は錆びる。

 街は変わって文化はねじれる。

 国家や文明でさえも永遠に一律とは限らない。

 

 真に変わらないものを見出すのはとにかく困難を極める。

 

 

 

 

 でも。

 だけど。

 

 

 

 

 

 少年が帰ってくる場所だけは、絶対に変わらせない。何があっても、笑顔で再会すると決めたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Music:UVERworld/君のまま

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ずっと、待っている。

 少年が帰ってくる日を。

 

 

 

 ずっとずっと、毎日毎日、少年が帰って来ていないかドキドキしながら待っている。1年中ずっと。

 まだ少し肌寒い春の日も、溶けそうなくらい暑い夏の日も、丁度心地良い秋の日も、凍えるような寒い冬の日も、一日千秋のように、少年が帰ってくる日を待ち焦がれている。

 

 

 

 

 ネックレスを見てから、凛の心には変化があった。

 何故だか、とても晴れやかになっていた。さっきまでとてつもなく不安だったはずなのに。

 

 

 

 

(早く会って顔が見たいなぁ……。早く笑顔を見せてほしいなぁ……。早く抱きしめてほしいなぁ……。色んなお話をして、たくや君の色んなお話も聞いて……また一緒に暮らせるようになりたいなぁ……!でも何でだろ、もうすぐで会えそうな気がする……!)

 確信はどこにもない。けれど、そんな気がする。それだけで、少女はいつも以上に元気でいられる。少年との事になると、こんなにもこの少女は変わるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼と会いたいという溢れる想いはあるけれど、以前とは違う、それはこれから会えた時のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 会えた時の喜びは、言葉だけじゃ言い表せない、だから、行動で示そう。抱き付くなり何なりして、彼に甘える事にしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから。

 とりあえず、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(たくや君、ホントの事を言えば物凄く会いたいけど、今すぐにでもたくや君の胸に飛び込みたいけど、たくや君も前よりずっと成長してるもんね。だから凛も成長するよっ。たくや君と同じくらい成長して、何も変わらない場所で、ずっと待ってるから)

 

 

 

 

 

 

 そうして、少女は即座に少年と同じ場所に立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(だから、たくや君はそのまま歩いて行けばいいよ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつものように、家に帰ると少女は言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまにゃ~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり、凛」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、いかがでしたでしょうか。

またUVERworldかよと思った人、そうです。大好きなんですw
こんな凛ちゃんとのお話もいいかなと思いまして(笑)
改めて、凛ちゃんおめでとー!


そして、この話で『奇跡と軌跡の物語』は通算50話目になります!!
ここまで続けて来られたのも感想をくれる皆さまのおかげでもあります!
これからも頑張っていきますよー!



いつもご感想評価ありがとうございます+ご感想評価お願いします!


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