ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

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5.秋葉での出会い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 過去の話が終わってから俺達は他愛のない会話をしていた。

 すると下の階から、

 

 

「拓哉くーん。お饅頭出来たわよー!」

 

 と、桐穂さんの声が聞こえてきた。おっ、待ってました! 

 

 

「はーい! 分かりましたー!」

 

 そう言って俺は下に降りようとすると、

 

 

「たくちゃん、饅頭作ってもらってたの?」

 

 穂乃果が四つん這いのまま俺の所まで寄って来る。赤ちゃんかお前は。

 

 

「ああ、ホントはお前にも軽く挨拶してすぐ出て行こうと思ってたんだけど、桐穂さんが饅頭作ってくれるって言ったからそれまで待たせてもらってたんだよ」

 

 そこまで言うと突然穂乃果の表情が明らかに落ち込みそうな顔になって、

 

 

「ってことは、もう、帰っちゃうの?」

 

 四つん這いになっているせいで自然と上目遣いになりながら聞いてくる穂乃果。やはりこの年頃の女の子の上目遣いは幼馴染としても中々破壊力が……いかん……! 

 

 

「あ、ああ、帰るっていうか、この後も他に寄っていく所もあるけど、貰ったらすぐ出ていくつもりだよ」

 

 何とか穂乃果から目を逸らしながら誤魔化す事には成功した。成長しているこいつらに久々に会った俺にこういう上目遣いとかはまだ少しキツイな。あれ? 俺って実は純情なんじゃね? ピュアボーイなんじゃね? 

 

 

「えー、もっと喋ろうよー! 足ーりーなーいー!」

 

 急に小さい子供のようにジタバタ暴れる穂乃果。今度はガキかお前は。俺にはまだ秋葉で買い物して家でゴロゴロするという快適ライフを過ごす目標があるのだ! 

 

 

「穂乃果、拓哉君にも予定があるのですからこちらの都合で我が儘を言うのは悪いですよ」

 

 海未が穂乃果に宥めるように言い聞かす。海未、俺のために……お前は良い子に育ったよ……いや、昔から良い子だったけど。ことりも苦笑いしてないで説得してくれると助かるんだけどなあ。

 

「そうだぞ穂乃果。俺にも大事な予定ってのがあるんだ。大事な予定がな。大事な。」

 

 大事な事だから(ry

 てなわけで帰らせてもらいまーす。

 

 だが。

 

 

「やーだー!! それでもまだたくちゃんと喋りたいー! ぶーぶー!!」

 

 穂乃果が俺の足を掴んで離さない。こいついつの間に!? 

 

 

「ええい、やかましい!! これからいつでも会えんだから今日くらいは普通に帰らせろ! あとこっちの予定を無視すんな!!」

 

「じゃあたくちゃんの大事な予定って何?」

 

 

 

「……、」

 

 完全に動きが止まった俺に穂乃果が訝しげな目で見て来る。こ、これはヤバいですな……。素直に言ってしまうと確実にここに居させられるオチしか見えない。俺の快適ライフのためにここは何とか即興で他の予定(嘘)を言わなければ……。

 

 

「それは、その、あ、あれだよ……二次元が俺を待ってるんだよ……」

 

 ……ん? あれ? おかしいな。本当の予定より酷くなってないかこれ? いやでもある意味間違ってもないよな? そんなことを考えてたら穂乃果の腕が足から離れている事に気付いた。

 理由は何であれ、分かってくれたか。

 

 と、ふと穂乃果の方を見ると……二次元……? と、何ともアホそうな顔でこちらを見ていた。あ、こいつまず二次元という単語自体分かってないな。おバカさんで良かったよ。

 海未とことりは、

 

 

「そんな言い訳染みた予定があるはずないでしょう。もっとマシな嘘をつけなかったのですか……」

 

 呆れながら言ってくる海未。こちらは意味を分かってらっしゃったようで……。

 

 

「あはは~、マンガとか買う予定って言った方がまだ良かったんじゃないかな~……」

 

 ことりも苦笑いで言ってくる。完全に分かってますやん。しかも当たってますやん。

 

 

「え! 今言った予定って嘘なの!?」

 

 いや分かれよ。意味が分からないにしても嘘だという事くらいは分かれよ。

 

 

「嘘に決まってるでしょう……。ですが、私達に嘘をつくくらいということは、それほど大事な用事があるのでしょう?」

 

「お? お、おう……」

 

 ごめん海未、俺からしたら大事でも他の人からすると全くもって全然大事じゃないっす。むしろことりさんが正解言っちゃってるっす。信じてくれてる海未に対して罪悪感パナイっす。

 

 

「そうなの?」

 

 穂乃果がキョトンとした顔で聞いてくる。やめろ、そんな純粋な目で俺を見るな。余計罪悪感が増すだろ! 

 

 

「あ、ああ……」

 

 だが、こちらとしても元々決めていた予定を変えるのは嫌だった。ここに戻って来て疲れたからゴロゴロしないと俺の体は癒されないんだ! イェア! ごろ寝最高!! 

 

 

「そっか……。ならしょうがないよね……」

 

 納得はしてくれたものの、明らかに落ち込んでいる様子の穂乃果。……あーもう、仕方ねえなくそっ! 

 

 

「穂乃果、俺は久々にお前らに会えて嬉しかった。そしてこれから俺達はまたいつでも会えるようになった。今日はもうここを出ていくけど、また明日でも明後日でも、会おうと思えばいつでも会えるじゃねえか。それほど近くに感じられるくらい、俺達の関係はまたここに戻ってこれた。だからさ、今日はもうそんな顔しないでくれ。また会えなくなる訳じゃないんだしさ」

 

 そう言って穂乃果の頭を撫でながら言ってやる。そうだ、これからはいつでも会える。何年も会えないわけじゃない。会いたい時に会える。そんな距離にまで戻って来たんだ。ならもう悲しくなる必要なんてどこにもない。

 

 

 すると穂乃果も理解したのか、

 

 

「……うん、そうだよね! もういつでも会えるもんね! 分かった。私今日は我慢するよ!!」

 

 うん、何この無邪気な子供な感じは。撫でながら言う俺も俺なんだけどホントに子供あやしてない? 大丈夫この子? 中身はまだ小学生のままなんじゃないの? 

 

 

「拓哉君、穂乃果もこう言ってる事ですし、そろそろ行かれては? ご予定があるのでしょう?」

 

 海未が気遣って俺に言ってくる。全然大事じゃないんだけどね。

 

 

「あぁ、そうさせてもらうよ。じゃあ穂乃果、海未、ことり、またな」

 

「またねー!」

 

「また今度です」

 

「ばいば~い!」

 

 

 3人が笑顔で返してくる。うん、良い笑顔だ。

 階段を降りると桐穂さんが袋を持ちながら待っていてくれた。

 

 

「すいません、待たせてしまいましたかね」

 

 穂乃果がごねたせいで少し時間が経ってしまった。

 

 

「いやいいのよ。どうせ穂乃果が我が儘言ってたんでしょ」

 

「あははは……」

 

 大正解でございます、はい。

 

 

「はいこれ、出来立ての饅頭よ」

 

 桐穂さんが袋を差し出してくる。

 

 

「おっ、ありがとうございます。これで昼飯代が浮きますよ~」

 

「なーに調子の良いこと言ってんのよ。ちゃんとお昼ご飯も食べなさいよ男の子なんだから!」

 

「分かってますって。あとは家で適当に何か食べますよー」

 

 桐穂さんと適当に話しながら玄関まで移動し、

 

 

「それじゃ桐穂さん、わざわざ饅頭作ってもらってありがとうございました。寄るとこあるんで歩きながら食べさせていただきます」

 

「はいよ。それじゃまたね。いつでもいらっしゃい!」

 

「それじゃまたです」

 

 桐穂さんに別れを告げて俺は饅頭を口に頬張りながら歩き出す。

 

 

 

 

 秋葉原へいざ、行かん!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな訳で饅頭を食べ終えた俺は秋葉原までやって来た。

 饅頭で腹は大分満たせた。あとは買い物を済ませて帰るだけだ。

 

 ちなみに俺がここに買いに来た物は──マンガとラノベだ。それを買って家で読む。これが俺の大事な予定だったのだ。新刊読みながら家でゴロゴロするとか……最高かよっ。

 早く買って帰ろう。至福な時間が俺を待っている。

 

 

 

 

 

 

 

 そうこう考えてる内に本屋に着いた。ちなみになんだかんだいって俺は秋葉原に来たのは初めてである。だからほんの少し道に迷いかけた。……ほんの少しだけだかんな! 

 それにしてもテレビとかアニメでたまに見かけるけどすげえな秋葉。ほとんどアニメ系ショップとかメイド喫茶とか本屋ばっかじゃねえか。これはクセになりますな……。

 

 おっといかんいかん。早く新刊買わないと。

 

 

 

 

 

 

 小さい頃からウルトラマンや仮面ライダーとかヒーロー物が好きだった俺。もちろん今でもヒーロー物は大好きである。今ではマンガやラノベでもバトル物などヒーロー物が多くなっている時代。俺からしたらマンガやアニメDVD、ラノベを売っている本屋は宝庫だ。むしろここに住みたいまである。住んだら確実に追放されちゃうな。おまけに通報もされる。怖いわー。

 

 マンガ、ラノベコーナーに来た。おっ、あったあった。楽しみにしてたんだよなーこれ。よし、買おう。

 すぐにレジで会計を済ませ、あとは帰るだけになった。

 

 うむ、穂乃果達と会った事で少しバタバタ感はあったけど今の所は"平和に過ごせてる"。このまま普通に帰れば至福の時間を過ごせる。昔から何かと面倒事に巻き込まれる事が多かった俺は人助けやしたくない喧嘩ばかりしていた。だがこれもヒーローに憧れている俺にとっては特に苦でもなかった──と思っていたのだが。

 

 人助けの大体がナンパやカツアゲというものばかりで、間に入ると大抵相手が相手なので喧嘩に発展してしまう。その全てを俺は大体沈ませてきたが……もうウンザリしていた。

 

 喧嘩ばかりしていると体は何となく鍛えられるが、それ以上にウンザリしていた。数々のヒーローが平和を望んでいるように、数々のヒーローが戦いではなく平穏に暮らしたいと思うように、いつしか俺も喧嘩ばかりの日々にウンザリし、平穏に暮らしたいと思うようになっていた。今でもヒーローには憧れているし、なりたいとも思っている。

 

 しかし、やはり平和に過ごせるに越したことはない。昔は悪党でも何でも来いと思っていたが今では面倒なので来なくていいですと思ってしまうレベルである。

 

 もちろん今後も助けが必要な人がいれば助けに行くつもりだ。でも喧嘩はあまりしたくない。そう思うようになった。本当にしなければならない時はするが最近では極力喧嘩は避けるようにしている。要は逃げている。だってめんどくさいんだもーん。今まで色んな奴らと戦ってきたけどどいつもこいつも個々の力が弱すぎて相手にならないし、集団でしか襲う事が出来ない奴らは大抵大した事はなかった。そんな喧嘩ばかりじゃ満足出来なくなってしまったのか俺は。あれ、俺ってサイヤ人? 

 

 兎にも角にもワンパターンばかりでの戦いは飽きる。だから喧嘩を避けてやり過ごす選択を選ぶようになっていた。うん、やっぱ平和が一番ですな。俺もその考えが出来るようになったって事は大人になったって事なんだろう。平和最高っ! 

 

 

 

 そう思って歩きながらふと違和感を感じて視線を右の方へ向けると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──あー、こんな秋葉でもナンパは存在するもんなんですね。

 

 

 

 

 見た所によるとナンパしている男は3人、どう見てもチャラそうな輩共だ。対してナンパされている女の子は2人、若葉色の髪の毛とオレンジ色の髪の毛をしているのが特徴っぽそうだな。

 こんなに人がたくさんいる中でよくもまあナンパなんて出来るもんだ。相手は3人、はあ……人混みの中ではあんましたくないけど一応覚悟はしておくか。

 

 

 

 平和に過ごしたいんだけど、周りの人はみんな見て見ぬふり、なら行くしかないだろ。

 

 

 

 

 んじゃま、行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレンジ色の髪の毛が特徴な女の子、星空凛(ほしぞらりん)と若葉色の髪の毛が特徴な女の子、小泉花陽(こいずみはなよ)は困惑していた。

 

 

「ねえねえ、いいじゃんか。少し俺達とお茶するくらいなんだからさー。行こうよ、ね?」

 

 花陽がアキバで買いたい物があると言うから来てはみたものの、見事にナンパされてしまった。もっともこの男達は自分じゃなく花陽狙いで来たに違いない。自分には女の子としての魅力がないのだから。と、凛はこんな時にも自虐染みた事を思っていた。

 とにかく自分の後ろで怯えている花陽は守らなくてはいけない。

 

 

「ね、いいでしょ?」

 

「嫌だにゃ! どっか行って!」

 

 かと言って絶対に守れるわけではない。相手は男3人、完全にこちらが不利だ。だから渾身の思いを込めて叫ぶ。

 しかし。

 

「おいおい、この子語尾に『にゃ』とか付けてるぜえ? あはははははは!!」

 

「笑ってやるなよ! 精いっぱいのキャラ付けだろ?」

 

 全くもって意味を成さない。むしろ笑われてしまっている。

 

 

「り、凛ちゃん……」

 

 背中に隠れている花陽からか細い声が聞こえる。自分じゃどうにも出来ない。

 だけど、それを分かっていながらも凛は言う。

 

 

「大丈夫にゃ、かよちん。ここは凛に任せて……」

 

 出来るだけ安心させるように言う。しかし、状況は1ミリたりとも変わらない。

 周りの人達は見て見ぬふりで助けてくれる気配がない。

 

 

「ははっ。まあいいや。じゃあそろそろどこか行こうか。とりあえず路地裏?」

 

 マズい。ヤバい。この2つの言葉が凛の頭に真っ先に浮かんだ。

 何か抵抗しないと何をされるか分かったものではない。

 

 

「凛達はどこにも行く気はないからさっさと帰って!!」

 

 叫ぶ、とにかく叫ぶ。これで男達が帰るはずがないと分かっていても叫ぶ。この大声でもし近くに警官がパトロールでもしていたら気付いてくれるかもしれないから。そんな僅かな希望を持ちながら叫ぶ。

 

 

「ちょおっと声が大きいかなあ君~」

 

 男の1人が肩を触ってくる。

 

 

「いやっ、触らないで!」

 

 一気に嫌悪感が湧いて男の腕を振り払う。

 

 

「おおっとっと、ははっ、振り払われちゃったよ」

 

 男は対して気にも留めずまたしても凛達に近づいてくる。

 

 

「凛ちゃん……もうダメだよぅ……」

 

 幼馴染の消え入りそうな声が耳に入ってくる。もうほとんど震え声で涙も出ているであろう。だが今の凛は花陽の方を見ている余裕はない。全ての神経を男達に集中し警戒する。このままじゃどこかに連れて行かれるかもしれない。いや、確実に連れて行かれる。

 

 もう為す術はないのか。

 助かる事は出来ないのか。

 さっきの声は誰にも届いてないのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと……、おっ、いたいた! いやあ悪かったな。久々にここに来たからちょっと迷っちゃってさ。やっぱり待ったかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 茶髪のツンツン頭の少年が、このありふれた日常の中の非日常の世界まで平然と割り込んで来た。

 

 

 

 

 

「──え?」

 

 凛が素っ頓狂な声を上げる。

 もちろん凛はこの少年の事を知らない。どこかで見たり聞いたりした事もない。かと言って花陽の知り合いでもない。それは幼馴染である凛がよく知ってるからだ。

 じゃあ彼は誰なのか? この男達の仲間か? 

 

 そう思い男達の方向を見ると、

 

 

「……、」

 

 男達も自分達と一緒でキョトンと訳の分からなさそうな顔で茶髪の少年の方を見ている。

 というか。

 

 完全にこちらに向けて今のセリフを言っていた。

 

 

「悪かったな待たせて。んじゃま行きますか! と、あれ? この人達は? 待ってるあいだに話し相手でもしてくれてたのか?」

 

 思考回路がめちゃくちゃになっている隙に少年が自分達の近くまで来ていた。

 

 

「え? あ、あれ?」

 

 普通に知り合いのように話しかけられ余計混乱してきた。

 のにも関わらず少年は、

 

 

「そっかそっか、いやあすいませんねー。うちの連れが迷惑掛けませんでしたでしょうかねー? とまあ、そういうわけでそろそろ俺達は失礼するんで通してもらいますよーっと」

 

 普通に自然に、普通に違和感なく、少年は自分達の手を握り男達から離れるように引っ張って歩かせる。

 すると男達もようやく正気に戻り、

 

 

「なっ……ちっ、男の連れがいたのかよ……」

 

「あーくそっ、失敗かよ」

 

「もう帰ろうぜ。めんどくせえ」

 

 小言を言いながら去って行った。

 

 これは助かったのか……? と、凛と花陽は疑問に思っていた。もっとも、凛はまだこの少年すらも疑っていた。さっきの男達とは違うにしても、また違うナンパ野郎かもしれないと。さっきのせいでやたらと警戒心が強くなっていた。

 

 だが、先ほどの場所から少し離れた所に来ると、少年が止まりこちらに振り向いて見てくる。凛は警戒していたが、それを取っ払うかのように、

 

「ここら辺まで来ればもう大丈夫かな? んー、それより案外食い掛かって来なかったなあいつら……。なるほど、この作戦はこれからも使えそうだな。ありがとう上条さん、『知り合いの振りをして切り抜く作戦』見事に成功したよ。アンタの不幸は無駄にはしないぜ!」

 

 何故か空の彼方の方を見ながらガッツポーズをしていた。

 

 

「あ、あの……」

 

 思わずこちらから声を掛けてしまった。

 すると、

 

「ん? ああ、悪い悪い。2人共、ケガとかはしてないか?」

 

 普通に返された。

 

 

「あ、えと、はい……ケガとかは、してないです……」

 

 てっきりナンパが使う口説き文句でも言ってくると思っていた凛は普通の返しに普通の返しをするという事しか出来なかった。

 

 

「そっか。なら良かった。でも、そっちの子は大丈夫なのか?」

 

 少年が凛とは別の、つまり花陽の方を見ながら心配していた。純粋に本当にただ純粋に自分達を助けてくれたのかこの人は。

 

 

「そ、そうだっ。かよちん、大丈夫!? もう心配ないからね!」

 

「……う、うん。その人が助けてくれたんだよね?」

 

 花陽もさっきよりかは落ち着いたようだ。

 

 

「た、多分助けてくれたんだと思うよ?」

 

「いや何で疑問形なの?」

 

 当然の反応だろう。仮にも少年は自分達を助けてくれた。そこに他意はないのだろう。しかし、わざわざ助けるという事は、何かしらの代償、つまり何かを要求されるに違いない。少なくとも凛はそう思っていた。じゃないと助ける義理がないはずだ、と。

 

 

「た、助けてくれたのには感謝します。でも、凛達はあなたに何かをしてあげないとダメ、ですよね……?」

 

 理由は何であれ、助けてくれたのは事実。なら覚悟は出来てる。花陽だけは見逃してもらいたいから、せめて自分だけに標的を向けさせる。

 しかし。

 

 

「はい? いや、何もいらないけど?」

 

 

 

 

 

 

 沈黙が生まれた。

 

 

 

 

 

 

「……にゃ?」

 

「いや、だから、何もお礼はいらないししなくてもいいけど?」

 

 花陽もキョトンとした目で固まっている。

 

 

「……それって、何もお礼しなくていいって事?」

 

「むしろこっちとしては何でお礼させなきゃならないのかが分からないんだけど? え、なに? まさか俺ってそういうふうにさせる奴に見えたの? うわヤバ、泣きそう」

 

 またしても脳内が混乱に陥る。

 

 

「え、だって、お礼とか無しで凛達を助ける義理が無いっていうか、その……えっと……」

 

 自分が混乱しながら発言していく内に少年は凛が何を言いたいのか理解したのだろう。

 そのうえで、顔に手を当てやれやれといった感じで言った。

 

 

「それは違うだろ」

 

「え?」

 

「お礼をさせたいから人を助けるようなヤツは確かにこの世にはたくさんいるよ。けどな、それは自分が助ける前にその人を襲っているヤツとやってる事は何ら変わりはしない。例えばカツアゲされてる人を助けてやったんだから金よこせとか言ってるようなヤツとかな。でもそれは絶対に間違ってる。様々な理由で助けるヤツなんていくらでもいる。でもその中にだってちゃんと無償で助けてくれる人だっているんだよ。そういうヒーローがいるんだよ」

 

まるでそういう本物を知っているかのように、過去の経験をそのまま口に出しているように少年は続ける。

 

 

「理由がなきゃ助けちゃいけない事なんてない。助けたいから助ける。それでいいじゃねえか。それで誰かが救われるなら、それでいいじゃねえか。だからさ、君が俺にわざわざ恩返しをする必要なんてどこにもない。何かを差し出す必要なんてどこにもないんだよ。俺は俺のやりたい事をしただけ。たったそれだけなんだよ。無駄な義務感に囚われる事なんてないんだ」

 

 自分の中で何かが崩れるような音がした。今まで凛が頭の中で思っていた何かが完全に崩れるような音が。

 当たり前と思っていたのが崩れた瞬間だった。良い意味で、この人はただ純粋に助けたかったから助けてくれたんだ。助ける代償が欲しいわけでもなく、裏に何か企みがあるわけでもなく。単純な理由で、名も知らない他人の自分達を助けてくれた。

 

 

「ま、これはあくまで俺が思った事だから。他にもちゃんと良い意味で俺とは違う形で誰かを助ける人もいると思う。それぞれがそれぞれの間違いのない意志で誰かを救えるなら俺はそれでもいいと思うよ。……って、ごめん。なんか余計にわけ分かんねえ事まで言っちまってたな! すまん、忘れてくれ!」

 

 自分が色々考えてる内に少年は自分の発言を恥ずかしく思ったのか、照れながら詫びていた。

 それに可笑しくなり、

 

 

「……ふふっ、あはは! なんか面白い人だにゃー!」

 

「くすっ……。そうだねっ」

 

 花陽もいつの間にか笑っていた。それ程少年が取り乱していた姿が可笑しかったようだ。

 

 

「ちょ、笑いすぎじゃね? そろそろ泣くよ? お兄さん泣いちゃうよ?」

 

 さっきまでのかっこいい表情とは裏腹に、今は泣きそうな表情になっているのにまた可笑しくなる。

 それは、完全に緊張が解けた瞬間だった。

 

 

「はあ、まあいいや……。とりあえずもう大丈夫そうだな。それじゃ俺はもう行くから」

 

 ひとしきり落ち着いた所で少年が言って去ろうとした。

 

 

「あ、あの!!」

 

 咄嗟に凛が少年を呼び止める。聞きたい。

 

 

「ん? どした?」

 

 少年がこちらに振り向く。どうしても聞きたい。

 彼の名前が。

 

 

「凛は星空凛って言います!! あの、あ、あなたの名前は何ですか!?」

 

「わ、私は小泉花陽とい、言います……」

 

 こちらの名前を聞くなり少年は何とも良い笑顔で口を開いた。

 

 

「拓哉。岡崎拓哉だ。またどこかで会ったらよろしくな。星空、小泉!」

 

 そう言って拓哉は走りながら去って行った。

 何やら買い物袋を大事そうに抱えながら……。

 

 

「岡崎、拓哉さんか……」

 

 凛は拓哉の名前を自分の声で繰り返していた。

 しっかりと噛みしめるように。

 

 

「なんだか、珍しいね。凛ちゃんが男の人の名前に興味があるなんて」

 

 花陽が微笑みながら言ってくる。

 

 

「そ、そうかにゃ? でも、助けてくれた人だから、またいつどこかで会えるか分からないけど、覚えとこうかなって……」

 

「ふふっ。そうだね。覚えておかなきゃねっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「(凛)私達のヒーローの名前を」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────―

 

 

 

 

 

 

 その頃拓哉は。

 

 

 

 

「星空凛と小泉花陽か……。良い名前だな、あの2人」

 

 

 

 

 せっせと秋葉原駅まで走っていた。

 

 

 

 

「この広い世界でまた会うには難しいけど、また会えたら楽しそうだな」

 

 

 

 

 独り言を言いながら階段をダッシュで登っていく。

 

 

 

 

「っと、今はとりあえず早く家に帰ってラノベ読まねえと!」

 

 

 

 

 しかし、広い世界というのは案外狭く、

 

 

 

 

「ナンパ野郎共のせいで時間少し食っちまったし至福の時間が減っちまったなあ」

 

 

 

 

 少年と少女らが出会うのは、

 

 

 

 

「って、その電車ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああいや待ってお願ぁぁぁあああいうわぁぁぁぁああああああああああ嫌だぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この数日後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




しまった……!
いつもより3時間遅くなってしまった……。

その代わりまさかの9000文字オーバーしてました。
自分が一番驚いてます。

あと、いつ本編に入るのか…。

P.S.
大阪のファンミーティング1日目当たりました。
生きる希望が出来たやで~。
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