いつもの月曜ができなくて申し訳ございませんでした。
最近リアルの方が忙しくて日曜も中々執筆できないのです……。
これからはいつものように月曜更新、遅ければ火曜更新に変更するかもしれませぬ。
今日も今日とて、誰とも一言すら話す事はなかった。
一応家でも予習はしているから授業はもはや聞き流しているだけに過ぎないが、ノートはとっているので無理な心配はなさそうである。薄暗い瞳をしたまま教科書を鞄へ入れていく。それはまるで自動で動いている機械がやっているような、そんな作業的な何かを感じさせた。
自分の周りを気にも留めてないかのような雰囲気。光を失った瞳。何かに絶望し、諦めきってしまった者の目。以前のような、ヒーローの面影はどこにも感じられなかった。穂乃果も、海未も、授業が終わればそそくさと教室をあとにした。
部活があったり、習い事があったり、友達とどこかに寄ったり、ただ帰宅するためだったり、各々の理由で教室はあっという間に誰もいなくなる。機械的な動きをしているにも関わらずとてもスローペースで帰りの身支度をする拓哉は、周りなど見る事すらしなかった。
そこへ。
「「「やっほー、拓哉君」」」
3人の少女がやってくる。
「……ヒデコ、フミコ、ミカ……か」
今まで周りをまともに見ようともしなかった拓哉が、ここにきてようやっと他の人間への認識を確認した。
「どうしたのさ、いつもみたいにヒフミって略さないのー?」
「何だか暗い雰囲気醸し出してさ、結構近づきにくいよ?」
「最近まともに誰かと会話もしてないんじゃない?」
「……、」
黙る。3人からの問いに。無視をしているわけではない。答えようと思っても、答えられないのだ。日常的な会話をする余裕すらないような、そんな感じにさえ見えてしまう拓哉に、ヒデコは直球で疑問をぶつけた。
「ねえ拓哉君。穂乃果達と何かあったでしょ」
「な……ッ!?」
率直に言えば効果抜群だった。今まで生気がないような雰囲気をしていた拓哉が、久々に人間らしいリアクションを起こしたのだ。それはおそらく図星という形で。だからヒデコは続ける。
「噂は結構広まってるよ。μ'sが活動休止になったって、手伝いをしていた拓哉君がそれを辞めたって。……だからさ、その原因を私達にも、教えてくれないかな」
「……お前達に話す事は何もないよ。これは当事者である俺達の問題なんだ。……いや、手伝いを辞めた俺にはもう関係もない話かもな……」
聞いて、ヒデコ達は手を額に当てる。いわゆる呆れたというやつだ。
「はぁ……何かその言い草だと私達は関係ないから気にするなって聞こえるんだけど、気のせいかな?」
「いや、それであって」
「「「合ってないッ!!」」」
3人がハモる。それに珍しく目を見開いて驚いている拓哉の顔があった。瞳の光は消えているまま、それでも一応、相手の姿はしっかりと3人を捉えていた。
「いい?拓哉君は手伝いとして重い機材運びや、男手が必要な事を主にしていた」
「だけど、それは拓哉君だけじゃないよね?私達だって、最初からμ'sのお手伝いをしてたんだよ?」
「あとから入ってきたメンバーの人達よりも関わってきた日数は遥かに違う。それでも、私達を関係ないって言うの?」
「ッ……」
言われて納得する。確かにヒデコ達はμ'sがその名前になる前から手伝いをしてくれていた。穂乃果達がスクールアイドル関連の事をする時は、常にサポートをしてくれていた必要不可欠な存在の彼女達だ。だから、無関係と言うには、それはあまりに酷なものだった。
「……分かった。お前達には話すよ」
暗闇をそのまま眼球に入れたような目をした拓哉は、これまでの経緯をできるだけ簡単に説明した。自分が原因で穂乃果も辞めてしまった事、それでμ'sが活動休止にまでなってしまった事。
それら全てを話して、全否定されるものだと思って、糾弾されてもおかしくないと思って、だけど、ヒデコ達の表情は大きく変わっていなかった。
「そんなもんだよ……。全部俺が壊してしまったんだ……」
「そっかー……」
乾いた笑みで俯く拓哉。それほどに精神的ダメージは酷いのだろう。もう戻れないかもしれない関係、それが拓哉の中でずっと渦巻いている。だからこそ諦めきってしまっている。
「だからもう、きっと……取り返しはつかない……」
「ねえ」
だけど、諦めていない者もいる事を、拓哉は知らない。
そんな少年に、ミカが声をかける。
「確かに拓哉君が辛いのも分かるよ。自分のせいでそうなってしまったんなら自分を責めちゃうのも分かる。でもさ、それだけじゃ何も変わらないんじゃないかな」
「詭弁だよ。今更何かしたところで、何かが変わるわけでもないんだ……」
「だから諦めるの?」
「……もし何かしたとして、変わったとして、それがプラスの方向へ進むとは限らない。むしろマイナスの方へ行ってしまう可能性だってある。それが何度もあった結果が今のこの状況を生んでるんだ……」
何度も重なった。負の結果が幾度と重なった。小さいものでもそれが何度も蓄積されれば当然大きくなる。それがプラスでも、マイナスでも。今の拓哉はマイナスが大きくなりすぎた結果が“これ”なのだ。
考えれば考えるほど思考が闇へと沈んでいく。
しかし、それは本人だけの話だ。
「元気出しなって!!」
バシィンッ!!と、フミコが思い切り拓哉の背中を手のひらで叩いた。少しよろけてしまうが何とか堪え、訳も分からずフミコの方へ顔を向ける。
「良い?拓哉君は拓哉君でμ'sがあんな事になったのは悲しい事かもしれないけど、それは私達だって同じなんだよ?拓哉君の言葉を鵜呑みにして言うなら、ただその原因が自分か自分じゃないかだけなの」
「だったらそれは同じじゃな―――、」
「同じなんだよ。悲しい気持ちに比較なんていらない。悲しいものは誰だって悲しいの。それに私達は拓哉君と同じで、穂乃果達がスクールアイドルをやろうとした時から手伝ってた仲間なんだよ。そんなの拓哉君だって分かるでしょ?」
「ッ……」
同じ時期からずっとμ'sを支えてきた仲間。むしろμ'sよりもステージの準備や機材などで話す事が多かったかもしれないほどの友達。だから、きっとμ'sを惜しむ気持ちは拓哉と変わらない。
本当なら2年から入ってきた拓哉と違って、1年の頃から一緒に学校生活を共にしてきたヒデコ達の方がその気持ちも大きかったかもしれない。
でも。
だけど。
3人の少女は決して落ち込んではいなかった。
「もちろん拓哉君は自分のせいでって思ってるから責任感じてると思うけど、それじゃ何も変わらない。悪い方にいかないかもしれないけど、そのままだったら絶対良い方にだって行きやしないんだから」
「……、」
「だからまずは元気を出して。何事も気持ちや気合いを入れないとだよ!」
フミコの笑顔を見る。決して空元気ではないのは一目で分かった。ヒデコもミカも微笑んでいる。同じ手伝い仲間として悲しんでいるはずなのに、彼女達は笑っている。自分とは違い、光を失っていない。
不思議と、その笑顔に嫌悪感は抱かなかった。
しばらくすると、3人の少女は拓哉から背を向ける。
「んじゃ、私達はもう行くよ。言いたい事も言ったしね」
「穂乃果の事も心配だから、その辺は任せといて。バッチリケアしとくから!」
「まずは笑顔だよ。形から入って、いつもの拓哉君に戻ってね」
ただ茫然と見送る拓哉に対し、最後の最後で3人の少女は最高の笑顔で振り向いてこう言った。
「「「また明日ね、ヒーロー!!」」」
―――――――――――――――――――
廊下を歩いている。
あのあとヒデコ達に言われた事を色々と考えた。
そのままじゃ何も変わらない。元気を出せ。まずは笑顔だ、と。きっと彼女達の言う事は正しくて、今の自分は間違っているのだろう。自分のせいだと落ち込んで、諦めて、何もしていないこの有り様は間違っているのだろう。
(だけど……)
否定的な言葉が頭に浮かんでしまうそうになる、その直前だった。
「おお、岡崎か」
「……先生」
拓哉や穂乃果を含む幼馴染の担任をしている者。山田博子がファイルなどを片脇に抱えて歩いてきた。
「何だ、帰るのか?」
「……ええ、まあ……」
普通に接してくる博子に内面で驚きつつも、このままでいると気まずくなる事は目に見えているからそそくさと歩みを始めようとする拓哉。しかし、それを阻むように博子は次の質問にでた。
「何で帰るんだ?部活はどうした?」
「ッ……。山田先生なら顧問だし知ってんじゃないすか、絵里か誰かに聞いたはずだ……」
「ああ、絢瀬から聞いたよ」
「なら何で―――、」
「何で私が呼び止めるか、お前なら分かってるんじゃないのか?」
あくまで笑みを崩さない博子とは裏腹に、拓哉はバツの悪そうな顔になり背ける。もちろんそんな顔になるのは、心当たりがあるからだ。それを分かってて、笑みを崩さない博子は言った。
「―――少し話さないか、岡崎」
生徒指導室。
そこに拓哉と博子は移動していた。
「すまないな。会議室でも良かったんだが、あそこは私の雰囲気には似合わなくてどうも苦手なんだ。ほら、何かキャラが違う的な感じの。だから無駄にだだっ広い会議室より、ちんまりとしたここの方が落ち着けるんだ。それにこんなナリをしてるから、実は生徒指導も任されててな。よくこの部屋を使ってるんだよ」
「いえ、全然……」
確かに周りを見ればポットや菓子箱など、明らかに私用で置かれているような物まである。完全に私物として生徒指導室を使っているのはもはや教師の中で誰もが知っていたが、生徒への面倒見の良さが買われて特に咎められたりはしていない。それにこの時期だ。暑い外よりも、教室より狭くても冷房が効いている部屋の方がこちらとしてはありがたい。
「まあ適当に座ってくれ。こっちが誘ったんだ、菓子や飲み物くらいは出すぞ」
「……いえ、お構いなく。……それより、話があるんじゃないですか」
「御託はいいってか……。まあお前も勘付いてそうだからいいか」
取ろうとしていた菓子箱を元に戻して、博子は拓哉の前の椅子に座る。学校特有の長方形型の白いテーブルを挟んで2人が見合う。
口を先に開いたのは、言うまでもなく博子だった。
「一応事情は全部知っているつもりだ。絢瀬の事だから、あいつの憶測もおそらくは当たっているんだろう?あいつらために手伝いを辞めたって」
「……、」
この先生に誤魔化しは効かない。いや、元々自分が誤魔化すだろうとも疑っていないだろう。μ'sを裏切るような行為はしないと確信している。そういう物言いをこの先生はしている。
「私はな、岡崎。別にお前を責めるつもりは毛頭ないんだ。そんな選択をしたのも、そうするしかないと思ったからなんだろう?じゃなきゃ、私に『あいつらの笑顔と、アンタら先生の笑顔だって守ってみせる』って言っていたヤツがそんな本当の裏切り行為をするはずがない」
「…………、」
よくもまあ一字一句間違えずに覚えているもんだと思いながらも、少し気まずい気分になる。
先生に堂々とそんな事を言っていたにも関わらず、皮肉なものに自分でその笑顔を壊してしまったから。
「……あいつらのためと思ってやった行動が、守りたかったはずのものを壊してしまった。そんな気持ちが……先生には分かりますか……?」
こんな事はしたくない。なのに、自然と口がそれを言ってしまっていた。どうせ自分の気持ちなんて知らないくせに、どこかでそう思ってしまっている自分に嫌気がさす。こんなのは愚問だ。今すぐ撤回するべきだ。
しかし、案外あっさりと目の前の教師はその答えを言った。
「そんなもの分かるわけないだろ」
もはや即答に近かった。答えが返ってくると思っていなかった拓哉は訳も分からないまま思わず素っ頓狂な声が出てしまう。
「ぁ……え……?」
「こういうのは無理して分かるなんて簡単な事は言っちゃいけないんだよ、岡崎」
拓哉の目をしっかりと見て、優しく微笑みながら諭すように女教師は言う。
「実際お前は責任を感じて、きっと1番傷付いて、1番落ち込んでるんだろう。だから、そう簡単に『お前の気持ちも分かる』なんてのは言えない。特に教師をやってる私はな……」
一呼吸置く。ここからが本番だと言うかのように。
「でも、だからこそ。私は私の観点からお前に言ってやる事ができる。いいか岡崎。人間なんてのは生きてれば必ずどこかで躓くんだ。それも何度も。お前はいつも躓いた人を導いてきた
自分は周りの人とは違う。別にそういう認識をしていたわけではない。ただ小さい頃から父に『困っている人がいたら必ず手を差し伸べるヒーローになれ』と育てられてきた。
言ってしまえば、それだけだった。それ以外は他の人達と何ら変わりない、普通で、平凡な少年なのだ。人間というのは外見や内面で見ると多種多様な生き物である。1人1人が違う外見をしており、考え方も違う。
そんなものなのだ。自分にとっての普通があの人にとっては普通じゃない。あの人にとっての普通が自分にとっては普通じゃない。それこそが『普通』なのだ。だから『多種多様』。何億といる人類を考えてみれば、『岡崎拓哉』という人間なんてのはちっぽけな存在でしかない。
ただの
「岡崎だって躓く事があって当然なんだよ。それが人間だ。正義感が強いから、ヒーローだからっていう、そういう固定観念を差し引いてみれば、お前はただの少年なんだ。高校2年生なんて、進路とか勉学とかスポーツとか、そんなので度々躓いてなんぼなんだよ」
「……でも、俺は、あいつらを……あいつらの笑顔を守れなかった。逆に壊してしまったんだ……」
「そこで下を見るな。前を向け。立ち止まるな、歩き続けろ。躓いたから諦めるなんてのは弱者になるという事だ。お前には信念があるんだろ。誰かの笑顔を守りたいという強い意志があるんだろ。だったら諦めるんじゃない。躓いた時にこそ、強く前へ踏み出すんだ」
言われて、考えてみる。
自分にとっての普通は困っている誰かに手を差し伸べたり、助ける事だ。それによって躓いた誰かは前を向く事ができた……はずだ。もしそれが本当ならば、今の自分が躓いていると仮定するならば。
「岡崎、ヒーローってのは、必ずしも1人じゃないって事も知っておくんだな」
その発言に、何か隠されていると思った。
それを聞きだそうとする前に、女教師はおもむろに席から立つ。
「結構話し込んでしまったか、空が焼けているな」
見れば、夕陽がオレンジ色に輝き、空が染められていた。すぐに帰宅するつもりだったのに、ヒデコ達や先生と話していた時間が結構長かったのだろう。
「悪いな、帰るところを止めてしまって。私もまだ仕事が残ってるからもう行くとするよ。止めておいて何だが、家には早く帰るんだぞ」
軽く会釈だけする。
とりあえずは自分も帰ろうと鞄を手に席を立つ。その瞬間。
「岡崎」
担任の声がした。そちらへ振り向く。そこには、教師だけど、それ以上に、女性としての母性が感じられるような、優しい顔があった。
「1人で全部を抱え込むんじゃないぞ、お前は1人じゃないんだから」
諭すような、包み込むような、支えてくれるような、そんな声色だった。
言うだけ言って、山田博子は立ち去って行く。
(……、)
何を思うか、それは定かではなかった。
けれど、微かに、岡崎拓哉の瞳には小さな光が宿っていくような感覚がした。
ヒーローは、まだまだいる。
さて、いかがでしたでしょうか?
長くなりそうなので、前編後編と分ける事にしました。
まずは前編!!
ヒフミと山田先生の番ですね。ヒフミには同じ手伝い仲間としての慰めをさせ、山田先生には教師と顧問としての役割を与えました。同じ立場からと教師の立場からでは言う言葉も変わってくるのは当然ですね。
だからこそそこに意味があると思っています。
次回はヤツらだ!!
いつもご感想高評価ありがとうございます!!
では新たに高評価をしてくださった
つんつん。さん、花陽さん
計2名の方からいただきました。大変ありがとうございます!!
これからもご感想高評価お待ちしております!!
山田先生イケメンかよ(※女性)