では、どうぞ。
「何で俺まで後部座席に座らされてんの」
「そりゃお前、話があるなら一緒に座った方がいいに決まってるだろう」
穂乃果とことりと一緒に冬哉が待っている場所へと移動した拓哉は、学校へ帰る道中にいくつか話しておかないといけない事があるため、2人を急かしていた。その結果、それを察した冬哉に半ば無理矢理後部座席に座らされたのである。
「そんなの俺が助手席にいてもできるだろ!穂乃果もことりもこれじゃ狭いだけだろ!?」
「私はそんな事ないよ!」
「むしろ大歓迎かな」
あれ?俺がおかしいの?などと1人ごねている拓哉を見て、ふざけるのも程々にして本題に入れさせようと冬哉が話を切り出す。
「それで、2人に話す事があるんだろ。車も飛ばしてるんだ。早く話しておけよ」
「何か言いくるめられた感があるんだが……」
ともあれ、このままでは一向に埒があかないのも事実だ。これについてはもう不本意だが諦める事にして、拓哉はゴホンと気持ちを切り替えてから口を開いた。
「2人には学校に帰ってからライブをしてもらう」
「「ライブ?」」
「ああ。と言ってももちろん2人も1度歌って踊ってる曲だ。そうじゃないとできないしな」
そして、と。
軽く深呼吸して、ここからが本題だと言わんばかりの表情で言う。
「今まで通り、9人で踊ってもらう」
何故か。
穂乃果とことりの時間だけが止まったかのような感覚に襲われた。2人は同時に固まり、そして正気に戻るのも同時だった。
「9人、で?」
「でも、海未ちゃんはまだしも、他のみんなは……」
「大丈夫だ」
どこか安心できるような、いつもの声が穂乃果とことりの耳にすんなりと入ってきた。
「作戦はもう既に昨日にこと花陽と凛に伝えてあるんだ」
「にこちゃん達に?」
「ああ、作戦と呼べるようなものじゃないただの運任せだけど、それでも確信はある」
根拠はない。もしかしたら失敗している可能性だってある。
でも、確信があった。あるはずもない自信と信頼をにこ達に預ける事ができた。とすれば、もう失敗なんて未来は見えない。
「そもそもの話、俺は気付いていなかっただけなんだ。俺や穂乃果が辞めてしまってからも、にこ達はアイドル活動をしていた。本心から活動休止を望んでいるヤツなんてどこにもいなかった。俺と穂乃果がこうして元に戻ってまた立ち上がれた事を『成長』したって言うなら」
一度、硬く拳を握ってからそれを解く。その手をことりの頭の上に置いて撫でる。少し気持ち良さそうにしながらも、ことりはずっと疑問符を浮かべていた。
それを優しい目で見つめながら、岡崎拓哉は言う。
「『成長』しているのは俺と穂乃果だけじゃない、みんなも『成長』していたんだよ」
「みんなも……?」
「お前達は今まで困難を乗り越えてきた。その度に少しずつでも成長していたんだ。だから俺も一時は、俺がいなくてもこいつらなら自分達でやっていけるなんて勝手に思って辞めた。でもそれは間違いじゃなかった。俺や穂乃果がいなくても、
拓哉が作戦を行おうとしたきっかけが、“それ”だった。
「誰かに言われるでもない。自分達がやりたいからやる。それだけ、たったそれだけで諦めずに今できる事を全力でやろうとする。スクールアイドルを、μ'sを諦めきれない気持ちがにこ達を動かしている」
何も成長しているのは拓哉達だけではなかった。花陽も、凛も、真姫も、にこも、絵里も、希も、全員が少しずつ成長していた。その結果が今だ。各々が自分なりの行動をしている。
にこ達しか見ていないが、きっと他のメンバーもこのままではダメだと思っているはずだ。
だから。
「昨日にこ達に言っておいた。今日ライブをするなら、他のみんなも集めてくれって。もちろんμ's全員で歌うために」
「μ's、全員で……」
「最初から誰も諦めていなかったんだ。また9人で歌うための休憩期間に過ぎない。もうにこ達が絵里達を集めてステージに連れてきてくれてるはずだ。あとは俺が穂乃果とことりを連れて帰れば全てが揃う」
「車運転してるのは俺だけどな」
揚げ足取んなと冬哉に小言を浴びせてまた真剣な表情に戻る拓哉。昨日のにこ達との出来事を思い出していた。
「……あんなバカな事をした俺をまた信じてくれたにこ達のために、俺は絶対にお前らをあの講堂へ連れて行く義務がある。もう……これ以上大事な人達の悲しむ顔を見るのはまっぴらだ」
ずっと忘れられなかった。
辞めると言った時のみんなの顔が。それこそ自分を信頼してくれていたにこの顔も、ずっと表と影からサポートしてきた希の顔も、入部してからは常にメンバーの事を考えてくれていた絵里の顔も、とても見れるものではない表情だったと覚えている。
ヒーロー失格と言われても仕方ない事をした。自ら守るべき人達の顔を壊してしまった。だから、そんなのはもうたくさんだ。全てを償えるとは思っていない。ただ、それでももう一度、9人のμ'sへ戻すには自分が必要だと思った。
責められるならあとで存分に言わせればいい。好きなだけ殴ってもらって構わない。だが今だけは、μ'sのヒーローとしてもう一度役に立てる場所が欲しかった。自分のわがままだってのは分かってる。でもそのわがままを最後まで貫かねばならない。
最後にみんなで笑って終われるために。
「大丈夫だよ、たくちゃん」
不意に、拓哉の手の上に穂乃果の手が優しく乗せられた。
「私も間違った選択をしちゃったからこういう事言うのはおかしいかもしれないけど言うね。難しい事は全部抜きにしてさ、今こうやって私とことりちゃんとたくちゃんが一緒にいる。それだけで良いんだよ。それが全部物語ってるんだから」
穂乃果の話を聞いていると、もう一つ、ことりの手が上に重ねられた。
「そうだよ。本当なら今頃は絶対に3人一緒にいるはずなかったのに、こうして一緒にいるんだもん。本音を言って、みんなが望んだ結果が今のこれなんだもん。だったらたっくんは胸を張って良いんだよ。私達のヒーローとして、胸を張って?」
本来、熱や温度といったものは肌に触れて初めて実感できるものである。
だが、触れられている重ねられた手だけではなく、それ以外に感じられるものを人間は持っている。
心。
言ってしまえばそんな機能は人体のどこにも付いてはいない。臓器とはまた違うが、人はよく心臓や胸の部分を指して、そこに心があると言う。現実的に考えてみればあり得ない。だけど実際に人間には心と呼ばれるモノがある。それは実際にある物体や理屈だけで説明できるものではない。
それでも分かる。
心というものに、形はない。
だけど、人間はこんなもののために死力を尽くせる生物でもある。
温かい。
純粋にそう思った。
2人の言葉がすんなりと入ってきた。拒む隙もなく、必要もなく、ストンとしっかり収まるかのように。聞いていて心地良い、胸が、心が温まる。
だから、どれだけ根拠のない自信でも前を向く事ができる。
「……ああ、もう俺は間違えない。お前らのヒーローとして絶対にお前らを見えなかった景色まで導いてやる。だからまずは原点に戻る」
原点。
即ちμ's。
「講堂でのライブを成功させて、やり直しだ」
「あ、でもお客さんって来てくれるのかな?」
ライブをやるにあたって重要な疑問がことりから浮かび上がった。
しかしそれを拓哉は淡々と説明を始めた。
「そこは心配ないと思う。事前にヒデコ達にチラシ配りを頼んでおいたから、少なくとも音ノ木坂の生徒だけでも結構集まるはずだ」
「用意周到だねたくちゃん!……ってあれ?」
「どうしたの穂乃果ちゃん?」
何かふと疑問に思った穂乃果が拓哉に質問をぶつける。
「ねえたくちゃん、音ノ木坂の生徒だけでもって、もしかしてここの生徒以外にもお客さん来る可能性あるって事?」
「ん?ああ、そうだよ。昨日のうちに先生に頼んでおいたんだ。今日の放課後から学校を一般開放してくれってな。だから呼ぼうと思えば家族とか、見学に中学生も来てくれるかもしれない」
「たっくん凄~い……!」
やれる事は既に昨日やっておいた。
学校のHPにも今日は放課後から一般開放されると書かれているはずだ。というか、そういう事は基本理事長にも連絡必須なので陽菜は拓哉のやろうとしている事を最初から分かっていたのだろう。
「まあ、準備ならもうできてるはずだから、あとはお前らが学校に着けば全ての準備が整うってわけだ」
「たくちゃんがそこまでしてくれたんだもん。絶対成功させるしかないよね、ことりちゃん!」
「うん!!」
思わず拓哉を挟みながらガッツポーズをする穂乃果とことり。
すると、運転している冬哉が笑いながら口を開いた。
「おうおう、やっぱいつも元気良いな穂乃果ちゃんとことりちゃんは!こりゃどっちが将来拓哉の嫁になるか見物だな!あ、海未ちゃんでも良いか!!」
「黙って運転しろやクソ親父ィ!!こんな時に何て核爆弾発言落としてくれてんだコノヤロー!」
とんでもない茶々を入れてくる冬哉に対して咆哮と言わんばかりの声量で罵倒する拓哉。そうでもしないと件の女の子2人に挟まれながらいるのはキツイにもほどがあった。そして例の穂乃果とことりは顔を真っ赤にして俯きながらプシューと頭をショートさせていた。
「わ、私は別にあのその将来たくちゃんのお嫁さんになるとかそういう想像はあまりしてませんというか何なら今すぐにでもというかうちの店一緒に継ぐか将来は一軒家に住みたいなとか思ってたり思ってなかったり~……」
「そ、そんな……私がたっくんのお嫁さんだなんて……うぅ~……なれたらなれたで嬉しいけど、みんなの事も考えなきゃだしそうするとやっぱり一夫多妻制の法律を日本に作らせるしかないしそうだよ作らせようみんなで幸せになろうよたっくんの好きなみんなで笑って終われる結末だよ」
「ちょっと?穂乃果さんもことりさんも何親父と団結していやがりますのでせうか??女の子が軽々しくそういう事言っちゃいけません!!一夫多妻制とか何生々しい事この上ない発言してんだ怖いわ!!」
「お、学校見えたぞー。そろそろ降りる準備しとけな。俺もあとで見に行くから」
「テメェ元凶この野郎、何サラッと流してんだボケあとで蹴るぞバカ覚えてろよハゲ送ってくれてありがとよアホ!!」
「まだハゲてねえしーッ!!!!」
いらぬ反論をしながら冬哉はそのまま車を階段の側まで止める。
いつの間にか元に戻った穂乃果もことりも、着いた途端に車を降りて冬哉にお礼を言った。
「たくちゃんのお父さん、ありがとうございました!」
「良いって事よ。……じゃあ、行ってこい、拓哉」
「……ああ。行くぞ、穂乃果、ことり」
「「うん!!」」
3人は走り出す。
9人でまたやり直すために。
もう一度、3人から始まった始まりの場所へ。
―――――――――――――――――――――
既に講堂内には人がたくさん集まっていた。
「うぅ~、緊張する~……!」
「それより凛達制服のままだよ~!?」
「スクールアイドルらしく良いんじゃない?」
その舞台裏では、にこや花陽、凛の他にも、μ'sメンバーが揃っていた。
「それより穂乃果とことりは間に合うのー?」
「絶対来ます。必ず。何せ、今のあの2人には拓哉君が付いているんですから」
にこが少し焦ったように言うが、それを海未が諭す。
「それはそうなんだけど、私達にここまでさせておいて間に合わなかったらタダじゃおかないんだから」
「そうですね。拓哉君にい限ってそんな事はないと思いますが、もしそうなれば私もにこに加勢しますよ」
先程と言っている事が矛盾しているようにも聞こえるが、それはただの冗談としか思えないような軽い口調だった。
だから海未はただし、と最後に付け加えて言った。
「万が一にもそのような事にはなりません。今の拓哉君は、私でも見違えるほどに変わりました。……いえ、芯は元から変わっていませんが、その想いが以前よりも遥かに大きくなっていると感じたので、もう心配はいらないでしょう」
「何だか幼馴染だから分かるような物言いね……」
実際そうなのだが、それ以上海未は何も言わなかった。
そこで希があいだに入るような形で口を開く。
「言ってるあいだにそろそろ時間やけど……」
「……そうね、お客さんを待たせるわけにはいかないわ。海未」
「……来ます。拓哉君達は必ず……ヒーローはやってくるんです……」
もう待てない。
絵里がそう思った瞬間だった。
舞台裏側にあるドアが勢いよく開かれた。
「ま、間に合った……!?」
「穂乃果ちゃん!」
「ことり!」
「まったく……本当にギリギリなんですから」
「ヒーローは遅れてやってくるって言うだろ?そんなもんだ」
全員が待ちに待っていた人物達がやってきた。
岡崎拓哉、高坂穂乃果、南ことり。
これで揃うべきピースが全て揃った。
「ハラハラしたにゃ~!」
「もっと余裕をもって来なさいよ拓哉」
「これでもめちゃくちゃ急いで来たんだからな……」
「それじゃ全員揃ったところで、部長、一言」
「ええ!?……なーんてね、ここは考えてあるわ」
いきなりの希の無茶振りを予期していたからか、にこの顔には余裕の表情があった。
しかし、その前にとにこは口に出してから拓哉の方へと振り向いた。
「部長が言う前に、まずはμ'sの手伝いである拓哉に何か言ってもらおうじゃないの!」
「……なっ、俺が!?」
「当たり前でしょ。穂乃果とことりを連れて来るだけで役割が終わったと思ったら大間違いなんだから。ほら、早く言う」
完全にあとは見守り役として脇に移動していた拓哉が驚愕の顔を浮かべる。
でもすぐににこの意図を察した。後ではなく今言えと。全員がいるこの場所で、全員が笑顔で歌うために、僅かに残っているわだかまりをここで消滅させろと言わんばかりに。
「……元々は俺が原因だった。そこから全てが崩れていった。俺が辞めたせいで徐々にバランスが崩壊していった。……でも、俺が諦めてしまっても、お前達は諦めていなかった。俺がいなくてもにこ達はスクールアイドル活動をしていて、みんながみんな完全に未練を断ち切っているわけじゃなかった。俺のせいなのに誰も俺を責めずにやるべき事をして、成長していた。そのあいだにも俺は色んな人に迷惑をかけた。惨めな俺のために元気付けてくれたり諭してくれたり怒ってくれたり背中を押してくれた人がいた。……俺はもう間違えない、諦めない。俺1人じゃない、これから俺もお前達と一緒にもっと成長したいんだ。ケジメはちゃんとつける。ライブが終わってからどうとでも言ってくれていい。殴られたって文句は言わない。だから、だから!もう一度だけ俺にチャンスをくれ。みんなの、μ'sを守るヒーローとして、μ'sの手伝いに復帰させてほしい!!」
頭を下げる。
もう決めた事だ。守るためなら、救うためなら、自分のプライドなどどうでもいい。何が何でも、誰も悲しまないという条件だけを付け加えてプライドなんてゴミ箱に捨ててしまえばいい。
「これが拓哉の言い分よ。みんな、何か言う事はある?」
にこがメンバーに問いかける。
拓哉のμ'sの手伝い復帰についてを。しかし、賛成も反対も、誰も一言すら発さなかった。頭を下げている拓哉にはちょっとした生殺しが続いていたが、やがてにこが言う。
「これが答えよ、拓哉。顔を上げなさい」
沈黙。それはつまり反対という事ではないのか?と思いながらもゆっくりと拓哉は顔を上げていく。
視界に広がったのは、笑顔で拓哉を見つめる少女達だった。
「何も言葉だけが全てじゃない。ちゃんと顔を見れば分かるでしょ?誰も反対なんていう顔してないもの。……そもそも、アンタが辞めるって言った時に部長の私が認めてないんだし退部届も出してないのに辞めれるわけないでしょ?最初から誰もアンタが辞めてるだなんて思ってないんだから」
また、胸の辺りが温かくなるのを感じた。
戻って良いんだと、言われている気がした。
「……あれ、でも絵里は家で泣いてたって亜里沙から聞い―――、」
「何で拓哉がそれを……ってまったくあの子はーッ!!拓哉もそれを今言わないで!!」
「あ、すんません」
いきなりの爆弾発言に絵里が若干のキャラ崩壊をしてみんなが笑っているところで拓哉は実感する。
ああ、自分は許されたんだと。またこの輪をすぐ側から見守っていていいんだと。
笑いあっていると、ステージのライトが急に薄暗くなった。
ライブ開演直前の合図だった。
そして、誰も何も言う事なく、自然に9人が片方の手を差し出し輪を作る。
バラバラだった9つのピースが、1つの形として原型を取り戻す。
「今日みんなを、1番の笑顔にするわよ!!」
部長のにこの一言で全員の気が引き締まるのを確認してから、リーダーの穂乃果から順番に言っていく。
「1!」
「2!」
「3!」
「4!」
「5!」
「6!」
「7!」
「8!」
「9!」
「さあ、行こう!!」
本当の意味で、9人の女神がステージに再臨する。
Music:START:DASH/μ's
いつの間にか拓哉も客席の方へと移動していた。
「……すげえ」
素直に感嘆していた。
以前、初めて幼馴染の3人がここでファーストライブした時の事を思い出す。
その時は客席に客は全然と言っていいほどいなかった。
今思えば、μ'sメンバーとヒデコ達以外誰もいなかったかもしれない。
それが今となっては。
「満員じゃねえか……」
席が人、人、人で埋め尽くされていた。
多分山田先生の粋な計らいだろう。客の1人1人がペンライトを持っていて、その光がまるでμ'sのメンバーを意識しているような色ばかりだった。
音ノ木坂の生徒だけじゃない。一般開放されている事を知ってやってきた生徒の家族、見学しに来た中学生、その誰もがμ'sを見て心奪われていた。誰もいなかった前とは違う。満員にまでなって、仕方なく立ち見で見ている者でさえライブに熱中している。
ヒデコ達も、さっき来ると言っていた冬哉も、いつの間にか一緒にいる母の春奈も、穂乃果や真姫の家族も、一緒に見学に来ている雪穂、亜里沙、唯も、どこから嗅ぎ付けたのか分からない元後輩の桜井夏美も、楽しそうにペンライトを振り回している。
確実にμ'sは成長していて、だから応援してくれる人達も自然と増えて、今となっては見違えるほどに進化を見せた。
これも山田先生だろうが、中央にはカメラがセットされていて生中継でμ'sのライブがネット配信されている。その反応を見てみると評価は上々だった。コメントのほとんどがμ'sに興味を持っていたり、μ'sが戻ってきたと喜んでいたりと、様々な反応が見て取れる。
(マイナスからじゃなくゼロから、今度は完璧な9人としての再スタート、か。この曲は相応しすぎるな)
START:DASH。
みんなで決めたタイトルだった。最後に拓哉が『:』を付け足して完成形となったこの曲は、きっとずっとμ'sの象徴として残っていく。何故だかそんな気がした。
時間は平等に進む。
故に、自然と楽しかったライブも終わりを迎えた。
盛大な拍手が9人を包む中、穂乃果を中心に並んでいく。
「皆さん、今日は本当にありがとうございました!!」
穂乃果が言うと、たちまち拍手と声援が大きくなる。
それが若干静かになるまで待って、完全な沈黙となると同時に穂乃果は語り出す。
「私達のファーストライブは、この講堂でした」
ほとんど誰もいなかったあの時のライブ。
「その時、私は思ったんです。いつか、ここを満員にしてみせるって!一生懸命頑張って、今、私達がここにいる。この思いを、いつかみんなに届けるって!その夢が今日、叶いました!!だから、私達はまた駆け出します!新しい夢に向かって!!」
穂乃果の夢は叶えられ、また違う新しい夢へと進む。そのための断言。
見事に満員にしてみせたμ'sならば、新しい夢も叶えてくれるのではないか。そう思った人々が、段々と歓声を上げていく。
そして、最後に穂乃果は言った。
「ここに来るまで私達はずっと色んな人に支えられてきました。でも、私達を1番導いてくれたのは、この人がいてくれたからです!ねっ、たくちゃん!!」
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生配信されているカメラが、山田博子によって拓哉の方へ向けられていた。
「……え」
主役であるはずのμ'sに注がれていた視線が、一気にただ1人の平凡な少年へと注がれる。
「……なっ、バッ!バカかお前は!!今俺はライブと何も関係ないだろ!?ネットに配信されてんだぞこれは!スクールアイドルでもない俺が映されてどうすんだよ!?」
「それでも言いたかったの!!μ'sが少し活動休止になっていたあいだ、色んな事がありましたが、こうしてまたμ'sとして歌えたのも、みんなと踊れたのも、μ'sのお手伝いをしてくれる岡崎拓哉君がいてくれたからなんです!!」
「名前を出す―――、」
「ありがと!たくちゃん!!」
「……はあ」
思わず溜め息を零す。
生配信されている状態でここまで言われたらもう何も言えないではないか。穂乃果はおそらくそこを考えて言ったんだろうが、してやられたと拓哉は思う。
だが、不思議と悪い気持ちではなかった。
最後に、穂乃果を含めμ's全員が再び客へと振り向く。
「それじゃ、来てくれた皆さん、配信を見てくれた皆さんも一緒にお願いします!!」
1つ、仕組んでいた事があった。
ヒデコ達に頼んでいたチラシや、配信するにあたって事前コメントなどで客にコールを教えて一緒にやってもらうという、とても簡単なものだ。
それを、最後にする。
「せーの!!」
「「「「「「「「「μ's!ミュージック、スタート!!」」」」」」」」」
ライブは、誰がどう見ても大成功に終わった。
――――――――――――――――――――
夕方。
片付けがあり帰りが少し遅くなるからと先に帰って夕飯の支度をしていた唯の耳にドアの開く音が聞こえた。
父はリビングでテレビを見ており、母は一緒に夕飯の作っている。
だから誰が帰って来たのかすぐに分かった。
いつものように笑顔で大好きな兄を迎えにいく。
「お兄ちゃんおかえ―――ど、どうしたの、お兄ちゃん?その顔……」
「
そこには、恐らく9人の女神に顔面を殴られたであろうヒーローの姿があった。
さて、いかがでしたでしょうか?
ここまで来るのに長かった……。
1年9か月にして、ようやく1期のラストを迎えられました!大長編かよ。
感動だけで終わらせるわけがないでしょう、だってこの作品だぜ?←
タダでは終わらんよ。
そんな訳で賛否両論あるかと思いますが、ここは『彼ららしい』1期のラストで終わりを迎える事にしました。
ジョジョ風に言えば第一部、完!!
ではでは、まずここまで読んでくれた読者の皆様にはとてつもない感謝を!
こんな長い作品、しかもまだ1期という事に驚きを隠せないでしょう。だがしかし、これからもこの作品を是非ともよろしくお願いします!
皆さんの評価とご感想がある限り、作者の戦いはまだ終わらない!!
これからについてですが、2期にいく前に2回ほど休憩回を挟もうかと思っています。
主に唯編と夏美編の2つですかね。
唯編ではできれば唯のイラスト描きたい……。
それが終われば2期の始まりですぜ!!
いつもご感想高評価ありがとうございます!!
では、1期のラストを締めくくって新たに高評価を入れてくださった、
シャウタッタさん、十六夜鈴谷さん
以上、計2名の方からいただきました。ありがとうございます!!
これからもご感想高評価お待ちしております!!
岡崎が自ら望んだケジメなので、一応全員に殴られる事にしました。