山合宿編導入回です。
『やあ、岡崎拓哉君。西木野翔真だ』
「とりあえず何であなたが俺の電話番号を知ってるのかという事から問いただしてもよろしいでしょうか」
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事は先日までに遡る。
いざ練習を始めようかとしていたところで急に花陽が慌ててスマホ片手に集合をかけてきたのだ。
どうにも今回のラブライブは予想以上に参加希望グループが多く、その中の大半が既に存在しているプロの曲をコピーしている者も多いとか。だからまずは既存曲ではなくオリジナルの曲を作ってアピールしなくてはならなくなってしまったのだ。
しかし、言うは簡単だが実際にそう上手くいくはずもない。
作詞も作曲も衣装も、急ピッチで作らなくてはならないという事は、それ相応に担当している者に負担もかかるというもの。いきなり作れと言われてすぐ作れるわけがないのである。
従って、それら全てを集中して取り掛かれるような場所と環境がいるという事で。うちのまとめ役の1人でもある絵里が張り切って言ったのだ。
『合宿よおッ!!』
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そんなこんなで今、アイドル研究部もといμ'sとその手伝いである俺こと岡崎拓哉が、多分快く別荘の貸し出しを引き受けてくれた真姫の別荘宅のある場所へと向かっている最中なのである。
合宿を提案した時の絵里は何か凄かった。昔のバレエを彷彿とさせるターンを何故かそこで披露しながら言ってきたのだ。確かに綺麗だったが、今でもその行為は拓哉さんのいつかその謎を紐解く心のメモリストに記録している。生徒会長の任期を終えたからか、最近の絵里は何か弾けている気がする。
さてここで本題だが、今回の合宿は海ではない。さすがにこの季節に海は冷えてしまうし、山にも別荘があるから山合宿にしようとなったのだ。海にも山にも別荘あるとか真姫さんまじブルジョワジー。陸海ときて今度は空に別荘作りそうまである。ラピュタかよ。
とまあ、概の合宿へ行く理由はこんなもんだ。
休日中にみんなで集まって色々と集中できるような環境なんて合宿くらいしかないのだろう。
でもって今は電車の中なのだが、俺はスマホを片手に隅の方へ移動している。
電車内での通話はマナー的に問題大アリなのだが、幸い田舎なのかは分からないが俺達以外に乗っている客はいないから大目に見てほしい。良い子は決して真似しちゃダメだぞ☆
はてさて、俺も電話相手が親父とか桜井なら即刻無言で切って終わりにするのだが、いかんせん相手があまりにも予想外の相手だったからつい返事を返してしまった。
その相手が。
『ははっ、何、別に調べてやったわけじゃないさ。真姫から聞いただけだよ』
「何で教えたんだ真姫……」
西木野翔真。
真姫の父親であり、世界にも誇れる最先端医療技術とその腕の持ち主。しかも病院を経営している本物のエリートお金持ちである。
そんな人間が何故俺と知り合いなのかは、まああれだ。以前一悶着あったからとしか言いようがない。今思えばたった一言何か言うだけで人を動かせる人間に対して俺は何つう啖呵切ったんだろうと思う。振り返るだけで寒気がしますね。
『君とはまた話がしたくて真姫に家に誘うように色々と言っていたんだが、生憎真姫も思春期でね、恥ずかしがって中々言えないらしい』
「むしろそれで助かったと思ってる俺はおかしいですかね……。総合病院の社長から直接お呼び出しとか嫌な予感しかしないんですが」
『何を勘違いしているか分からないけど、多分逆だよ。僕は君に感謝しているんだ。娘の事を考えているようでまったく考えれていなかった僕の目を覚ましてくれた君にね』
「感謝……?」
あんな乱暴口調やらで説教垂れた俺に感謝?怒られても文句は言えないような事をしたのに。
『ああ。だからそのお礼がしたくて家に招こうと思っていたんだ。だけどそれは叶わずに時間はたっていくばかりだ。だからせめて電話で話そうと思ってね。今回山にある別荘を貸すって事で良い機会だから真姫に聞いたんだよ』
なるほど、結局のところ俺が1人で被害妄想爆発させてただけだったのね。何それ普通に恥ずかしい。本当に怒ってたら今頃俺は地下の研究室に連れて行かれてるのにな。……うん、これが被害妄想だわ。
『改めて、ありがとう。岡崎君』
「……お礼を言われる事はしてないですよ。俺は失礼も承知で殴り込みに行ったようなものなんですから」
『それでもだよ。君がその行動をしていなかったら今も真姫は僕に本当の笑顔を見せてはくれなかった。過程はどうあれ、あの結果で僕は大変満足している。だから素直に感謝の言葉を受け入れてくれてもいいだろう?』
「……じゃあ、そうさせてもらいます」
冷静に話してみるとよく分かる。やはりこの人はちゃんと真姫の事を考えているんだ。あの時は色々と間違っていたけど、それでも純粋に真姫を思っての言葉だったのは間違いなかった。今は仲良くやってるようで一安心だ。
『ところでお礼の件だけど』
「……え?お礼って感謝の言葉だけじゃないんですか?」
『これでも病院経営者だぞ?それなりの事はしないと社長と西木野家の名が廃るよ』
何だか大仰な事になってきたと思うのは気のせいだろうか。少なくとも電車の片隅で話すような内容じゃないのは拓哉さんにも分かりますよこれ。真姫め、花陽と凛と笑顔で談笑しやがって……今お前の父親と話してんだぞコノヤロー助けて!!
『そうだな。こういうのはどうだ。もし君が将来、大怪我や病気を患わったとする。それを僕が全身全霊を掛けて治療するというのは。もちろんお金はいらない。無償であり、しかも何回もだ。この先君に何があろうと僕が責任をもって何回でも元の元気な体に戻してみせよう』
「待って待って待って。飛躍してる。色々と飛躍しすぎてますから!というかそれ職権乱用と言うのでは!?いくら何でも大袈裟だし勿体ないですって!」
『僕は経営者なんだ。このくらいしてもきっと許されるさ。それに、個人的に君には大恩を感じているからむしろこれでも少ないと思っている』
何を言いだしてんだこのエリート。さりげなく言ってるけどこれってとてつもない事だぞ。世界にも誇れる技術と腕を持っている人に何回も無償で治療してもらえるって、VIP待遇にもほどがあるだろ!
『それに、君は必ずそう言ってくると思っていたからこその提案でもある。下手に現金や物をプレゼントするより、こっちの方が実用的でもある。君がいつ大怪我や病気にかかるかなんて分からないんだから。だからある日突然そういう事が起きたら……という時の保険として受け入れてほしい』
「……、」
ずるい、と思った。
確かに大金や残る物としての物品を渡されるよりかは、いつ起きるかも分からない、だからこそいざという時の保険として最高の医者が看てくれる。そういう“いつか”を想定しての提案なら納得せざるを得ない。
この先そんな事が起きるかもしれないし起きないかもしれない。不確定要素を含んでいるからいつお世話になるかも分からない。そういう事がないに越した事はないが、あったらあったで頼りにしたい気持ちは大きい。
だから、ずるい。最後の切り札と思わせてくれるところが。
こんな事を言われたら、嫌でも受け入れてしまいたくなるじゃないか。
「……分かりました」
『契約成立、と言ったところかな。ありがとう、この提案を吞んでくれて。君に何かあったら僕が何が何でも治してみせよう。これは絶対だ』
世界最高治療医からのお墨付きを貰ってしまった。いいのだろうか、こんなどこにでもいる平凡な高校生がある意味チート的な回復手段を受け入れてしまって……。本音を言ってしまえば願ったり叶ったりだが、他の患者さんに悪いかなとも思ってしまう。
『僕の病院にいる患者様の事を気にしているならその必要はないよ。まず僕自身が治療する事の方が珍しいくらいだからね』
「もっと気にするわ!申し訳なさでいっぱいになんだろうが!」
最高の爆弾落としてくれやがって、1番気にしてしまうとこでしょそんなの。分かって言ってるんじゃないだろうかこの人。
『ようやくいつもの調子に戻ったね』
「……やっぱり分かってて言ってたですか」
『まあね、あの時は思い切りタメ口だったから今の方が気を遣っているのかと思っていたよ』
「そりゃ、まあ……あの時は俺も頭に血が昇ってたというか何と言うか……今では反省もしてますし、こういう時はちゃんと話しますよ」
『そんな畏まらなくていいんだけどね。やはり君は面白い人間だ』
褒めてんのかそれ。心の中で笑ってんじゃないだろうな。今思えばこの人こういう時何考えてるか全然分からん。エリートの思考がまったく読めない。エリートのベジータに勝った悟空はまさに努力の天才だったか……。
『さて、これで僕の話しておきたい事は済んだ。あとは本題だね』
「本題?」
『忘れているのかい?今日は合宿なんだろう?』
「ああ、そういう事ですか。分かってますよ、別荘、貸していただいてありがとうございます」
『君やμ'sの子達が関わっているなら僕は協力を惜しまないよ。ただこれが言いたくてね』
何気にとんでもないサポーターが付いてしまったのではと思いながらも、俺は西木野さんの言葉の続きを待つ。
ただ、何を言おうとしているのかは、何となくで分かっていたのかもしれない。
『みんなの事はもちろんだし、今更言うのは周回遅れかもしれないけれど……真姫の事を頼んだよ』
「……分かりました」
安心したような息が零れたと同時に電話が切れる。
周回遅れなんかではない。たとえそうだとしても、娘を思う気持ちに変わりはないんだから。こりゃ俺も合宿のあいだ頑張らなくちゃいけないな。
「あ、たくちゃんお帰りー。誰と話してたの?」
「ちょいと野暮用でな。気持ちはしっかりと受け止めたよ」
「?」
おそらく頭の上に?を浮かべている穂乃果の隣へ座る。
目的の駅に着くのはまだまだ先のようだ。気持ちを切り替えていこう。
「楽しみだね~。どんな別荘なんだろうね?海もそうだけど山も中々行く機会なんてないから楽しみだよ~」
「遊びに行くんじゃねえからな?海も山も同じくらいリスクはあるんだから気を付けないとダメだぞ」
「分かってるよー!1ヵ月のあいだに新しい曲を作ってみんなで頑張らないとだもん!ラブライブに出るためにもね!」
「ラブライブ、ね……」
そこでふと、ある事を思い出した。
先日。
ラブライブで優勝を目標にしたあと、俺は1人で秋葉原にある店へと足を運んだ。そこである女の子と偶然会ったのだが、その女の子が予想外の人物だった。
綺羅ツバサ。
A-RISEのメンバーであり、そのリーダーでもある少女と、俺は接触してしまった。それが幸か不幸かは分からないけど、綺羅は最後に言っていた。
『お互い、頑張りましょ。また近いうちにね♪』
お互い、か。
まるで穂乃果達μ'sを意識しているかのような言葉に聞こえた。実際、意識してくれてはいるんだと思う。じゃないと普通数秒しか出ていない俺の事なんて覚えているはずがない。
とすれば、嫌でも意識してしまう。必ずA-RISEとぶつかるという事実に。俺自体は今のμ'sに不満はなく、何なら本当にA-RISEとも良い勝負ができると思っていた。
だから。
なのに。
綺羅のあの不敵で余裕な笑みを見てしまって、その気持ちが変わりつつある事に焦りが出ている、のかもしれない。
まだまだ負ける心配はないと確信しているような表情だった。自信に満ち溢れているのが俺から見ても明らかだったし、他のメンバーもそう思っているんだろう。
隣を見てみる。
そこにはパンを頬張りながらハムスターみたいに頬が膨らんでいる穂乃果がいる。
「?」
「……ちゃんとよく噛んで食べろよ」
できるだけ優しい声音で言うと、膨らんだ頬をもにゅもにゅさせながら頷いてこちらに微笑んでくる穂乃果。……こいつはこいつで自信があるんだろうけど、問題は他のメンバーだ。
穂乃果がいくら自信満々に言っても、海未達は違う。ましてやスクールアイドルに詳しいにこや花陽はA-RISEの凄さを熟知している。だからA-RISEに勝てるかどうかなんて質問をしても確信をもって返してくる事は絶対にないだろう。
あちらは全員が自信満々でも、こちらが決してそうとは言い難い。そこに勝敗が分けられるなら、この合宿のうちにできるだけ何とかしないとな……。
っと、とりあえず今考えるべき事は新曲を完成させる事か。
急ピッチで曲、歌詞、衣装案を作らないといけない。真姫と海未とことりには負担をかけてしまうのは何だし、俺もできるだけ手伝える事はやっていこうと思う。真姫はピアノ使うし、海未も歌詞を書くために腕を使う、ことりも衣装作りしないといけないし……今からマッサージの勉強でも始めるか?下手すると通報されそうだな。
その時、俺の右肩にいきなりストッと重量を感じた。
「……つい今さっきまでパン食ってたんじゃねえのかよ……」
見ると、穂乃果が俺の肩に頭を置きながらスースーと息を立てて寝ていた。パン食べ終わってすぐ寝れるとかこいつすげえな。のび太君かよ。それにしても心地良さそうに寝ている。これじゃ俺も身動きできないんだが……。
「着くまでまだ時間は結構あるし、寝かせてあげてても良いんじゃない?」
「せめて窓の方に頭を持っていってほしかったんだけどな……」
様子を見に来た真姫がヒョコッと顔を覗かせに来た。まだ時間かかるのか。どこまで行くつもりなんだろうか。風景がまじの田舎になってきたぞ。ここって田舎なのん?って聞いてもはいそうですよって即答されるくらいの風景なんですがそれは。
自分のいた席へ戻って行く真姫を視線だけで見送ってから穂乃果の顔を見る。……まあ、俺の肩なんかでこれだけ気持ち良さそうに寝てるのは、その、何……悪い気分ではないな、うん。
寝てたら電車に揺られて知らないあいだに俺の方へ寄ってきたって事だろうか。だとしたら起きた時の反応で面白がってやろうか。別荘に着いたらそれなりに練習するだろうし、お気楽気分でいられるのは今だけってか。
「……ふ、ぅあ~。……まだ時間あるなら、俺もひと眠りするか」
穂乃果の寝顔を見ていたら俺まで眠気を誘われたらしい。どうせ穂乃果は着くまで起きないだろうし、着くちょっと前に起きればいいだろう。そこで穂乃果の反応を見て気持ちよく目覚めてやろう。
昨日買ったマンガを深夜まで見てたから寝不足気味だったし丁度良い。電車の揺れが良い感じに眠気を刺激してくる。
意識が心地よく遠のいていく。
俺は眠気のままに瞳を閉じて、視界も、意識さえも自ら闇へと沈んでいった。
ガタンッと、音がした。
おそらく走っている電車の音だろう。そろそろ着くかと思ってうつらうつらとしながらもゆっくりと目を開いていく。
「くぁ~……、んぁ?」
そこにいたのは。
「仲良さそうに寝とるカップルだね~」
見知らぬおばあさんだった。
ふと、出発前に真姫が言っていた事を思い出した。2両編成の電車で、確認したがどちらにも客はいなかった。
という事はだ。
目の前にいるおばあさんは何なのか。決して幽霊ではないだろう。であれば、本物の人間であるならば、1つの真実が脳内によぎる。前の駅から乗ってきた人だろう。つまり、本来ならそこで全員が下りるはずだった駅。
まだ隣で寝ている穂乃果をゆっくりどかせてから急いで周囲を見る。
……誰も、いない。
「な、な、な……」
起きるはずだったのに、起きれなかった。
降りるべき駅で、降りれなかった。俺と穂乃果は2人して仲良く寝過ごしていたというわけだ。
「何ですとォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!?」
ほとんど誰もいない電車内で、俺の絶叫だけが悲しく響き渡った。
さて、いかがでしたでしょうか?
まだ別荘に着かないというね←
今回は以前あった西木野父との会話伏線、そして前回のツバサとの会話を掘り起こす、という回です。
最終的には寝落ちしてましたね。
次回から山に入ります。
いつもご感想高評価ありがとうございます!!
では、新たに高評価を入れて下さった
gamdanhiさん
大変ありがとうございました!!
これからもご感想高評価お待ちしております!!
今年中には合計100話超えれるかも?