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平三の出奔――という名のプチ家出騒動は、結果として越後の結束を高めることになった。特に譜代家臣らの働きは凄まじく、あらかた内紛を片付けていた。それも武力を使わず、話し合いで決着をつけていたのが俺的に好ポイント。
もっとも、のんびりそれを喜んでいる暇はなかった。甲斐の武田が約定を破り、再び信濃へ攻め入ったのである。これに対応すべく、平三もまた兵を率いて出陣した。
三度目の川中島であった。
川中島周辺――というより北信濃そのものが、武田と長尾、両者の勢力圏がぶつかる境目に位置している。ゆえに、ここでは幾度となく戦が起こる訳だが、武田晴信はとにかく決戦を避けた。
兵の数だけを見れば、武田勢はおよそ二万。対する長尾勢は一万ほど。倍する兵力を擁していながら、晴信は野戦で雌雄を決することを選ばなかった。
それは単に、平三の武勇を恐れたからではない。確かに、平三率いる越後勢には兵力差を覆しかねない凄みがある。平三が先頭に立てば、数の不利など意味を失う瞬間があるのも事実だ。
だが、戦とは何も決戦だけを指すものではない。武田の目的は、平三を討ち取ることではない。北信濃を手中に収めることだ。ならば、平三が現れる前に城を落とし、地侍を従え、支配を既成事実にしてしまえばよい。
実際、晴信はその戦略を着実に進めていた。長尾方の初動は、どうしても遅れる。越後は雪深い国だ。冬から春先にかけては、兵を動かすにも限りがある。武田はそこを狙って信濃へ侵攻してくる。
いかに戦場で無双する平三であろうと、自然を排することはできない。山を越え、雪を踏み、兵を整えて駆けつけた頃には、武田はすでに北信濃へ深く食い込んでいる。
つまり、武田晴信という男は臆していたわけではない。決戦を避けながらも、戦略では確実に優位を取っていたのだ。
その上、甲斐の武田家は駿河の今川家、相模の北条家による三国同盟を締結している。これにより晴信は後背の憂をなくして、信濃侵略に集中することが出来るわけだ。
厄介な相手だった。実に、厄介な相手である。
「うーん。これはまずいなあ」
晴信の狙いは、時間をかけて信濃へ浸透していくことだ。越後の雪に足を取られ、どうしても後手に回らざるを得ない長尾家に対して、それはこの上なく有効な策だった。
ならば、こちらも手を打たねばならない。
相手の立場になって考えれば、武田が次に欲しがるものは見えてくる。信濃を切り取るための大義名分。たとえば、信濃守護職である。もともと晴信は甲斐守護だが、別に複数国の守護職を兼ねてはならない決まりなどない。西の方では尼子氏や大内氏など、前例もある。
ならば武田は、必ず信濃守護の地位を狙う。そうなれば厄介だ。
仮に晴信が信濃守護となれば、いかに朝廷から隣国への治罰を認められている長尾家であっても、信濃へ兵を出す名目は弱くなる。何なら信濃衆の旧領回復を名目に長尾家が動けば、こちらが奸賊として扱われかねない。そうなればこちらは兵を動かしずらくなるし、士気も下がる。
だが、手立てがないわけではない。武田晴信が権威を使った勝負を仕掛けるつもりなら、こちらにも考えがある。というか、そういうのはこちらのお家芸だ。
北信濃で戦線が膠着すること、半年。
京にて三好長慶と和睦した将軍・足利義輝は、長尾景虎と武田晴信の双方へ使者を下し、争いを鎮めるよう御内書を送ってきた。それは京が小康を得た証左である。
勢力回復を図る将軍家としても、将軍家に権威を尊重し多額の献金をするだけでなく、大変武勇に秀でた平三の上洛を望んでいたのだろう。
案の定、晴信は和睦の条件として、将軍に信濃守護職を要求した。
そこまでは読んでいた。ゆえに、こちらも裏で動いておいた。俺は平三を、長尾景虎を関東管領職に就かせるよう、内々に願い出たのである。
というのも、景虎が北信濃に出兵している間に、関東管領・上杉憲政が再び春日山城へ逃れてきていた。根拠地である平井城を北条氏康に落とされたのだ。
この人も大概、不屈の人である。数年前、平三が関東で暴れ回ったおかげで、上杉憲政の勢力は多少なりとも盛り返した。
だが、北条氏康の勢力は凄まじいものがあった。あっという間に憲政は敗れ、何とか越後まで逃れてきた。そして、流石に自分の力だけでは北条に抗しきれぬと悟ったらしい。ならば、話は早い。
「いやはや、口惜しいことですなあ。もし平三が関東で槍を振るう大義でもあれば、関東平定も一歩近づくやもしれませぬのに。いやはや、惜しい。まことに惜しい。何しろうちの平三めは、ただの越後守護代に過ぎませぬゆえ」
などと俺が
信濃は関東ではないって? いやいや、広義的に言えば信濃も関東だ。だって信濃は京より東だもん。ならそれは関東だろう。いいね?
話を戻そう。そうした経緯もあり、武田との和睦に際して、現関東管領である上杉憲政は平三へ職を譲ると将軍に申し出た。
そして足利将軍も、快くそれを認めた。ついでに「ならば早く上洛してほしい」との返書まで届いたので、近いうちに平三を京へ送らねばならないだろう。
で、ここで難色を示したのが、我が妹こと平三である。
「えー。私、
北信濃から帰陣して早々、平三は露骨に口を尖らせた。そう。関東管領になるには、平三が上杉家の者とならなければならない。つまり、上杉憲政の養子になる必要があるのだ。
「まあ、そう言わずに。越後のためだと思ってくれ。あと、上杉殿の養子になれば晴信と戦えるぞ」
「……もう兄上のことを父上と呼べなくなるじゃないですか」
「一度も呼んだことないだろ」
「――まあ、それもそうですね」
納得が早くて助かる。
「で、他に何をすればいいんですか。やっぱり上洛した方がいいんですかね」
「そうしてくれると助かる。将軍がお前に会いたいそうだ。ついでに正式な関東管領就任と、信濃干渉に関する御内書ももらってこい」
「うーん。そういう面倒なのは、兄上がやってくれません?」
「元よりそのつもりだ。細々とした調整はこちらで済ませておく。お前は上洛して、将軍の言葉にそれらしく頷くだけでいい」
「楽でいいですね」
「おう。お前は見てくれだけはいいからな。黙って座っていれば、それだけでだいたい様になる」
「これはひどい」
そう言いながら、平三はどこか楽しげに笑った。ひどいも何も、事実である。
平三の強みは武だけではない。白い髪に、澄んだ瞳。人離れした佇まいと、妙に浮世離れした物言い。あれは京の公家や僧侶どもには、かえって受けが良い。
下手に余計なことを喋らせず、神妙な顔で頷かせておけば、勝手に「思慮深く義に厚き武将」だのと解釈してくれるだろう。
世の中、見栄えというものは存外馬鹿にできない。特に京では、なおさらである。
「そういうわけで、俺は一足先に京へ向かおうと思う」
「それは何故?」
「言っただろう。調整は俺がやると」
「……うーん。今すぐですか?」
「いや、来年の春だな」
「それ、今行くのでは駄目なんですかね」
「妙なことを言うな」
俺は指を折りながら、やるべきことを数えていく。
「平三が関東管領になる旨を関東の諸将に伝えねばならん。俺とお前が上洛することも、あらかじめ将軍へ知らせておく必要があるし、路銀の工面と随伴する兵の選別もしなければ。あと、お前が越後を留守にする間の防備も固めないとな。まず間違いなく武田はお前がいない間に信濃、ともすれば越後まで攻めてくる」
「ふむふむ」
「ああ、それと、上杉殿の御内所も決めておかねばならん」
「居所ですか」
「ああ。上杉殿をいつまでも春日山に置いておくわけにもいかん。面目もあるし、扱いを間違えれば余計な火種になる」
「……なるほど。なんだか申し訳なくなるくらいやること多いですね」
「気にするな。だがやはり今すぐとはいかないな。早くて来春になるだろう」
「そう、ですか」
平三は短く答え、視線を落とした。
「何か問題があるのか?」
「いえ、なんでもありませぬ」
なんでもないような顔はしていないが、かといって平三の発言は要領を得ない。問い詰めたところで素直に吐くとも思えないし、さてどうしたものか。
「平三」
「はい、何でしょう」
「風呂に入る前に稽古でもするか?」
「……よろしいんですか?」
「当然」
そう答えると、平三の表情がわずかに明るくなった。まったく、分かりやすい。こういうところだけは昔から変わらない。
「ただし、手加減してくれよ」
「兄上相手に加減など無用でしょう」
「そういうところだぞ」
俺が呆れると、平三はようやく小さく笑った。
★
そういうわけで、先んじて俺が上洛した。
といっても、やることは本当に前準備である。政務を取り仕切ると啖呵を切った以上、平三にはできる限り戦に専念させてやりたい。というのは建前で、本音を言えば平三のぼろが出る前にあらゆる手間を省いておきたかった。
朝廷や公家への挨拶回りを済ませ、蹴鞠だの和歌だのにも付き合い、あれこれと顔を売る。ついでに将軍・足利義輝にも挨拶しようと思ったら、なぜか試合をする羽目になった。
そして、この将軍がめちゃくちゃ強かった。立ち合った瞬間に分かった。太刀筋が速いだの、力があるだの、そういう単純な話ではない。
間合いの取り方、踏み込みの鋭さ、こちらの癖を読む目。どれも一級品だった。
こちらも一応、戦国の世を生きる武家の男として、それなりに鍛えてきたつもりではある。だが、義輝公の剣は明らかに別物だった。正直、途中から挨拶に来たのか稽古をつけられに来たのか分からなくなった。京ってそういう場所だったか?
まあ、大変ではあったが、話そのものは順調に進んだ。これで平三が上洛した暁には、神妙な顔で頷いているだけでも、だいたい良い感じに事が運ぶだろう。
いやあ、頑張った。実によく頑張った。
さて、そろそろ現実に戻ろう。
「これはいかなる仕儀でございますか」
「気にするな。で、おまえの名は何という」
「名も知らずに某を誘拐なさったか」
「うむ」
そう答えると、女は深紅の瞳をすっと細めた。その仕草だけで、並の男なら背筋を伸ばすだろう。
絶世の美女だった。長く艶やかな黒髪に、燃えるような深紅の瞳。
平三が雪のように静謐で、どこか人の世から外れた神秘を宿す美しさであるならば、彼女は炎のごとき力強さを帯びた美しさだった。
近づけば焼かれる。そう思わせるほどに、鮮烈な女である。だがどうしてか、つまらなそうな顔をしている。それに男装である。それも随分と立派な召し物だ。まぁ聞けばわかるか。
「手前、長尾弾正左衛門尉晴景と申します」
「織田弾正忠信長だ」
「――っ!?」
絶句する。え、あの信長? なんで京にいる。というか女? そんな馬鹿な、と思いつつほぼ間違いなく上杉謙信である平三を思い返して平静に戻る。なるほど、別に珍しい話ではなかった。
「驚いたか? 女のわしが武家の当主であることに」
「あ、いえ。そこは別に」
「――うはは。そうかそうか。では何に面食らった」
「では僭越ながら、よくもまぁこんな時期に上洛してるなと」
俺の一言に、信長を名乗った女は口の端を吊り上げた。まるで、続きを促しているようだった。なんかすごい無礼な奴だな。まぁお互い様だから別にいいけど。
「尾張の織田といえば、今は内部分裂の最中でしょう。たしか、弟君と相争っておられるとか。その上、美濃では斎藤道三公が嫡男と争って敗死。駿河・遠江の今川も三河をまとめ、三国にまたがる大名となったと聞いております」
信長は黙って聞いている。否定はない。
「北には斎藤。南には今川。四方を強国に囲まれ、なおかつお家騒動の最中にある織田弾正忠殿が、なぜ京におわすのか。そこに驚いたのです」
尾張の織田に関しては、草の者を用いて動向を追わせている。将来、天下を取る男――いや、女か。ともかく、織田信長の名を知っていながら放置するほど、俺は呑気ではない。
「よう知っておるのう。尾張と越後では、随分と離れていように」
「隠居の身とはいえ、他国の情勢を追わぬは愚の極みでしょう。それに、暇を持て余していては人は枯れるとも申します」
「で、あるか」
信長は愉快そうに笑った。だが、その瞳は少しも笑っていない。
「だが、少し情報が古いな」
「……古い?」
「西条吉良家の吉良義安を唆して兵を挙げさせた。今川がそちらへ目を向けている隙に、歯向かう身内は一通り殺してやったわ」
信長は、何でもないことのように言った。
「無論、弟の信勝もな」
その言葉に、場の空気がわずかに冷えた。なるほど。随分と苛烈な人柄であるらしい。だが、それはそれとして――
「心中、お察し申し上げます」
「ああ、そういうのはいいから。それより――」
「いいえ。誰かが言わねばならぬことです」
「あ?」
殺気が膨らむ。だが、構わず言葉を続けた。
「血のつながった弟を殺めるなど、まともでいられるわけがない。国を守るため、家を守るため、やりたくもないことをやらねばならぬ。それが戦国の世であることは承知しております。身内殺しも、その一つなのでしょう」
俺は目を閉じる。どうしてかな。俺はこの信長を名乗る女が、我が愛しの妹と重なる部分を感じた。
だから言わなくてもいいことを口にしてしまう。
「されど、それが尋常ならざる仕儀であることもまた事実。ならば誰か一人くらい、労わる者がいてもよろしいかと」
信長は、呆れたように目を細めた。
「……すまんの。わしには、お前の言うておる意味がよう分からん。正直に言えば、余計なお世話というやつじゃ」
「はい。ですので、口先だけでも問題なかろうかと」
「おう、こやつ無礼じゃな」
信長が笑った。先ほどまでの殺気も、いつの間にか薄れていた。でも無礼云々の話をするのなら、いきなり誘拐してきたそちらの方だと思うの俺。
「さて、話を戻しましょうか」
俺は何事もなかったように居住まいを正した。
「となれば、織田弾正忠殿は尾張守護の地位をお求めになって上洛されたのでしょうか」
「ま、無理じゃろうがの」
「でしょうな。聞くところによれば、尾張守護であらせられる斯波義銀殿を追放なされたとか」
「わしを殺そうと画策しておったからのう。是非もないよね!」
「ああ、それは仕方ない。むしろ、よく追放だけで済ませましたね」
「別にわしは殺してもよかったんだけどね」
実に物騒なことを、晴れやかな顔で言う女である。
織田弾正忠家の出である信長は、尾張守護はおろか守護代ですらない。それでいて、従うべき守護代を退け、ついには守護まで追放したのだ。信長の立場は、控えめに言っても相当に危うい。
仮に将軍への目通りが叶ったとしても、その場で尾張守護職を賜るなど、まず望めまい。
「ま、将軍には義元を討つ大義名分さえもらえればよいわ」
「……今川義元に勝てる算段がおありで?」
海道一の弓取り。駿河、遠江、三河に勢力を張る今川義元は、今や東海随一の大名である。一国すら統一しきれてない今の信長では、あまりにも途方もない相手だ。戦力差も十倍以上あるんじゃなかろうか。
「うーん。今回ばかりは厳しいかもしれんのぅ。太原雪斎が死んでるのが唯一の救いか」
「左様ですな。まあ、頑張りなされ」
「なんじゃ。他人事のように言いおって」
「他人事ですから」
俺は即答した。
「そもそも、いきなり人を攫っておいて、気の利いた励ましの言葉まで返してもらえると思う方が図太いんじゃない?」
「うーわ。それを言われると弱いな。ごめんね?」
「いいよ。それで、結局なんで俺を誘拐したん? 言うてみ」
信長はしばし黙り込み、わずかに首を傾げた。自分がかわいいことを理解している仕草に、なんだか腹が立つ。
「なんか、ぴんと来たからじゃ! ……それじゃあ駄目かの?」
「駄目に決まっているだろ」
「てへ」
「……あざとすぎんだろ」
なんだこの信長、俺の想像してた人物像とあまりにもかけ離れているんだが。百歩譲って女なのはいいとして、妙に軽快すぎるというか。ぐだぐだというか。
「さて、某はそろそろお暇を頂きたく存じます。ただ、その前に一つ」
「うん? なんじゃ?」
「生きて、またお会いいたしましょう。その時は鉄砲の話でもいたしませぬか」
「ほう鉄砲とな」
「まだ再現性には乏しいのですが、玉薬の製法を考案いたしましたゆえ」
「え、マジ?」
信長が身を乗り出した。
「嘘だったら根切りぞ? お?」
「マジマジ。嘘じゃないって」
深紅の瞳が、こちらの腹の底まで見透かそうとするかのように鋭く細められる。しかし、その口元には不敵な笑みが浮かんでいた。
疑ってはいる。だが、それ以上に興味を抑えきれないのだろう。先ほどまでの軽薄な振る舞いが嘘のように、獲物を見定める眼差しを俺へ向けている。
「わしが鉄砲好きだと、なぜ知っておるのか。それも、その時に聞くとしようかの」
「――ええ。
俺が頷くと、信長の笑みがさらに深くなった。炎に薪を放り込んでしまった。そんな気がした。
・長尾晴景
妹を全力で支える決意を固めてから遅まきの覚醒。政はもちろんのこと、化学遊びも本格的に実用圏内に入りつつある。転生前は理系だったことが功を奏した。
結局、技術的にも材料的にもオストワルト法で硝酸を作ることができなかった。そこで試行錯誤的に堆肥法による硝酸カリウムの製法を確立。黒色火薬の製造にこぎつけることが出来た。
信長とはなんか相性が良かった。そして信長からは妹と同じ雰囲気を感じた。だから余計なことを口にしてしまう。
また本話時点で五十歳前後だが、なんか十年前よりも若々しくなってる。五十歳で全盛期の景虎と稽古が成り立つ時点ですごい。生きる活力が爆発してる感じ。だから活力源である景虎が死んだら多分晴景も死ぬ。
・長尾景虎
政務全般を晴景と家臣に任せているため、戦に集中できている。精神的な面でいえば原作よりも不安定だが、その代わりに絶好調な時は原作よりも強い。
ただ兄に負担をかけていることに、ちょっと罪悪感を覚え始めている。なので実は最近、宇佐美に政の手ほどきを受けてたりする。
本話時点で三十歳前後。いい加減世継ぎのことを考えなければならないが、女の身でどうすればいいか悩んでる。いっそ兄と世継ぎを設けてしまおうか、なんて考えてたり。
・織田信長
最近弟を殺した。ついでに目障りな親族と家臣も殺した。生まれてこのかた、人生を楽しいと思ったことがない。
そんなお家騒動の最中に、駿河・遠江・三河の3カ国を支配し、「海道一の弓取り」と称された最強クラスの戦国大名を相手しなければならない苦労人。正直死ぬかなぁと思ってる。
京であくせく働いている晴景を見て、なんとなく誘拐を命じた。波長が合ったのか、それとも同じ異端の徒であることを直感的に理解したのか。ただ一つ言えることは、晴景の言葉は
本話時点で二十六歳程度。
・今川義元
東海道の最強。おそらくこの時期に限定すれば、最も天下に近かった男。太原雪斎という戦国最強クラスの軍師・政治家が病死してから途端に運に見放される。因みに太原雪斎は徳川家康の師匠でもある。
桶狭間で負けたせいでなんか過小評価されてるが、実際は分国法制定をはじめとした領国経営に非常に優れ、駿河・遠江・三河を押さえた大勢力を有していた。しかも東海道の交通・物流・軍事ルートを押さえていたため、今川家は西の尾張、東の相模・甲斐、北の信濃方面と関わることができた。その上で、甲相駿三国同盟によって、今川は武田・北条の脅威を薄め、尾張方面へ進む余地を作った。もう立ち回りが完璧である。
またよくサブカルで馬鹿にされがちな「公家かぶれ」という性質も、本作で描写している通り、京との関係は非常に重要である、したがって和歌や礼法、公家文化、寺社との関係は、当時においては威厳を演出するための大変高度な政治的技術なのである。現代風に言えば、スポーツもできて、頭も良く、人脈も広く、金も大量に稼いでいる芸能人が、政治家になって真っ当な政治をしている感じ。なぜ負けた。
・足利義輝
逆境の剣豪。第13代将軍。滅びかけた幕府の中で、なお将軍であろうとした男。ただの飾りでいれば生き延びられたかもしれないが、飾りでいることを拒んだから殺された真の武士。
就任時点で室町幕府はすでに安定した中央政権ではなく、三好長慶が畿内で台頭し、義輝自身も京都を追われるなど、「将軍なのに京を押さえられない」というかなり苦しい立場に置かれていた。
自前の強大な軍事基盤がないのが弱点。畿内の実力者である三好長慶・三好三人衆・松永久秀らの力に左右されざるを得ない。つまり権威はあるが、権威を守る武力が足りなかった。
ただし義輝本人には武家の棟梁としての気概があった。永禄の変で刀を何本も畳に突き立てて奮戦したという話はあまりにも有名。本人は多分相当強かったし、カッコいい人柄だったのだと思う。