「うーん、どっちが良いかな……」
ボクは頭を抱えていた。
「どうしたのだ?」
八千代がボクの顔を覗き込みつつ聞いてきた。
「男と女、どちらを先に告白させようかと思って」
どちらが良いか。
この場合は主人公が勇気を見せなきゃ、かな。
でも主人公はヒロインに勇気ある姿を見せ付けたよね?
だったら、ヒロインのほうから先にお礼と言うか告白があるんじゃないかな……。
「神代の時代、イザナミはイザナギより先に告白して不幸を賜った。
ここは故事に倣い、男から告白すべきだと思う。
女はいつだって男性にリードされたいものだ。
ああ、自分もいつかそれを受け入れるときが来るのだろうか……来て欲しい、今すぐにでも。
こんなにも想っているというのに、未だ気持ちが伝わらないのは何故であろうか……全ては自分自身の不徳ゆえであろうな───カナタ、自分は男性に先に告白して欲しい───そう願っている」
「そ、そうかな」
ダメだろ、八千代。
ここは論理的に計算して順番決めないと。
それにしても、さっきの八千代のボクを見詰める視線は何だったのだろう。随分と熱がこもっていたような……。
「フン、男尊女卑も甚だしい!
今の時代、どう見ても男性より女性が優遇されている。
世の女が増長していないはずがない。
弱く優柔不断な男など置いておいて女が先に告白して良いではないか。
いや、むしろそうあるべきだ」
琉璃夏、お前まさかクソフェミ……おっと、これ以上言うと誰か怖い人が部室にやってきそうだ。
止めておかないと。
「あはは。二人とも意見ありがとう」
「いや、自分の意見がカナタの役に立てたと言うのなら、それは嬉しい。
カナタが実践するかしないかは二の次でよい。
自分はカナタの役に立てた。
そのことが嬉しいのだ。
そしてカナタはいつも正直に気持ちを伝えてくれる。
これがまた嬉しい。
自分はそんなそなたが好きだ」
───え?!
「!?」
ボクは八千代を見た。
いま、どストレートな告白を聞いたような気がする。
胸がバクバク鳴っていた。
でも、その台詞って、八千代が好みだという主張と正反対の行為だったような?
「や、八千代、貴様カナタのこと───」
「ん? カナタがどうしたのだ?」
八千代は自分が言ったことに気づいていなかった。
無意識に「好き」と言う言葉が出るほど、八千代の中では自然なことになっているのかもしれない。
嬉しいけれど、どうして八千代はボクのことが好きだなんて言うのかな?
この前からの疑問だよ。
「なに、たいした事はない。気にしなくて良い。大丈夫だ」
「そうか。良かった」
八千代は笑みをこぼす。
そうだな、他にも意見を聞いておきたい。
せっかくだから聞いておくか。
「ねぇ、二人とも。他にもいくつか意見を聞かせてもらいたい事があるんだけれど、聞いてもいいかな?」
オレがそういうと二人は顔を見合わせて計ったように同時に頷いてくれた。
「もちろんだ。カナタ。自分もそなたの役に立ちたい」
八千代が優しい目をボクに向けてくる。なんだか安心できる暖かい視線だった。
「八千代、ありがとう……」
自然と声に出していた。って!?
急に寒気がした。琉璃夏が八千代をあからさまに睨んだような。
なんだか背筋が───。
まあいい、続けよう、そうしよう。
「告白の場所はどこが良いと思う?」
ボクの問いに琉璃夏が先に答えた。
「そうだな、風薫る美しい岬の先端なんてどうだ? 視界一杯に大海原が見えて、水平線辺りに船が見える───どうだろうか」
「いいね、それ」
「だろう?」
琉璃夏は満足そうだ。
「自分はトバリがユリを介抱した海岸が良いと思う。
それも静かな夜間などどうだろうか。
満天の星が、それこそ綺羅星のように輝いているんだ。
どうだ? 相応しくないか?
ああ……そこで二人は……静かに潮騒の音だけが聞こえる中で、お互いの想い人に満願の思いの丈をぶつけて……永遠の誓いを……。
ああ、素晴らしい。麗しき恋の結晶が実りの時を迎えるのだ。
それはそれは美しい時間なのであろうな……羨ましい。
自分もいつか、そのような時に廻り合いたい……いや、必ず来る、カナタとは千代の絆で結ばれているのだから……」
八千代? おーい、八千代? 帰って来ーい。
「なんだ。八千代はこういうキャラだったのだな」
琉璃夏が半眼で夢の中に突入した八千代を見ていた。
おい、琉璃夏。
ムードも何もぶち壊しだぞ。
でも、今頃八千代の態度に納得いったのか?
◇ ◇ ◇
「でさ、告白の言葉なんだけど……」
ここが肝ではあるよな───。
琉璃夏(るりか)が言った。
「ああ、そのことだが使用されていない台詞の音声が多数アーカイプに入っていた。
そして、音声合成エンジンとこの声優の音源ライブラリもある。
だから、未使用の台詞の音声をベースにして欲しい。
細かい抑揚は私か八千代(やちよ)の声をキャプチャーして合成しようか。
軽く十年は昔の作品だ。声優さんに頼むわけにも行くまい?
それに、そんな時間もない」
「わかった。後で教えてくれる?」
「ああ」
そうか、そういうことなら後で別個に創らないとね。
◇ ◇ ◇
「ええとね、二人がお互いに告白しあった後の愛情表現なんだけど……どこまで表現しようかと思って」
八千代が実に素直な意見を述べてくれた。
「手を繋ぐ……」
は?
「八千代、幼稚園児じゃないんだ」
琉璃夏がすかさず突っ込んだ。薄ら笑いを浮かべている。
「そ、そうだな。ええと、ええと、腕を組む……のか?」
ダメダメだ。
琉璃夏の目が妖しく光る。
「八千代、おママゴトしているんじゃないんだ」
琉璃夏が呆れている。
「では、も、もしかして接吻を……」
ダメだろう。ユーザーは納得するまい。
「話にならんな」
ついに琉璃夏が切り捨てた。
「え? ……え!? で、では抱擁を……抱擁を交わしたりもする、のか?」
八千代はかなり動揺している。
顔なんて既に真っ赤だ。
まぁ、全年齢版ならばその辺りが手の打ち所だろう。
───って、琉璃夏?
「はぁ。八千代。
それではダメだ。ダメダメすぎる。
……愛し合う恋人たちがお互いの気持ちを今まさに伝え合ったのだぞ?
ムードも満点な夜の静かな海岸だ。
きっと優しい潮騒の音だけが響いてるんだ。
こんな場所では熱い口付けと硬い抱擁なんて当たり前だ。
若い愛し合う二人の事だ。
あとはやることなんて決まっているじゃないか。
当然男は砂浜に女を押倒すのだ。
このときの男は女の顔しか視界に入っていない。
一方の女には男の顔と満天の美しい星空が視界一杯に広がっているんだぞ?
この先の展開なんてバカでもわかる。
二人は再び愛の言葉を囁きあうんだ。
そして二人は優しく口付けを交わした後、やがて感極まってお互いの愛を確認すべく激しく相手を求め合い、それはもう……」
ボン!
何か今、音がしなかったか?
───あ。
八千代が目を回して膝を突いていた。
「はわわ、はわわわわわ、母上、母上、どこにおいでですか?
八千代は、八千代は……」
「なんだ、八千代。今どき純情なのだな。意外と可愛いやつだ」
琉璃夏が小さくため息をついていた。
◇ ◇ ◇
お湯を捨ててソースを入れる。
そういえば、この前教室でどこぞの勇者がお湯を入れたままソースを入れていたような。まあ、あの時の悲鳴は凄かった。
割り箸で豪快にかき混ぜてから、一口二口と口にしてみた。
あ。バヤングも悪くない味だな。
「三平ちゃん」や「アダムスキー」と比べても、そう変な味じゃない。
食べてみると結構いける。
───うん。いけるよ。
「琉璃夏、うまい、なんだこの口の中で広がる衝撃は!
このような食べ物がこの世にあろうとは!
自分はここまで無知のままよくもまぁ生をつないできたものだ。
情けなさに涙が出る。
しかしだ。これこそ至高の美味と呼べるであろう!
究極の食べ物に違いない!
聞けば、かの清(しん)国の皇帝であった溥儀(あいしんかくら・ふぎ)も我が日本帝国のインスタント麺を求めたと言う。
かの者の味覚に間違いはなかっと言うことだ。
ああ、自分は今日、この出会いに感謝する!
ありがとう、二人とも。
カナタ、琉璃夏。
そなたたちに出会わねば、この感激と感動はなかった!」
八千代が絶賛している。でも、ヤキソバ一つで凄い言いようだ。
「これこそ我が帝国の国民食に相応しい!
自分はこの商品を断固支持するぞ!
これは素晴らしい!
非のつけようが無い! 完璧だ……」
なんと言うことだ。
八千代が、八千代が壊れてゆく……。
「喜んでくれて嬉しいぞ、八千代」
「ああ、そなたのおかげだ。琉璃夏。おかげで素晴らしいインスピレーションが浮かんだぞ! ラストシーン、一枚絵(スチル絵)は期待してくれ!」
それでも、今日も八千代の笑顔は眩しかった。