~コイハル~ 恋は遙かに綺羅星のごとく   作:燈夜4649

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想いの君

●皇紀弐千六百八拾年 拾月 拾七日 土曜日

お台場 船の科学館

 

「カナタ、そなたは本当に優しいな。

自分の提案を素直に聞き入れてくれるとは! 

本当にありがとう。そなたに感謝を」

 

 街灯の灯りの元、オレたち三人は連れ立って下校していた。

 先ほどから八千代は超ご機嫌らしく笑顔でニコニコ、一方の琉璃夏はそんな八千代の態度の全てが気に入らないらしく、今にも爆発寸前、不機嫌極まりない。

 

「八千代、貴様の目は節穴か。

 カナタは私の命令に従っているだけだ。貴様に賛同したわけではない。それが何故わからない!?」

 

「いや。自分にはわかる。

 自分とカナタは千代の絆(きずな)という前世からの固い絆で結ばれておるのだ!

 自分は確信し、今もその実感を深めている。

 カナタの自分を見る目、自分の言葉を聴く耳、自分に対する言葉の数々。

 この全てがそれを裏づけている!

 

 そうとも! 自分はなんと幸せなのだ!!

 

  ───ああ、カナタ、そなたは自分の思ったとおりの人物であった。

 

  母上が言っていた通りだ! 自分の思い描いていた理想そのものだ。

  今日のこの日を記念として、カナタと自分の恋の物語が紡がれてゆくのだ。

  そしてそれは世界中の恋人たちが憧れる素晴らしき理想となるに違いない。

 

  ―――ああ、伝説の扉よ、今ここに―――」

 

 自信満々───というか、かなりアレなその言葉に流石の琉璃夏も絶句していた。

 えーと、うん。

 もちろんオレも琉璃夏と同じ気持ちだけど。それでも琉璃夏は気を取り戻したようで、早速噛み付いていた。

 

「おい、八千代。

 貴様さきほど部室で話したときよりも、よほど病人っぽいぞ?

 貴様は変な妄想癖でも持っているのではないか?」

 

「妄想? 決してそんなことはない。

 今日一日観察した結果を客観的に分析した上で、推測される未来を冷徹な視点で語っているだけの事だ。

 琉璃夏は特にカナタの彼女でもなんでもないのであろう?

 先程からのそなたの態度こそ、少しおかしいのではないか?」

 

 琉璃夏はまたも絶句した。何か言いたそうな顔をしていたけれど、モゴモゴと口ごもるだけで結局言葉は出さなかった。

 それにしても、あの琉璃夏が口喧嘩で押されているってどういうことだ!? 

 オレが呆然としていると、気づけば八千代がオレの目の前までやってきていて、オレの両手の平を自身のそれで包み、不思議がるオレの視線を真正面から受け止めている。

 

「ほら見ろ、その証拠に琉璃夏の返事は何一つない。

 カナタ、自分とそなたの恋路を邪魔するものは、この世にだれ一人としておらんのだ。

 確かに自分とそなたは今日始めて出合ったのかも知れぬ。

 だが、それは今生での話。

 前世では当に結ばれておるばかりか、今世でも決して引き裂かれえぬ千代の絆で結ばれておるのだ。

 今日のこの日を記念として、これから愛し合う二人で恋を楽しみ、悠久なる親愛の情を育もうぞ!」

 

 八千代の目は真剣で透き通っていた。

 正直、とても綺麗だと思った。八千代がなぜオレをこうまで気に入っているのかはわからない。

 確かに恐ろしく突拍子のないことを言う女の子だけど、言っているその言葉自体に嘘はないと思える。

 オレの贔屓目なのかな?

 

「勝手なことを言うな! この泥棒猫め!

 このカナタは骨の髄まで私のものだ! 髪の一本から爪の先まで私の下僕なんだ!

 八千代と言ったな!? お前などにはカナタは渡さない!!」

 

 ……。

 オレって下僕なんだ?

 琉璃夏、ちょっとだけそれは酷くないのかな?

 

「琉璃夏、妙なことを言うな?

 そなたの事情は理解できた。

 だが、そなたの言うことと自分の希望は対立せぬはずだ。

 共存可能だ。そなたはカナタを下僕としているのであろう?

 自分はカナタを彼氏にする。自分はそなたが下僕としているカナタを彼氏にするのだ。

 基本的に矛盾はしないはずだが。もっとも自分と琉璃夏のカナタに対する要求が対立する事はあるだろう。

 だが、その時はカナタの意志を尊重しさえすればいいのだ。

 実に簡単な事だと思うが?」

 

 待て。

 ちょっと待てってばお二人さん?

 つまるところ、―――実は八千代も結構酷いかもしれない。

 

「カナタの意思など関係ない! カナタはその魂まで私の所有物だ!」

「それはあまりに横暴―――」

 

 うわ。琉璃夏の奴、断言するのかよ?

 

「ねえ二人とも―――」

 

 

 ◇

 

 

「おまえは黙ってろ」

 

「そなたには聞いていない!」

「黙らない! オレは誰のものでもないんだってば! なんだよ、二人揃ってオレをモノみたいに!」

 

 ああ、なにを言ってるんだ? オレ。こんなところで大声なんか出して。

 

「カナタ……」

「カナタ?」

 

 二人は言い争うのをやめていた。二人とも予想外だと言わんばかりの顔をしていた。

 

「でも、今日までオレを見ていてくれたのは琉璃夏だけだった。

 今日始めて八千代がオレを見てくれて嬉しかった。今まで生きてきて、まともに相手をしてくれたのは君たちだけだよ!

 だから、今日はとても嬉しいんだ。

 新しい友達が出来たって、とても嬉しかったんだ! 

 だから、二人とも大切にしたいって思えるんだ。その二人が喧嘩なんてしないで!」

 

 ああ、オレ、なんだか視界が霞んでる。

 あれ? なにか水っぽい液体がほっぺに。雨でも降ってきたのかな?

 

「カナタ―――。喧嘩などしていない。大切な話を本気で相手にぶつけていただけだ。

 だが、そなたにはそう見えなかったのだな。

 すまない。自分にそんな気はなかった。

 そして琉璃夏、そなたも誤解していたのか?

 もしそうなのであれば、本気で済まなかった」

 

 八千代の顔が優しい顔に戻った気がする。

 いいや。今まで見た顔の中で一番優しいよ。

 

「済まない。私も直ぐ頭に血が上ってしまうようだ。

 かなり誤解もあるのだろう。

 よく考えもせず、言葉も選ばなかった。

 カナタ、八千代。許してくれるか?」

 

 琉璃夏も、とても穏やかな顔をしていた。

 そしてそんな言葉を口にしている。琉璃夏が自分の意見を引っ込めるなんて珍しいような?

 

「八千代。

 この判断は全てカナタに預けることを提案したい。

 ここは協定を結ぼう」

「琉璃夏。そなたは話のわかる人物だと確信する。

 わかった。

 その話、自分に流れる血にかけて受け入れよう」

 

 よかった。お互い引いてくれたよ。

 

「ふ。礼は言わない。

 貴様とは末永く良き友でありたいものだ。

 実は私もこの出会いには感謝している。

 久しぶりに楽しめそうだ」

 

 え? 琉璃夏?

 

「ああ。恋路に障害は付き物だ。

 それがそなたであったこと、これぞ天の采配に違いない」

 

 うわわ、八千代……。

 

「八千代、この勝負、私が貰ったな。私の勝ちだ。これは間違いない」

 

「それはこちらの台詞だぞ。琉璃夏。そなたの目は節穴か? 既に結果は見えている」

 

 二人の間に火花って、冗談だろ? ───でも、それもビックリ杞憂だったかも。

 

「くくくくく!」

「あはははは!」

 

 オレはほっとしたよ。大喧嘩になるかと思った。

 でも、二人の意味深だった笑いは、やがて心のそこからの楽しみの笑いになっていた───記念すべきこの日。

 

 夕暮れの時、オレはそう信じた。

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