少女は生きるために殺しを続けた。その先にあるモノは──。   作:燈夜4649

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星に願いを

 大貴族主催のパーティーで、管弦楽が流れる中、私は深紅のドレスを着込み、その初老の男性に近づいた。

 

「アーノルド・メルヴァー様とお見受けします」

 

 メルヴァー氏は白髪も豊かな男性だ。人の良さそうな顔からは、上品な雰囲気が漂ってくる。

 

「なにかね? 君は……まぁ良い。お嬢さん、立ち話もなんだ、まぁ座りなさい」

 

 メルヴァー氏は私に椅子を勧めてきた。

 本人はすでに椅子に腰掛けている。

 

「アーノルド・メルヴァー様ですか?」

「そうだが」

 

 怪訝そうにメルヴァー。

 一瞬、眉を顰めるも、すぐに元の温和な表情に戻る。

 

「良かった。あなたを探していたんです」

「ほう、私をかね?」

 

 私が微笑むと、メルヴァー氏も口元に綻びを見せる。

 

「ええ」

 

 私は腰掛けず、メルヴァー氏に近づく。

 

「君のような美女が、この私になにか用件でも?」

「はい、用というのは他でもない──」

 

 私はメルヴァー氏の首へ向け、ナイフを横なぎに振り抜く。

 メルヴァー氏は微動だにしない。

 

「かはっ……ヒュー……!?」

 

 赤い血がテーブルクロスを彩る。

 私のドレスは、ますます朱に染まった。

 

「それでは、良い夜を」

 

 私はパーティーの人混みに急ぎ紛れ込む。ナイフに付着した血を拝借したナプキンで拭うと、ナイフを太腿のバンドになおした。

 背後から男の崩れ落ちる音がし、絹を裂くような女の悲鳴が相次ぎ聞こえ、そして野太い男の怒号が上がる。

 私はそれらの全てに背を向けて、足早に、かつ静かにその場を離れた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 私は屋根の上に上がっては寝転がり、星を見ていた。

 瞬く星が、私の手の届くところにまで来ている。

 私はその一つを掴もうと、手を伸ばす。

 

 ──拳は、宙を掴んでは無を握った。

 私はなにも掴めなかった握り拳の中に、なにか大切な物が残っていないかどうか、確かめるために、拳を広げる。

 やはり、無い。

 私はため息を一つつくと、もう一度だけ星を掴んで見せた。

 一番明るい星が、私の握り拳の中に消える。

 

「お姉ちゃん、隣良い?」

 

 その声に、私は世界に連れ戻された。

 ありえない声だ。

 

「ディアーナ……」

 

 ここに妹が一人で来るはずはない。

 と、言うことは……。

 

「あたいが連れてきた」

 

 主犯の赤毛が姿を見せては白状する。

 

「スカーレット。あなたはいつもそう」

 

 呆れるしかない。

 

「良いじゃないかリリアーナ。ディアーナも、もういい年頃だ」

「あなたはそう言ってすぐディアーナを甘やかす」

「お姉ちゃん、……私、そっちに行っちゃダメ?」

 

 ディアーナが上目遣いに私を見る。

 ああ、もう。

 私の負けだ。

 

「……良いよ。おいでディアーナ。屋根の上は暗がりでよく見えない上に、滑りやすいから、気をつけて」

 

 三人で川の字に寝転がり、星空を見る。

 星々は瞬いて、いつまでも、きらめいていた。

 

「リリアーナ」

「ん?」

 

 スカーレットの呼ぶ声は、いつもの響きと違っていた。

 だから私も聞き返す。

 

「あのさ、ずっとあたしたち、このままなのかな?」

 

 ──意味がわからない。

 

「戦うのは良いよ? でも、その先は? ううん、いつまで?」

「民に捧げたこの命の、燃え尽きるときまで」

 

 そんな答え、決まっていた。

 

「……そっか」

 

 スカーレットが答えるまでに間があった。

 私はまだ、その意味を知らない。

 

「お姉ちゃん、スカーレット、なんのお話をしているの?」

「なんでもないさ、ディアーナ」

「そうなの? スカーレット」

「ああ。大した話じゃない。忘れな」

 

 スカーレットは「忘れろ」と言う。

 どうして忘れる必要があるのだろうか。

 

 瞬く星空に、雫が落ちた。

 星が一つ、流れ出る。

 

「流れ星……!」

 

 ディアーナが目ざとく見つける。

 もちろん、私も見た。

 

「ディアーナ、願い事はした?」

「忘れてた。忘れてたよ……」

「それで良い。常に頭に浮かぶ願いなんて、仕事の邪魔になるだけなんだから」

 

 スカーレットも星を見ていた。

 ディアーナは少し残念そうだ。

 私は星に誓う。

 

「敵は倒す。祖国と王家と民衆のために。

 

 ──それが、私たちの使命」

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