少女は生きるために殺しを続けた。その先にあるモノは──。   作:燈夜4649

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小さな幸せ

「リリアーナ! 少しは手伝ってよ! 最年長でしょ!?」

 

 私は背に人形をおぶったその子の物言いに、目を見開き振り返る。

 

「カレン」

 

 私は、本来ならスカーレットと共にいるべき最年長だ。

 だけど、もうここにはスカーレットはいない。

 

「リリアーナ、手伝って」

 

 木のヘラを持って、私よりも頭一つ低いカレンが私に迫る。

 背中の人形の手が、左右に揺れた。三つ編みの尾が跳ねている。

 カレン自身のその手には、蒸かし芋の入った鍋が一つ。

 ヘラで芋を潰せということだろう。

 

「お願いね、リリアーナ」

「仕方ないか」

「仕方なくない! 当然のこと!」

 

 私にはカレンの思いはわからない。

 

「みんなで作ったご飯だから美味しいの!」

「ご飯が美味しい?」

「そうよ!」

 

 食事。

 それは楽しめる行為だっただろうか。

 カレンはなにを言っているのだろう。

 

「美味しいご飯が食べたくいないわけ? リリアーナは」

「食べられればそれで良い」

「私はご飯は美味しい方が良いと思うの。みんなで作って、みんなで食べて。きっとみんな、笑顔になると思うな」

 

 カレンはそう言うと、私に微笑みむ。

 わからない。

 どうして食事をそこまで気にする必要があるのだろうか。

 私は芋を潰し終えると、カレンに鍋ごと手渡した。

 カレンはそれを器に盛って、みなを呼ぶ。

 

「みんな、ご飯だよー!」

 

 勝手に食べ始める子にカレンは怒り、「いただきます」を言えという。

 不思議だった。

 そして、カレンと共に私は食事を始める。

 芋は、甘かった。口に入れるたび、噛みしめるたびに甘みが広がる。

 

「どお? 美味しいでしょう、リリアーナ」

 

 カレンの笑顔に、私は答える。

 

「甘い……」

「甘いの、嫌い?」

「嫌いじゃない」

 

 私の答えにカレンは顔に花を咲かせて、

 

「良かった!」

 

 と、とても喜んでいた。

 わからない。私には、良くわからないことだ。

 だけど、胸のあたりがほんのり火照って来たのはなぜだろう。

 

 よくわからないが、今夜はぐっすり眠れる予感がした。

 

 

 

 ◇

 

 

 追う者と追われる者。

 私は追う者だ。

 ターゲットは速い。

 常に私の先を行っていた。

 

 屋根の上を蹴る。瓦が砕け、宙に舞う。

 相手が振り返る。だが私との距離は変わらない。

 それどころか、グングンと離された。

 ダメだ、追いつけない。

 だが、私はターゲットを逃がすわけにはいかない。

 私は太腿のナイフを引き抜く。

 三本。

 屋根を駆ける相手が着地した瞬間を狙い投擲。

 当たれと祈る。

 

「きゃ!?」

 

 ターゲットが派手な音を立てて転がり落ちる。

 

 私はその裏路地に、足を引きずるターゲットを追い詰めた。

 紅い雫が尾を引いている。

 

「リリアーナ!」

 

 ターゲットが叫ぶ。

 

「見逃して! お願い!」

「裏切り者、祖国と王家と民衆の敵」

 

 ターゲット、スカーレットが目を見開く。

 

「なんですって!? あなたとは仲良しだったじゃない! どうしてこんな酷いこと言うの!?」

「スカーレット、見損なった」

 だが、そういう私の声は震えていたのだ。

 なぜかはわからない。

 

 私の正拳をスカーレットが横に逸れてかわす。

 放たれ絡んだスカーレットの左腕が私の鼻っ面を掠めた。

 垂れた液。口の中で感じる鉄錆の味。

 さらに踏み込むスカーレット、しかし震える足元、そこには刺さったナイフが震えていた。

 私はその決定的な隙を見逃さない。

 いけない、と心のどこかで思いつつも、私の体は勝手に動いていた。

 

 私は踏み込み、肘を腹に入れて裏拳でスカーレットの顔面を殴りつける。

 スカーレットは派手に転んだ。

 私はその腹に靴の踵を踏み入れる。

 スカーレットが呻き、赤い飛沫を吐き出した。

 

「リリ、アーナ……あなたもいつか、わかる日が……来る」

 

 私は頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。

 私はなにをしたのだろう。

 私はなにをしているのだろう。

 スカーレットが私に向けて手を伸ばす。

 震える手で手を伸ばす。

 私の体も、震えた。

 

『スカーレットはターゲットだ』

 

 馬鹿な、そんなことはあり得ない。

 

『祖国と王家と民衆の敵、裏切り者を殺せリリアーナ!』

 

 頭の中に、オスカードの声がガンガンと響く。

 頭を振る私。

 足元でか細い呻き声を上げ続けるターゲット。

 

 痛む頭が答えを何とか絞り出す。苦しむ私は、それにしたがう。

 

 私がターゲットの顎を思い切り蹴飛ばすと、ターゲットは数度痙攣して動かなくなった。

 私の頭の中で、なにかが壊れる音がする。

 私はこの日、大切なものを一つ壊した。

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