史上最悪の『念能力者』だって、ヒーローになりたい!   作:焼き豚さんいらっしゃい

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今回はメインヒロインの登場回になりますっ!
前回の話、ほんの少しだけ修正入れました!



第10話 入学

 

 

 実技試験の入試から数ヶ月後……季節もすっかり移り変わり、春の息吹が心地よい風になって頬を撫でる。

 暖かな陽射しを全身に浴びながら校門をくぐり、アプローチに植えられた満開の桜並木を優雅に歩いていく。肌に吸い付くような、パリッとした新しい制服の肌触りが大変心地良かった。

 

 鼻歌でも歌いたい気分の津穢理は――ゆっくりと息を吐き出しながら、目の前の芸術的な風景(桜の木々)に感嘆の声を漏らす。

 

 

 

「神よ……俺に感謝します。この光景は福音だ…………クソ溜まりみてぇに退屈な中学時代が終わり、これからは最高の学園生活が始まる。そんな俺への啓示だ……」

 

 

 天を仰ぎ見るようにして、俺は心の底から“自分への感謝”を述べる。

 すると、()()()()()()()()()()()()()――ミステリアスな魅力の溢れる、眼窩にモノクルを身に付けた1人の美少女が――津穢理と肩が触れ合うほどの距離で静かにささやく。

 

 

「似人様……そろそろ急ぎませんとHR(ホームルーム)に遅刻してしまいましてよ?」

 

「なぁおい……印照(いんてり)。お前が『似人様の新制服姿!ぜひ写真に収めさせてくださいましっ!!』なんて言い出さなけりゃ、余裕持って到着出来たんだが??」

 

 

 せっかくの晴れやかな気分に――横から水を差してきた私設兵(少女)を横目で睨みつける。

 しかしながら、彼女は(自分に原因があるにも関わらず)いっさい怯む様子もなく、それどころかさらに苦言を呈する。

 

 

「似人様は……今年度の雄英高校ヒーロー科における『首席合格者』です。おまけにルックスも優れ、多才でもあられるとなれば……入学直後に、近づこうとする“下賤な女学生”の標的にされかねません……!!良いんでしてよ?()()()()()を悲しませぬよう……最低でも()()()()()()()()()()の出身でない方との交際は……絶対に“メッ”でしてよ?良いですか?絶対に……」

 

 

 やかましいモードに入りだした印照に、似人は歩を進めながら適当に相槌を返す。

 小・中学校の義務教育期間では個性(能力)の使用が厳格に制限されていた。しかし、雄英(ココ)ではその心配もいらないだろう。おまけに――想定される()()()()()()()()()()()()()の逸材揃い。

 

(あぁ……最っっ高にワクワクすんなぁ!目指して良かったぜ、()()()()()♡)

 

 

 

 

 

 

 HRの開始予定時刻の3分前。

 駄々をこねながら2年の教室に向かっていく印照と、ようやく離れられた津穢理は――雄英高校の広大な敷地内を進み終え『1-A組』とだけ書かれた大きな引き戸に手をかける。

 

「チッ……ギリギリじゃねぇか。ま、遅刻しなかっただけマシか」

 

 既に始業間際ということもあり、教室内には津穢理を除いたほぼ全ての生徒が集まっていた。

 そして…………さすがは雄英高校のヒーロー科と言うべきか。文字通り“()()()()()”見た目の生徒たちが、ワイワイとたむろしながら雑談している。

 

(俺の席は……ここか)

 

 教室の後ろに張り出されていた座席表を頼りに、津穢理は自分の席に腰を下ろす。場所は最後列の端から2番目。

 出来ることなら早めに来て、クラスメイトの情報収集や関係構築を済ませたかったが……まぁそれは後回しにするしかないだろう。

 

(つーか、担任はいつ来るんだ?プロヒーローが担当するらしいが……雑魚(カス)じゃねぇだろうな?)

 

 机に頬杖をつきながら担任の到着を待っていると――隣の席から震えるような、か細い声で話しかけられる。

 

 

 

 

「あの……もしかして……………ツェリさん、ですの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 親を見失い迷子になってしまった幼子のような――――今すぐにでも心が折れて泣き出してしまいそうな、必死に不安定さを取り繕っている少女がそこに居た。

 

 艶やかでしなるように美しい漆黒の髪は、額にかかる右半分を自然と前に垂らし――残る部分をきっちりとポニーテールに結い上げている。誰もが美形と認める整った顔立ちに、気品を感じさせる佇まい。そして何より、同世代とは思えぬほどに完成されたプロポーションの……まるで()()()()()()()美少女。

 そんな彼女の、深い知性を宿した切れ長の瞳は――今や強い動揺に揺れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 津穢理が、なんの気なしに自分の席へ座り込んだ直後のことだった。

 隣から急に話しかけてきた癖に、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()表情の少女を見て……津穢理の頭に真っ先に浮かんだのは「こいつ、誰だっけ?」という素直な疑問だった。 

 

(なんだ……?この女、なんで俺の名前を知って…………いや、この顔立ちにこの口調!そしてこの“呼び方”……!コイツもしかして……!!)

 

 瞬間、津穢理の脳内にスパークが走るようなひらめきが起きる!この間、およそ0.3秒!高速で回転する津穢理の思考が、地獄に向かって切り拓かれる破滅の道筋(デスロード)を間一髪で回避するっ!

 

 

 

「お前……もしかして、八百万か?」

 

 

 記憶の奥深くに眠っていた情報を引き出し、なんとか絞り出すようにして問いかける。

 彼女は――過去の自分が相当“()()()()()()()”対象であり、その当時の記憶や彼女の“優秀さ”については現在になってもよく覚えていた。とはいえ、最近では思い返すこと自体あまりなかったのだが……

 

 しかし――それに対する彼女の反応は、非常に劇的だった。

 

 

「ずっと覚えて……くださったのですね。本当に、本当に嬉しいですわ…………(わたくし)、実はあの時……!」

 

 

 歓喜で瞳を潤ませながら、しどろもどろに何かを伝えようととする八百万。

 しかし、現実はそう上手くはいかない。既にHRの開始時刻は回っており――――教卓の方角からまるで寝起きのように気怠げな、それでいて芯のある冷徹さを持った声が響き渡る。

 

 

 

「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

 

 

 寝袋からズルリと這い出るようにして、1人の男が教壇に立つ。

 ボサボサの頭髪に無精髭。折れ曲がった猫背の、頼りなさげな後ろ姿は――遠目にはホームレスを連想させるほどだったが――その細い体躯の内側には、鋼のように鍛え上げられた筋肉が隠されていた。

 

 

「担任の相澤消太だ。よろしく」

 

 

 

 そんな男の視線が、一瞬だけ津穢理の姿を捉えたように思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「個性把握‥‥テストォ!?」

 

 

 A組のクラスメイトたちが驚きの悲鳴を上げる最中、津穢理は担任の相澤に対して冷めた視線を向けていた。

 

(このタイミングで“個性アリ”の体力測定か。まぁ……効率的っちゃあ、効率的だな。変わり映えのしねぇ入学式やガイダンス受けるよりは100倍マシなんだが…………どうも腑に落ちねぇな)

 

 憮然とした表情を浮かべながら、己の中に湧いて出た違和感に目を向けていると――相澤からハンドボールを手渡されると同時に、声を掛けられる。

 

 

 

「津穢理……お前、今年の首席合格者だろ?一回投げてみろ」

 

 

 一瞬、“首席合格者”というワードに反応した目付きの悪い少年が「あ゙ぁ!?」と過剰に突っかかってくるが……特に気にするほどでも無かったので、軽く無視しながら地面に書かれた白線の内側へと入っていく。

 

 

「お前、中学の時は『ソフトボール投げ』何mだった?」

 

「……さぁ?あんま覚えてないけど、学年トップだったよ」

 

「…………敬語使えよ。まぁいい、とにかく投げてみろ。“個性”使って全力でな」

 

 

 

 相澤に言われた通り、ハンドボールを手にした津穢理は……自身の“オーラ”を解放していく。

 

『練』ッ!!

 

 実技試験前に使った時とは異なり、自らの『攻撃意思』を乗せてはいないとはいえ――――素の状態で邪悪な性質を持ち、圧倒的な出力を誇る津穢理の『練』が、重厚な威圧感を持って周囲に吹き荒れる。

 

(やっぱ、なんか気になるな。オレが『練』を使った瞬間、相澤の視線が妙に鋭くなった……この俺を警戒している?何故だ?今日まで接点すら無かったハズだろ?)

 

 

 相変わらず喉に小骨が刺さったような違和感を感じるものの、気にしたところで仕方ない。

 流れるような綺麗なオーラ操作と投球フォームをもって……()()()()()()()()ハンドボールを思い切り投擲する。

 

 

 

記録『1049m』

 

 

 記録が表示されると同時に、周囲から「ウォォ!」という地鳴りのような歓声が聞こえる。

 自分の好成績を讃える聴衆に耳を傾けるのは、それなりに心地が良かったが……とはいえ、この程度で持ち上げられても困惑する気持ちが強い。

 

(もしかすると、雄英ってのも別に大したことねぇのかもな……俺の記録が鼻で笑われるくらいの方が、まだ“やりがい”あんだけど……)

 

 

 幼馴染の八百万も――まるで自身のことのように今の記録を喜んでいた。

 最初は喜びのまま、子犬みたいにコチラへ抱きつこうとして……途中で恥ずかしくなったのか、今は津穢理の体操服の裾を控えめに引っ張りながら「お見事でしたわ!お見事でしたわ!」と小声で感動を伝えてくる。

 

 そんな中――浮かれた数人のクラスメイトがつい口を滑らせてしまう。

 

 

 

 

「なんだこれ!!すげー()()()()!!」

「“個性”思いっきり使えるんだ!さすがヒーロー科!!」

「ヒーロー科すげぇぇ!!めっちゃ楽しいじゃんか!」

 

 

 そして――――そんな生徒の気の緩みを相澤は決して見逃さない。

 

 

 

「…………面白そう、か。ヒーローになる為の3年間をそんな温い精神で過ごすつもりか?」

 

 

「なら……トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し除籍処分としようか」

 

 

 

 

 

 相澤の冷たい眼差しがクラス全体を見渡すように向けられたタイミングで――俺は眉間に深い皺を寄せながら、相澤のことを思いきり睨みつける。

 

(くだらねぇ大嘘(ブラフ)吐きやがって……!『トータル成績が最下位の者は除籍処分』だぁ??そんなつもり、一切ねぇだろうが!!)

 

 一瞬、相澤に睨みつけている所を見られそうになり、慌てて居住まいを正す。しかしながら、幸いにしてコチラの変化に気付いた様子は見られなかった。

 

 

(恐らく『除籍』自体に嘘はねぇはずだ。それくらいの権限は“ヒーロー科”の担任にはあるだろうし、発言そのものにも嘘があるような印象は受けなかった)

 

(これは推測だが……除籍される人物は1人じゃねぇ。『見込みなし』と判断された生徒の全てが対象だろう……実際、その方が遥かに合理的だ。体力測定で反映されない価値を持つ“個性”もあんだろうが……そもそもの基礎体力が低く、一芸に頼り切っただけの奴なんざ『雑魚以下』だ。ヒーローは個性が割れた上で戦わなくちゃならねぇからな。なら……?なぜ()()()()()()()()()()()最下位だけが除籍対象になるんだ?)

 

(結論。()()から見て、基準に満たない生徒は全員除籍……それが本来のルールだろう)

 

 

 

 なかなかに食えない野郎だな、と内心で結論付けてから「相澤に対する評価」を大幅に上方修正する。

 少なくとも、あの短期間でここまでの判断を下せる人間は侮っていい相手ではない。先ほどから観察していても、些細な身振りや立ち姿の重心から“かなり鍛え上げられた実力派”であることが見て取れる。

 

(だが、警戒対象のオレを狙い撃ちで除籍する素振りがないとすると……個人的な因縁があった訳ではない?いや、そもそもオレを除籍出来ない理由でもあるのか?なんにせよ……この状況は相当()()()だぜ)

 

 

 詳細は不明だが、優秀なプロヒーローに入学当初から『目を付けられている』津穢理。打破するにせよ懐柔するにせよ、一筋縄ではいかないことだけは確かだろう。

 

(昔から優秀だった幼馴染の八百万に、あの試験を突破してきた未知数の個性持ちが18名。さぁて……あと何人くらい面白れぇのが居るのかな?♡)

 

 

 津穢理(悪魔)は嗤う。新しい環境が自身の糧となる“良き刺激”になることを期待して。

 雄英という一つの学び舎に集められた、数多くの前途ある若者が――――自身(怪物)との邂逅を経て、どんな化学反応を引き起こすのか。それはまだ、誰も知り得ない。

 

 

 

「いいねぇ!モチベ上がるぜっ!!だがまずは……その前(お楽しみ前)にこのテストを突破しねぇと。舐めプして除籍なんざ、笑い話にもならねぇからな…………まさに『PLUS(更に) ULTRA(向こうへ)!』ってか?笑」

 

 

 

 






ハンター419話マジで面白かった……
来週で終わるの悲しすぎ


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