史上最悪の『念能力者』だって、ヒーローになりたい! 作:焼き豚さんいらっしゃい
オーラ別性格診断……ハンター好きなら誰もが、一回は自分の考えたことある説。
ワイは多分、操作系。
個性発現および『念』の習得から8年後…………
中学受験を来年に控えた
「ミュハン、今ので何セットだ?」
「基礎+応用技の訓練を3セットずつ。既に本日のノルマは達成しましたが……まだまだお元気なご様子。もし良ければ、オレがスパーリングの相手でも務めましょうか??」
願ってもないミュハンの提案に、思わずニヤリとした笑みを浮かべる。
既に初心者や中級者のレベルを飛び越え、念能力者として達人の域に達した俺は、日々の鍛錬において
もはや単純な修行では満足出来ず、マルチタスク(筋トレや武術や勉学)などの手段を用いて、常に負荷を加え続けるのがやっとという毎日が続いている。
(俺の
心の中でボヤきながらも、津穢理はスイッチを切り替える。
こういった技能は、ある程度成長すると実戦形式でないと伸び悩んでしまう。しかしながら、日本国内において私有地以外での“個性使用”及び“戦闘行為”はライセンスによって厳格に管理されているのが現状だ。
……もちろん、俺だってそれを理解した上で様々な試行錯誤を繰り返している。その結果が
「いいな、それ!早速やろうぜ。ミュハン……まずは個性30%くらいの出力から始めてくれ。俺は“発”はもちろん、“練”も応用技もナシで行く。ていうか、なんなら殆ど“絶”くらいのオーラ量でテメェの攻撃捌いていくからな」
「……良いんですか?オレには分からねぇんすが、“絶”ってかなり無防備な状態なんでしょう?」
「良いんだよ、それぐらいで。お前はとにかく俺に言われた出力を維持しながら“潰す気”で殴り続けろ。んで、30秒毎に10%ずつ上げていって……100%までクリアしたら一旦休憩だ」
「…………世の中、天才ってのは居るもんすね。オレ一人じゃあ、いつの日かスパーリングの相手すら出来なくなりそうで悲しいですよ」
「そうなりゃ、そん時は
津穢理がそう口にすると、ミュハンは口角を上げながら小さく微笑む。
とはいえ、元の顔がとんでもない悪人面であり、平たい鼻に細い目つきの彼が微笑んでいる様子は『邪悪な企み』か『拷問の喜び』を意図しているようにしか見えなかったが――――ミュハンは純粋に喜んでいた。
私設兵。津穢理は彼等のことを、そう呼んでいる。
とは言っても、現実はそこまで仰々しいものではない。津穢理の父親にして、株式会社カキン・ワールド・ホールディングスのCEOである『
そして、それは
10歳の誕生日を迎える頃には、ミュハンらを中心とした5人の私設兵が与えられた。しかし、似人は私設兵を単なるボディガードとして扱うのを良しとしなかった。むしろ役回り的にはトレーナーや友人と言った方が近いだろう。
私設兵のほとんどが20代前半ということもあり、離れ過ぎず近過ぎない歳の差は、彼等の関係性をより強固なものにした。今となっては直接の雇い主たる
そして何より――似人自身もそんな彼等の献身性を、この世界で最も信頼していた。
ミュハンとのスパーリングを終えた津穢理は、キンキンに冷えたスポーツドリンクを喉奥に流し込みながら――――今となっては大分慣れ親しんだトレーニングルームを眺める。
壁や戸棚におびただしい数のトロフィーやら賞状やらが飾られ、最新鋭のトレーニング機器が所狭しと並んだ
世界のトップアスリートたちが通い詰める一流ジムとなんら遜色はなかった。
つい数年前まで、自宅の庭先で人も道具も何も持たずに――――黙々と一人で訓練していた事実が感慨深く感じられる。
「ハァハァ……半端ねぇっすね。結局、一撃も当てらんなかったです」
肩で息をしながら、滝のような汗を流すミュハンに――津穢理は本心からの笑みを向ける。
「いや、悪くなかったよ。最後の方は俺もオーラ使って受け流したり、止めたりしないとやってらんなかったから。しばらくは
「はは……ありがとうございます。ちなみに、しばらくってのはどのくらいを想定しておいでで?」
「……さぁ?ま、一カ月続けられたら大金星だよ」
「ククッ…………やっぱ似人様は
似人専用のトレーニングルームが自宅に併設されたのは、父の一言がキッカケだった。
今からおよそ3年前、仕事を終えて帰宅した
学業やスポーツといった分野において、既に頭角を表しつつある息子を誇らしく思っていた当時のナスビ氏は、労いの言葉でもかけようと何の気なしに足を進め――――思わず身体が硬直した。
僅か数m先にいる己の息子との間に、まるで巨大な渓谷でも存在するかのように感じた。
オーラを知覚出来ないナスビでさえ理解した、息子の『圧倒的な
自らの息子が卓越した
本来なら、ナスビ氏は『より多くの婚外子を作る』という計画を立てていた。
その婚外子たちを互いに競い合わせ、自らの死後――――最も優秀だった者に全てを託す為に。しかしながら、今になってその考えを改める。「もはや、その必要などない」と。
高いリスクを背負って、泥沼の後継者争いをさせるよりも
ゆえにナスビ氏は新たな方針を打ち出す。
『息子が望むもの、望む環境は全て与えよ』と。それこそが『息子が
この発令が発端となり、本来ならば成人後につける予定だった私設兵は、前倒しで似人の元に送られることが決定した。
結果、これらの決定は全てが功を奏すことになる。わずか10歳の“少年の才能”は、とてつもない化学反応を引き起こし、爆発的に開花する。
チェス、将棋、テニス、空手、柔道、ボクシング……etc。
個性社会の発展により、競技そのものが縮小傾向にあるものも多かったが、それでも少年はありとあらゆる分野の記録を塗り替え、最大限の賛辞を自らの欲しいがままにしていた。
もはや小学生としての枠組みなど機能していないに等しい。
それに応じて、各界の有力者たちも徐々に気付き始める。
今までは重役の息子としか見られていなかった少年が、圧倒的な速度で成長していることに。果てには『やがてこの日本を背負って立つ存在になる』とまで言い出す者も現れる始末だった。
こうした外部からの評価は、ゆっくりと少年に
トレーニングが終わり、ミュハンとの雑談を楽しんでいると、ふと思い出したかのように何気ない疑問を投げかけられる。
「そういえば……坊ちゃんって、将来ヒーローを目指してるんですよね?」
「坊ちゃんって呼ぶんじゃねぇよ……ま、そうだな。ヒーロー科志望だ」
「いや、あまりイメージが湧かなくて……どちらかと言えば
「まぁ、ぶっちゃけ8割は好奇心だな。こんな面白い
「大体は想像通りって感じですね……残りの2割は?」
実際、かなり気になっているであろうミュハンが、内心の好奇心を隠そうともせずに身を乗り出して聞いてくる。
ゆえに俺は――少しからかってやろうと思い――
「なぁ、お前って前世のこと覚えてたりするか?」
「……は?」
あまりに予想外の返答を耳にしたミュハンは、呆気に取られたように一瞬フリーズする。
彼の思考が追いつくまでの、ほんの数秒。目を大きく見開いたまま、口をパクパクと動かし――他人には滅多に見せないだろうミュハンの痴態に満足した俺が、ゆっくりと言葉を紡ぎ始める。
「俺はよ……4〜5歳くらいまで前世の記憶が割としっかり残っててな。そん時の俺が
「……………残りの1割は?」
語り口調から「恐らく俺が嘘を言っていない」ということを読み取ったミュハンは、先ほどとは打って変わって額に汗をかきながら――――慎重そうに問いかけてくる。
とは言っても、最後に残された理由など
「約束したんだよ。幼馴染の女にな。“立派なヒーローになる”っつー、バカみたいな約束だ」
俺がそう口にすると、今度こそミュハンが呆気に取られたような表情を浮かべる。
(ほらな……そうくると思ったぜ。我ながらくだらねぇ理由だよ全く…………)
自嘲気味な笑みを浮かべながら、8年前に想いを馳せる。いま彼女は、モモはどこで何をしているんだろうか。
今までは特段、彼女を意識することなど無かった。むしろ、念の修行やあらゆる
(今思えば…………ガキの頃の俺は、なんで
行き場のない苛立ちを感じていると、ふと視線の先にニヤニヤと――微笑ましいモノを眺めるような顔をしたミュハンが見えた。
「なんだコラ。言いてぇことあんなら、言うだけ言ってみろ。気に入らなきゃ殺すけどな」
「ククク……いえ、似人様にも可愛らしい青春があったんだと。自分のことのように嬉しいですよ、オレは」
「よし、殺す。テメェの原形が残らねぇくらい徹底的に壊してやるからな…………っつーか、マジでそんなんじゃねぇよ。ただの腐れ縁だ。ここ最近は会ってすらもいねぇし」
「そうなんですか?……何か不仲になるようなキッカケでもあったんで?」
「いや、単純にその時期に『念』やら『スポーツ』やら『個性学』やらにハマってな。こっちが食事も忘れて没頭してるっつーのに、用もねぇクセに会いに来やがるのが鬱陶しくてずっと追い返してた。もう5年は会ってねぇな」
「………………似人さま」
なんとも言えない悲哀を孕んだミュハンの呟きが、寂しくトレーニングルームに反響した。
ミュハン
ハンターハンターの王位継承編に登場したツェリードニヒの私設兵であり、濃いキャラなのにも関わらず一瞬で退場したモブ。恐るべし『11人いる!(サイレント・マジョリティー)』。
ここまでがワンセンテンスだ、よろしいか?