史上最悪の『念能力者』だって、ヒーローになりたい! 作:焼き豚さんいらっしゃい
本作のツェリ君は、
・幼い頃に前世の記憶があったこと
・八百万と関わっていたこと
・家系がホイコーロ一族ほど狂っていないこと
・一応、現代日本人としての倫理観を身につけている
という条件が揃ってるので、ハンターハンター原作ほどヤバい奴じゃないです。とは言っても、キッカケ一つで激ヤバなヴィランになる程度には危ういです。
『夏の野の 繁みに咲ける 姫百合の
知らえぬ恋は 苦しきものぞ』
あなたが知らない夏草の陰に、
美しい姫百合がひっそりと咲いているように。
あなたの知らない場所で、私は今日も、
胸が締めつけられるほど、あなたに恋しております。
(「万葉集」より 大伴坂上郎女の短歌)
◇◇◇◇◇◇◇
あなたと初めて出会った
呆れるほどに使い古された常套句。もはや何の新鮮味も感じない
しかしそれ以上に、両親は惜しみない愛情をもって私を慈しみ、育ててくださいました。
優しく淑やかな母と、強く温かい父の“この世界で最も大切な存在”として――――何不自由のない、厳しくも幸せに満ちた毎日を送っておりました。
そんな
父と母の教育方針により、早くから地元の
何気ない日常会話や日頃の挨拶、課外活動などを含む全ての所作において――――私は
もし仮に、ちょっとした礼儀作法を弁えていた程度なら。年長者から“礼儀正しく真面目な子”と評されていたかもしれません。
しかしながら。八百万家の中で全てを叩き込まれ、それを崩すだけの要領の良さを持たなかった私は――――まるで精密に作られたロボットのように、さぞ不気味な存在として周囲の目に映っていたことでしょう。
実際、私が幼稚園に入ってから話しかけにくる子は誰一人いませんでした。
(そこまで露骨に私を遠ざけ、私を気味悪がるのなら……いっそのこと直接、私を虐めてしまえばいいのに…………)
そんな過激な考えが頭を過ぎるほど、私は追い込まれておりました。
しかしながら、そんな『傷付けられてもいいから、他者と関わりたいという
世に名だたる『八百万』の家名。
恐らくは、子供たちも両親から言い含められていたのでしょう。「あの娘に対して、決して粗相をしてはならない」と。ゆえに子供たちは、内心では気味悪さや嫌悪感を感じていても、それを表に出して私を害するような真似を一切しなかった。
そして、それは大人たちも同じ。私のことを良く思っていない感情を必死に押し隠し、取り繕うような笑みでコチラの顔色を窺ってくる。その証拠に、私が視線を向けるたび――彼らは慌てながら卑屈に笑みを深くするのです。
往々にして、大人たちが思っている以上に――幼い
そうした環境で過ごす毎日は――私に
その時になって初めて、私は“時には悪意以上に、腫れ物扱いが人の心を傷つける”という事実を知りました。
そして、学外においても
両親が責任ある地位に就く者である以上、私は必然的に上流階級の者たちが集まる社交の場へと赴く機会が多くありました。そして……そこに集う上流階級の人々は、私を
その代わり――鋭く研ぎ澄まされた視線で、私という人間の価値を値踏みするかのように――私の立ち振る舞いを見つめてくるのです。
そんな日々を過ごす当時の私は、まるで未知の猛獣がひしめくジャングルの中で、檻の中に閉じ込められているような気分でした。
まるで、この世の全てが
結局のところ、両親以外に
それがあの当時、私の置かれていた現状。
しかし、そんな私を救ってくれたのが……まさしく彼の存在でした。
あの日の出来事は、今となってもまるで昨日のように鮮明に覚えております。
とある社交パーティの会場にて――――
絢爛豪華なホテルのバンケットルームを貸し切って、集まった数百人近い身なりの良い大人たちが軽食を片手に、優雅に歓談している姿が瞳にうつる。
本日の名目は……たしか『特定難病に苦しむ子供たちを支援するための、大規模なチャリティーガラ(資金集めのパーティ)』……だったはず。
やはりと言っては何ですが、会場の――世間から富裕層と呼ばれるだろう方々の興味は――既に“可哀想な子供たち”からビジネスや趣味嗜好・会場に用意されていた美食の数々へ、話題が切り替わっている。
慈善パーティーの
それに、八百万家の子女として――
両親に連れられ、パーティに集まった有力者の方々に挨拶を済ませていく。
起業家、学者、医師、政治家、投資家……etc。まだ幼かった私には、“彼らが実際にどんな仕事をしている”のか詳しいところは分からない。それでも――――両親に言われた通り『八百万家として恥じぬ淑女』の仮面を被った私は、愛想笑いを浮かべて歓談を続ける。
内心に湧き上がる不安や退屈さを、必死に抑え込みながら。
しばらくして。家族ぐるみで懇意にしている方々との挨拶回りを終えた私は、母から「お疲れさまです。あとは好きに過ごして良いですよ」との言葉をもらう。ついでに「はしたない真似をしたり、走り回ったりしてはいけませんよ」とも。
軽食をつまみながら、会場の中を歩く。少しでも良いから、静かな場所で一人落ち着きたかった。
小さな足をトテトテと動かしながら、人並みをかき分けていくと――人の気配が薄く、ゆっくり出来そうなスペースを見つけることが出来た。
そして――――そこには1人の
会場のシャンデリアから降り注ぐ光を浴びて、輝くように煌めく金髪。柔らかなキューティクルが、身じろぎに合わせて絹のように波打つ。
驚くほどに整った顔立ちからは、異国の気配が感じられ―――― 10年後には多くの女性を虜にして止まないだろう姿が、容易に想像させられた。
日本トップクラスのジュニアモデル。そう呼んでも差し支えないほどに美形の少年が、酷く退屈そうな表情を隠そうともせずに――――ゆったりと壁にもたれかかっていた。
その立ち姿に、思わず胸が高鳴る。
もちろん、彼が容姿端麗だったというのもあるが――――それ以上に、こういった社交の場では滅多に見かけることのない同世代の少年。何より……己の立ち振る舞いが全て監視されてしまう社交の場において、それを全く意に介していない
私という世間知らずの小娘が、彼の存在に好奇心を抱くには十分でした。
「こんばんは……いかがお過ごしでしょうか?」
私が一つ声をかけると、彼がこちらに顔を向けてくる。一瞬、珍しい同世代を見つけたことに目を見張るが、またすぐに元の退屈そうな表情に戻ってしまう。
「どうも……少し疲れてしまったので、休んでいただけですよ。お気遣いありがとうございます」
「いえ、そういうつもりじゃ………退屈でしたか?」
いくら私が気になっていたにせよ、あまりに答えづらい質問だったと反省する。まだ幼い子供とはいえ、場所によって守るべきマナーもあるのだ。
慌てて質問を取り消し、変なことを聞いてしまった謝罪を口にしようとして……彼がおもむろに話し始める。
「ほんっっっとうに退屈だったよ……!父さんと一緒に挨拶回りしてる時なんて、暇過ぎて2回くらい死にそうになったし。早くお家に帰って、ゆっくりしたいなぁ……」
彼の全く飾ろうとしない……それでいて、
それを聞いた
「ふっふふふ!あはは、あはははははっ!!」
肺の中から酸素がなくなっていく感覚。視界は目尻に浮かんだ涙のせいでボヤけて見える。
もはや周囲から“はしたない”と思われることすら憚らず、私は生まれて初めて――心の底から笑っていた。
「あはは、ふふっ!なんですの……そんな……いくら聞かれたからって、正直過ぎますわ!ふふ、ふふふっ」
実際、目の前の少年は呆気に取られ、目を見開いている。それもそうですの。別にウケを狙った訳でもない言葉に、見ず知らずの少女が腹を抱えて笑っているのですから。
しかしながら私、
それはきっと、人生で初めての経験だったから。
両親以外から“人の温もりを感じる言葉”をいただいたのが。この時になって初めて、私は
私の出会う人間は、いつだって私を遠ざけようとしていた。私の出会う人間は、いつだって私に媚びを売ろうとしてきた。
私の出会う人間は、いつだって打算的で……疑い深く……見透かそうとして……裏表があり……嫌悪していて……欲深く……利己的で……誰一人として
だからこそ、私は彼と向き合ってみたいと思えた。
「ふふふ……失礼しました。私、八百万百と申します。良ければ……仲良くしていただきたいですわ」
そう、私が名乗りを上げた瞬間。彼の瞳が大きく見開かれた。
恐らくは『八百万』という家名に聞き覚えがあったのだろう。しかし――――他ならぬ
そこから先のことは…………本当のことを言うと、あまり覚えておりません。
その瞬間が私にとって、あまりに
一体、何がそこまで彼の琴線に触れたのかは分かりませんが……私が自己紹介をして以降――彼は見違えるほどの大はしゃぎで、私とのお話に付き合ってくださいました。富裕層の集まる立派なパーティの最中、2人の子供が年相応の無邪気さを覗かせながら、人目もはばからずに遊び回る姿はさぞかし滑稽に見えたことでしょう。
でも、
案の定、私は帰りの車内でパーティでの様子を母に咎められました。しかし、そんな母の苦言が右から左に流れて行ってしまうほど、私は浮かれていたのです。
そんな私の有り様に――――父と母は呆れながらも、どこか嬉しそうに笑っていました。
当時は自覚こそなかったけれど。そう、今にして思えば……全てはあの日に。
私は初めて孤独を忘れ、初めて友人を作り…………そして初めて
「お母様!八百万家の娘として!つえり家の跡取りと“ゆーこーかんけい”を結ぶのは、とても大事なことだと提案いたしますわ!」
私が大きく宣言すると、母は困ったように眉を寄せながら小さく笑った。
それもそのはず。なにせ、私がこの言葉を口にするのは
あの日以来、彼――――
幸い向こうの家がそれを嫌がることもなく、彼自身も喜んで私のことを迎え入れていたフシがあった。それゆえ、全てが穏便に運んでいくと――私自身も
しかし、肝心の
その結果、私は母に対して駄々をこね……もとい八百万家の子女として交渉する事で、週に最低3回。彼の元へと遊びに行く日々が続いていた。
母としても、私に苦言を呈そうか迷っただろうが――目に見えて元気になった――普段は滅多にわがままを言わない、可愛い娘のお願いを無下に出来る訳もなく。困ったように笑いながら私の手を引いて、彼の実家の門をくぐる。
彼はいつだって、どこか不思議な存在だった。
同い年であるにも関わらず、私以上に大人びているフシがある。私でさえ、同世代と比較して
でも……だからこそ私は彼に甘えられた。
胸の奥に
常日頃から“ヒーローになりたい”と口にしていた彼は、いつだって私に優しく接してくれた。
私と会っていない時間は『特訓』をしているらしく、努力家で心優しい――どこかカリスマ性の垣間見える彼は、まさに理想のヒーローと呼ぶに相応しい人物に思えました。
そんな彼との逢瀬は、私にとって宝物のようで。
だからこそ、私は失念していたのでしょう。
“幸福な時間とは永遠に続くものではない”と。
死ぬほど陰キャなので、返信できてませんが感想には目を通しています。
凄い勇気になってます……
本作を読んでくださり、誠にありがとうございます。感謝感激であります。