史上最悪の『念能力者』だって、ヒーローになりたい! 作:焼き豚さんいらっしゃい
高評価入れてくださった方々も、普通に読んでくださる方々も、マジでマジで感謝です…………
特に大きな怪我や病に罹ることなく、健やかに育った私とツェリさんが無事に6歳を迎え――もうすぐ7歳になるという時期。
3年近くも彼の元へと通い詰めたこともあり、関係性は
しかし、人の心とは移ろいやすいもので。
2人の関係性には『小さな変化』が起こり始めてしまいました。
「ツェリさん……あの今日は…………」
「悪ぃな。今日はボクシングで軽く汗流した後に、海外ユーザーと『フィッシャー・ランダム・チェス(チェス960)』のオンライン対戦でもやろうと思っててな……それ終わった後で良いなら話し相手になるぞ?」
「……いえ、お忙しいところ失礼しましたわ。またお暇が出来たら……その時にでもお話ししましょう……」
ツェリさんと関係性を深めていく上で。彼について分かったことが、
まず一つは、常人から見れば異常とも言えるだろう『
彼は自らが「知らないこと」「面白そうなこと」に対して、過剰に反応して即座に学習しようとする。反対に――そういった無知をそのまま放置して、その無知にさえ気付けない“無知の不知”とも呼べる者に対しては、露骨に嫌悪感を滲ませることが多かった。
そして二つ目。彼がハマった物事に限定して向けられる『
彼が一度『何かにハマったら』……昼夜、睡眠、寝食を忘れて没頭し
そして何より厄介なのが、この2つの特性の“相乗効果”でしょう。
ツェリさんは己に足りていないモノ(面白そうなモノ)を見つけ出す能力に優れ、しかもそれを短期間でマスターしてしまう。欠点に気付ける能力だけでも珍しいというのに、それを補う能力まで優れているのだ。
そんな彼が今まで
この世界には、数え切れないほどの「面白いもの」が溢れていると。
しかし、彼は知ってしまった。見つけてしまった。
何より……彼と私の間には唯一と言っていい
それは彼が『私を嫌っている訳ではない』ということ。私との会話以上に
彼の話し言葉にだって、親密さこそ感じられたものの――――嫌悪感や忌避感といった感情を隠していたようには思えませんでしたし。
だからこそ、私は選択いたしました。
『彼のやりたいことが落ち着くまで、私の方が一時的に身を引く』という選択を。それが
数年後、私が『その選択』を一生後悔するとも知らずに。
一階でお父様から
はやる気持ちを必死に抑えながら、例の資料…………小学生向けのスポーツ専門雑誌(今月号)を開いていく。今月のお目当ては『極真空手の全国大会』だ。
新品の雑誌特有のインクの匂いが鼻先をかすめる。派手な見出しのページを一枚一枚めくっていき、ようやくお目当てのページにたどり着く。
そこには八百万の
『稀代の天才ッ!チート級の“美しき御曹司”、
「やりましたわっ!またしても、ツェリさんの優勝ですの!!」
今もなお、私の心を掴んで離さない……愛しい殿方の華々しい活躍に。
私がツェリさんと距離を置いてから、しばらくして……彼の才能は開花しました。
あらゆる盤上遊戯やスポーツ、格闘技に勉学…………様々な分野において、目覚ましい成績を残していく。それは時に、小学生としての枠組みすら越えるほどで。
元々、会えない日々が続いてからも、彼に関する情報をそれとなく集めてはいましたが。
彼が広く世間に評価されるようになってからは、私も大っぴらに応援するようになり……使用人や家族に言って記事や新聞を手に入れては、それらを大切に保管するようにしている。
(流石はツェリさんですわ……つい先月は
密かに想いを寄せる相手が、全国規模で優秀な成績を残している。そんな事実が、私にとっては純粋に誇らしかった。
たまに女性との距離感が近いような写真が出てきて、眉間に皺が寄ってムッとなることもございましたが――――それでも彼の軌跡を追い続けることが、私の一つの趣味になっていました。
彼を知る者として、彼を見出した者として……胸の奥が期待で弾けるような大きな喜びを感じていたのです。
ですが、その一方で…………
(ツェリさん……あなたの隣は“私の居場所”ではないのですね。あれからというもの、あなたは一向に私を必要としてくださらない……)
胸の奥に渦巻く、どこかモヤモヤとした負の感情。それはあれ以来、彼の方から全く連絡が来なかったことに起因していた。
本来なら彼の活躍を、100%混じりっけない善意で応援してあげたいのに。諦観や寂しさ、嫉妬と憧憬……自嘲や未練といった感情が次々に湧き出してくる。
そして何より……
(いけませんわ。折角のお祝い事なのに、ネガティブな考えばかり頭を過ってしまいます…………ですが、それももう終わり。ふふっ、いよいよお会い出来るのですね。ツェリさん……!)
胸の高鳴りを感じながら、寝台に置かれた一枚の招待状を手に取る。
株式会社『カキン・ワールド・ホールディングス』の記念式典。津穢理家とそれなりに友好関係を築いてきた、八百万家にも送られてきた
(実に3年ぶりですか……まずは何をお話しすればいいのでしょう?お互いの近況や、会えなかった日々に見聞きしたものについて……私がツェリさんの活躍を追っていたと話すのは、少し引かれてしまいますかね?ふふふ、彼との間に出来た空白を埋めていく作業が待ちきれませんわ……!)
満面の笑みを浮かべながらベットから跳ね起きた私は、クローゼットのドアに手をかけようとして――――
(一体…………一体、いつから私は……
その“問い”に思い至った瞬間、私の全身から一気に血の気が引き、細かな震えが止まらなくなりました。
(嫌われてはいない、それは事実でしょう。なぜなら、こうして『招待状』が八百万家に届いたのですから。ですが、これはあくまでも
“恋”という感情は……時に人に勇気を与え、その心を奮い立たせる。
しかし、その一方で――――人間という生き物をどうしようもなく弱く、脆い存在にも変えてしまうのです。
(久々に再会すれば、また『時計の針を戻せる』と?その保証がどこにあって??)
(ツェリさんは“愚か者”や“つまらないもの”を嫌います。今の私は……果たして、彼にとって魅力的に見えるのでしょうか?)
(そもそも、今のツェリさんには恋仲と呼べる相手がいらっしゃる可能性も……)
一般的に考えて、八百万は非常に優秀な少女である。勉学についてはもちろんのこと、スポーツや教養・礼儀作法に関しても、名家の生まれだけあって流石の一言に尽きるだろう。
しかし、それはあくまでも『凡人の尺度』から考えたもの。
津穢理似人という
(久しぶりに見た『私の成長』が、彼の想定を大きく下回っていた場合……私はきっと彼に愚か者の烙印を押されてしまうでしょう。そうなれば関係性を進めるどころか、今の『嫌われていない』地位まで失ってしまうことになりますの……)
凡人よりも優秀な脳みそは、こういった時に「自分が失敗する未来」をより正確に作り上げてしまう。
そして――――
(もし、これから“彼と再会しない”という選択肢を選び続ければ……私が嫌われるという最悪の未来は避けられるのでしょう。しかし、それは私の初恋が実らないのと同義……)
この世界で一番会いたい相手と会えない苦しみ。この世界で一番好かれたい相手に、嫌われるかもしれない悲しみ。
その両者を天秤にかけた八百万は――――もはや自分の中に、カケラの勇気すら残っていないことを自覚した。
(あぁ……そうだったのですね。せめて……せめてあの時に、みっともなく彼に縋っていれば…………一度でも離れてしまうと、こうも再会を恐れるようになるのですね……)
私が
私は崩れ落ちるように、静かに涙を流していました。
◇◇◇◇◇◇◇
あれからさらに月日が経過し、私は14歳になりました。
一年後に雄英高校のヒーロー科入試を控えた私は、先ほど返却された全国模試の結果に目を通していく。
『八百万百。雄英高校 ヒーロー科 A判定』
第一志望に対して、A判定という結果を見ても――私の表情は決して晴れない。
続いて、全国模試の『総合成績・優秀者一覧』というページを開く。ここでは上位100人の成績優秀者が、名前と一緒に発表されている。
そこでまず目にしたのは、自身の成績。
『八百万百 43位』
2万人規模が受ける模試で、43位という成績は上位0.2%にあたる。つまり、受験生の99.8%を凌ぐということ。
しかしそれでも……私は
『津穢理似人 28位』
私の名前のすぐ上には、あの人の名前が載っていた。
成績で見れば“たった15位”の差。しかしながら、私にはその背景がハッキリと理解出来ていました。
(前回と前々回の模試では、ツェリさんが総合一位でした。今回、彼が28位まで
「ここまで……ここまでやってもまだ、届かないというんですの…………」
思わず苦悶に満ちた呟きが口から溢れる。
頭を抱えながら机に突っ伏していると、後ろから自室の扉をノックする音が聞こえてきた。
「……どうぞ」
私が控えめに許可を出すと、心配そうな顔つきをしたお父様が扉の後ろから顔を覗かせる。
「百……どうだ?最近、根を詰めすぎてないか?」
「お気遣いありがとうございます。ですが、自己管理なら出来ておりますわ」
「そうか……母さんから聞いたよ。雄英高校、A判定だったそうじゃないか。八百万家の当主として……何より父として、お前のことを誇らしく思っているよ」
「ありがとうございます。ですが、私の目指すものは“その先”にありますわ」
私とのやり取りに何か思うところがあったのか、しばし苦々しい表情をした父は――――やがて重々しくその口を開いた。
「これをお前に伝えたものどうか、悩んでいたんだけどね…………先ほど、付き合いのある関係者から聞いた話だ。彼……似人くんも受験するそうだよ。“雄英高校のヒーロー科”を」
その言葉を聞いた瞬間。
私の中で止まっていた時計の針が――再び動き出していく姿を幻視しました。
ツェリ君が八百万をほったらかしたのは、面白いこと探しが理由ですが……間接的には『原作知識を失った影響』+『肉体の元の性格が強く出始めたから』ってのが原因になってます。
それと『失った記憶』は、あくまで原作知識に限定されますが……ヒロアカの広告やグッズ・表紙が目に入った瞬間、ヒロアカについて考えた時間なども含まれるので、思った以上に記憶を失ってます。つまり正確には、原作知識+関連する前世の記憶全てって感じです。
あーあ、乙女の純情と人生と男性観をぐっちゃぐちゃに破壊しちゃって…………どーすんのよ?(他人事)