史上最悪の『念能力者』だって、ヒーローになりたい! 作:焼き豚さんいらっしゃい
そう言えば、少し前の堀越先生の新作読み切りも中々よかったです。
内容は結構ホラー寄りでしたが、ヒロインが普通に可愛かった!
冬の朝。吐く息を白く染めながら、制服姿の受験生たちが絶え間なく行き交っていた。
マフラーに顎を埋める者……参考書を片手に、最後の一頁まで必死に目で追っている者。冷え切った空気の中、靴音と話し声だけが妙に鮮明に響いている。
そんな大勢の受験生たちが行き交う
(思ってた以上にレベルが低いな……記念受験のクセにワンチャンあると思い込んだ勘違いバカ、実技試験の内容すら決まってねぇのに周りを威圧する暴走バカ……死人みたいな顔色で一人言を呟いてたかと思えば、校門前で転けそうになったパニック・バカまで居る始末…………まるでバカの見本市だな)
小さく舌打ちを漏らし、雄英高校の敷地内を進んでいく。後ろを振り返れば、ここまでの送迎を担当してくれたミュハンと、付き添いに来た印照が手を振っているのが見える。
乾燥した石畳みの感触を足の裏で感じながら――俺は一般入試での受験を選んだことを、少しばかり後悔していた。
(ヒトの皮を被った能無しのブタ野郎共が……ヒッグスもESもiPSも、カントもヘーゲルも……ハクホーもフェヒナーもゴールドバッハすらも聞いたこと無さそうな……教養のカケラもねぇバカども。本当に、こんなのが雄英のレベルなのか?)
ストレスによって単純化しかける思考に……津穢理は内心で待ったをかける。
『国立雄英高等学校』は日本が誇る最大の高等教育機関であり、中でもヒーロー科は(所属する者も設備も)世界有数の実力者揃いという触れ込みだ。
(そもそも……一般入試の倍率は300倍。偏差値も79〜80前後だったはず。だとすれば…………ここに居るほとんどが不合格だな。そう思えば多少……溜飲は下がるな)
下がりきっていたテンションをなんとか自力で持ち直した俺は――ポケットの中で受験票を握り締め、不適な笑みを浮かべながら会場へと向かった。
「今日は俺のライヴにようこそー! エヴィバディセイヘイ!」
登壇したプレゼントマイクが声を張り上げる。受験当日という事もあってか、会場内の雰囲気は冷え切っており――彼の呼びかけに答える学生は、誰1人としていなかった。
現在、数えきれないほどの受験生たちは、雄英敷地内に存在する大ホールのような場所へと一斉に集められている。
見渡す限りの座席が人で埋まっており、数えるのも億劫なほどだが…………大して興味も湧かなかった俺は、大人しく手元の資料に視線を落とす。
端的に言えば、模擬市街地を舞台とした『10分間の戦闘演習』。
(ふむふむ……これに加えて、
そんなことを考えていると……何やら真面目そうな受験生が、プレゼントマイクを巻き込んで一悶着起こしている。
とはいえ、自分としては“一連のやり取り”にあまり魅力を感じることもなかったので、耳だけを傾けながら情報を集めていく。
(なるほど。終盤には0Pのお邪魔虫を投入ね……つーか、これだけか?天下の雄英ヒーロー科の実技試験が?…………いや、まだ何か
頭の中で情報を整理した似人は、そのまま席を離れる。じきに実技試験会場への案内も始まるだろうと、期待に胸を膨らませながら。
バスを降りた先にあったのは、圧倒的な規模を誇る箱庭だった。
見渡す限りのビル群はまるで“本物の市街地”そのもので、改めて雄英高校の規格外さを思い知らされる。仮に日本トップクラスの国立学校だということを差し引いたとしても、一つの学校の中に複数の市街地を作るなど――常人には推し量れない領域なのは確かだろう。
「ヒュ〜、さっすが雄英高校。規模が違うね。これはちょっとテンション上がるかも♡」
上機嫌に口笛を吹きながら、軽薄な笑みを浮かべる。
入試にこれだけ力を入れている事もそうだが、これだけ施設が充実しているとなれば……入学した後の楽しみも増えるというものだ。
「印照ちゃんに“ネタバレ禁止”を言っておいて良かったぜ…………にしても。流石に鬱陶しいな」
いくら試験会場が広大とはいえ――受験生の数も莫大で、スタート地点も限られているとなれば――必然的に人口密度も上がる。津穢理の周囲には既に、イベント会場さながらの人混みが出来ていた。
(……なるほど。スタート直後に人でごった返して、序盤に身動きが取れなくなるのも『試験の一貫』ってか)
「なら、俺も
念能力における基礎。四大行の中で、自らのオーラを増大させる“技能”。
『練』ッ!!
瞬間、“纏”で押し留めていた津穢理のオーラが爆発する。それは決して、
“人類史上、類稀なる念の天才”が10年間欠かさずに訓練し、個性を併用することで到達した領域は――まさに至高と呼ぶに相応しい。達人すらも超越した津穢理の最大オーラの奔流は、物理的な圧力をも感じさせる程だった。
一般人にオーラを知覚することは出来ない。ゆえに……彼らは気付けない。
津穢理の肉体から、まるで天にも昇るような――あまりに膨大で邪悪なオーラが漏れ出していることを。
しかし、視覚では感じ取れなくとも。生物としての本能は、何よりも鋭敏に“
一瞬にして、津穢理の周囲から受験生たちが離れる。否――それだけではない、会場近くにいた鳥や小動物までもが
しかしながら……当の受験生たちは自分の身に「何が起こったか」を理解出来ない。頭で考えるよりも早く、身体が自然に彼から距離を取っていた。
何もされていないというのを
周囲の雑音から解放された津穢理は「んーっ」と空に向かって両腕を伸ばしながら、胸いっぱいに新鮮な空気を取り込む。
「フゥ〜……ようやく静かになったな。あぁ、最初からこうしときゃ良かったか」
プレゼントマイクの号令によって、試験開始が告げられる。
特に何の準備もしていなかった(手の内を明かしたくないので、今回の試験では『刹那の10秒』を温存する予定)ので、開始の合図と同時に市街地に向かって大人しく走り始める。とはいえ、事前の“練”で周囲から受験生たちを追い払っていたため――かなり走りやすい環境が整っていた。
(スタートダッシュはそこそこだな。このままブッちぎるか……!)
“凝”により、練り上げたオーラを両足に集中させ、一時的に脚力を強化する。
コンクリートで出来た地面を踏み砕くほどの勢いで加速し、他の受験生たちを一気に引き離していく。
『標的補足!』
『標的補足!』
『標的発見!ブッコロス!』
市街地を駆け抜けていくと、目の前から3体の1P敵が現れる。
目視にて敵を確認した津穢理は、勢いを殺すことなく走り続け――“流”によるオーラの攻防力移動を駆使して、ロボットたちに拳や蹴りを叩き込んでいく。
(脆っ……!)
思っていた以上に、ロボットの造りが脆く――簡単に破壊できてしまったせいで、逆に体勢を崩しそうになるがなんとか持ち堪える。
(あ〜なるほどな。増強型や攻撃系の個性じゃなくても、最低限鍛えてりゃ壊せるくらいの強度に設定してんのか。意外と親切設計だな?)
ロボットの破壊に必要な力加減を脳内で調整しつつ、ふと湧いて出た疑問に不快感を覚える。
(だとすると……いかんせん、
思考を巡らせつつも、走りは止めない。視界に入ったロボットは片っ端から破壊していく。
裏路地、交差点、大通り、頭上……津穢理の間合いに入ったロボットが、一瞬にしてスクラップに変えられていく光景には、ある種の爽快感があった。
(あ゙ぁ〜!!やっぱりな……1〜3Pの敵。どれも
俺は今日、ここに来てから見聞きした情報を振り返りながら『何か見落としがないか』を探っていく。
既に合格ラインに届くだろうロボットは壊してきた。しかし、何か致命的な見落としがあった場合……これで不合格になっては目も当てられない。必死になって頭を捻っていると、パズルのピースが噛み合ったような感覚を覚える。
(『アンチヒーロー行為の禁止』……!プレゼントマイクの口頭説明ではもちろん、資料にも明記されていた“重要ルール”。ヒーロー科の入試なんだ、ヒーローとしての適性を見るのは当然。それに反したなら、失格か減点は妥当な判断…………なら、
瞬間、全身に鳥肌が走るような快感が走る。不快だった疑問が解消され、信頼できる答えに辿り着けたという確信があった。
(この試験のカラクリが理解出来たぜ……恐らく試験には2軸の評価基準が存在する。1つは「単純な敵ポイント」、もう1つが「ヒーロー的な行為による加算ポイント」。下手すりゃ両方に合格最低点があって……敵だけ倒しても不合格、なんて可能性もあったかもな。あぶねぇよ!!!)
そうと分かれば……津穢理は即座に思考を切り替える。
試験開始から7分。合格ラインを優に超えるポイントは獲得し終えている。既に市街地には多くの受験生たちが入り乱れ、ロボットの数もかなり減ってきていたので――――タイミングとしても
『円』ッ!!
発動と同時に、身に纏っていたオーラが高速で拡散していく。
“円”とは念の応用技に分類される一種であり……自らのオーラを薄い膜のように広範囲に広げることで、その内側に入った物質の“位置”や“情報”を、直接
言うなれば、索敵に特化した“念の応用技”。
しかしながら、その特化した性能ゆえにデメリットもまた明確。物理的攻撃に対して無防備になったり、大量に流し込まれる情報量によって負荷を感じるだけでなく……そもそも、本人の才能によって全く使い物にならない場合すらあった。
だが……津穢理には『個性』としての“オーラ操作”能力が存在する。
さらには“円”の使用に関して己の中で基準を設けておくことで――使用時におけるリスクを極限まで下げることに成功していた。
(個性と併用して……周囲50mまで“円”を広げる!常に奇襲を警戒しつつ、戦闘開始と同時に即座に“円”を解除……!これを徹底!)
“円”の展開と同時に、似人の脳内に膨大な情報が流れ込んでくる。
受験生たちや建築物、ロボットの位置やその状態まで。ありとあらゆる情報を入手し、置かれている現状を把握した似人は――喉の奥で小さく笑いを漏らす。
「試験のギミックは理解した……戦況も整えた…………さてと“
試験開始から8分半。残すところあと90秒となったところで……津穢理は既に5人以上の受験生を
“円”による広範囲索敵で、ロボットに取り囲まれ苦戦している受験生たちを見つけ出し――“絶”による隠密で接近し、華麗に救い出す。去り際に
津穢理の脳内では、既に首席合格のラインが見えてきていた。
(おっと……この路地の先に奇襲されかけてる
パルクールの要領で市街地を駆け抜け…………刺々しく逆立った赤髪の少年を狙い、背後から襲おうとしていたロボットを軽く蹴散らす。
「キミ、大丈夫かな?後ろから襲われそうになっていたよ?」
心にもない労りの言葉を述べながら、少年の方を振り向く。
ギザギザした歯列に、吊り上がった鋭い目付き。皮膚の表面は黒曜石の刃のように鋭利に尖っており……彼の個性が“皮膚の硬質化”か、それに類する能力であることが推察出来た。
「お?……おぉ!!全く気付かなかったぜ!ありがとな!俺の名前は
恐らくは、気さくでお人好しなヤツなのだろう。満面の笑みを浮かべながら自己紹介を始めようとする彼を無視して、俺は次なるポイント獲得に向けて走り出した。
背後から「あれ?聞こえてない?なぁ、せめて名前くらい……」という声が聞こえてくるが、平然を装いながら無視を決め込む。俺は何も聞いていない。二度と会うことのないだろう受験生相手に雑談するくらいなら、残り時間いっぱいまでスコアを伸ばしたい。
9分経過――残り60秒。
ロボットの総数が大幅に減り……膠着し始めていた試験会場に大きな変化が起こる。地響きのような轟音とともに、離れた場所に存在していたビル群がドミノ倒しのように崩壊していく。
受験生たちの間に動揺が走る。中には悲鳴を上げる者さえ居た。
そんな混乱の中心地に――市街地の瓦解によって巻き上がる土煙のなか、巨大な黒い影が浮かび上がった。
「ハハハッッ!まるで特撮映画じゃねぇか!あれが0P
津穢理は逡巡する。このまま、0P敵に向かっていくか否か。
走って数十秒ほどの距離には――巨大ロボの攻撃に巻き込まれ、ゲガをしている女子生徒たちの姿が見える。
(いや……これは“ナシ”だな。何より
傷付いた女生徒たちに背を向けながら……俺は
やがて、あっという間に60秒が経過し――市街地全体に試験終了を告げるアラームが鳴り響く。
受験者、“津穢理似人”。
国立雄英高等学校ヒーロー科を首席合格。備考……筆記試験及び実技試験の合計点が歴代最高得点を更新。
ヒロアカで1番好きなキャラは……ミルコです。どうか私を蹴り殺してください。
今回は、津穢理くんの“発”以外の『念能力スペック』をお披露目する回でした!!