日本国召喚~帰還艦隊~   作:シェリダン

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第2章ー6話「艦砲射撃1」

■中央暦1643年5月上旬 第二文明圏東南海域の補給基地 夜

 

 

 地下司令部は、これまでとは別種の慌ただしさに包まれていた。

 

「機密書類は、一片たりとも残すな! 焼却炉が間に合わぬなら、片端から破り捨てろ! 暗号表は、最優先で処分しろ!」

 

 ケトスは、駆け回る兵たちの間で、矢継ぎ早に指示を飛ばしていた。

 

「地上戦の準備を急げ。海岸線に陣地を構築し、火点を配置。陸戦隊を、持てる限り展開させろ。敵を、易々と上陸させるな!」

 

 もはや、海上で敵を食い止める術はなかった。航空隊は壊滅し、迎撃に出した潜水艦隊からの連絡も、とうに途絶している。近隣の島の観測所からは、敵艦隊が補給基地の島へ刻一刻と接近しつつあるとの報せが届いていた。

 

 敵がこの島へ取りつく前に排除する――その最後の手段が、すべて潰えたのだ。

 

 ならば、残された道は、島での地上戦のみ。覚悟を決めるよりほかなかった。

 

「司令」

 

 副司令のアダラ少佐が、歩み寄ってきた。

 

「退避部隊の艦隊が、まもなく出航いたします」

 

「……そうか。もうそんな時刻か」

 

 ケトスは、手を止めた。

 

 戦闘に直接関わらぬ要員は、レイフォル地区へと退避させることになっていた。そして――護衛艦隊司令官リゲル大佐も、その艦隊に同行する手筈となっていた。

 

「見送ってくる」

 

 ケトスは、地下司令部を後にし、地上へと続く通路を上っていった。

 

 

 

 島の山の上に出ると、夜気が頬を撫でた。

 

 眼下に、闇に沈んだ入り江が見える。そこから、3隻の艦が、ゆっくりと外洋へ出ようとしていた。水上機母艦が1隻、特設巡洋艦が1隻、そして補給艦が1隻。いずれも灯火管制を敷いており、その姿は、夜目にうっすらと滲んで見えるばかりだった。

 

 目指すのは、敵艦隊ではない。レイフォル地区への、逃亡だった。

 

 ケトスは、リゲルとの最後のやり取りを思い起こした。

 

 リゲルは、最初、頑として同行を拒んだ。自分も島に残って戦う、と言って聞かなかったのだ。

 

『冗談ではない。部下を死地に残して、自分だけ逃げ出せというのか。そんな真似が、できるか』

 

 その言葉に、ケトスは苦労して説得を重ねた。

 

『考えてもみろ、リゲル。我々が、想像の遥か上を行く敵と戦っている――この事実を、本国に正しく伝えねばならんのだ。航空隊を一方的に薙ぎ払った、あの誘導弾。あんなものを、ただの戦死報告で済ませてみろ。本国は、何も知らぬまま、次の犠牲を重ねるだけだ。それを伝えるには、状況を正確に知る上級将校が、一人でも多く生きて帰らねばならん。これは、逃亡ではない。任務だ』

 

 その理屈に、リゲルもついには折れた。

 

「……まったく、口の減らん男だ」

 

 ケトスは、思わず苦笑を漏らした。あの強情なリゲルを説き伏せるのに、どれほど骨が折れたことか。

 

「司令、艦隊、出航いたします」

 

 傍らのアダラが、静かに告げた。

 

 別れ際、リゲルは言った。間に合うはずもないと、互いに分かっていながら――それでも、必ず救援部隊を連れて戻る、と。そう言い残して、彼は艦へと乗り込んでいった。

 

 3隻の艦影が、入り江を抜け、外洋へと滑り出していく。灯火管制のため、その姿は、闇の中にぼんやりと溶けて、今にも見えなくなりそうだった。

 

 ケトスは、その背を、じっと見送った。

 

(無事に、本国へ着いてくれ。そして、伝えてくれ。我々が、一体、何と戦っているのかを――)

 

 祈るような思いで、遠ざかる艦影を見つめる。

 

 その、ときだった。

 

「……何だ、あれは」

 

 ケトスの目が、海面の一点を捉えた。

 

 暗い海の上を、低く、滑るように走る、淡い光の尾。それが――いや、それらが、いくつも。猛烈な速度で、退避艦隊へと迫っていくのが見えた。

 

 ぞっと、背筋が粟立った。猛烈に、嫌な予感がした。

 

「アダラ! 艦隊に警告を――」

 

 言いかけた、その刹那。

 

 先頭を進んでいた特設巡洋艦の艦体に、その光の尾が突き刺さった。

 

 ――刹那、闇を引き裂く、巨大な爆炎。

 

 夜の海が、真昼のように赤く照らし出された。轟音が、数瞬遅れて、山の上のケトスのもとまで届く。

 

「リゲル……!」

 

 ケトスは、絶叫した。よりにもよって、リゲルの乗った特設巡洋艦が。

 

 炎上する特設巡洋艦に、なおも次の光の尾が、また一本と吸い込まれていく。命中のたびに、艦体は内側から爆ぜ、引き裂かれていった。あの航空隊を薙ぎ払った誘導弾――それと同じものが、今度は艦を屠っているのだ。ケトスは直感した。艦はろくに抗うこともできぬまま、火だるまとなって、あっけなく海中へと没していった。

 

「そんな……そんなことが……」

 

 呆然と立ち尽くすケトスの目に、さらに何本もの光の尾が、闇の海を裂いて迫りくるのが映った。

 

 異変に気づいたのだろう。残る水上機母艦と補給艦が、灯火管制をかなぐり捨て、サーチライトを煌々と点灯した。光の筋が、必死に夜の海面を薙ぎ払い、迫る脅威を探す。

 

 そして、両艦の機銃が、一斉に火を噴いた。

 

 無数の曳光弾が、水面を跳ねながら、迫りくる光の尾へと殺到する。

 

 だが――それは、あまりに無謀な抵抗だった。

 

 海面すれすれを這うように、恐るべき速さで飛来する、あの光の尾。その正体が何であれ、弾体はあまりに小さく、あまりに低い。闇雲に撃ち上げる機銃で、それを捉えるなど、奇跡にも等しかった。曳光弾の雨は、ただ虚しく夜空と海面を彩るばかりで、ただの一本も、その細い影を捉えることはできなかった。

 

 光の尾は、機銃弾の幕をやすやすと潜り抜け――

 

 水上機母艦の横腹を、補給艦の舷側を、深々と貫いた。

 

 二度、三度と続く炸裂。サーチライトが力なく天を仰ぎ、やがて消える。船体は、たちまち大きく傾ぎ、白い水柱と黒煙を噴き上げながら、急速に海面下へと沈んでいった。

 

 すべてが、終わるまで、いくらもかからなかった。

 

 退避艦隊――3隻は、一隻残らず、夜の海に呑まれて消えた。

 

「あ……ああ……」

 

 ケトスの膝から、力が抜けた。その場に、がくりと崩れ落ちる。

 

 救援を連れて戻ると誓った友も。本国へ真実を届けるはずだった希望も。何もかもが、たった今、あの暗い海の底へと沈んでいった。

 

 もはや、誰も、この島の窮状を本国へ伝える者はいない。

 

 ケトスは、崩れ落ちたまま、ただ呆然と、燃え残る海面の残り火を見つめていた。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 護衛艦いぶきの艦橋から、笠井海将と艦長の大塚は、闇の中に横たわる大きな島影を見つめていた。

 

 補給基地があるとされていた島だ。

 

「やはり、ここで間違いなさそうですね」

 

 大塚が、いつもの穏やかな口調で言った。

 

「先ほど、大型の艦が、この島の入り江から逃げ出そうとしていましたから。隠れ家は、ここでしょう」

 

「ああ」

 

 笠井は短く頷いた。逃げ出した艦は、すべて対艦誘導弾で討ち取った。これで、この島の正体は、もはや疑いようがなかった。

 

 笠井は、後方に続く輸送隊へと目をやった。あさやけをはじめとする輸送艦の数々。そして、ムー海軍の艦も。

 

「……ここまでは、彼らを無傷で連れてこられた」

 

 航空攻撃も、潜水艦の待ち伏せも、すべて防ぎきった。一隻の輸送艦も、一人の将兵も、失わずにここまで来た。

 

「ですが」

 

 大塚が、珍しく、わずかに表情を引き締めた。

 

「本番は、ここからですな」

 

「ああ。ここから先が、一番難しい」

 

 海の上での戦いとは、勝手が違う。これから始まるのは、敵の地に兵を上げ、陣地を構える敵を相手取る、上陸戦だ。

 

 夜陰に紛れ、島影が、徐々に大きくなっていく。波濤の音が、少しずつ高まり、磯の匂いが鼻をかすめる。

 

 やがて――

 

 第五護衛隊群は、ついに、その島へと取りついた。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 護衛艦いぶきのヘリ甲板――かつて水上機のカタパルトが据えられていたその場所では、ヘリ格納庫から運び出された無人機が、専用のキャリアーに載せられ、発艦の準備を進めていた。

 

 RQ-21。翼幅4.8メートル、重量わずか34キロという小型の無人航空機である。

 

 もともとは在日米軍が運用していた機体だった。52口径155ミリ三連装砲――その艦砲射撃の威力を十全に発揮するには、弾着を観測し、目標へ正確に弾を導く「眼」が要る。艦載可能な無人観測機を探していた防衛省は、在日米軍からRQ-21の提供を受け、これを日本企業がそっくりそのまま複製生産したのだった。むろん、いつの日か元の世界へ帰還した暁には、ライセンス料を全額、日本政府が負担するという確約のうえでの話である。

 

 整備員が、RQ-21を専用カタパルトのレールに固定する。やがてエンジンが始動し、機首のプロペラが唸りを上げて回転を速めていく。回転が十分に上がったところで――

 

 ばしゅっ、と圧縮空気が解き放たれた。

 

 空気圧式カタパルトに射出されたRQ-21は、ふわりと夜空へ舞い上がり、闇に紛れて島影へと飛んでいった。姉妹艦のくらまからも、同じように何機かが発進していく。小さなプロペラの音だけを残し、無人機の群れが、暗い島の上空を目指して散っていった。

 

 いぶきの艦橋から、その様子を見つめながら、大塚は感慨深げに呟いた。

 

「無人の機が、ああして自分で飛んで、敵を見つけてくる……。我々の時代じゃ、考えられませんでしたな」

 

 彼の言う「我々の時代」とは、旧き海軍の頃のことだ。あの時代、無線で操る飛行機といえば、せいぜいが訓練用の標的機が関の山だった。電波で誘導するそれは、ラジコン仕掛けの延長にすぎず、自ら敵を捜し、観測し、報せを送ってくるなどという芸当は、夢物語でしかなかった。

 

「時代は変わった、ということだ」

 

 笠井も、夜空に消えていく機影を見やった。

 

「聞けば、近頃は観測だけでなく、みずから攻撃する力を持った無人の兵器も、開発と配備が進んでいるそうだな」

 

「ええ。このまま行けば、いつかは戦場から、人の姿が消える日も来るのでしょうか」

 

 大塚の言葉に、笠井はしばし黙し、それから静かに首を振った。

 

「……いや。たとえ機械がどれほど進もうと、最後に引き金を引くのは、人でなければならん。命を奪う重みを、機械に背負わせてはならんのだ」

 

 そう言って、笠井は表情を引き締めた。

 

「目標の捜索、ならびに砲撃準備にかかれ。夜が明ける前に、片をつける」

 

「了解しました」

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

■中央暦1643年5月上旬 第二文明圏東南海域の補給基地海岸陣地 夜

 

 

「掘れ! 手を止めるな! スコップが足りんなら、手で掘ってでも穴を作れ!」

 

 グラ・バルカス帝国海軍陸戦隊、陸上警備科の中隊長ヴェルクは、部下たちに檄を飛ばしながら、自らもスコップを振るって塹壕用の穴を掘り進めていた。額から滴る汗が、夜目にも光る。

 

 もとより、この補給基地は、秘匿性を第一として築かれたものだった。万が一にも敵に嗅ぎつけられれば、まずは航空戦力や潜水艦をもって、その第一波を撃退する。そして敵がより大規模な第二陣を差し向けてくる前に、基地を放棄し、また別の島へ補給基地そのものを移し替えてしまう――そういう想定で運用されていた。あくまで、神出鬼没の補給拠点として立ち回ることこそが、この基地の生命線だったのだ。

 

 ゆえに、地上の防御陣地は、お世辞にも強固とは言えなかった。配置された地上戦力も、わずか一個大隊相当の警備隊があるのみ。本格的な地上戦を想定した造りには、なっていなかったのだ。

 

 だが、現実はどうだ。第一波を撃退するはずだった航空隊は、逆に一方的に壊滅させられ、頼みの潜水艦隊からの連絡も途絶えた。撃退の算段が根こそぎ崩れ去り、敵艦隊は無傷のまま、この島の沿岸部にまで到達してしまったのだ。脱出の機会など、とうに失われていた。もはや、海上で食い止める術はない。残された道は、敵が上陸する前に、一刻も早く陣地を構え、迎え撃つことのみ。警備隊は総出で、必死に穴を掘り続けていた。

 

「中隊長!」

 

 沿岸部を監視していた見張り員が、血相を変えて叫んだ。

 

「敵艦、発砲! 発砲光を確認しました!」

 

「全員、伏せろ! 艦砲射撃が来るぞ!」

 

 ヴェルクの号令に、兵たちが一斉に地に伏せ、掘りかけの穴へと身を投げ入れる。

 

 数瞬の後――

 

 ずしん、ずしん、と腹に響く轟音が、夜気を震わせた。

 

 幸い、着弾はこの付近ではなかった。だが、後方からは、それよりはるかに激しい炸裂音が、立て続けに轟いてくる。どうやら、基地の中枢に近い後方の陣地が、猛烈な砲撃に晒されているらしい。

 

 ヴェルクは、その砲声に耳を澄ませ、敵の砲の正体を推し量った。

 

(この音……150ミリ級か。巡洋艦クラスの主砲だな)

 

 砲の口径は、おおよそ見当がついた。だが――解せないのは、その発射速度だった。

 

 砲声の間隔が、あまりに短い。ひっきりなしに、間断なく砲が吼え続けている。巡洋艦の主砲が、これほどの速さで撃てるものだろうか。

 

「おい」

 

 ヴェルクは、近くの部下を呼んだ。

 

「沖の敵艦……砲撃しているのは、本当に二隻だけか?」

 

「は……? は、はい。見張りの報告では、確かに二隻かと……」

 

 部下も、困惑した様子で答えた。

 

 ヴェルクは双眼鏡を掴み、闇に沈む沿岸の沖へと向けた。明滅する発砲炎を頼りに目を凝らす。

 

 確かに、砲撃しているのは二隻。それは間違いない。だが――

 

「なんだあれは…」

 

 双眼鏡の円い視野の中で、二隻の艦影が、次々と発砲炎を閃かせていた。

 

 一隻の艦の前部で、三つの砲口がほぼ同時に、ぱっと炎を吐く。三連装砲――一基に砲身を三本束ねた砲塔だ。その三本が、煙の尾を引いて砲身を沈め、わずかな間を置いたかと思うと、もう次の閃光を放っている。装填の手間取りなど、まるで感じさせない速さだった。並みの巡洋艦の主砲が、一発撃つごとに重い装填動作に時間を費やすのとは、わけが違う。

 

「……速すぎる」

 

 ヴェルクは、唖然として呟いた。

 

 あの二隻きりで、まるで一個戦隊が束になって撃ち込んでくるかのような、信じられぬ密度の砲火を浴びせてくる。三連装の砲口が、息つく間もなく火を噴き続ける――そんな砲を、ヴェルクは見たことも、聞いたこともなかった。

 

「中隊長! 本部から通信です!」

 

 警備隊本部との有線通信を担当する通信兵が、受話器を差し出した。ヴェルクは受け取り、耳に当てる。

 

『……こちら本部。レーダー施設、無線施設が砲撃を受け、損壊。いくつかの防御陣地も、正確な砲撃を受けている。砲撃の標的にされぬよう、火砲と兵員を、ただちに遮蔽せよ。繰り返す――』

 

 夜間だ。灯火管制も徹底している。なのに、なぜ、これほど正確に陣地が狙い撃たれるのか。ヴェルクが指示を出そうと口を開いた、まさにその瞬間――

 

 すぐ近くの高射砲陣地に、夜空を裂いて落下した一弾が、直撃した。

 

 目もくらむ閃光。遅れて、大地そのものを蹴り上げるような炸裂が轟いた。砲架が、土嚢が、そこに取りついていた砲員たちが、爆風に巻かれて宙へと舞い上がる。引きちぎられた高射砲の砲身が、ぐにゃりとひしゃげ、火の粉を曳きながら、夜の闇へと吹き飛んでいった。後に残されたのは、深々と抉れた大地と、もうもうと立ち昇る黒煙ばかりだった。

 

「うわっ……! 退避! 退避壕へ!」

 

 ヴェルクは、部下たちと共に、転がるように退避壕へと飛び込んだ。背後で、土砂と鉄片が降り注ぐ。

 

 砲撃は、その後も止まなかった。それも、ただ闇雲に撃ち込まれているのではない。貴重な重機関銃陣地を、対戦車砲陣地を、まるで白昼に見えているかのように、一つひとつ正確に選び出しては、的確に潰していくのだ。

 

 退避壕の中で身を縮めるヴェルクの耳に、その破壊の足音が、絶え間なく届いてくる。右手の対戦車砲陣地が、轟音とともに沈黙する。続いて左後方の機関銃座が、地響きを上げて吹き飛ぶ。砲弾が落ちるたびに、大地が脈打つように震え、退避壕の天井から、ぱらぱらと土が零れ落ちた。悲鳴と怒号、そして炸裂音が、夜の島に絶え間なく折り重なっていく。一発、また一発と、警備隊の牙が、確実にへし折られていった。

 

「なぜだ……なぜ、こうも正確に……!」

 

 ヴェルクは、混乱の極みにあった。

 

 灯火管制下の、夜間の砲撃である。本来ならば、敵はこちらの位置を正確には掴めぬはずだ。なのに、まるで白昼に丸見えであるかのように、陣地が、装備が、片端から潰されていく。

 

 わけが分からなかった。だが、考えている暇はなかった。

 

「散らばるな、退避壕に入れ! 火砲から離れろ!」

 

 ヴェルクは、なおも周囲の部下たちに、退避壕へ逃げ込むよう叫び続けた。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 そうして、退避壕へと人が集まっていく様子を――島の上空から、静かに見下ろす眼があった。

 

 RQ-21である。

 

 高度数千メートルの闇の中を、ほとんど無音で旋回しながら、その電気光学・赤外線センサーが、夜陰に蠢く人と装備の熱を、鮮明に捉えていた。退避壕の入り口に、人が密集していく。その様子が、克明にデータとして送られていく。

 

 間を置かず、効力射の要請が発せられた。

 

 護衛艦いぶき。その前部に据えられた155ミリ三連装砲の一基が、無人機の伝える諸元に従い、ぴたりと砲口を退避壕へと向けた。

 

 この砲の母体となった陸上自衛隊の99式自走155ミリ榴弾砲は、毎分6発以上という高い発射速度に加え、MRSI――多数の砲弾を、ほぼ同時に同一目標へ叩き込む芸当をも可能とする砲だった。仰角と装薬量を少しずつ変えながら、一門の砲から立て続けに撃ち出された砲弾が、放物線の長短を相殺し、まるで申し合わせたかのように、同じ瞬間に目標へと降り注ぐ。その射撃機構を、惜しみなく三本束ねたのが、この三連装砲である。一基だけでも、旧来の巡洋艦の主砲塔とは比べ物にならぬ手数を、目標へと注ぎ込むことができた。

 

 そして――斉射。

 

 いぶきの三連装砲が、夜の海上で巨大な発砲炎を噴き上げた。三本の砲身から放たれた155ミリ砲弾が、闇を引き裂いて飛翔し、寸分の狂いもなく退避壕の一帯へと落下する。

 

 着弾。

 

 立て続けに撃ち出されたはずの砲弾が、申し合わせたかのように、ほぼ同じ瞬間、退避壕の一帯へと殺到した。

 

 幾発もの155ミリ砲弾が、束になって炸裂する。逃げ込もうとひしめいていた兵員もろとも、その一角が根こそぎ抉り返された。退避壕の土塁は内側から崩れ落ち、土も、鉄も、人も、すべてが一斉に噴き上がる爆炎と土煙の柱の中へと呑み込まれていく。砲煙が晴れたあとには、月面のクレーターを思わせる、いくつもの巨大な弾痕が、寄り添うように並んで残るばかりだった。

 

 島の上空には、何機ものRQ-21が舞っていた。敵の兵員を、装備を、陣地を、夜の闇の中から次々と探し出しては、いぶきとくらまへとその位置を送り続ける。

 

 有人の機と比べて、はるかに小さく、はるかに遅く飛ぶ無人機は、レーダーにとっては厄介な相手だった。その微弱な反射は、波や雑音にまぎれ、ノイズとして処理されてしまうことが多い。現実の世界でも、ウクライナでの戦いにおいて、冷戦期に設計された防空レーダーですら、小型無人機を捉えきれぬ事例が、数多く報告されている。

 

 この補給基地に据えられていた対空警戒レーダーもまた、飛来するRQ-21を、ついぞ捉えることができなかった。そして、そのレーダー施設そのものが、真っ先に砲撃で破壊されてしまっている。

 

 もはや、空を見張る眼を失ったこの島の上空を、RQ-21は、まさに死神のごとく、自在に跋扈した。

 

 上空から見つけ出された陣地が、装備が、兵員が、片端から、いぶきとくらまの砲火に薙ぎ払われていく。

 

 夜の島は、一方的な破壊の坩堝と化していった。

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