クルタ族の継承者   作:マルク

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2.覚悟を胸に

 

 

ベルは改めてコップいっぱいの水に木の葉を浮かべた。

今度は違う。

身体を覆うオーラを纏い、静かに両手を添える。

 

「……」

 

数秒後、透明だった水がゆっくりと色づき始めた。

 

「……あ、色が変わった」

 

薄い琥珀色へと変化した水面を見て、ベルは目を丸くする。

水見式。

水の色が変化するのは放出系。

 

「でも放出系かぁ……」

 

嬉しさより先に、複雑なため息が漏れる。

 

「具現化系か変化系が良かったなぁ」

 

クラピカ。

キルア。

ヒソカ。

どれも応用力の塊だ。

対して放出系と聞けば、真っ先に思い浮かぶのはレイザーやフランクリン。

強い。

だが正面から殴り合うタイプが多い。

 

「強化系じゃウボォーギンに勝てないし」

 

あの怪物は真正面から挑む相手ではない。

 

「操作系も微妙すぎる……」

 

シャルナーク。

そして団長。

 

「あの二人なら能力の仕組みなんてすぐ見抜くだろうし」

 

旅団は頭が切れる。

一度見せた能力は二度目から通じない相手ばかりだ。

 

「うーん」

 

腕を組んで唸る。

だが、そこでふと系統図を思い出す。

 

「……ん?」

 

放出系。

その隣。

 

「操作系…」

 

ベルは目を瞬かせた。

 

「そうだ」

 

ニヤリと口元が吊り上がる。

 

「見破られること前提で能力を作ればいいんだ」

 

相手は能力を解析してくる。

ならば、解析されることまで計算に入れる。

 

「『能力を理解した』と思わせる能力」

 

一段目が本命ではない。

二段目。

三段目。

見破った瞬間こそ罠。

 

「心理戦なら、むしろ旅団相手の方が引っ掛けやすいかも」

 

知能が高い人間ほど、自分の推理を信じる。

そこを利用する。

 

「よし」

 

ベルは拳を握った。

 

「放出系だから弱いんじゃない。放出系だからできる戦い方を考えよう」

 

クルタ族を守るためなら。

真正面から最強を目指す必要はない。

旅団全員を倒す必要もない。

必要なのは――

 

「旅団が、この村を襲う価値はない」と思わせること。

 

そのための能力を、ベルはこれから作り上げていく。

 

 

ベルが静かに纏を維持していると、不意に背後から聞き慣れた声が飛んだ。

 

「……ベル」

 

「ひゃっ!?」

 

驚いて振り返る。

そこには長い白髭を撫でる祖父――クルタ族の長老が腕を組んで立っていた。

 

「げっ、おじいちゃん」

 

「何をしておる」

 

ベルは慌てて両手を後ろへ隠す。

 

「えっと……その……深呼吸?」

 

「ほう」

 

長老はゆっくり近付く。

そしてベルの身体を包む薄いオーラを静かに指差した。

 

「ならば、その力は何じゃ」

 

「……」

 

ベルの表情が固まる。

誤魔化せない。

見えている。

 

「いつから、それが使えるようになった?」

 

穏やかな声だ。

怒ってはいない。

だが、その瞳には嘘は許さんと強い意志が込められていた。

 

「えっと……最近」

 

「誰に教わった」

 

「ど…独学?」

 

「独学じゃと!?」

 

今度こそ長老の眉が動いた。

念を独学で習得する者はいなくもないが、ごく僅かだ。

ベルは気まずそうに頬を掻く。

 

「なんか見えるようになって……色々試してた」

 

長老はしばらく黙り込んだ。

やがて深く息を吐く。

 

「……ベル」

 

「はい」

 

「修行はそこまでにしておけ」

 

予想外の言葉だった。

 

「え?」

 

「お前にはまだ早い」

 

静かな声が続く。

 

「いや……不要な力じゃ」

 

一拍置いて長老は首を横へ振る。

 

ベルは目を丸くした。

 

「どうして?」

 

「その力を知れば、人は使いたがる」

 

長老は森へ目を向ける。

 

「力は人を助ける事もできる。じゃが、それ以上に災いを呼ぶ」

 

「……」

 

「クルタ族は争わぬ」

 

「森で暮らし」

 

「家族と笑い」

 

「静かに生涯を終える」

 

それで十分なのだと長老は語る。

 

「だから儂らは、この力を子供には教えん。子供が力を振るう日など来てはならぬからじゃ」

 

ベルは俯いた。

胸が痛む。

この人は知らない。

あと数年で、その平穏が血に染まることを。

旅団が来る。

クラピカは一人生き残る。

皆殺しになる。

だからこそ、ベルはゆっくり顔を上げた。

 

「……ごめん、おじいちゃん。私は止めない」

 

「どうしてじゃ」

 

「守りたい人がいるから」

 

長老は静かに微笑む。

 

「皆、お前の家族じゃ」

 

「うん、だから――」

 

ベルは小さく頷く。

拳を強く握る。

 

「私は、家族だから守りたいんだ」

 

その言葉に、長老は何も返さなかった。

返せなかった。

ベルの瞳には、幼い少女が持つにはあまりにも重い覚悟が宿っていたからだ。

長老は胸の内で小さく呟く。

 

(その眼は……何を見ておる)

 

まるで未来を知っている者のような、その悲しみを帯びた瞳を見て、長老は初めて「この子は何かを背負っている」と感じるのだった。

 

 

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