無限ガチャを否定したいおじさんの物語   作:腐ったキノコ

1 / 4
称号だけの「その日暮らし」を続ける40過 ぎの勇者・ガルド。そんな彼のもとに、最 悪の『魔王』ライトの討伐依頼が舞い込 む。勝てる見込みなど万に一つもない絶望 の中、依頼書に記されたある因縁を目にし たおじさんは、静かに覚悟を決める。


第一章:日雇い勇者の大仕事

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・よし、今日の分はこれで終わり、っと」

 

ガルド――国から『勇者』の称号を授かったそ の男は、額の汗をボロ布のような手拭いで拭 い、手配書通りの魔獣の素材をギルドの窓口に ドサリと置いた。

 

返ってきたのは、数枚の銀貨と、わずかな銅 貨。大人一人が数日食い繋ぐのがやっとの、ま さに「その日暮らし」の報酬だ。

 

「ありがとよ、ガルドさん。相変わらずあんた の狩る素材は綺麗で助かるよ 。……………に しても、国から勇者の称号を貰ったってのに、 未だにこんな下級の討伐バイトで食い繋いでる なんて、お国も人使いが荒いねぇ」

 

「言動に気をつけな、受付嬢ちゃん。俺みたい な天才でもなんでもない、ただのしぶといだけ のおっさんに箔をつけてくれただけでも、陛下 には感謝してるさ。それに……………飯は自分で稼い で食うから美味いんだよ」

 

ガルドは懐から安物の煙草を取り出し、火をつ けた。

 

齢40を過ぎ、体には数え切れないほどの戦傷 が刻まれている。ギルドの連中からは親しみを 込めて『ナイトおじさん』と呼ばれていた。

 

そんなナイトおじさんの日常が破られたのは、 その日の夜のことだった。

 

「――勇者ガルド、いや、ナイトよ。国のため に、この世界の平穏のために、ある冒険者を討伐してくれ」

 

夜更けの王城。謁見の間で、国王は恐怖に顔を 青ざめさせながら、一枚の報告書を差し出して きた。

 

そこには、いくつかの国家が、たった一つの軍 勢によって一瞬にして滅ぼされたという惨状が 記されていた。

 

「奴の名はダーク、『無限ガチャ』などという、世界の理を 外れたまやかしの化け物の様な能力を手に入れた。レ ベル9999という神をも恐れぬ化け物たち

 

――『黒の道化師』を従え、自分を裏切った世 界への復讐を始めている。『エルフ女王国』すらも瞬く間に制圧し、女王が誇る精鋭『白の騎士団』すら 壊滅したと言う噂だ……………。今や奴は単なる冒険者の枠を超え、我々の国の間で『最悪 の魔王』と呼ばれている」

 

「――ッ!?」

 

ガルドの口から、安煙草がポロリと床に落ち た。

 

いつも飄々としていたおじさんの顔が、初めて 驚愕に歪む。

 

エルフの国が落とされた。それは、かつて奴隷 のようだった自分を救い、実の弟のように愛し てくれた「エルフのお姉さん」の誇り高き故郷 が、たった一人の少年の私怨によって踏みにじ られたことを意味していた。

 

王宮を辞したガルドは、深夜の寂れた路地裏を 一人歩きながら、国王から渡された正式な依頼 書を見つめていた。その経歴の欄に書かれた、 たった一行の文字列。

 

――元『種族の集い』所属。

 

「………………種族の集い、か」

 

ガルドの口から、自嘲気味な乾いた笑いが漏れた。

 

あそこの醜さを、男は腐るほど知ってい た。各種族のトップが綺麗事を並べ立て、裏で は互いを蔑み、利用し合うだけの呪われた組 織。ガルドの時代のそれはもっと直接的で、暴 力と差別に満ちた本物の生き地獄だった。

 

だからこそ、ダークという少年が、なぜそこま で世界を深く呪ってしまったのか、その絶望と 孤独が、誰よりも分かってしまった。

 

宿に戻ったガルドは、床に座り込んで一晩中、 考え続けた。

 

今のおじさんがどれだけ血を吐くような努力を 重ねようが、あの規格外の化け物どもに力で勝 てる見込みなど、万に一つ、億に一つもありはしない。力 で挑めば、ただ無様に犬死にするだけだ。

 

(なら・・・・・・俺にできることは、何だ?)

 

夜明けの光が室内に差し込んだとき、ガルドは おむろに立ち上がった。その瞳には、晴れやか な、静かな覚悟が宿っていた。

 

辿り着いた答えはあまりにも狂っていた。ーーそれは自らの命と引き換えに、あの少年を説得すること。

 

どれだけ強力な魔法で焼かれようが、一太刀も 返さずにただ言葉の刃でライトの「借り物のプ ライド」を剥ぎ取り、最後に、その身に宿した すべての本物の愛で抱きしめてやる 。

 

「まずは、ケジメをつけにいかないとな」

 

最期を覚悟したおじさんは、その足で、かつて 「窮屈だ」と飛び出した本当の実家へと歩みを 進めるのだった。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。