ナイトおじさんとの激闘から数日。
ライトは高級な装備をすべて外し、旅人のフー ドを深く被り、一人で郊外の小さな農村へと向 かっていた。エリーたちの笑顔を見るだけで、 おじさんの遺した言葉が胸に突き刺さり、息が できなくなっていたからだ。
辿り着いたのは、おじさんが死の直前に立ち寄 った、あの古びた木扉の実家。
震える手でノックをすると、扉の隙間から顔を 覗かせたのは、白髪の目立つ、皺だらけの手を した、小さなお袋さんだった。
「おや………………夜分遅くに、どなたかい? 家のも のなら、誰もいないよ。・・・・・・あぁ、少し前に、 勇者になった親不孝な息子が、珍しく顔を見せ に帰ってきてくれたくらいでねぇ……………」
その言葉を聞いた瞬間、ライトの胸の奥底が激 しく締め付けられた。おじさんは本当に、あの 決戦の直前にこの場所へ帰り、この皺だらけの 温かい手で見送られていたのだ。
「あの・・・・・・おばあさん。その、ガルドさんは…」
ライトの声が、子供のように小さく震える。
「あの子はね、昔から無茶ばかりする子だったんだよ。ヒューマンの無能な荷物持ちだから って、毎晩ボロボロになって剣を振ってね え…………… 。でも、あの子のことを本気で怒 って、泣いて心配してくれる素敵な先輩たちに出 会えて、あの子は本当に幸せ者だったんだ 。…………あんたも、あの子のお友達か い?だったら、あの子が帰ってきたら、今度 はあんたも一緒に、うちでパンでも食べていきな
さい」
「――つ」
ライトはそれ以上、言葉を返すことができなか った。
おじさんには、生きて自分を待ってくれる親が いた。そして、無能だったあの日から、毎晩の 泥臭い足掻きをちゃんと見ていて、涙を流して 心配してくれた、ずっと年上の大人の先輩たち がいた。だからこそ、おじさんは世界を呪う怪 物になどならず、誰かを救うための『本物の勇 者(ナイト)』になれたのだと、ライトは完全 に思い知らされた。
対して、今の自分の周りにいるのは、主人の暴 走を泣いて止めることすらできない完璧な人形 たちだけ。
おじさんの遺言が、再びライトの脳裏に、 ない烙印のように鮮烈に響き渡る。
『一生かけて、本物の優しさに触れてこい』
「・・・・・・すみません。・・・・・・すみません・・・・・・っ」
ライトはフードの奥で、溢れ出てくる涙を必死 に堪えながら、ただそれだけを絞り出すように 呟き、老母に深く頭を下げた。それは、かつて 12歳のガルドおじさんが、ただ無力で、申し 訳なさのあまり地面を這いずり回って泣き叫ん でいた、あの『本物の血と涙の言葉』そのもの だった。
おじさんの実家を後にしたライトは、もう二度 と、あの醜い復讐のゲス顔を作ることはなかっ た。
レベル9999の全肯定の虚無を背負いながら、 おじさんの遺した「本物の優しさ」という名 の、あまりにも温かく重い呪いという名の祈りを探 すために。
少年ライトの、本当の意味での「一生をかけた やり直しの旅」が、静かに始まっていくのだっ た。
(無限ガチャを否定したいおじさんの物語―完)