シンフォギアの世界にウィッチクラフトのロリババアに転生した。 作:のうち
キャロルたちは、アメリカでの一件を終え、次なる星遺物の反応が確認されたヨーロッパへ向かっていた。
旅の途中で新たに壇政宗が加わったことで、フォートレスドランの内部は以前よりも賑やかになっている。
キャロルは一行を集め、改めて今回の事件についてのブリーフィングを行っていた。
「以上が、そこのティンカーベルから聞いた情報をもとに推測した今回の事件についてだ」
キャロルが説明を終える。
その横では、白一色の小さな妖精――リースが不満そうに頬を膨らませていた。
「ティンカーベルって呼ぶのやめてくれない?」
「では、ガレージキット」
「もっと酷くなった!」
「静かにしていろ」
「ひどい!」
そんな二人のやり取りを横目に、政宗は資料へ目を通していた。
「なるほど。概ね理解しました」
政宗は一度資料を閉じる。
「ところで、ここって電話は通じます?」
「……まあ、通じるが」
「それは助かります」
政宗は懐からスマートフォンを取り出した。
「すみません。少しばかり、方々に電話をかけてきます」
「今からか?」
「ええ。社員に任せきりというわけにもいきませんから」
政宗はそう言って席を立った。
キャロルはその背中を見送りながら、先日のアメリカでの出来事について考えていた。
――妙だ。
クローラーが現れたのは、こちらが星遺物を調査しているタイミングだった。
しかも、それは一度だけではない。
まるでこちらがやって来るのを見計らったかのように、毎回現れる。
もちろん、クローラーが出現した回数だけを根拠に、誰かが意図的に仕向けていると断定することはできない。
だが――。
「偶然にしては出来すぎている」
キャロルはそう呟いた。
そのままフォートレスドランの内部に造られた長い廊下を歩いていると、前方から政宗の声が聞こえてきた。
「――済まない、小星くん。毎回黎斗のことを任せてしまって」
どうやら電話中らしい。
「……ああ。あいつのことだ。学校から帰っても君か私の仕事場にやって来て、色々やっているんだろうな」
政宗は苦笑する。
「もしあまりうるさいようなら、何かのバグ取りでも手伝わせてやってくれ。ああ、すまない。予定より帰りが遅くなることを周知しておいてくれ」
電話を終えると、政宗は小さく息を吐いた。
「経営者というものは大変だな」
いつの間にか近くにいたキャロルが声をかける。
「キャロルさん」
政宗は振り返った。
「いえ、私も好きでやっていますので」
「息子がいるのか?」
「ええ。生意気盛りの大学生ですよ」
政宗は困ったように笑う。
「母親を亡くしてから、男親一人で育ててきたせいでしょうね。少々甘やかしすぎてしまった」
「ほう」
「そのせいか、わがまま放題でして」
政宗は呆れたように言いながらも、どこか嬉しそうだった。
「ただ、ゲームクリエイターとしての才能は確かです。あの子の思いつきに、我が社は何度も救われていますから」
「……そうか」
その話を聞いたキャロルは、ふと昔のことを思い出した。
自分にも、似たような存在がいた。
義母であるヴェール。
工房に集められた膨大な知識。
自分が望めば惜しみなく与えられた技術。
そして、次々と贈られた様々な品々。
あの人は昔から、自分に甘かった。
自分が何かを欲しがれば、普通なら「子供にはまだ早い」と言われるようなものですら、平然と与えてくれた。
「……ふっ」
キャロルの口元に、自然と笑みが浮かんだ。
「どうしました?」
「いや」
キャロルは首を振る。
「少し昔を思い出しただけだ」
「そうですか」
政宗は微笑む。
だが、その表情がふと真剣なものへ変わった。
「……実は、先ほどの戦闘について少々気になることがあります」
「何?」
「実は――」
政宗は周囲を確認してから声を落とした。
「クロノスの能力についてです」
キャロルは黙って政宗を見る。
「私がクロノスへ変身すると、ゲームフィールドが展開されます。そのフィールドの内部では、私以外の時間が停止する」
「それは先日の戦闘で見た」
「ええ」
政宗は頷く。
「ところが、あの時……時間停止を知覚し、動いていた者が二人いました」
「二人?」
「イヴさんと、リースです」
キャロルの表情が僅かに変わる。
「イヴは、突然周囲の時間が止まったことに驚いて、辺りをキョロキョロと見回していました」
「……あいつらしいな」
「問題は、その陰にいたリースです」
政宗の目が鋭くなる。
「あの時、リースは明らかに状況を理解していました」
「つまり――」
「はい。あの時間停止を、あの場で知覚していた可能性があります」
キャロルは黙り込む。
「このことを、他の連中には?」
「話していません」
「なぜ私には話す?」
「貴方なら、この情報をどう扱うべきか判断できると思いましたので」
政宗はそこで一度言葉を切った。
「それに、イヴさんからは戦闘の後、あの時何が起きたのかと、しつこいくらいに聞かれましてね」
「……」
「彼女自身も、自分が何を知覚したのか分かっていないのかもしれません」
「なるほど」
キャロルは腕を組む。
「リースについては?」
「私は、少々疑っています」
「……私もだ」
キャロルは窓の外へ目を向けた。
「ただし、今はまだ何も断定できない」
「ええ。それで構いません」
その時だった。
「キャロル!」
遠くからイヴの声が響いた。
「アメリカで封印処置をした星遺物ですが、あの後に反応が強くなった地域があります!」
「場所は?」
「ヨーロッパです!」
キャロルと政宗は顔を見合わせる。
「……次の目的地と一致するな」
「ええ」
政宗が頷いた。
「どうやら、我々の行き先は決まったようですね」
フォートレスドランは、そのままヨーロッパへ向けて飛行を続ける。
だが――。
しばらくして。
「……ん?」
政宗が窓の外を見た。
何かが見える。
遠くの空から、何かがこちらへ落下している。
いや。
こちらへ、というより――。
「なんだ、あれは⁉」
政宗が声を上げる。
キャロルたちも一斉に窓へ駆け寄った。
青い空を切り裂きながら、巨大な何かが落下している。
その軌道は――。
フォートレスドランと同じ目的地を指していた。
「……まさか」
キャロルが目を細める。
巨大な影が、徐々に大きくなっていく。
そして次の瞬間――。
轟音とともに、それは地上へ向かって落下していった。
何者なのか。
敵なのか、味方なのか。
それすらも、まだ誰にも分からない。
ただ一つ。
キャロルたちの旅は、また新たな局面へと突入しようとしていた。
今回も最後まで読んでくれてありがとうございます。よければ最後までこのスピンオフの物語をお楽しみください。