ミッション:災厄「ルズローシヴ=レレイ」を消滅させよ   作:Moa

26 / 34
Review:消すべきものが変わりました

前回、こう書きました。

 

ルズローシヴ=レレイは災厄ではありませんでした。

 

ミクリオさんでした。

 

では、災厄と呼んだのは誰ですか。

 

答えが出ました。

 

天界でした。

 

いや、正確には、天界の記録でした。

天界の誓約でした。

天界の上の方にいた、誰かたちでした。

 

重い。

 

今回は、境界層観測塔の上階へ進みました。

 

そこで出てきたのが、天界の門を閉じた時の誓約です。

 

最初に出てきた文言は、まだ綺麗でした。

 

地上の者たちが穢れを越え、

人間と天族が共に在る道を得た時、

天界の門は再び開かれる。

 

なるほど。

 

人間と天族が共存できたら、天界の門が開く。

 

一見、希望の誓約です。

試練を乗り越えたら扉が開く。

そういう話に見えます。

 

でも違いました。

 

深いところに残っていた原文は、少し違いました。

 

人間と天族が共存し続けるに足る世界を成した時。

 

共存する、ではなく。

 

共存し続ける。

 

ここで嫌な予感がしました。

 

共存する、なら分かります。

ある時点で、人間と天族が共に生きられるようになった。

それなら確認できるかもしれない。

 

でも、共存し続ける、は何ですか。

 

どれくらい?

何年?

何世代?

誰が確認するんですか?

どの状態になったら「共存し続けている」と認めてもらえるんですか?

 

エオルミアちゃんが全部確認してくれました。

 

期間の記載なし。

判定者の記載なし。

確認方法の記載なし。

 

だめです。

 

これはだめです。

 

試験範囲も合格基準も採点者も不明な試験です。

しかも落ちたら地上が壊れます。

 

セノアくんの「それ、ずるくない?」が本当に全部でした。

 

ずるいです。

 

そして、もっとひどいのが代償です。

 

誓約代償。

門の再開条件成立まで、地上側における穢れ反応を増幅。

人間個体における業魔化反応。

天族個体における竜化反応。

 

待ってください。

 

共存し続けられる世界になったら門が開く。

でも、その条件が成立するまで、人間は業魔になり、天族はドラゴンになる。

 

順番がおかしい。

 

共存できるか試すと言いながら、共存できないようにしている。

一緒に生きられるか確認すると言いながら、一緒に生きるための足場を壊している。

 

リシェラちゃんが言いました。

 

「それ、試練じゃない」

「邪魔してるだけじゃん」

 

本当にそうです。

 

試練ではありません。

邪魔です。

妨害です。

呪いです。

 

そしてエオルミアちゃんが言いました。

 

「これは、誓約ではありません」

「これは、呪いです」

 

ここで一回止まりました。

 

エオルミアちゃんが言ったんですよ。

 

天界の子が。

天界の任務を受けて地上へ降りてきた子が。

災厄ルズローシヴ=レレイを消滅させるために旅を始めた子が。

 

天界の誓約を、呪いと呼びました。

 

すごいことを言っています。

 

最初のエオルミアちゃんだったら、たぶん言えなかったと思います。

 

誓約は誓約。

任務は任務。

記録は記録。

災厄は災厄。

 

そう受け取っていた子が、今は文言を読んで、構造を見て、条件と代償が対応していないと判断して、これは誓約ではなく呪いだと分類している。

 

成長の方向がすごい。

 

優しくなっただけではありません。

疑えるようになった。

訂正できるようになった。

名前をそのまま信じないようになった。

 

出生義務違反者。

災厄。

消滅対象。

誓約。

 

この作品、ラベルが人を傷つけすぎです。

 

でもエオルミアちゃんは、そのラベルをひとつずつ剥がしています。

 

そして今回、いちばん大きいラベルを剥がしました。

 

誓約。

 

ではなく。

 

呪い。

 

しかも、この誓約の代償が地上に流れていたせいで、人間の魔物化や天族の竜化が起きていたらしいんですよ。

 

地上の問題だと思われていたもの。

地上の穢れのせいだと思われていたもの。

人間が悪い、天族が弱い、地上が汚い、そういう話にされていたもの。

 

実際には、天界の門を閉じるための代償だった。

 

何ですか、それは。

 

「地上の問題だと思わせておけば、天界は綺麗なままでいられる」

 

ヴェルノさんが言いました。

 

エオルミアちゃんが即答しました。

「綺麗ではありません」

「それは、汚れていないことではありません。見えない場所へ移しただけです」

 

強い。

 

天界の子がそれを言うの、強いです。

 

リシェラちゃんの出生義務の話とも繋がります。

 

人が減っているのは本当。

世界が困っているのも本当。

でも、だからリシェラちゃんの身体を使っていいことにはならない。

 

穢れが毒なのは本当。

天界が恐れたのも本当かもしれない。

でも、だから地上を壊していいことにはならない。

 

問題が本当にあることと、

その責任を弱い側へ押しつけていいことは、

同じではない。

 

この作品、ずっとこれを言っています。

 

そして、ルズローシヴ=レレイの災厄指定の理由も出ました。

 

発話後、代償循環の逆流を確認。

天界側境界層へ濁り反応拡散。

誓約代償の露見を防ぐため、当該反応を地上由来災厄として処理。

 

処理。

 

処理って言いました?

 

つまり、ルズローシヴ=レレイが濁りを生んだのではない。

スレイさんとミクリオさんが災厄を持ち込んだのでもない。

 

地上へ押しつけていた代償が、天界側にも見える形で逆流した。

その露見を防ぐために、ルズローシヴ=レレイを災厄として処理した。

 

ミクリオさんが言いました。

 

「僕の名が災厄だったわけじゃない」

「災厄と呼ばれると都合がよかったんだ」

 

重い。

 

ミクリオさんの名前が、証拠隠滅のために災厄にされた。

 

スレイさんが言いました。

 

「オレたちが持ち込んだことにすれば、天界が地上に何をしていたかを見なくて済む」

 

見なくて済む。

 

この作品、見ないことが罪としてずっと出てきますね。

 

リシェラちゃんの嫌だを見ない。

出生義務の中で個人の身体を見ない。

ルズローシヴ=レレイが誰なのか見ない。

発話後と発話によりの違いを見ない。

浄化反応が出ていたことを見ない。

天界の誓約が地上を壊していたことを見ない。

 

見ないことで、誰かを消す。

 

こわい。

 

そしてエオルミアちゃんが気づいてしまいます。

 

「私は、証拠を消すために、地上へ派遣されたのですか」

 

きつい。

 

エオルミアちゃんは真面目に任務をしていただけなんです。

天界を守るためだと思っていた。

災厄を消すためだと思っていた。

 

でも実際には、天界が地上に何をしていたかを隠すために、ミクリオさんの名を消そうとしていた。

 

つらい。

 

リシェラちゃんが「エオルミアのせいじゃない」と言ってくれます。

 

本当にそうです。

エオルミアちゃんが誓約を作ったわけではない。

地上へ代償を流したわけでもない。

 

でも、エオルミアちゃん自身が言います。

 

「ですが、私はその続きを実行しようとしました」

 

ここが良かったです。

 

責任を全部背負い込む必要はない。

でも、自分が何をしようとしていたかは見なければならない。

 

スレイさんも言います。

 

「君が作ったものじゃない」

「でも、ここから先を見なかったことにはできない」

 

優しい。

でも逃がしてくれない。

 

スレイさん、こういうところ本当に怖いです。

優しいのに、見ないことを許してくれない。

 

ミクリオさんも言います。

 

「知らなかったことは、これからも知らないままでいてよい理由にはならない」

 

ライラさんの言葉を思い出しました。

 

知らなかったことは、焼いた後の言い訳にはなりません。

 

この作品、言葉が遅れて刺さる。

 

そしてここで、目的が完全に変わります。

 

エオルミアちゃんが言いました。

 

「任務を訂正します」

 

訂正。

 

来ました。

 

エオルミアちゃんの訂正です。

 

最初の任務はこれでした。

 

災厄ルズローシヴ=レレイを消滅させよ。

 

でも、今は違います。

 

「災厄ルズローシヴ=レレイを消滅させるのではありません」

「ルズローシヴ=レレイを災厄と呼んだ記録を、訂正します」

「天界の門の誓約を、呪いとして再分類します」

 

強い。

 

めちゃくちゃ強い。

 

受け取る側だった子が、文言を変える側になりました。

 

命令を実行する側だった子が、命令を訂正する側になりました。

 

災厄を消す側だった子が、災厄と呼んだ記録を消す側になりました。

 

これ、かなり大きいです。

 

しかも、ルズローシヴ=レレイを消すために集めた力を、天界の誓約を消すために使うことになりました。

 

火。

水。

地。

風。

 

四属性の宝玉。

 

最初は、ルズローシヴ=レレイを消すための力でした。

ミッション名もそうでした。

プレイヤーもそのつもりで集めていました。

 

でも今、その力の使い道が反転しました。

 

ルズローシヴ=レレイを消すためではない。

 

ルズローシヴ=レレイを消させようとした誓約を消すため。

 

対象が変わりました。

 

消すべきものが変わりました。

 

いや、最初から間違っていたんです。

間違った対象に向けられていた力を、正しい対象へ向け直す話なんです。

 

でも、それをプレイヤーが集めてきた力でやるのがすごいです。

 

私も集めたんですよ。

4属性。

 

ルズローシヴ=レレイを消すためだと思って。

 

違いました。

 

この力は、ミクリオさんを消すためのものではありませんでした。

 

ミクリオさんを消させたがっていた仕組みを壊すためのものになりました。

 

よかった。

 

よかったんですが、怖いです。

 

天界の誓約を消すだけでも大変そうなのに、エオルミアちゃんはそれとは別に、天界の誓約を書き換えるそうです。

 

書き換える?

 

誓約って書き換えられるんですか?

 

Googleドキュメントみたいに?

編集権限ありますか?

上位機関に承認されますか?

変更履歴残りますか?

 

いや、たぶんそういう話ではないです。

 

でもエオルミアちゃんが書き換えると言うなら、何かするんでしょう。

 

何をするのかな。

 

怖いです。

 

でも見たいです。

 

だって、ここまでのエオルミアちゃんは、ずっと言葉に縛られてきました。

 

災厄。

消滅対象。

出生義務違反者。

誓約。

任務。

 

その言葉を信じて、その通りに動こうとしていた。

 

でも今は違う。

 

言葉を読み直す。

言葉を疑う。

言葉を訂正する。

言葉を分類し直す。

 

そして今度は、誓約そのものを書き換えようとしている。

 

これ、エオルミアちゃんの戦い方なんですね。

 

武器で壊すだけではない。

宝玉で消すだけではない。

文言を変える。

分類を変える。

呼び名を変える。

 

名前に押しつけられた罪を剥がす。

 

そういう戦い。

 

ところで。

 

スレイさんとミクリオさん、距離近くないですか?

 

すみません。

本当に重い話をしているのは分かっています。

 

天界の誓約が呪いだった。

業魔化とドラゴン化の原因が出た。

ルズローシヴ=レレイが災厄指定された理由も出た。

エオルミアちゃんの任務が証拠隠滅だった。

 

分かっています。

 

分かっているんですが。

 

スレイさんとミクリオさん、距離近くないですか?

 

観測盤を見る時、自然に並んでいる。

片方が説明すると、もう片方が当然のように続きを引き取る。

スレイさんが「あの日」と言うと、ミクリオさんがその続きを知っている。

ミクリオさんが厳しいことを言うと、スレイさんが当たり前みたいに受け止める。

二人で来た場所だから、で済ませるには距離が近い。

 

物理的にも近い。

会話の距離も近い。

沈黙の距離も近い。

 

命より大切なんですよね。

ルズローシヴ=レレイは僕なんですよね。

二人で来た場所なんですよね。

 

分かります。

 

でも近い。

 

友人に言いました。

 

「スレイさんとミクリオさん、距離近くない?」

 

友人は言いました。

 

「検索するな」

 

感想への返答がそれなんですか?

 

近いかどうかを聞いたんです。

検索するな、ではなく。

 

でも、検索するなという返答が返ってくるということは、そういうことなんですか?

 

黙るな。

いや、今回は黙ってない。

検索するなと言っている。

 

それはそれで答えでは?

 

この二人、ずっと一緒に考えてきたんですね。

 

天界の門のこと。

地上に流された代償のこと。

人間と天族が共に生きる方法のこと。

出生義務のこと。

互いを選んだまま未来を閉ざされない方法のこと。

 

二人で来た場所。

二人で見たもの。

二人で抱えたもの。

 

そりゃ距離も近いです。

 

いや、近いですで済ませていいんですか?

 

分かりません。

 

検索はしません。

 

友人に止められているので。

 

今回、ミッションの意味が完全に反転しました。

 

ルズローシヴ=レレイを消すために集めた力で、

ルズローシヴ=レレイを消させたがっていた誓約を消す。

 

災厄を消すのではなく。

災厄と呼ぶ仕組みを消す。

 

任務を遂行するのではなく。

任務の文言を訂正する。

 

エオルミアちゃんは、もう天界の命令をそのまま受け取る子ではありません。

 

リシェラちゃんも、出生義務違反者という名前で終わる人ではありません。

 

スレイさんとミクリオさんも、災厄の発話者ではありません。

 

名前が変わっていく。

分類が変わっていく。

消すべきものが変わっていく。

 

では、天界の誓約を書き換えた先で、何が残るんでしょうか。

 

怖いです。

 

でも、今度は見届けたいです。

 

消すためではなく。

 

訂正するために。

 

***

 

スレイ

種族:人間

性別:男

年齢:不詳

身長:175cm

武器:儀礼剣

かつて導師として世界を浄化へ導き、長い眠りについた青年。数百年の時を経て目覚め、再び親友と共に歩み始める。穏やかで人懐っこい性格だが、大切なものを奪われた時には決して退かない。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。